実践
授業を受けた。
この世界では見えない魔力を使って、魔法を行使しているらしい。
魔法の発動にはスペルを念じたり、特定の物を使ってそこに魔力を注いだりして使うらしいが、まだあまりはっきりと体制はわかっておらず、その中の家々、人ごとに魔法の使い方は様々で、凄腕の魔法師だとその人の固有魔法があるくらいらしい。
取り敢えず、俺は基本の魔法ですら使い方がわからないので、早急にそれを使えるようにならないと人間だと疑われる可能性もあるかなと思っていると、隣から話しかけられる。
「あの…、相馬さんっていう名前は珍しいですよね」
「っていうか、何処の出なの?」
と思ったら別のところから話しかけられる。どうやら質問攻めにあってるようだ。というかいきなり答えられないんだけど…。俺は苦し紛れに「実は、記憶がないんだ」と言う。
「へぇー、そうなんだ。あ、私はカレン、カレン・シュバールよ。よろしくね」
「じゃあさ、今の話聞いてもさっぱりなんじゃない?」
「ああ、全然分かんなかったよ」
俺は少し期待をこめてそういった。もちろんその期待はお察しの通りだが。
「それならさ、俺が教えてやるよ。お前、教えがいありそうだし」
「助かるよ。ありがとう、そしてお願いします」
「それなら善は急げだ。基本からやっていくぜ。ついてこい!」
そして俺はその人に着いていった。
* * *
その俺の見えない期待に応えてくれたのはロビンソン・クルーネル。クラスの奴らが『ロビン』と呼んでいたので俺もそれにならう。
「ロビン、どこに向かってるんだ?」
「着いてからのお楽しみだ。ところで、魔法についてどのくらい知ってる?」
「いや、今日先生に教えられたこと以外はさっぱりだ」
俺はお手上げというように両の手のひらを上に向けてあげる。
「そうか、だったら将来はどうするつもりだ?魔法って言っても、いろいろな職種につける。例えば…、魔法師とか、治癒術師とか、あとは魔法研究師とまぁ、大まかに分けるとこの3つになることになる。その中でも多くの者が目指すのが魔法師かな。俺らみたいな初心者はまだ選ぶことはないが、2年に上がるときに嫌でもこの3つから選ぶことになるぞ」
どの世界でもそんな職の選択はあるらしい。(あっちの世界でいう理系、文系の選択みたいなもんか)
そんなことを話しながら歩くと闘技場のような円形の場に着いた。
ロビンは受付らしい場で何やら手続きしている。
後で聞くと、ここは魔法技能演習場でこの学園の生徒が魔法の技術を磨くためだったり、授業で実技を行うときに使われるらしい。この場は階段式にできていて全部で10の演習場が一階から10階にかけてあるみたいだ。
帰ってきたロビンと7階の演習場に向かう。
「よし! じゃあまずは基本からやろうか」
そう言ってロビンは手のひらを上に向けると火が手のひらの上で燃えた。
「おお…」
思わず声が出てしまう。ロビンがやって見せたのはまるで手品のようにしか見えないことに思えた。
もちろん種も仕掛けもなくただ手をひろげただけだった。
「やってみて。頭の中で火のスペルを唱えるんだ。別に声に出してもいいけど、上級魔法になればなるほど基本のスペルにアレンジがつくんだ。しかもスペルで発動させる魔法はそのスペルと魔法量さえあれば誰でも発動できるからたいていの人は隠すよ」
と言って俺にスペルを教えてくれた。基本のスペルは公開されていてみんなそこから発展させていくらしい。
と、頭の中でスペルを唱える。
(無常なる元素の理を持って、すべての物を燃やせ!)
