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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
王都へ
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気づいて欲しい気持ち

 悠人達は城にあてがわれた部屋に行くこととなった。


 実行は明日の午後と想定されており、これはあくまでも想定であるがためにキーシュはこの間は常に手引きした学生と同じ行動パターンをとっている。


 本物の学生がその間どうなっているかは………考えたくもないが、牢獄辺りではないかなとかキーシュならやりそうだなと思っている。


「で、ですよ………。これはどういう事なのでしょうか?」


 あてがわれた部屋の中にはアーニャ、サーシャがいる。


「ええと、一応悠人さんは護衛という事で、ええと、常に主人の安全は確保出来るように……あ、し、した方がいいかと……ははは……」


 アリスフィア女王がバツが悪そうに呟く。


「まずいに決まっているでしょう。 護衛の前に俺たちは男女なんですから」


 悪気があってやったそうには悠人には見えず、訴えが弱弱しくなってしまっていた。


「別に私は構いませんよ。 死にたくないので護衛が隣にいた方がとても安心できます」


 笑顔で構わないというサーシャ。


「え……いいんですか?」


 真面目に聞き返してしまう悠人。


「だだだ、ダメに決まってるじゃないですか! 悠人と私はドアの前で見張ってますからどうぞご自由に! 行きますよ、悠人」


 アーニャは強引に悠人を引っ張り、外へ出ていった。


 ドビラがガシャん!と強く締められた。




「あらあら、サーシャ、からかうのは良くありませんよ」


「そう見えたのなら心外だわ」


 アリスフィアの言葉にため息を漏らすサーシャ。


「あら、そうでは無いの? サーシャったら学生時代からSっけがあったからてっきりあの子もカモにされているのかと……」


 アリスフィアはドアの方を見てそう呟く。サーシャは窓の方を向いている。


 そこから見えるのは王都の街並み。ヒトが行き交い、賑わっているところもあればヒトが全く近寄らないような路地裏も見える。


「貴方もあの子の力を見れば分かるわよ………。 あの子は……悠人の力は下手をすればこの王都を一瞬で焼け野原に出来るほどの力を持っているわ。 あの魔力の形を見て身体が震えたわ。 みんな彼の魔力が見えていないけれど、見ればたちまち恐れをなすわ」


 サーシャが独り言のように呟く。 アリスフィアはそれを黙って聞いていた。


 しばし、沈黙が続いた。 外では騒がしいような、ある意味微笑ましくもなるような声が聞こえている。


(サーシャがこんな表情になるなんて………いったい彼は何者なのかしら……)


 アリスフィアは疑問に思っていた。 アーニャを下に持つ悠人という人物。 去年まではそんな名前は全く聞いたことがなく、アーニャからもサーシャからも彼の名前を聞いたことは無い。


「まるで、おとぎ話の勇者様ですね」


 沈黙を破るようにアリスフィアが口を開く。


「彼はね、勇者にも大魔王にもなれる素質を持つわ。自分の気持ち次第でどちらにでもなれる。 私はそう直感で感じたの……。 叔父様に言っても同じ意見だと言っていたわ。 だからこそ叔父様に託されたの。 『彼を勇者に導きなさい』と……」


「そう……なの……」


 アリスフィアはサーシャの重みのある言葉にも頷くことは出来なかった。


 それはもちろんサーシャの言う通り、彼のことをまだ知らないからだと思う。


 だけど、外であんなに叱られているヒトにそんなことが出来るなんて信じがたいことなのであった。


「そう……あーやめやめ。 この話はお終い。 悪いわね。付き合わせちゃって」


「いいえ、サーシャがこんなんになるのは久々だから新鮮だったわ」


 アリスフィアはサーシャに笑顔で語った。


 サーシャにはその笑顔の奥を悟られているのを知りながら………。





「分かった、分かったから………」


 ドアの前に正座されられて叱られる悠人。 こんなことは小学生以来であろうか?と思うほど久々のことであった。


「聞いているんですか悠人!」


「いででででででーーーちょちょ、か、勘弁してくださぁーい!」


 耳を引っ張られ、痛みに悶える。


 アーニャは先程からずっと頬を膨らまして怒っている。


(何が、いけなかったのだろうか? …………ダメだ。 さっぱり分からない………)


