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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
挑戦の時〜新たなる気持ちで〜
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それぞれの思い、交錯

 あれから、一ヶ月が過ぎた。ちょうど、授業も受けなくて良い身だからといって、授業中にアイナ先生の筋トレのメニューをこなし、午後から実践の戦い方を仕込まれていた。


 一方、アーニャも分かってくれたのか俺の世話係をかってくれている。ここでも意外だったのが、アーニャがやたらと知識豊富だったことだ。


 尋ねてみると、


「こんなことは当たり前のことです」


 と、アーニャ。


 いやいや、そんな事は全然ないと言うと素直に喜んでもらえて面倒ごとまでしっかりやって貰っている。


 正直、申し訳ない気持ちでいっぱいだったのでやめてもいいと答えると。


「アーニャはお邪魔だと言うんですか……」


 と、嘘泣きかと思いきや、マジ泣きしていたのでこれ以上は何も言えなかった。


 ……………………………………………………………


 ラネイシャもそんな悠人達を見て、ただ黙って見ていたのではない。


 日々、風紀委員長としての仕事に明け暮れながらもトレーニングを始めた。


 トレーニングというのはただの筋トレというわけではなく、実践形式のタイマンだった。


「今日もよろしくお願いします!」


 ラネイシャは深く頭を下げる。


「ああ、教え子の頼みだ。別に構わん」


 アイナは手で顔を上げろとジェスチャーを送る。


 そう、ラネイシャもアイナに師事を仰いでいたのだった。


 悠人がトレーニングを始めて一週間が経った頃……。


「なに? 強くなりたいだと?」


 アイナは訝しげな表情を浮かべる。


 ラネイシャは学園でも十五の中に入れる。軍で言えば幹部クラスの実力だ。そんなラネイシャが師事を仰ぎたいなどと私如きに頭を下げること自体おかしいと思う。


「あの試合を見てました。 その……先生は負けてしまいましたけど、あの剣技といい、魔法の発動するタイミングだったりとても私では出来ない凄いことだと思いました」


「……」


 アイナ先生は黙り込む。というよりも、ラネイシャの手の内を伺っている、といった感じだ。


「あの……」


 黙り込んでこっちを見続けるアイナ先生に恥ずかしくなって、話を切り出す。


「……で、本音は?」


「ええ⁉︎ ななな、何のことですか?」


 明らかに動揺が見える。もしこいつに重要機密の案件を言ったら、敵に捕まった時に厄介になりそうな感じのようだ。


 つまりこいつには、隠し事は出来ないってことだ。


「別に言いふらしたりしないから。 ほら、先生だし…ってか大体私に尋ねるとこから本心は大方悠人関係だと分かるし……」


「う、そ、そうですか……先生にはお見通しのようですね、あははは……」


 無理に笑って見せているが、うん、私じゃなくても分かったと思うよ。


 と、言ってやりたかったがこれ以上言ってしまってメンタルを削るような事は忍びないと思った。


「そうなんです……本心はそうじゃないんですよ……今まで私より強い方は数多あまたいました……。けれど、あれだけ屈辱的でない負け方は初めてだったんです。そう、悠人との試合で……あんな楽しく戦ってるなんてこの学園でそういう奴は絶対にいない……。だって覚悟が違いますから……」


 そこで、押し黙ってしまう。確かにあの時の悠人は死ぬことに関して少し、いや、かなり楽観的になっていたんだと思う。


 実戦を考えるならば、あの擬似空間アストラルカーディガンは少し考え直さなければならないことであろうと思ってる。


 それは置いておいて……。今は、ラネイシャのことだ。彼女は申し分ない程に強い。少しは強いと思っている私でさえも彼女の力は認めている。


 しかし、


「お前は私とはタイプが違いすぎる」


 そう、悠人との戦いでわかったと思うが、ラネイシャは基本的に召喚獣を操る、いわば遠距離攻撃型だ。ゲームで言えば、後方に位置している魔術師みたいなものだ。対して、私はスピード系の近接戦闘型。そんな私が教えられる事はないと思う。


「確かに……その通りだと思います。でも敢えて先生に指導をお願いしているのは……」


「悠人がそう……だから?」


 アイナの答えに頷いて答えるラネイシャ。


 確かに、私を悠人と見立てて戦術を組んでいくのは悪くない考えだと思う。でも、悠人と私とでも完全に同じだとは言い切れない。この世界の魔法を司るものたちは大まかに戦い方で分類できても、事細かいところでは出来ないので科のように分けて勉学に励むというようなことができないのである。


 さらにもう一つ大きな問題点がある。


「仮に、私に師事を仰ぐことで強くなれたとしても……その……悠人に勝つ事はできないと私は思う」


 悠人は常に戦いにおいて進化し続けている。きっと最初は押せても、彼はまたその戦い専用に慣らしてくると思う。それだけでは無く、私は、いや、私でもこれから強くなるであろう悠人に通常の力で戦われれば勝てる見込みはないだろう。


 変なアドバイスもしちゃったしな……。


「いいえ、それでいいんです。少なくとも今は」


 その言葉で私はラネイシャの思いが伝わってきた。


「……分かった。私でよければ付き合おう。だけど、今週から悠人もここを使うんだ、悪いけどそのあとでも良いか?」


「ええ、構いません」


 お互いに悠人には見られたくないだろうという事は聞かずとも分かっている。


 ……………


 ………


 …



「はっ、やあっ!」


 ギンギンと金属同士が音を奏でる。普段ならばこんな表現は使わないが、ラネイシャは短剣を用いる分、音と音の間の時間が短い。 それでいて、リズムを奏でるようにアイナに剣を打ち込んでいく。


