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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
挑戦の時〜新たなる気持ちで〜
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卑しい心と悔しさ

「え………?」


 断られるとは思っておらず、固まってしまう。


「どうしてという顔をなさっていますね。……聞きたいですか?」


 そう、問い返されて悠人は首を縦に振る。


「今回の件だけは手を貸す事はできません。それでも、悠人はやると仰るのでしょう」


 そのセリフには口を挟まず、次を要求する。


 悠人も今までの気持ちから揺らぎつつあった。少なくとも、さっきまでの自信に満ちた気持ちはなくなっている。そして、アーニャの言葉次第では悠人がその気持ちを取り消すことだってあり得る。今はそんな天秤にかけられた重りのような感じがしている。その重りはどちらに傾くことなく、平衡を保っている状態だ。


 アーニャの言葉という重りがどちらに乗るかで悠人の気持ちは決まる。


「学年一位、スライトさんはラネイシャさんの婚約者だったのです。もっとも、ラネイシャさん自身はあまり乗り気ではなかったのですが……。今は、彼女の状況もありますし、なおかつお家にも良いことに進むことは間違いない……。という事で、ラネイシャさんはその状況を受け入れるつもりでした。……しかし、彼女は変わってしまいました。悠人に出会ってしまった事によって……。」


 いくらお家のためだからといって自分を捨てることなんて間違っていると思った。しかしながら、悠人が少し憤りを覚えることはそこではなく、やはりお家という枷がまだこの世界にはあってしまっている……ということであった。


 そういう意味でも俺はこの世界を変えたい……。


 胸に手を当て、紙を潰すようにクシャッと握った。


 だが、それでいて彼女が協力しない理由にはなっていない。そう感じた。


「それが理由か?」


 どこか惚けたように問う。違うんじゃ無いの?という意味合いも込めて。


「いいえ、私が悠人に協力しない……のはですねーー」


 ………………………………………



 ……………




「ーーーーーー」


 悠人は意味不明な声を出してしまっていた。それぐらいに、衝撃的で悩ましいものだったのだ。


 アーニャの話を要約すると、こうだ。


 スライトはかなりの策士で登り詰めた男のようで彼の悪知恵は誰も破られてはいないらしい。


 具体的には、確かにルール上(ルールなんて決闘にはあるようで無いようなものであるけど……)事前に符呪式の魔法を擬似空間アストラルカーディガンに設置するのは問題無い。


 ただし、そんな事をするのは周りから見れば卑怯であると非難を浴びるらしい。しかし、彼に至っては別のようで、逆にそれが賞賛に当たるほどそつのない仕掛けをしてくるらしい。


 だが、ここにも突っ込みどころは満載であった。つまり。


「でも、それじゃあ明確な理由にはなってないと思うけど……?」


「ええ、なっていませんね。むしろ、悠人にとっては倒せばスライト君とはまた別の、かつスライト君以上の賞賛が贈られることでしょう。でも、ダメなのです」


 だんだん、アーニャの表情から悠人のその戦いへの迷いが消える。


 なぜならば………。


「なぜならば、私が悠人と一緒に居られる時間が少なくなってしまうからです」


 テデン! と、効果音が出んばかりのドヤ顔で宣言する。


 最初の表情からもしやとは思ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 アーニャはアーニャだったと悠人は内心ホッとしていた。


