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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
挑戦の時〜新たなる気持ちで〜
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非情なる結果と叶わぬ願い

「そんなことで、どうこうできると思ってるのかしら……」


 ローレラはため息すらつく。


 偽アーニャというべきか、そっくりなアーニャが立ちはだかる。


絶対零度フリーズ


 と、ローレラが声を発する。


「はっ、かっ……………」


 偽アーニャはそれ以上何も言葉を発せなくなった。


 ローレラの発する言葉通りになったのだ。


 偽アーニャの身体を摂氏マイナス二百七十三・一五に瞬時に凍らされた。


解放パージ


 そう言い放った途端、偽アーニャの身体ごと氷が粉々に崩れる。


 氷の残骸が散乱するが、血の惨劇ではない分気持ちの悪さは感じられない。


 この炎天下での氷の破片はむしろキレイという形容さえできそうな景色であった。


 それはひとえに氷づけにされたのがアーニャ本体ではなく、偽物だったからこそできた光景であったろう。



 本物であったら……どうであっただろう?


 精神的にこんな表現は出来なかっただろう。





「うお!」


 炎の中に入った悠人は、すぐに二人の顔を見つけた。

 その瞬間に疑問に思う。


 なぜだ?と。


 悠人から見たこの二人は本気の殺し合い(たたかい)をしているようにしか見えない。


 では、当然、どうしてこうなったという疑問が浮かぶだろう。


 しかし、


「さっぱり……分からない……」


 喧嘩なら、止めに入らねばならない。いくら俺が非力であってもここで傍観するよりマシだ。


 しかし、もし真剣勝負という名の果たし合いなのであれば果たして俺が介入して良いのか分からない。


「取り敢えず、事情を聞かなきゃ」


 と、二人の元へ急ぐ。


「ねぇ、どんな状況か教えてもらえる?」


 炎の線を目の前に引かれる。


 状況を大まかに察する。


 これはお呼びではなかったようだ。


「悪いが、これは真剣勝負なんだ。横やり入れないでくれ」


 ラネイシャが、こちらを向かずに答える。


 ドラゴンも俺に威嚇してくる。


 今にも吹きそうだ。


「おう、そっちだったんだな……」


 と、後ずさる。


「別に二人でかかってきてもいいけどな」


 平気で挑発してくる先生。


 顔を見た瞬間、一瞬金縛りにあったかのような、それぐらいのオーラが降りかかる。


 これは、退散するに越した事無いな。


 そう思い、悠人は渦から抜け出す。


 そこへ、丁度アーニャと鉢合わせる。


「悠人! 無事ですか?」


 悠人は心配してくれたのだと、嬉しく思うとともにまだ、申し訳ないとどうしても思ってしまう。


「俺は大丈夫だよ。 それよりも余計な事しちゃったみたいなんだ」


 アーニャとともに炎の渦を見つめる。


 もう外からは、何が起きているか伺い知ることはできないがとにかく《勝負》とラネイシャが言った事に対して安心している。


 勝負=殺し合いにはならないからだ。


「頑張れ」


 悠人はアーニャに聞こえないくらいの声でそう呟いた。


「さぁ、ここは危ないから離れようか」


「ええ」


 アーニャと共に上の観覧席に上がる。




 その間。


「ふぅ……今回は不発のようね」


 影からローレラは見ていた。が、悠人の行動を見て、ローレラは諦めたようだ。


 ローレラの目的は悠人の覚醒させ得る状況に持っていく事であったために、この状況では意味が無い。


「焦る事はないわ……」


 ローレラはそこから姿を消した。


「彼女が直接動いている……? なぜだ? 」


 白衣を着た男が姿を現す。


 彼はとても信じられないものを見たというような、驚きの表情をしている。


「どのみち、あの《彼》が、後々大きなこの国をどっちに転ばすかの鍵になるはずだ。 あっちだけになるのはなんとしてでも……」


 彼は彼女の消えた方を睨むように見つめながら呟いている。


 しびれを切らした感の残る表情は崩さず、踵を返して彼も立ち去った。


「ん?」


「え? アーニャ? どうかした?」


「い、いいえなんでもありません」


「そう……」


 てっきり、何か中であったのかと思ったのに……。


 悠人たちからでは中を見る事はできない。


 だが、アーニャが考えていた事はそうではなくローレラ(彼女)の気配が消えたことによる安堵感と彼が来たという驚きの感情が混ざったものだった。



「くぅ……」


 さっきからずっと躱されっ放しで、悔しさが声に出てしまう。


 遠距離と近距離のツーパターンの組み合わせで攻撃しており、ニ対一の状況をつくれているにもかかわらず対応される。


 さらに、渦を作った事によって、相手の躱す範囲を削っているにもかかわらずだ。


 まるで、システム上では100パーセント勝てる試合で、それを実行しているのに何故か勝てないというモヤモヤ感と、もどかしさの両方の気持ちでぐちゃぐちゃになってる。そんな感覚。


