鬼畜な特訓、些細な心配
それから数日のこと……。
「しっ、死ぬぅー! ま、マジで……」
今、何をしているかというと端的に言えば筋トレだけど、その筋トレの内容が地獄だった。
アイナ曰く、そんなんでヘタれるようなら到底無理だと言われて特訓してくれることになったけど、特に技を教えてもらうとかそういうことではないのでアイナが考案した筋トレメニューに基づくトレーニングをすることにしたけど……。
「嘘だろ⁉︎」
その紙を手にした後に最初に放った言葉だ。
その紙には、
放課後〜
1、腹筋、背筋、スクワット 各百回 計三百
2、五十メートルダッシュ 五十本
3、二百メートルランニング
と、書かれていた。
「当たり前だろう。 これくらいこなせないと私になんてついてはいけないぞ! 日本の武士はこの何倍も努力していたと聞くぞ!」
そうあしらわれる。 武士でも剣振ってただけに思えるけど……。
先生は武士道を拡大解釈しているのではないかと思ったのだった。
で、今に至る。
「ほら、もうばてたのか? まだ、二つ目じゃないか? これでもお前のことを思って、少なくしてやったんだぞ」
「む、無理です……。ちょ、ちょっと、や、休ませてく、下さい……」
そのセリフを聞いたアイナがため息を漏らす。
「……なんで、私はこんなヘタレに負けたんだろう……」
アイナは一人考え事にふけってしまった。こうなった先生はしばらく帰ってこないことを特訓を受けてから知った。
「……アドバイスをくれたのがいけないと思うんですけどね…」
正直、自分はもう一度アイナ先生と戦えと言われれば勝てる気がしないと思っている。それだけ、前の試合は手を抜いてもらっていたと思う。
「そうか……!」
何か閃いたかのように、片方の手のひらに拳を乗せる。
……なぜか、嫌な予感しかないのは何故だろうか?
休憩も済んだし、そろそろ始めようとする。
「おい、待て、お前が嫌ならもっと効率のいい方法を思いついた」
俺は一度立ち止まった後、再び走り出す。
「おい! せっかく私がお前に叩き込んでやるって言ってるのに、素直に受けろよ!」
って言いながら、光の槍を俺の足元に突き刺す。
「ちょ! あ、危ないじゃないすか!」
咄嗟に避ける。刺さった後で避けても意味はないが、反射的にやってしまう。
「じゃあ、避け続けろよ!」
次々と槍が飛んでくる。
「う、うわぁー!」
今日はずっと生死を彷徨っていた。
…………………………………………
「だあー! 死ぬかと思ったー」
寮に着いた途端に、床に突っ伏してしまう。
「あ、悠人。 ってどうしたんですか?」
元気よく駆け寄ってきたアーニャが、俺の今の状況を見て、首をかしげる。
「アーニャか? 悪いけど、もう動けないから運んでくれないか?」
俺が冗談めかして言う。もちろん俺だって本気にしてない。アーニャだって女だ。男の俺を運ぶなんて無理に決まっている。
「分かりました! 不肖アーニャ、頑張ります!」
ビシッと敬礼のポーズをとると、俺の両手をとる。
引っ張るのか? 気持ちはありがたいが……。
俺の予想通り、アーニャはうんうん唸りながらも俺の腕を懸命に引っ張っている。俺の為に頑張るアーニャに有り難みを感じるけど、そろそろ自分で……。
「これじゃダメなら……ふん!」
アーニャが、気合を入れた途端アーニャの手に光が纏い出した。
そして再び俺の手を掴むと、
「うおっ⁉︎」
いとも簡単に俺の体は引かれていく。俺の部屋へ続くカーブをいとも簡単に通り過ぎて、階段に行き着く。
「も、もういいよアーニャ。ありがとう」
そう言い、手を離そうとするが、アーニャが俺の手を離さない。
「いいえ、まだ行けます」
と言って、再び俺を引っ張る。そして、
「あだ、うおっ、ぎゃあ!」
