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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
王都へ
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約束と名誉授与

 とりあえず、壊れた家具の後片付けにはいる。


 何でか分からないのだが、アーニャがしきりにため息をついてぶつぶつ呟いているが、悠人には聞き取れず、気にはなるけれどもどうしようも出来なかった。


「こんにちはーって何これ⁉︎」


 サーシャが部屋の様子を見て驚く。


 サーシャは懸命の宮廷医療魔法士による治療によって一命を取り留めた。と言っても、医療魔法士に早く引き渡せられればそこまで酷い損傷ではなかった。


 サーシャが驚くのも当然であろう。だって、中に入った瞬間別世界に迷い込んだかのような空間が広がっているのだから……。


 悠人が、サーシャに気づいて、近寄る。


「ああ、すみません。 部屋をこんなんにしてしまって……実はアーニャが……ふごっ!」


 急に口を塞がれて、その先の言葉を言わせてくれない。


「ええっと……ちょっと色々ありまして……そ、外でお話しましょう?」


 サーシャとアーニャはドアの方へ向かう。


 それに悠人もついていこうとするが……「悠人はお片付けしてて下さい」と拒否られた。




 外に出たアーニャはホッと息をついた。


 私の嘘が広まるのは止めたいからであった。


「それであんなふうになったのは説明してくれるの?」


 サーシャが窓際に立って質問する。


「はい、実は……」


 アーニャは真実を伝える。


「なるほどね……」


「で、でも悠人には知られたくはないんです。 だから黙っておいて貰えませんか?」


 アーニャは懇願するようにサーシャにすりつく。


 サーシャは必死そうなアーニャの行動に少したじろぐ。


「でもこれは本人のミスでもあるわ。 間違いは正してあげるべきじゃない?」


「そ、そうですけど………」


 サーシャが諭すようにアーニャに語りかける。


 確かにこれは本人のミス。 しかも悠人は知らなかった訳ではなかったのだ。


「また同じ過ちを繰り返すわよ? その度にそんな苦しい顔して嘘を突き通すの? それはあまりにも辛いわ」


「………」


 アーニャは言い返す言葉もなくただ、黙り込んでしまう。


「悠人を大事にする気持ちはわかるわ。 でも、時には彼の過ちを指摘してあげるのも大事にしていることに繋がると私は思うわ……」


「そう、ですか……」


 アーニャは下を向いていた顔を少し上げ、サーシャをまっすぐ見る。


 サーシャはニコッとアーニャに向けて笑顔を作るとアーニャをくるっと反転させて、背中を押す。


「さぁ、行ってらっしゃい……その役目は貴方にしか出来ないわ」


「はい!」


 アーニャは上半身を軽く上下に振り、心の準備を整えてドアを開けたのだった。


「そう、貴方にしか出来ないわ……彼を魔王と呼ばれないようにするには……」


 アーニャがドアをくぐった後、廊下に残されたサーシャは窓の方を向いてそんなことを呟く。


 街は先ほどまでの内乱が嘘のように綺麗な街に変わっている。


 それから、真実をアーニャから聞かされて自分の過ちに気づいて激しくため息をついてがっくりと肩を落とした。


「こ、これは……ごめんな? 気を遣わせちゃって……」


 アーニャに謝る悠人。


 悠人は増幅器ブースターを持ち上げて枕に打ち付ける。


 本当ならば、床に突き落としてやりたいくらいだったが、これがなければやっていけないので出来ない。


 ただ、これがなければ生きていけない訳じゃない。


 別に魔法が使えなくたって生活している悠人と近いヒトはここにいたのだ。


(ただ………俺は差別されるのが怖かっただけなのかもしれない……)


