サーシャの思惑、悠人への依頼
あれから、特に変わったことはなく、日々を過ごしている……つもりだ。
勿論、あれからをもっと前に設定すれば変化というのはとてつもなく大きなものだったわけであるけど……。
そいうのは積み重ねだろう。何事も振り返ってみればその時はどうでも良いことだとしても大きなことに思える。
テストなどを思い浮かべると良いかもしれない。例えば、テストでさっきチラッとだけ見た単語やら語句が思いっきりテストに出ているとさっきやってたことが大きなことに見えてくる筈だ。
まぁ、戯言はここぐらいにして。
「ええと、なんでしょう学園長……?」
なんだか、また違う意味での学園長のオーラが出ていて、違った意味で威圧感を感じていた。
アルベルトさんの時は威厳のある感じで逆らったら……て考えての怖さだったのだが、サーシャはまた違った恐ろしさを醸し出していて……はっきり言って怖い。
「ああ、早かったのですね。まだ、指定した時間まで三十分あるわ」
と、サーシャはかけてあった時計を見て言う。
「あっ、ご、ごめんなさい! また、出直してきます」
悠人は一瞬で直立になり、踵を返そうとする。
「まぁ、そんなにかしこまらないで。一応、私が学園長をしているけど、歳はあなた達とさほど変わらないわ」
逆にそれはそれで別の意味で畏怖を覚えてしまうのだけど……。すごい雲の上の存在のようで。
「どれくらいの差、なのでしょう? あっ、いや、失礼しました。忘れてください」
「まぁ、いいわ。特別に許すわ。……でも、あまりレディの歳を聞くのは野暮だと思うわ」
確かにその通りだと思い。コクコクと頷く。
「……はい、じゃあ、いくつに見える?」
「ええと……」
ここは少し若い年齢を設定したほうがベストだ。
と、考えていくつに見えるかを推測する。
「に、二十歳……とか?」
「ははは……お世辞でも嬉しいわありがとう。でも、違う。今は25よ」
「ははは、大して変わらないですよ」
「そう……嘘でも嬉しいわ」
そう微笑んでくれる。その笑顔に悠人の心も穏やかになった。
「じゃあ、本題に入るわね」
「! はい」
と、束の間の安らぎであったようにサーシャが本題を切り出す。
「あなたは取り敢えず、私の手足になって貰うわ。勿論、あなたに拒否権はない」
「そ、それはどんな事をさせるのでしょうか?」
「そうね。あなたの事情は叔父様の資料から大体のことは把握しているつもりよ」
「例えば、その資料にはなんて?」
アーニャ以外に俺の過去を知っているとすれば、ある意味大問題であろうことは今の悠人にさえ分かる。
「そう、あなたは人間なのだから地球からの人というのは知っているわ。そして過去にここへ来ていることも……」
やはり、その資料には俺の過去のことが記してあったようだ。
「しかし、ここで分からないことがあったの」
「え?」
「あなたはこの資料を見れば、100年前の人の筈なのにどうして生きているのかしら?」
そんな質問をされて答えられるわけがなかった。
俺でさえ知らなかったことなのだから……。
「あれじゃないですか、こことタリスの時系列がずれているとか?」
暦上、一年は365日となっていてもここでもそうであるとは限らないと思う。
「いいえ、それはあり得ないわ。ちゃんとこちらも暦は太陽系だもの」
そうか、それではこの説はあり得ない。
「だったら、僕は時間軸が異なるここに送られたのではないですか? ほら、前にここに来た時は正規のルートじゃあ無かったみたいなので……」
「そうかもしれないわね。……それだと一応、筋は通るけど……信憑性にかけるわね」
確かに、俺ですらわからないのに事実なんてどうか微妙なとこだった。
その時の記憶もないので。
「まぁ、いいわ。いわゆる今回ここに来たのはこの世界を変えるため……。そうでしょ?」
「ええ、自分が何ができるんだって感じなんですけどそうお願いされて来ました」
「ずばり、誰に?」
急に鋭い顔をされて少したじろいでしまう。
「僕も正直、誰かは分からなかったです。ただ……きつね顔の男であったことはとても鮮明に覚えています」
「狐顔……ね……」
思慮に耽るように呟くサーシャ。おそらく記憶からそういう顔のやつを探しているのだろう。
「誰か心当たりが………?」
「いや、うーん。 会ったような会ってないような……。私も曖昧みたいだわ」
サーシャでもそいつに心当たりは無さそうであった。
「でも、気付いたらアーニャ達と会っている……。それはきっと偶然のようでそうではない……はす……」
確かにあの後気絶して気付いたらアーニャと出会った。
だが、それはまた別の小さな小屋で今いる所ではない。ん? まてよ。
「学園長。そのことならアーニャに聞けば何か分かるとは思います」
「そう、まぁ、あなたの力になれる事はするわ。その代わり私の手足となってこの学園を守って貰いたいの」
それが学園長の要求のようだ。
