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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
挑戦の時〜新たなる気持ちで〜
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アルベルトの告白

 私は信じていました。悠人は負けるはずがないって。でも、ヒトは完璧じゃない…。


 自分で嫌ってほど分かってます。この精霊からだになってしまったことだって、そういうことなんですから……。


 砂埃の中から、二人の姿が確認できる。悠人だけが立っているところを見て勝ってくれたんだという嬉しさでいっぱいになった。


「アイナ先生!」


 この間に起きたラネイシャとサーシャさんがその名を呼ぶ。


 私はハッとなって再びその方を向く。


 アイナ先生は仰向けになって倒れているのが見えた。


 あぁ、みんなの心配そうな顔……。分かってしまっている自分が悪者の仲間に見える。


 と、私はアイナの無事を確認する二人を傍観していた。悠人は二人に何か話している。今回も大量の魔力を使ってしまっているようだった。違うのは魔力の出し方であるけど……。


「君は随分大人に見えて、脆いね」


 不意にアルベルトさんから話しかけられる。


 その通りだろう。私は似せているだけ、心はもうあの頃のままだから……。


「……」


「君は人工精霊だろう。しかも、あのホーキルズ研究所最初で最後の成功例……」


 なぜだろう、この人のことがまるで読めない。今までにない感覚だ。生きているのか、死んでいるのかさえ感じられない。


 私が訝しげにジーッと見ていると、アルベルトさんはにっこりと笑顔を見せた。


「そういう定義での生きているかどうかなど関係のないことだよ。今いるかどうか、存在があるかどうか……これこそが生きているってことなんじゃないかな? 」


 と、服をチラッと脱いで中を見せてくれる。


「なっ!」


 私は二重の意味で驚いたが、一つの方の驚きなどすぐに掻き消えた。なぜならそのに皮膚という名のものはなく、とても硬そうな光沢のあるものが見えたからだ。


「サイボーグ?」


「それに近いと言っていい。私はこれによって生かされてきた。だから、百年前の出来事も覚えているし、実際に体験した」


 そういうアルベルトさんから写真を受け取る。


「これは……」


 その写真の中には、白衣に身を包んだ若者と……。


「私……ですか?」


 アルベルトさんはゆっくりと頷く。


「これは君がまだ幼かった頃の写真だ。記憶ではまだ精霊化には至っていなかったはずだ」


「……」


 精霊化してしまったのと成長してしまったのとあいまって、その写真の面影は今の私にはない。ただ、まだそれを自分であったと認識できる。


「私も君が実験台にされるとは思っていなかった。当時私はまだ若輩者で今のような権利はもちろんなかった…。だからこそ失敗して廃棄されてしまうよりは成功することを願った……」


「……」


 別に精霊になってしまったからといって今の自分に後悔はない。


「でも、君が契約している彼はあの研究所を破壊した。……と言われてはいるけど、私ははっきり見たんだ…本当の黒幕を」


「! そんな…! そんな…ことあるはずが…ありません。 悠人はあの時私の前に現れて、手を差し伸べてくれたんです!」


 そう、その記憶は一時たりとも忘れたことはない。たとえ、悠人は知らないとしても私だけは覚えている。


「それはないよ」


「なぜですっ!」


 少し、声が大きくなってしまったが、そんなことは気にしていられない。自分はそんなはずはないと思ったからだろう。



「彼も君と境遇は同じだったんだ。私は彼も君と同様に見ている。そして君たちは出会うべくして出会ったんだ。今回の君が再び出会えたのもそのおかげだろう」


 それは遠回しに手引きしたものがいることを暗に示している。私ならすぐ分かった。


「目星は……ついているのでしょうか?」


 私はアイナが倒れていることよりもそっちばかりに目がいってしまう。怒り。そんな感情でいっぱいだった。


「それを知ってどうするんだい?」


「潰します」


 アーニャはすぐに答えた。


「潰す必要なんてあるのかい? だって君たちは今の関係で幸せそうじゃないか」


 アルベルトさんはそう答える。でも、心の底ではやはり満足していない自分がいる。


 悠人と対等でいたい。主従の関係も悪くはないけど…嬉しくないこともないけど…やっぱり悠人の隣を歩きたい。 一歩後ろを歩くのも嫌。でも、側にいられなくなるのはもっと嫌!


 アルベルトさんは笑っていた。


「君は分かりやすいよ。 私は君に少なからず負い目がある。聞きたい事なら私がわかる範囲でいくらでも答えよう」


「では、その黒幕は……?」


 早速、質問した。私にも記憶にない事を彼は知っている。これは、心強い。完全な味方とは言えないが、少なくとも私たちに害を与える存在では無さそうだ。


「残念ながら、大元はまだ分からない。ただ、君達を実験に使った者たちならいくらか当てはある」


「その方たちは?」


「君達のバックにいる連中だよ。君たちは出会うべくして出会った……そう言ったはずだよ……。そう、狐の面を被った……」


 私はハッとした。全身が上から順に冷めていく感覚がして軽く身震いする。


「アルベルトさーん! アイナを運ぶので、悠人を運んでくださいませんかぁー!」


 ラネイシャが声を張り上げて訴える。アルベルトは片手を上げて了承したというジェスチャーを取る。


「あとは君次第だ。だけど、君の事だ奴の強さは知っているんだろう? だったら誰かを頼るといい。僕は残念ながら、手伝えそうにないからね」


 そう言い残し、悠人の元へと小走りで向かい、


「よっ!」


 軽々と倒れている悠人を担ぐように持ち上げ、運んでいった。


「私はーー」


 途中で考えを止めて、アーニャも悠人の元へと向かった。



 …………………………………


 …………………



 ゆっくりと目を開ける。


 周りを見渡すが、どっかのベッドのようだった。起き上がろうとするが、身体が動かない。


「ああ………」


 魔力の回復をするのを忘れていたようだ。まだアイナのように無意識下で魔力循環を行う事ができない。なぜ勝てたのか自分でも不思議だった。


 あんなにも想像で創造するものは勝ちたいという曖昧なものを創造できたのか? ある程度は、現実感があるもの、大砲とか夢のゴーレムとか、神話に出てきそうなものなら形だけなら創造する事は可能だったが……。


