作戦会議
「お前、いい案だぜそれは」
キーシュが俺に指をさして賞賛する。
大したことは全くした覚えがないのだが、褒めてもらってるんだから素直に受け取ろう。
「ありがとうございます」
ペコリと軽く頭を下げる。
悠人にとってはとても無機質なお辞儀であったが、本人が満足そうなのでスルーしておいた。
「では、誰に変装するかが重要なところになってくる訳ですね」
「え⁉︎」
アリスフィアの発言に悠人は驚いてしまった。
(それは、変装は容易く可能だということか⁉︎)
「どしたの?」
フィーベルが不思議な顔でこちらを見上げる。
「い、いえ、なんでもないです」
頭が急に冷たくなったが、それだけに留めた。
(それにしても、俺はてっきり変装出来るかどうかが鍵になると思ってたから拍子抜けだな。 魔法が使える世界だからひょっとしたらと思ったけどさすがだな)
「となると、思想が庶民向きじゃなくて狙われやすいポストにいるやつってことになるな」
「そうですね。 となると……あっ、今期ターシャル議会政治委員長の後釜に据えられる予定のプロパティ議員はいかがでしょうか?」
「確かに、地位もある程度高いがもっと低くてもいいんじゃないか? ほら、今の所やられているのは下院議員連中だろ?」
「……」
悠人は、提案しただけで具体的なことには口を挟まない。
(俺は、あくまでも裏で色々やりたい。 表に出るのは大事なとこだけでいい)
悠人はそういう考えで、何も言わない。
「悠人さんはどう思いますか?」
「え、えーと」
急に話を振られて、考えてしまう。自分の中でさっきまで突っ込みどころ満載のところであったが、いざ振られると話をまとめるためにタメを作ってしまう。
「………」
「何にもねぇのか? だったら早くそう言え……」
「す、すみません」
反射的に謝ってしまう。相手が目上のヒトというのもあるが、ここでは苛立っているからの方が強い理由だった。
悠人自身待っているのは好きでなかったし、待たせるのも好きじゃない。
「キーシュさん……」「キーシュ、少し待って」
そこを女王と学園長が咎める。 心強い言葉に後押しされ、出したい言葉がまとまる。
「自分が考えているのは、工作員を紛れ込ませてわざとターゲットを狙わせるんです」
「つまり、相手の狙いをこっちから決めさせるって事よね?」
「はい、そしてそこに来たターゲットを捕まえるという考えなのですが……どうでしょうか?」
「ということは、変装は少なくとも二人いる、と?」
変装は少なくとも二人いる。ターゲット一人と手引きする者が何人かだ。別に手引きする奴らはこちら側に付かせてやれば、わざわざ変装させなくて済む。
「ええ」
「ただし、自分が懸念しているのは誰が変装するか、なのですが……」
そう、ターゲットは暗殺者だと推定できる。そして、議員の連中も考えは腐ってるかも知れないが一人前の魔法を扱える者たちだ。真正面から暗殺してくるとは到底思えない。確実に殺すことが出来る場所、時間でやってくるに違いない。
そうなるとやはり、凄腕の者にやってもらうしかない。
「うーん、私がやってもいいんだけどね……」
「ダメに決まってるわ。 あなたはもっと自分の地位を自覚した方がいいわ」
苦笑する女王陛下とそれをたしなめて、ため息をつく学園長。
確かに、陛下にいってもらうわけにはいかない。
無論、俺もやれる事ならやらなければいけないのだろうが、変装の魔法が使えないので、論外だった。
「んじゃ、私がやるー」
意気揚々に手を挙げ立候補するフィーベル。
「お前じゃ、危なっかしくて行かせられねぇよ。 俺が行く。 もともと、これはうちが起こしてるようなもんだからな」
キーシュも立候補する。
二人とも、普通なら部下にやらせられる立場ではあるのに自らやるといってくる。 よほど、腕に自信があるようだ。
「確かに、ある程度力のある方にターゲット役を演って貰うのが一番いいと思います。相手も並大抵の者ではないと思いますし」
「何だ。俺の力を見くびってんのか⁉︎ 」
キーシュが勢いよく立ち上がり、悠人の方へ突っかかってくる。
胸ぐらを掴まれ、悠人を睨みつける。
(………俺が何したっていうんだ)
悠人も睨み返すことはせずとも、真っ向から見つめ返す。
「おい、そいつを相手にしてるときりねぇからよ。 つたく、世話の焼ける野郎だな」
軍の偉い奴が、それを口で止める。だが、その発した言葉が悪く、矛先が悠人からそっちに変わる。
「んだと、ジジイ! もう、動けねぇ奴に言われたかないね!」
「あぁ! テメェ、余程死にたいらしいな……。 つい前に長になった奴とは訳が違げぇんだよ。 表へ出ろ!」