俺はポケットにあった増幅器を唱えた瞬間に片手の指で軽く触れる。
「!」
爆発音とともにあたり一面に煙が広がって周りが見れなくなった。
俺たちはともにむせながら煙が引くのを待ち、二人共が無事であることを確かめ合う。
「大丈夫か?」
「ああ、そっちは?」
「俺も大事にはないよ」
「それにしてもすごいなぁ…、なんだかんだ言って教えることないじゃないか」
「え…」
俺は煙がひいたあたりを見渡す。
すると二人の目の前で身長の1.5倍くらいの炎がメラメラと燃えていた。
「あと少し出現場所が悪かったら燃やされてたね」
「悪い…」
俺は本当に申し訳なく思って言った言葉だったが、当の本人は全く気にしていない様子でむしろ俺が出したであろう炎に興味がいっているみたいだ。
当人が一旦落ち着いたところでもう一度謝る。
「本当に悪かった」
「いや、気にしてないよ。それよりもすごいものを出せるんだね。やっぱり噂の転校生だよ。この程度の炎になると上級魔法師が会得するレベルだね」
と心底褒めてくれるが、本来出したかった火はあんな威力でも、その場所に出したかったわけではない。
つまり、まだうまく使いこなせてない。
それなのに褒められても俺は、微塵にも嬉しくは思えなかった。むしろ、落ち込んだ。
俺は魔法を殺しの道具にしてしまいそうになったから、魔法はヒトという者をより幸せにするものだと思っていたからだ。
(こんなのは俺の望んだ力じゃない)
俺は普通にいればそれでよかった。特に何かに秀でてるわけでもなく、そして何かに劣っているわけでもない。これが俺の理想だ。
でもこれは俺が、あの世界で何1つ、いわゆるプロ、あるいは天才と呼ばれるような人間になれなかったからだ。
俺は才能、力があってその力を望んでいる人がいればその人のためになりたいと思っていた。
それが俺の夢であり、目標としてきたことだったんだ。
* * *
ロビンにもう少し手ほどきを受けてようやく、手に火が出せた。少しは希望が持てると思い、安堵したところでお開きになった。
演習場でロビンと別れたあと、俺は重大なことに気づく。
「俺…、帰る道わかんねぇ…」
アーニャとこのフィアルテーレ魔法学校に来た時はアーニャにテレポートしてきたので、帰り道が全くわからなかった。
「とほほ……、俺、こっちに来てから災難続きじゃね」と。
だがこれも俺が選んだことなのだから、今更やっぱり……などということは許されないと考えて先程のセリフからくる感情をリセットする。
と思いながら校門に向かっていると既に辺りは暗くなっていて、かなりの時間がたっていたことを今気づく。
(そういえば、演習場から誰にもあってないもんな)
そんな些細なことでも今は頭に浮かんでしまう。そうでもしなければ、この異質な感情を拭えなかった。
校門が全体に見える直線の道に出ると、その校門の隅に人影が見えた。俺は少しは救われた気分になって少し早足になって校門に向かった。
徐々に人影のシルエットから人がわかるようになってきて、それが女性であるとわかった。
俺は彼女の隣にたって話しかけようとしだが…。
「あなたが、悠人と呼ばれている人?」
「え、あぁそうだけど…」
彼女は俺の顔を品定めするようにじっくりと見て
「昔の方が良かったかな」と言った。
と言っているということは、俺と面識があるらしい。当の俺は全くこのような暗くてもわかる美しさを持ってる彼女と面識があるなど、さっぱり記憶にないし、もしあっていたとしたら絶対に忘れられる顔をしていないくらいの容姿だった。
だとしたら、本当に俺の中では夢の出来事に過ぎなかったのだと思った。
「それで君は?」
俺には記憶にないので相手がどんな人なのかを探る。
「私は、ローレラ・フロストルよ。あんたとは、小さい頃に会っているわ。」
「そう…なんだ…」
俺はまともな返事ができなかった。そしてそうとしか返せなかった俺に罪悪感を感じた。
「そうよ…、そんなことは今はどうでもいいわ、さぁ、行きましょ」
ローレラは俺と向き合っていた姿勢から半回転して歩いて行く。そのときの彼女の髪が遅ればせながらついて行く姿がとても凛々しく思えて呆然としてしまう。
「どうしたの?」
「あ…、あぁ、今行くよ」
俺は彼女に遅れまいとあとを追いかける。
読んでもらってる方、ありがとうございます。
また、初めてだっていう方もありがとうございます
ここまできて(まだまだいいとこも全然やってない)
新しい物語とか考えてみたんですけれど、全然アイデアが湧いてこないですね。どうやら二股はかけられない性質みたいです。
と、こんなわけで少しずつですけど進めていってます。
今度つじつまが合ってないところもあるかもしれませんので、メンテナンスをします。
二股はかけられない紳士 小椋鉄平