 悠人は先ほどの闘いを振り返る。


「あんな創造の使い方もできたんだな…」


 もう自分の意志なく自分を第三者に乗っ取られたくらいの動きの違いだったと自分ですら感じてしまう。


 魔力が入った事を感じていざ起き上がろうとするが……。


「あれ?」


 身体が動かない。

 固まってしまったかのように動かない。


 急に寒気がした。これから暑い夏が来るというのに……。


 そこへドアが開き、中からアイナが出てくる。


「よく私を倒したな。生徒の分際で、私に勝った奴はお前が初めてだよ」


 素直に嬉しかった。


「あ、ありがとうございます」


 悠人はアイナとは目を合わせず、そう答える。


「なぁ、なんでこっち向いてくれないんだ?」


 訝しげに尋ねてくる。別に隠す事ではないので、素直に話した。



 ………………………………………



 ……………………




 ………


「それはそれは……」


 やたらニヤニヤしながらそう答えてくるアイナ。何かわかった風な顔をしている。


「なんかあるんですか? お、教えて下さい!」


 悠人は懇願するように言う。


 マジで、筋硬化症ならシャレにならない!


「ただの筋肉痛だ。 お前の動きに身体がついてきてないんだろう。 ふふふ、もっと鍛えないとな」


 俺はホッとすると同時に、まだまだであると実感する。


「そうですか、まだまだですね」


 頭では勝手に分かっていても、知らず知らずのうちに肉体はそのイメージについて来れていなかったらしい。


 俺はゆっくりだが、起き上がろうとする。


「止めておけ。無理に動けばますます、痛いぞ」


 確かに、ジワジワとした痛みが襲ってきてその場に固まってしまう。


「……私には勝ってもまだ自分には勝ててないみたいだな」


 そう言い、再び笑われる。ここまでくると少しムスッとしてしまう。


 そんな表情に気づいたのか笑いを抑えてくれる。


「……」


「うぉっほん! あ、ここからが本題だ。約束は約束、必ず守る。お前を私のパーティーに加える。……これはまるで私が上から目線だな……」


「いいですよ。俺が勝ったのだってー」


 そこで俺の手を取られる。片手ならなんとも思わなかった。だけどアイナは両手で俺の手を包むように握る。


 その手はとても温かくない。むしろ冷たかった。


「違う。私に勝ったのは単なる偶然ではない。胸を張っていい。私は……心のどこかで心細かったのだと、あの闘いで知った……。 全く、この歳で情けないな……。だから、私との同行に付き合わせてやる、なんて上から目線じゃない。 私と一緒に闘ってくれないか?」


 なのに、俺はなぜか冷たいではなく、むしろ暖かいと感じた。


「………」



「………」


 お互いに見つめ合う。


 俺はそのまっすぐな瞳に動揺を隠せない。目がちょこまかと泳いでしまう。


「………」


「…………ダメ……なのか……?」


 見つめ合いが続く。でも気づいたことがある。


 先生はすごく偉大だと思っていたから、こんな事はないと決めつけていたけど………。


 ふっ、と笑ってしまう。


 先生も肩がふるふると震えていた。


「な、なぜ笑う」


 言葉も硬い。


「何がおかしいんだ⁉︎」


 アイナは周りを見たりしている。おかしなところを探しているのだろうがそこにはない。


「ご、ごめんなさい。……でも、先生も緊張するんだなって思ったら笑っちゃいました」


「あ、当たり前だ! こんな事は初めてだぞ……ったく……で、返事は?」



 おっと、俺の中ではもう返事をしたつもりでいてしまっていた。


 改めて姿勢を正して、アイナに向かい合う。


「自分でよければ喜んで」


「………そうか……ありがとうな」


 と、急に頭を撫でられる。


「ええっと? それは……子供扱いしてるみたいでちょっと……」


 気持ちいけど……なんか、みっともない気もする。


「お前は私から見たらまだ子供だ」


 そう言われて、なでなでされ続けるのだった。

















いつも読んでいただいてありがとうございます!


いや、最近は本当に前日から見てくれる人がいて、自分でニヤニヤしてました。すみません。それなら早く出せって感じですよね〜。


でも、嬉しく感じたのは本当ですのでありがたいことです。


さて、今回はアイナ先生の一面を新たに見られたことですし、ちょっとヒロイン化したかなとも思いましたが、そこはまぁ、読者さん次第ということでpvに反映するか、直接言いに来てくれるでもいいですけどそんな感じでいきたいかなと思っております。


では、今後も「想起創造の魔法剣士マジックフェンサー」をよろしくお願いします!


夏コミのムーンライトが取れてますますテストに身が入らない 小椋鉄平



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