「そ、そんな! 私の方こそ黙ってて、ごめんなさい」


 アーニャが膝を折って頭を地面につけそうな勢いで下げてくる。


「いや、アーニャが謝ることじゃない。 そもそも増幅器ブースターを上手くコントロール出来ない俺が悪いんだし……おっと話は変わるんだけど…どんな事になっていたの?」


 悠人はこの話は終わりと言わんばかりに無理矢理話題を変えるけどもアーニャは気づいておらず、悠人の質問に答えようと頭を巡らせている。


「ええと、まるで宇宙空間のように家具が浮いてて……あと壁にぶつかるとまるでトランポリンになったかのように跳ね返るんですよ……そんな空間が出来上がってました」


「えーと、俺は一体何の夢を見ていたんだ……?」


 昨日何の夢を見たのか分からず悶々とする悠人。そんな悠人の行動を笑って見ているアーニャ。


 はたから見れば、少し淡い形でエンドロールが流れるような感じだ。


「えーと、もう用事は済んだの?」


 ふと、上を見上げるとサーシャが壁にもたれていた。


 悠人たちの会話が済むのを待っていててくれたようだ。


 よく見ると、少しサーシャの表情が膨れているような気がするが、待たせてしまったんだし当然だろうと悠人は決めつけた。


「すみません。 ええと、学園長はどうしてここに? 今は……確かアリスフィア女王の説明に同席するとか何とか、言ってませんでしたっけ?」


「ああ、それはつまらないから抜けてきた。そしたらもう楽しいことになってたから……」


 悠人は(それだけなのか⁉︎)と思ったけれども、口には出さない。


「では、用事は済んだ訳ですし帰るんですか?」


「ああ、いやその前に女王陛下がお呼びだから、それからですね」


「え? 」


 サーシャは悠人の部屋を後にする。その後を追って、悠人たちが続く。


 この時、悠人には嫌な予感しかしなかった。歩きながら、女王に呼ばれる理由を考える。


(女王が俺を呼び出し? どういうことだ……はっ!まさか、俺が直した家だけ何か不備があってそのせいで民衆からのきつい言葉を聞かされるのか⁉︎ 嘘だろ⁉︎それじゃあ公開処刑にも等しい恥さらしじゃないか……)


 歩きながら再び頭を抱える悠人。


「何、頭を抱えているのかしら? ねぇ、アーニャ?」


「あはは……」


 サーシャは悠人が頭を抱えているのを見て変に思い、アーニャに尋ねるが、アーニャは乾いた笑いしかできなかった。


 しばらく、階段を上ったりしながら広間に着くと女王陛下の声が聞こえてきた。


「ヴィッフェルチアの皆さん。 先日の王都での抗争では皆さんに不安と悲しみを覚えさせてしまったこと大変深くお詫び申し上げます。 未然に防げなかった事大変申し訳ありませんでした」


 アリスフィアが民衆に向かい、上から見下ろす形ではあるが、大きな声で民衆に頭を下げる。


 民衆からは実に様々な声が聞こえてくるが一番多いのはアリスフィアを擁護し、讃える声であった。


「女王は悪くない! 俺たちはあの薄汚い議員たちが消えてくれて清々した! 」


「「女王バンザイ!」」


 女王バンザイの民衆から声援が響く。


 アリスフィアが直接下したことではないが、それでも自分たちの利益ばかりを優先する議員たちに何かしらの思いがあったのは事実。


 殺す、という形で達成したくはアリスフィア自身なかったけれども、それが結果的に民衆の不安分子を取り除いたことになった。


 ただ、このことがまるでアリスフィアの功績のように捉えられるのは心苦しいところではあるけれどもそんな思いは民衆には届かない。


 常に上に立つものやどこからのヒーローみたいなものは人気がある反面、常にこういったみんなの目がある。


 しかし、いかんせん彼らはそのヒトのやったことや結果でしかそのヒトを判断できない。それは、そのヒトの努力であったり、過程を見ずにそれを見ているからだ。


 しかし、それが上に立つものの宿命だとアリスフィア自身感じている。


 勉強に例えれば分かりいいであろうか。


 例えば、テストに向けて何十時間も勉強したとする。しかし、結果は散々なものであった。


 本人にとって見れば確かにショックであろうが、悔いはないはずであろう。なぜならば、納得いくまで勉強したのだから。


 けれども、その成績を本人の勉強を見たことがないヒトが、例えば親とかが見たらどうなるだろうか。


「全く、もっと頑張らなきゃダメよ」


 などと言うことを言われるのだろう。


 このように見ていないヒトから見れば結果でしか判断されない。


 しばらくして、万歳三唱が止んで静粛が訪れる。


「ですが、勇敢な魔法師たちによってヴィッフェルチアの危機は救われました……。 私は彼らにこそ、三唱を送るべきであると思いました……。 ということで、彼らに私、アリスフィアから感謝の印として、バーチカン賞を贈ります」