「まだ……まだです!」


 ラネイシャは片手を頭上に手を広げた状態であげる。 独り言を呟くように詠唱する。


「全てを焼き尽くせ! フレイムストーム!」


 その瞬間、周りにあった渦が範囲を狭め迫ってくる。


 まさに、諸刃の剣といった感じだ。それでは自分でさえ危険だというのに……。


「こんなんでどうにかなるとでも?」


 そう答えるアイナの言葉はもっともであった。


 悠人がこの渦を越えて中に入れたにもかかわらず、そんなことをしても意味がないはずである。


「でも果たしてそうでしょうか? さっきよりも渦が均等になってると思いませんか?」


 二人が上を向く。


 確かに渦が均等に正しい円を描くように動いている。


「だが、それは問題ではないだろう」


「さぁ、それはどうでしょう。炎の中に入るのは先生の勝手ですし」


「……」


 先生は黙って上を見上げる。考えるように。


 ラネイシャにとってこれが“賭け”である事は言うまでもない。


「いい目をしている。戦うということにおいて常に真剣である証だ。だけど悪いな」


 先生は剣を構える。


「その顔は正直すぎる」


 瞬間、先生を見失う。


「はっ⁉︎ マズイ!」


「もう遅い!」


 剣で首に亀裂を入れられる。


 その瞬間、ラネイシャの敗北が決まると共に渦とドラゴンが消え、現れたのは赤い鮮血だった。


 意識を保とうとする。


「まだ……死ぬわけには……くっ!」


 血は止まらず流れ続ける。


 ああ、これが死なのか……かなりあっけないものだなぁ……。


 首を抑えながらも血は止まらず流れ続ける感覚がする。


「………ラネ…イシャ……しっ……かり………!」


 もう身体が動かないよ。


 視界には複数の人がかろうじて私を見ているのがわかるが、滲みすぎて分からない。


 なんで……涙……なんて……死ねるのは本望な事なのに……。


「………今、……けて……あ………げ……」


 私は目を瞑った。




「ラネイシャしっかりしろ!」


 悠人とアーニャがラネイシャに駆け寄る。


 ラネイシャは首を斬られて血だらけで仰向けになっていた。


「くそっ! “勝負”って言ったじゃないか⁉︎」


 悠人は先生を睨む。


 明確な怒りを表現する。が、当の本人はなんとも思っていない顔をしている。


「お前こそ、勘違いしている。これは“真剣勝負”だと言っていたろう?」


「真剣がついたらこんな事になるのかよ⁉︎」


「平和ボケしすぎだ。 こんな事は日常茶飯事の世の中で何言ってるんだ?」


「だからって明確もなく殺めるのは許せない! 失望したよ先生」



 怒りを抑えきれなかった。


「今、助けますから……」


 アーニャが回復魔法を行使する。


 それによって血の放出は防ぐ事ができた。だが、完全に傷を塞げられてはおらず、かつ神経まで斬られている場合がありいつ逝ってもおかしくない。


「取り敢えず保健室に運ぼう!」


 ラネイシャを抱えて保健室に向かう。


 悠人はアイナに睨みつけて闘技場を後にした。


「ああ、こいつは重症だな……」


 事態を把握したマイン先生がそう呟く。


「そうですか……」


 落胆する。


「いや、治りはするんだと思うけど……何せ魔力系を斬られてるんだ。魔法は今後、行使し辛くなる。というか、右手からの魔法行使はほぼ不可能だと考えて相違ない」


「そう……ですか……」


 さっきから、そう言われても落胆しか起きない。彼女は今、魔法師生命を絶たれようとしているのだから、俺以上に気持ちが穏やかではなくなるだろう。


 まだ、本人は目覚めてないが……。


「何か、その魔力系を繋ぐ事はできないんですか? 人工的に管を伸ばすとか……?」


 悪あがき程度に提案してみるが首を横に振られてしまう。


「でも、死ぬわけじゃない。 命があるだけでも充分な成果だと思うが……」


「勿論そうですが……彼女は優秀でしたから、それ故にちょっと……彼女が真実を知った時の事を思うと……」


「胸が痛むか?」


 俺は頷く。