「分かっていないからこうしているんですよ! もう、悠人は何かしら女を寄せ付けるんだから……」


「は⁉︎ 俺が⁉︎ アーニャ、それは幾ら何でも冤罪だ。 俺はこの通り、女にモテるような器じゃ無いよ」


(容姿もそこそこだし……髪だってボサボサだし……アーニャだって、いつも世話してくれるんだから分かってるはずだろ……?)


 悠人はアーニャに対して、怒りよりもどうしてという疑問の方が強かった。


「〜〜〜どうしてもなんです! 悠人の分からずや!」


 ぷいっと、アーニャは首を曲げて何処かへ行ってしまった。


「………アリスのところへ行ってきます」


 急に立ち止まり、律儀にも居場所を教えてくれる。 これには、悠人も察することが出来た。


「ああ、分かったよ。 あとで迎えに行くよ」


「べ、べ、別に来なくてもいいですよ」


 アーニャは再び頬を膨らませて行ってしまった。


(あー、女王様に俺の悪口でも言ってくるのかなぁ………一体、どんな悪口なんだろうか、気にはなるけどもさすがに女王様にそんな話できないなぁ……あれ?、女王様? )


 アーニャは確かに、学園長がいる、この部屋から女王様の部屋に行くと言っていなくなった。だけど……ん?


 悠人がサーシャの部屋のドアに背をもたれて体操座りで座っていると、「おっとっと」と、背中を押される感覚があったので慌ててドアから離れた。


「あっ、ごめんなさい悠人さん」


 丁寧なお辞儀で謝ってくれる。


 今回のことはどちらかと悠人が悪いのだが、それでも「大丈夫でしたか?」と、気を遣ってくれる。


 まさに悠人にとってはこれが王たる資質に相応しいと感じていた。


「いえ、むしろこちらが悪いのですから。 大丈夫です」


「そうですか、安心しました。 サーシャの護衛さんを傷つけたとなればあとでどんな仕打ちが来るか分かりませんからね」


 女王様が舌を出して笑う。


 そのお茶目な表情ににドキッとなってしまう。


「? どうされました?」


「いえいえ、な、なんでもありません!」


 上目遣いに悠人を見るアリスフィアにブンブンと手を振って必死な様子の悠人。この場合の必死なのはアリスフィアを極力見ないことであった。


「そうですか、あれ? アーニャさんは?」


「ああ、えーと、それなんですが………」


 キョロキョロと辺りを見渡すアリスフィアにさっきあった事を出来るだけ事細かく話す。 それによって第三の目からどちらが悪いのかを判定して貰おうと思った。


 だが、その本人が話すと自分の都合の良いように話をしてしまう事があるのでそこは注意して話した………つもりだった。


「うーん」


 あごに人差し指をつけて考え込むアリスフィア。 それを心配そうに見る悠人。 悠人はもちろん、自分が無実であると言って貰い、安心感を得たかった。


「どっちもどっちかなーと思います」


「え? つまり、ドローってことですか?」


 思わず、聞き返してしまう。 女王の判断は公平だと信じたかった。悠人は裏切られたような感覚だった。


「ええ、ただ、決して悠人さんやアーニャさんの両方が悪いというわけではないと思います」


 それを言ってもらって、さっきまでただ下がりだった悠人の中の女王株が回復した。しかし、完全までとはいかず、アリスフィアが言った『両方がー』の部分が悠人の中で引っかかっていた。


「では、なぜアーニャは怒っていたのですか? 反論するようで申し訳ないのですが、それではアーニャは怒りはしないと思うのです」


 そう、アーニャは確実に俺に対して怒りを覚えていた。それは、俺に非があるからだと感じている。だとすれば、どっちも悪くないという女王のセリフとは真っ向から矛盾することになる。