 そう語るアリスフィアを広間の中にある場所で見ているサーシャ、アーニャ、悠人。


 横には、護衛の兵が広間を囲むように隊を組んでいたが、悠人たちがくると何も言わず開けて中に入れてくれた。


「バーチカン賞って何ですか?」


 悠人は詳しそうなサーシャに尋ねる。


「ああ、さっきアリスが言っていたように感謝状だよ。女王からってことです重みがかなり違うけどね。 それを貰ったヒトはほとんど貴族に等しい位を得たも同然なんだ」


「へえぇ……それをもらえるヒトはそんな凄いことしてたんですね……」


「ああ、私は見れなかったけど、とても良い活躍だったと聞いているよ。だから……」


 サーシャは一歩悠人から後ずさり悠人の後ろにいたアーニャに目配せした。


 アーニャはそれで分かったのか、真剣な表情を見せそれを見たサーシャは頷く。


「………それでは、その勇敢な魔法師にご登場いただきましょう。 どうぞ!」


 民衆の拍手の音が聞こえる。


 悠人も手を叩こうとして、急に背中からアーニャに押される。


「おわあっ⁉︎」


 背中を押された反動で広間に仰向けになってしまう。


 それを押した張本人が上から見下ろす。


「もう、ダメじゃないですか。 それくらいでよろけるなんて。 ……悠人はこの間の主役なんですからもっとビシッとしてください」


 アーニャは悠人の手を掴み、立たせてくれる。


 その様子に民衆は大笑いだった。


 どうやら、何かの演出か何かだと思っているらしい。


 悠人は否定したかったが、結果的に良かったので口をつぐんだ。


「うふふ、粋な登場感謝いたします。 この方がこの王都を救ってくださった相馬 悠人さんです!」


 そうアリスフィアは民衆に向かって紹介すると民衆は拍手で迎える。


「良かったですね悠人」


 アーニャがそう耳打ちしてきた。


 何に対してなのか悠人には最初、イマイチピンとこなかったが、アーニャが民衆を見下ろしているのを見て理解した。


「ああ、そうだな」


 未だ、自分の身分を明かしていない所為もあるのだろうが、民衆は悠人の名前を聞いても不思議がるヒトはいなかったのだ。


 それがアーニャには嬉しかったのだろう。


 悠人はアーニャとは違いホッとした気分でいた。


 悠人たちはアリスフィアの方へ寄った。


 その瞬間にざわざわした音が静まり、穏やかな風が吹く音が聞こえるほど静寂が訪れた。


「汝、相馬 悠人をこの王都の危機を救い再びこのような平和を与えてくれたことを称してこの王家に伝わるカーディナルを与える」


 アリスフィアがそのカーディナルと呼ばれるものを悠人に渡す。


(これは……勾玉か?)


 全体的に赤色の数字の9を介したような形をしていて、向こう側が見えるようになっていた。


 今すぐにでも質問したかったが、この場で言うのにははばかられたのでやめておく。


「ありがとうございます」


 勾玉を持った手を高く上げ、悠人自身は跪いた。


 その瞬間、先ほどまでの静寂が嘘のように拍手喝采の嵐となった。
















いつも読んでいただきありがとうございます!


はい、宣言通りの更新です。


正直、今回分を出すか出さないかの葛藤に陥った際に「まぁ、コミケだし……」という自分に甘い気持ちがあった事は認めます。前の夏コミでそれやったら、ガクッと落ちたことを思い出しまして「やはりこれではいけん!」と思い立った次第でございます。


しかし、書き出すと案外スラスラいけるもので詳しくは見てないですけど三千は超えてたと思います。


やはり、毎週続けていくことが重要だと悟りました。


というわけでいかがだったでしょうか? まぁ、なんか事後のふわふわっとしたほんわかした描写になってると思いますが、コメディ要素は足りないんじゃないかなと心配しております。


ではこの辺で。


多分、コミケでツイートはやると思うくらいなので難しいかもしれないですが、もし見かけたら声をかけていただければちょー嬉しいです。


小椋鉄平

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