二人は俺とは違い、顔をガチガチに寄せて睨み合っている。
「やめてください! キーシュさんもオルドフさんも二人で言い争っている場合ではありません」
アリスフィア女王が高い声をあげて制止する。これには、二人ともに頭が冷えたようで委縮してしまっている。
「お二方には、戦闘になった際の手助けになるというのはどうでしょうか?」
おずおずと、言の葉を述べる。というのも、さっきの事で場の空気が一、ニ度下がってしまったからだ。
「というと? それは、君がさっき言っていた事と矛盾すると思うけど………」
フィーベルの反論はごもっともだと思う。
ただ、初めから変装なのだから襲われるにしてもそこを助太刀すれば囮は誰だっていいと思った。
「ええ、先程まではそう思っていたのですが、要は相手が目的に攻撃してくれればいい訳です。 もっと言えば、手引きしている奴らと組んでターゲットが狙われる前に捕まえるという手もありかと……となれば、変装は一人で済む。かつ、実力なんかは考慮に入れる必要はないと思います」
今更ながらに気づいたが、手引きしたものが分かっているならば、そいつに化けてこちらから暗殺者をおびき寄せるという手も使えると思った。
そうする事で、わざわざ城に侵入させる事なく捕まえることができると思う。つまり、リスクを少なく出来る。
「ふむ、確かにそっちの方がイレギュラーに備えやすいか……俺はいいと思うぜ」
「私も意義ないわ」
キーシュとサーシャに同意を得る。
結局のところ、オルドフ率いる軍は当日に対する城警備の強化、フィーベルとサーシャが暗殺者を叩くための伏兵要因でキーシュが実質のおびき寄せる役となった。
本人としてやはり責任は果たしたいらしく、あの後も強く要求していた。
「はい、ではこれでお開きとします。決行は明日です。みなさん、よろしくお願いします!」
アリスフィア女王の礼でこの場はお開きとなった。
城での帰り道。
結局のところ、護衛といっても特にすることはなかったことに安心感と虚無感があった。
それを感じ取ったアーニャが「その方がいいんですよ」と目を覚まさせてくれたが俺には何か胸につっかえているものがありそれが何なのか自分でも分かりかねている気がしていた。
「いや、そんなことないですよ。 これから私も戦いに赴く訳ですから、その手助けをしてもらわないと……」
その言葉にハッとした。
「そうか! いえ、突然かもしれないですけど、俺たちは別行動でもいいですか?」
悠人の言葉通りの発言にサーシャは訝しげな目をする。
「何を考えているの? もう、キーシュが暗殺者の手引きを行なっているのよ」
突然こんなこと言われて、何も考えず言っていると考える方がおかしいだろう。
それでも、この考えは俺とアーニャだけに留めておいた方がいいと思った。
「いや、これは可能性の話なので……そのゼロパーセントに近い可能性を消しに行くだけですから。………それに」
「それに?」
俺の言葉を促すようにサーシャが最後の悠人の言葉を復唱する。
悠人はアーニャを見る。 アーニャが頷いてくれたので俺の言葉はないとは限らないと自信が持てた。
「それに、こっちを消すことは結果的に学園長をお守りすることになりますから」
「それ、絶対よね?」
サーシャが心配そうに俺を見上げる。 サーシャはどっちかというとそう豪語する俺たちの方が心配のようだった。
だからこそ、自信満々で返事する。 自分を鼓舞することも含めてやっておきたいと思った。
「はい、絶対です!」
悠人の言葉に納得したのか呆れたものも言えないのか、ため息をついて「分かった」と言ってもらった。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
あの暑き夏はどこいったとばかりにこちらも寒くなってきました。
この頃は、再び東京に遊びに行くためにコツコツと資金集めを頑張っております。
いやー、なかなか貯まらないものでよくよく考えたら色々なものに使う予定が後からわんさか出てきてとてつもなく危うくなっております。
というわけで本題へ。
本編ではいよいよ実行というところまで来ております。
果たして、悠人の言葉通りになるのか否か⁉︎ 書いている私自身にも分かりません。もし未来に行けたらそれはそれでそうじゃない!とかいって激昂しているかもしれません……。 ハハハ……。
というわけで、次回もお楽しみにーー。
最近、本編じゃなく後書き読みに来てないか⁉︎とか密かに思い始めた。
本編よりも笑い取れてる感あるから……。
小椋鉄平