「分かった。それについては俺の努力次第でなんとかなるから……それで出て……くれるか?」


 さっきのことがあってか、少し尋ねるのにためらいが生じる。


「はい! もちろん、悠人が望むなら!」


 それを聞いて、悠人は一層胸を撫で下ろした。


 一瞬は、初心に返ってしまうところであった。


「でも………願うのなら側に置いておいて貰えませんか?」


 おずおずと尋ねてくるアーニャ、おそらくサーシャからの例の話から俺が何を従っているのか知ったのだろう。その上で尋ねてきている。


 悠人は口の端をクイっと上げると、


「ああ! 当然だろ!」


 さっきのお返しとばかりに返事した。




 …………………………………




 …………………




「どうかな、馴染んできてる?」


 背を向けている彼女の方へ声を投げかける。


「凄いわね、あんな短時間で元に戻るなんて、まるで魔法だわ!」


「ははは、魔法だって? 君の手から出ているのも魔法それだけど?」


 と、笑い合うスライトとラネイシャ。


 二人の目の前には穴が空いていた。


 それはかなりの穴で、ラネイシャが放った魔法の威力を如実に表している。


 かつそれを作るのにラネイシャは右手を前に突き出している。その手はかつて事件で魔法が、使えなくなった方の手であった。


「これは凄い! 一瞬で治してしまうなんて、今でも夢のようだ」


 ラネイシャは自分の手を見つめながら、賞賛の嵐であった。それを爽やかに返すスライト。


「ははは、それは君の元々の潜在能力が高かったからさ。普通の人ならそうはいかないそうだよ」


「これで、明日の決闘は勝てそうね」


 そう、嬉々として語るラネイシャ。もう、不安はないといった晴れ晴れとした表情でニコニコと語る。


「ああ、これで悠人君もKOだよ」


 終始、この会話は続いた。


 相変わらず、ラネイシャがボールを投げるばかりであったが、それをちゃんと受け取って返すスライトは流石のものであった。


 だが、彼の手には僅かに青く光っていた。


「おっと、大丈夫かい」


「う、うん………」


 突如、ラネイシャが倒れてしまいそうになるところをスライトが両手で支える。


「魔力を使いすぎたみたいだね。もう、今日は休んで明日に備えようか」


「うん………」


 その、ラネイシャの表情はどこか虚ろでどこを見ているのか焦点が合っていないような目であった。


 彼女をお姫様抱っこで運んでいく。


 ラネイシャに抵抗はなかった。

 そればかりか、抱えるスライトの手とは違うだらりと垂れ下がる手が見えていた。


「うん………これで、駒は揃った。あとはやるだけ……。せいぜいあがいて欲しいものだよ。悠人君」


 卑しい笑みを浮かべるスライト。彼はその顔を絶対に他人へ見せたことはない。見せたのは僕に刃向かってきたものだけ………ふふふ、君の悔しがる姿が早く見たいよ………。


 スライトはそのための駒を抱えて、この部屋を去っていった。


「アイナ先生、今日はアーニャも一緒でお願いします」


 いつもの特訓に今日はアーニャを連れて来た。いつもならお節介を焼こうとして、悠人が傷付こうとする前に防いでしまうので、連れてこなかった。


 無論、それでは全く特訓にならないからだ。人間、ミスをして成長して行くように身体に覚えさせなければ出来ないということは多々ある。アスリートの世界ではしばしばあり得る事であろう。