 アイナもアイナで、その攻撃を見事に全て避けること無く、受け止めている。


 小刻みなリズムが僅か二小節ほどの中にこれでもかと打ち込まれていく。休符は剣を打ち込んだ後の僅か、コンマ五秒程度の間に相手の背後をつくように移動して再び剣が打ち込まれてゆく。


 さらに言えば、ただ同じリズムの剣を打ち込んでいるのであれば、音を奏でているという表現は使わなかっただろう。それほどに再び剣が打ち込まれる時のリズムはまた違った感じで打ち込まれる。


「はぁ、はぁ、はぁ……なんで?」


 ラネイシャは息を切らしている。あれだけ、高速で攻撃を仕掛けたならば息も切れるに決まっている。しかし、ラネイシャが腑に落ちないのはそこではなかった。


「……どうした? もう終わりか?」


 常に守りに徹していたアイナが息一つ切らしていないのだ。それだけでなく、普段の呼吸となんら変わらない。


「では、こっちから行くぞ!」


 アイナが攻撃してくる。細剣から、高速の刺突が来る。その速さはとても常人では見ることもままならず、おそらく全て死んでいるだろう。


「ぐっ!」


 ラネイシャは間一髪のところで自らの剣で軌道を変えた。


「ほほう、動体視力はなかなかだな」


 そのアイナの言葉さえ、褒められた気がしなかった。咄嗟に軌道を変えたのは良いが、今自分の首横に細剣それがあり、一歩間違えれば確実に死んでいた。


 ラネイシャに冷や汗が滲む。


 ラネイシャはもう既に訓練であることを忘れてしまっていた。これだけのオーラを放たれてかつ、死ぬ一歩手前の一撃。忘れるのも無理ない。


「まぁ、でも……そっか。お前は悠人に近づくこと、だったな。悪かった、つい、強い者と相見えると力が入ってしまう」


 その言葉はラネイシャにとって嬉しいことだった。先生に強いと言われて嬉しくないはずがない。


「ありがとうございます」


 私は謙遜ではなく、お礼でもって返すことにした………。


 それからも特訓は続き、アイナ先生にはことごとく急所を狙われてヒヤヒヤする場面ばかりだった。


「はぁ……」


 寮のベッドに仰向けに倒れる。身体中が痛い。


「いっつー」


 痛みに悶えてしまう。次第に痛みも引いてくるが、今日は動けなさそうだった。改めて、自分の鍛えが足りなかったかが身にしみてわかる。


「くぅーーー!」


 今日全然歯が立たなかった事に悔しさはなぜかまるでない訳ではないが、幾分薄い。強いと分かっていたのだから当然の事かもしれない。


「随分とお疲れのようね」


 私ではないものからの声がして、そちらの方へ振り向く。もちろん、警戒して。


「ろ、ローレラさん⁉︎ どうしてここに?」


 声の方へ向くと、ラネイシャの目が見開いて、驚いた表情をしている。


「ふふふ、そう期待通りの反応をしてもらえて嬉しいわ」


 と、ニコニコ顔のローレラ。 学園を卒業して、どこへ所属しているのか、はたまた、生きているのかもわからない行方不明状態だったローレラが急に目の前に現れたら、驚かない訳がない。


「もう、悠人には会いに行きました?」


 ラネイシャが尊敬している中の一人にローレラももちろん入っている。それでも、年上という時点で敬語は当たり前だと思ってるが……。


 つい、聞きたくなってしまう。 ローレラは学園にいた頃は悠人にちょくちょく接触していた。何か利用するために近づいたのか、本当に気があるのか、その時は見極めきれなかった。だからこそ、私の気持ちは知られずにローレラの気持ちが知りたかった。


「悠人には今日は会わないわ。彼には守護者がいるから迂闊に近付けないのよ」


 確かにいくら先輩でも、あのアーニャには一歩下になってしまうようだ。


「悠人は先輩のこと心配していましたよ。なんか、どこ行ったのか行方不明だとか……あっ、先輩は今どこで活動しているんですか? 無事なのは……今見て分かりますけど……」


 悠人が言っていたことを思い出して、訊いた。私にとってもあの先輩が、どこで活動しているのか気になる。おそらく、とても大きな団体に所属しているのだろう。


「私? そうねぇ……とても大きな団体ではないけれど……すごく有意義な日々を過ごしているわ」


 私は不思議な違和感に襲われた。それが、何かは分からなかったが何かおかしいような……?


「そうですか……それは良かったです」


 そうであれば、私も嬉しかった。


「そろそろ行くわ……」


 踵を返して、私のドアを開ける。


「はい、頑張ってください」


 と、ローレラが出て行く。


「フゥ〜」


 やはり先輩は独特なオーラがあって、緊張してしまう。


「今日も綺麗な星だねー」


 柄にもなく、黄昏てしまった。










いつも読んでいただきまことにありがとうございます!


ちょっと時間がないので、短めに。


暑いですけどなんとか生きて通常の生活を送れては一応いますが、テストが予想通りの結果だったので、暗い夏休みになってしまいそうです。


が、気持ちだけはルンルンでいきたいと思っています。


ありがとうございます!


小椋 鉄平

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