階段ですら俺を引きずるアーニャ。 当然、階段の角に背中やら腰が当たりまくってとてつもない痛みが俺にはしる。
なんとか頭だけは守った。
階段を上りきった俺はというと……。
ちーん。
当然の結果だった。
「ゆゆゆ、悠人⁉︎ いい、いったいどうしたのですか⁉︎」
どうやら、アーニャには悪気は一切無いらしい。
そんなアーニャに怒る気も失せてしまう。
「いてて、いや、なんでも無いよ。ここまででいいから。ありがとう」
自分で立ち上がって、フラフラしながら自分の部屋に転がり込んだ。
「いててて………」
部屋に入った途端、ベッドに倒れ込む。
「あの……悠人……」
アーニャが部屋にいることに今気づいだ。
なぜ、全く気付かれずにここに⁉︎
とも思ったが、アーニャの暗い表情を見ると一瞬で自分のミスを悟る。
「へ、平気だから! これくらいどうってこと無いよ! ははははは……」
自分なりに励ましたつもりなのだが、それでもなおアーニャの顔は晴れない。
「………」
「あの……アーニャさん」
もしかして、俺のせいじゃなかった? そそそ、そんなわけ無いだろう。俺の見立てでは、完全に俺の手伝いをしてから表情が暗くなったはずだ。
俺は意を決して一歩踏み出す。
「アーニャ」
「はい……」
その返事からして起こっているわけでは無いことは完璧にわかる。でも、それだけじゃない。 俺の直感でしかないけどそのように感じた。
「あの……む、無理をしてはいませんか?」
アーニャがおずおずと申し訳なさそうに聞いてくる。多分、もし違えば俺に怒られるとでも思っているのだろうか?
なんか、さっきからお互いの読み合いしているようで馬鹿らしくなってきた。
「ななな、なんで笑うんですかぁー!」
アーニャの顔がムスッとした表情に変わる。
「いや、だって……」
「私も、心配だったんです。無理にトレーニングしているんじゃないかって……。でも自らやっていることであればその心配はご迷惑になるのではないかともさえ思ってしまって……」
「そうだったのか……」
それよりも、さっきのことを謝って欲しいところではあったけどまぁアーニャも俺の負担が軽くなればと思ったんだということにしておこう。
俺は半分無意識でアーニャの頭の上に手を乗せる。
「これは俺の望んだことなんだ。強くなりたいことはもちろんなんだけど、それ以上に自分が少し変われるかなって思ったんだよ」
「ふふ……」
アーニャが笑う。そんなに俺のセリフがキザ過ぎたのか今更ながらに恥ずかしくなる。
「なんだよ⁉︎ ちょっと今日のアーニャは変わり過ぎだぞ」
「い、いえ別にそれを笑ったわけでは無いんですけど…なんか、一瞬昔の悠人を思い出しちゃって……」
「………そうですか」
そんな反応しかできないけど、アーニャが喜んでくれるならまぁいいかなと思った。
「この!」
俺はいたずら心に髪をワシャワシャする。
「あー、悠人、やめてください」
そうは言いながらも嫌がってないので続ける。
「お返しだ」
次第にワシャワシャするのをやめる。
「でも、心配してくれてありがとう」
最後に頭を軽くポンポンして離す。
「そこで謝らないところが悠人らしいですね」
どこに俺が謝るような要素があったかはわからんが……。
「ふふふ……考えてることが意識してないところも変わって無いですね」
結局、なんだかさりげなくやり返された感じがしないでもなかったけど、アーニャの笑顔が見れたので安心した。
いつも読んでいただきありがとうございます!
さて、今回もなんとか更新することが出来ました。いやぁ、危なかったというかある意味アウトですよねー。
まぁ、こんな感じが続くかもしれませんが何卒よろしくお願いしたいと思います!
最近は死にそうな日々が続いてやばい
小椋 鉄平