俺にとっては、逆に「俺でいいのですか⁉︎」と、二度聞きするところだが、そこまで買ってくれるのだから期待に応えられるように頑張ろうと思う。
「そこでね……まず、私の護衛になる資格を手に入れて欲しいのよ」
「えーと? それはつまり?」
「まぁ、私はあまりそういうのは好きじゃないんだけど……この学園で一番になることよ」
それは、また難題だなと悠人は思った。
そんな急に言われてはい分かりましたとは約束できないレベルに。
俺の今現在の順位は十五位。
ランキング戦がもう始まっているらしいのだが、まだ誰にも挑戦していない。
挑戦されてもいないわけだが……。
「僕は学園一位に勝てというわけですね」
「ええ。私でも簡単に出来る事だとは思っていないわ。でも、それなりの実力を示してくれないと護衛をあなたには出来ないのよ」
「学園長権限でも、ですか?」
ダメ元で聞いてみる。恐らく、護衛というからには学園の外での事であるからして無理である事は分かっている。
「私の問題ではないわ。他の者達がどう見るかなのよ。だから申し訳ないけどよろしくお願いするわ」
「もう一つだけ、聞いてもいいですか?」
そう、サーシャさんに切り出すと手でどうぞと合図を送られる。
「なぜ俺なのですか?」
「なぜ……あなたの目標はこの地を安泰にする事。とても大きい目標だけど、悪くない事だと思うわ。そうだとすれば手始めに学園をそうして貰おうかなって。利害が一致しているでしょ?」
「まぁ……確かに」
それだと、サーシャさんにとっての利益はないように思えたのだけど、ここはあえて黙っておく。
しかし、それではサーシャさんの狙いが別にあるのではないかと思えてしまってならない。
何か、俺にも分からない何かを狙って俺のところへ相談に来ているのではないかと考えてならない。
悠人が何も言わず黙っていると急に笑い出すサーシャ。
「別に他意はないわ。本当にそう思っているのよ。……ただ、別の意味があるとすれば……」
「あるとすれば?」
サーシャはゆっくりと立ち上がって悠人が立つ側へと近づいていく。
それに合わせてゆっくりと後退する悠人。
何かヤバイ! これは何かわからんが良くない!
ジリジリと距離が近づいていく。
サーシャは鋭い目をさらに鋭くして、まるで獲物を見つけたチーターのような目で悠人をじっと見つめながら近づいてくる。
え?え?え⁉︎
悠人はロックオンされたシマウマのような気分になる。
そして、壁に背中が当たってしまう。
「うっ⁉︎」
まるで逆壁ドンのような形にされる。
こっちは手をかざすだけで殺す事さえ可能な世界なのでただ壁ドンされるのとは恐怖心が段違いなのだ。
それ故に悠人はブルブル震えてしまう。
勿論、学園長が護衛につけと言ったそうそう何かするなんて思ってないけど、今までの訓練で体に染み付いてしまった。
手が頬から顎にかけて撫でるように手を当てられる。
「私は叔父様に認められた男。そして学園の先生のトップ、アイナまで倒した男。 これは私としても見逃すわけにはいかないわ……」
「そ、それが……僕を護衛に指名した……理由……ですか……」
漂う威圧感という名の毒煙に上手く喋ることができない。
「……そう。 あなたを繋ぎ止めるいい方法だわ……」
ネットリとした口調で話すサーシャ。
今にでも機嫌を損ねるような発言をした瞬間、消される様な、そんな感覚に怯える。
「でも、俺は………」
なんとか解こうと壁にもたれつつ下に下がる。
「あら、積極的なのね。 いいわ」
サーシャが悠人に肉薄してくる。
「え⁉︎ が、学園長……ふごっ!」
学園長の秘めたる部分を押し付けられる。
想像とあいまさって服越しなのに恥ずかしくなってしまう。
「///」
「♪ いいの、素直になりなさい」
「///………………」
「ふっ!……あぁ、く、くすぐったいわ……」
と、サーシャの甘い声が聞こえる。
ど、どうしたらいいんだ⁉︎
あまりにも魅力的……いやいや、危機的状況に混乱しているみたいだ。
そこへ、ドアがガンと強い音を立てて開かれる。
「〜〜〜〜悠人をたぶらかしてどうするつもりですか?」
冷ややかな声が聞こえてきた。
その言葉の節々に棘があるように感じた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
なんか、出すのが久しぶりって感覚な気がしますね。前もって作るようにしてるからでしょうか?
それなら早く出せとか言われそうなんですけど、それだと約束もうやむやにしてしまいそうなので自分に取っても無理のない期間でやらせていただいております。
最近はいろいろなギャルゲーをやったりとかやり直したりして作る側としての視点を意識して見てるのですが、そうすると「そのシーン貰い!」みたいな感じにしかならないので悪戦苦闘しています……。
まぁ、もう少しその部分に関しては頑張ってみるつもりです。
それではー
小椋鉄平