 これに体罰も含まれるかどうかに関してはこの際置いておいて……。


「ほう、アーニャとの連携だな」


 アイナ先生は悠人のしたい事を的確に突いてくる。


「お願いできますか?」


 悠人はあえて、俺の言う事をすぐに分かってくれて、流石ですとは言わない。別にアイナでなくても分かる事であろうと思ったからだ。


 わざわざ、それも無しに女を戦いの場へ連れて行くわけがない。


 彼女でーすとでも言ったその瞬間に目で殺される。そして結局殺される。今回のような理由がない限り、理由を聞くまでもなくその言葉だけで死は確定してしまうだろう。


「教え子の頼みだ。断る理由がない。ただ……二対一になるから、手は抜けなくなるぞ」


 それで当然だと思う。逆にその言葉の真意を理解して嬉しく思ってしまう。


 それは、アーニャと悠人が強いと言ってくれたのも同然のセリフだろうからだ。


「では、早速………。ってい!」


 アーニャが一言入れてアイナに攻撃する。アーニャが今持っているのは、悠人の持っているものより少し短い曲刀である。


 短いと言っても、普通の日本刀の長さ程度はあるので、少女が持つには申し分ないものであろう。


 だが、そこは魔法が使える世界だけあって重りはほぼ考えなくてもよくなっている。


 しっかりと掴むためにある程度の重りは残しているが、それでも軽く振りまわせる程度の重りだ。


 その剣を華麗に回して、常にアイナの死角を狙っていく。アイナもそれに合わせてその剣をいなす。


 アーニャが距離をとると同時に間髪入れず悠人が攻撃を加える。もちろん死角をついての攻撃だ。


 これには避けるのは不可能と判断したのか、アイナが距離を取るために下がる。


 それによって、アイナを頂点とした三角形が出来上がっている。


 アーニャと悠人で一斉に三角形を小さくしていく。


 三角形が出来る極限手前で同時に剣を振り下ろす。


 それまでの過程プロセスは寸分違わずと言っても過言ではないほどに一致していた。


 それこそ、アーニャと悠人にしかできない事である。


 お互いにテレパシーによる意思疎通ができない限りは到底、一長一短にできた事ではない。


 しかし、相手には会話をする風景が垣間見られない分、反応が遅れると踏んでいたのだが………。


「ふんっ!」


 アイナ先生も絶妙な角度で剣を出して、悠人の剣とアーニャのを合わせている。


 今までの悠人であれば、「なっ!」とか言って驚くかもしれない。しかし、もうそんな事はない。


 それは、ただ慣れたというだけの事であったが、それだけここと地球タリスが違うという事で納得するしかないともう消化済みであった。


 悠人とアーニャは一旦距離を取る。再び三角形を作る。


「流石ですね……」


 悠人は汗を流し、呼吸を整えながらそのように呟く。


「いや、お前たちもかなりの練度だな? これが実質初タッグとは思えないぞ」


「いいえ、私がいなくても悠人はもっと強いんですよ!」


 褒めるアイナにアーニャがハードルを上げてくる。アーニャはまるで自分がすごいと言わんばかりに腰に手を当てて仰け反っている。


 悠人にとってはどっちみちプレッシャーでしかない。しかし、前の悠人がもっと強いというからにはもっと強かったのだろう。負けてられないと闘志が湧いてくる。


「さぁ、私にギズつけてみろ!」


 今度はアイナが攻撃を仕掛ける。ここからは魔法を交えての戦いになりそうだ。


 アイナの周りに光の矢が浮遊している。


(アーニャ行くぞ!)


 悠人が駆けていく。それに向かって光の矢が飛んくる。悠人の走っている後ろで光が突き刺さる。


 もし刺さったらと思うと冷や汗がしてしまうのだろう。そう、肝を冷やしそうになる。


「出来ました! アメドシス! いっけぇー‼︎」


 もう既に装填を終えていたアーニャが、大砲から高エネルギーの光線を打ち出す。


 煙が舞う。かなりの轟音が鳴り止まなく響いている。


 まるで、目の前で火山が噴火したような音が響いていた。


「やったか?」


「一手間足りないよな」


 首を締め付けられる感覚、息苦しさとは裏腹にアイナの声はまだ遠く聞こえている。


「うっ、くうぅ………」


 まともな声が出せず、もがく。


 必死に首を絞めているものを外そうとするが上手くいかない。


 やがて砂煙が消え、辺りがはっきりしてくる。


 アーニャに向かって剣を突きつけるアイナとアイナの手から出ている触手に首を絞められている悠人。完全に詰みの状態であった。


 降参のサインを出して、ようやく地面に足をつける。


「がはぁっ……はぁ……はぁ……」


 空気を吸おうとやや過呼吸気味に呼吸する。


 アーニャは申し訳なさげにシュンとしている。


「私相手に高出力魔法を繰り出すのはナンセンスだったろう?」


 私相手にとは、別にアイナ限定の事ではないといったニュアンスで話す。


 あの高出力の大砲は過去にラネイシャのドラゴン相手に放ったように本来は巨大な相手に対して放つのが基本だ。


 当の大砲事態に関しては問題ないが、何せ魔法量が異常に高い悠人だと謝って大出力の魔法を注ぎ込んでしまうために威力も高いものになってしまう。


 それでも、悠人が放つ魔法に関して言えば、瞬間移動は一回の魔法使用量が多い分本当に瞬間的に移動したかのような速さで相手の懐に入る事ができるし、大魔法に関しても人の協力を得ずに強力な魔法を発動する事が可能だというメリットがある。


 いや、むしろメリットの方が多いはずだ。


 だが、いかんせん魔法というものはただ力強いだけではそのヒトが強いとは言えない。


 アイナに関して言えば、魔法はヒトより少し多いというだけなのにもかかわらず、悠人のような大魔法を操るものとも同列に闘える。


 それは単純に魔法の強さだけではなく、魔法の発動スピードだったり、発動するタイミング、それを補うだけの経験と体力に加えて華麗な剣捌きまで併せ持っており、どれも悠人にはない、またはアイナには遠く及ばないものばかりだ。


 それゆえに強く口を紡ぐ。


 悔しいときはなぜだろうか、アイナを睨んでしまう。別に本気でぶつかり合ったというのに悔しさと憎しみはあまり区別が付きにくい。


「もう一本お願いします!」


 と、頭をさげる。


 アーニャもそれに続くように悠人に付いてくれる。


「ああ、いくらでも来い!」


 アイナが剣を構えると同時に再び攻撃を仕掛けた。




























いつも読んでいただきありがとうございます!


はぁ……今日は忘れずに更新できそうです。自分が悪いはずなのになんかホッとしちゃってますね……(笑)


今回は久しぶりの戦闘シーンでした。というか、次もそいういうシーンです。宣言しておきます。


まぁ、戦闘シーンはハラハラしてもらって興奮してもらったらいいんじゃないかなと思います。


最近はバイト三昧である意味充実した日々を過ごしております。疲れるんですけど……終わった時の達成感がなんとも言えないですね〜。


はい、ということで次回も楽しみにして欲しいと思います。なんか、忘れているかもと思ったら遠慮せずに突っ込んで下さいね。


ではではー


小椋鉄平

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