「んー、私も頭ではどうしたら良いか分かっているんですけど……。 ええと……」


「大丈夫です。 変に言葉を分かりやすくしなくてもいいですから、言いたい事をおっしゃって下さい。それを噛み砕くのはいつも聞く側がやるものだと思いますから……」


 そんな悠人のセリフにアリスフィアが一瞬、驚いた表情を見せるが、すぐにその顔は微笑みの眼差しに変わる。


「ふふふ、私も悠人さんに教えられてしまいましたね。 噛み砕くのは聞く側ですか……肝に命じておきます。 では……ええと……」


「はい……」


 悠人は背筋を伸ばし、アリスフィアから発せられる言葉に集中する。


「悠人さんはアーニャさんと契約をしているわけですよね。その……精霊契約をー」


「はい、しています」


 悠人は、「それが何か?」とは告げず、次の言葉を待つ。


 アリスフィアはそれでも上の方を見ながら言葉を慎重に選んでいるようであった。


「契約とはすなわち精霊からしたら婚約または忠義に値する儀式です。相当な覚悟がなければそんな契約したいとは思わないでしょう。 例えば、私が精霊だとして悠人さんはすぐに契約してと言えますか?」


 確かにアーニャは俺に忠義を尽くすと言ってくれた。それに基づく、契約を交わした。でも、それは俺も同じだ。 それで、俺たちは成り立っているのだからお互いの相互関係と言えば分かりやすいであろうか。お互いに助け、助けられる関係だ。


 だが、女王を精霊とした場合だとするとまずいうことはないと思ったのだけれど、あくまで仮の話と自分に言い聞かせる悠人。


 しばらく、唸った後、口を開いた。


「僕は言えません。というのも、アーニャの場合もそうですけど自分からっていうのは怖いんですよ。 やっぱり、断られるかも知れないって思ってしまうので……。だから、女王にそんな誘いは出来ませんし、しません。 もちろん、女王陛下という肩書きを外して考えた結果です」


 悠人の話を、うんうん首を縦に振り納得した様子のアリスフィア。悠人はそのアリスフィアの表情を見て戸惑っていた。自分だけが、理解できていなかったからだ。


「やっぱり、そうだと思ったわ。 だったら、分かるでしょう? アーニャさんは悠人さんのそばに居たいのですよ。ただ、それだけなんです。はい、分かったら早く行ってあげてください。私の部屋はここを曲がった突き当たりですから」


「おおう、え……は、はいーー」


 アリスフィアは悠人の背中をグイグイと押して行かせる。 少し、よろめきつつも悠人は言われた通りにする……が、数メートル離れたところでピタリと立ち止まり、振り向く。


「?」


「あの、話に付き合ってくださってありがとうございました!」


 悠人は、腰を折って頭を下げた。


 それには、参ったというようにアリスフィアが手をパタパタとしている。


「別に、私はただ言える事を言ったまでですから……それよりも早く言ってあげてくださいね。その間は私が留守番してますから」


「はい!」


 悠人は、駆けて女王の部屋へ向かった。















いつも読んでいただきありがとうございます!


ええと、かなり寒くはなってきましたが自分は一応は元気にやっております。


今回は意味深なシーンもあったことにはあったと思いますがアーニャがなぜ怒って居たのかな理由は悟りやすく書いたつもりです。


ちょっと、直接は言いたくなかったので間接的にはなってしまったのですが、それで思いを伝えるっていうのがまた小説の面白さであり、難しさなんですよね。


直接は書かないけど、分かって欲しいみたいな。かつ、すべての人にっていうのがムズイんですけどね。サスペンスは多いですよね?


来週は、アーニャとのシーンで短く区切られるんじゃないかなと思っておりますので楽しみにしていただければ幸いです。


ではではー


小椋鉄平

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