「お前が気にする必要はないんじゃないか? むしろ、命を救った事に対して評価されるべきだ。そんな事まで自分のせいにするのは良くない」


 それでいいのか?


 自分の中で、疑問符が浮かぶ。


 彼女は確実に現在の自分に失望する。 他の人ができる事が出来なくなるって事がどれだけ辛くて、悔しいかは分かっているつもりだ。


 だからこそ助けてやりたい。


 その気持ちを持つのはタブーなのだろうか?


 なんとかして助けてやる方法……。 はっ。


「俺の魔法なら……」


 とっさにラネイシャの傷の部分へ手をかざす。


「いけません! 悠人!」


 その手を払い除けられる。


「どうして止めるんだ? 俺の創造これがあればラネイシャのこの原因だってすぐに解決するじゃないか?」


「………それは成功するんですか?」


 急に、アーニャが声を低くして尋ねる。


 悠人は背筋が凍るような感覚に陥る。 アーニャの目に身体が動かなくなっていた。


「でも、やってみる価値はあるはずだ! 何もやらないで終わるよりは何かやってから終わる方がずっといい」


「では、それで今よりも状況が悪くなってしまったらどうしますか?」


「そ、それは……」


 勿論、その可能性は常に存在する。良くしようとして逆に良くない事になってしまったという話はよく聞く。


「可能性にすがりつくのは自分に使う時だけにしてください。 他人に行使するのであれば確実に行えると証明されたものでなければいけません……。……たとえそれは善意であろうが、悪意であろうとも……です」


「それじゃあ、証明できればいいんだね」


 俺は何もない空間に手をかざし、創造(魔法)を行使する。


 すると、何もない空間からきめ細やかな管上の物体が現れる。


「これでどう?」


「いいえ、それではダメです」


「じゃあ、どうしたら証明してくれる?」


 少し、声を荒げる。


「では、これを……動くようにしてあげてみてください」


 渡されたのは、スズメだった。ゲガをしているらしく、動けなくなっている。


「よし!」


 まず初めに、原因となる根本の怪我を探し始めた。


 …………。


 どうやら、足と翼が折れているようだ。


 ならば! そこを修正してやればいい。


 悠人はスズメの方へ手をかざす。


創造クリエイト!」


 その瞬間、スズメを貫通するように結晶が出現する。


 当然、スズメは一瞬で息絶えた。


 悠人は、外部からの妨害と思ったのか、周囲を見渡す。


 マイン先生とアーニャも私ではないと首を横に振る。


「じゃあこれは………」


「分かってもらえましたか?」


「どうして……こんな事に……」


 悠人は膝を地面につける。


 そんな想像はしてない。 失敗するにしても結晶は完全に自分の想像したものとは完全に違うものだった。


「私は知っていました。悠人のこの創造クリエイトは生命体対象には行使出来ないと……」


「どうして、それを?」


「ただの経験です。前にもあったんですよ、こんな事が……」


「そんな……」


 ただただ自分にがっかりだった。


 目の前にいる人の幸せを救ってあげられないんなんて……。


「こればかりは仕方がないんです。 昔の彼(悠人)でも、不可能な創造だったのですから……」


















いつも読んでいただいてありがとうございます!


ついに40話目になってました。

ということは平均で3,000文字くらいですから、12万文字書いた事になりますね。


正直、自分がここまで続けるなんて自分でも思ってなかったです。やはり、これもひとえに皆様のお陰じゃないかなと思ってます。


さて、告知した通り、来週の更新はコミケのために休みにさせていただきます。

コミケ行ってたらまともに書けないと思ったからです。


何とぞ、ご了承くださいますようお願い致します。


それでは。


たった2時間だけなのにすぐ声を枯らす


小椋 鉄平

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