対談と新たなる決意
ようやく謹慎が解けて、俺は元、学園長の住んでいる家に連れて行って貰っている。
「でもな、なんで大所帯で行かないといけないんだ? 俺と学園長で良かったじゃないか⁉︎」
そう、俺が言っているのは他でもない。まだ、学園長が付き添いとして来てくれるのはまだ分かる。この今から起こるであろう元学園長との対談を取り繕ってくれた張本人だからな。 だけど…。
「いいじゃないですかぁ、そんな硬いこと言わないで下さいよー」
「そうだよ、僕だって一度学園長とは直に話してみたかったんだ」
「そうですわ。 私はこの子が行く行くってうるさいから私が見張り役として付いてやるんだから、感謝して欲しいわね」
最後の一人はマジでいらなかったと思うけど…。
俺はため息をつかざるおえない。
「………」
俺がこの中で一番訪問に驚いたのは、アイナ先生だった。
それは当日の事……。
授業も終わり、皆、それぞれの行動に移っているの時。
俺は久々に授業を受けた。聞いていて損はないと思うが、やはり魔法学校。 とてもじゃないが、理屈がよく分からない。
「そういえば、どこに行けばいいのかな?」
確かに、謹慎が解けた後の放課後とは聞いていたがどこに行くのかは聞かされていなかった。取り敢えず、学園長の部屋に行けば何とかなるだろうと思い、向かう。
最近、何度か学園長室を訪れるようになってからあまり緊張しなくなった事を今更ながら実感する。しかし、それは今の学園長であるからだと内心思っている。本人には絶対に言うことは出来ない。
「あんな見た目ではな……確かに」
やがて学園長室の前に着き、ノックをしようとするが…。
「?」
中に人がいるようだ。声が聞こえた。
「サーシャ…あ、いや、学園長。 私にもあのお方に会わせては貰えないでしょうか?」
声からして、アイナ先生が学園長と話してるみたいだが……。ってか、学園長の名前ってサーシャっていうのか? 見た目と名前のギャップが半端ないな⁉︎
「あなたも色々と思うところもあるのでしょうが、今回は遠慮した方が良いのではありませんか? 生徒、もとい相馬悠人はその事を知らないのでしょう?」
その事。とは何だろうか? 何かの機密事項であることは確実に分かるが…。
「いいえ、心配には及びません。少なくとも私の事は知っています。とはいえ、彼にも知って欲しいのです」
「というと、彼は人間?」
俺は聞きながら、納得した。俺もそうだが、アイナ先生も自分が人間であることは伏せている。しかし、俺はアイナ先生だったら公にしてもいいのではないかと思っていた。
あれだけ強いのだから、誰からもとやかく言われるわけがない。ましてや、力で差別しようものなら返り討ちにあうだろう。
「そうですか……では、いいでしょうあなたの同行を許可します」
あっさりと学園長は許可を出していた。
ここまでの会話でサーシャ学園長も人間には理解がある方だと思えると感じた。
そうして、アイナ先生も付いてきている。
しかも、俺に何か教えてくれるらしい。できれば、いいことであって欲しいと願いたいところではあるが…。
「おい」
「悠人さん!」
「悠人!」
三人の声がする。俺はハッとしてしまった。どうやら、車に揺られてつい眠ってしまったらしい。
「ごめん!」
慌てて、車を降りる。
と、そこに現れた光景は、豪華な屋敷でもなく、それでいて普通の家よりは大きい。想像とはかけ離れている。
俺がぼーっと家を見ていると。
「悠人には言ったはずだか、アルベルト元学園長は権力に全く興味がない方でな。 それ故に家も豪華でない」
「でも、学園の長なわけですから、それ相応のお金は貰ってたんじゃ?」
学園長で魔法の学校となれば、その学園長は莫大な富を持っていても不思議ではないと思う。
「いいや、彼は必要最低限の給料しか貰わず、自分が普通に暮らせるだけのお金しか貰わない。その為、残りの金は全部学園に与えられていたよ。だから分かるだろう? うちの学園は新しいものが建ち過ぎて統一性がない事に」
「そういうことだったんですね…」
改めて、権力に全く興味がないヒトなのだと感じた。
家に入る。玄関側のドアを開けるとすぐに目的のヒトに会えた。
「待っていたよ。相馬悠人くん。 君とは一度話してみたかった。 私は、サーシャの叔父にあたるアルベルトという。 よろしくな」
元学園長はこう言ってくれる。
「嬉しいですが…自分は学園長を半ば追い出した様なものですし、正直自分の求めに応じてくださりまして感謝の言葉もありません。 その節は本当に申し訳ありませんでした!」
俺は勢いよく頭を下げる。 俺のやりたかった事はまずはこれだった。理由はどうであれ、これだけは譲れない事だった。
「はっはっは、よしてもらいたい。 別に私は君に対して怒りの感情など抱いてはおらんのだよ。むしろ君には感謝すらおぼえているくらいだ。 だから顔をあげなさい」
俺はゆっくりと顔をあげ、口を開く。
「どうして、自分をかばって下さったのですか? 別に切り捨てても、というよりも学園長が責任を取る事はしなくても良かった事だと思いますが…」
俺がそう切り出すと、アルベルトは考え込む様に顎に手を当てる。
「実は、こんな事してからで申し訳ないんだが、別に君だから私が庇ったんじゃない。私は君じゃなくても責任は取るつもりだった。それが学園長という名の重みだと思っていたからね。何かあった時の盾になるのが学園長となるにあたってのなすすべき事だよ。私はそれをしただけだ。 と言いたいところなんだけどね…」
「やはり、何か他に理由が⁉︎」
俺は謹慎中考えていたのは、なぜ学園長、もといアルベルトさんが俺を庇うようなことをしたのか? 最初は本当に俺を見込んでの事だと思っていたが、次第にそうじゃない事を思い始めていた。 故にその考えも頭の片隅にあった。
俺が尋ねると、アルベルトさんは周りをぐるりと見渡した後。
「君の身分だよ」
「⁉︎、 それは…どういう事なのですか?」
俺の身分? 俺の身分ってなんだ? 平民って事が学園に、それとも世間に悪い影響を与えるのだろうか? そう、悠人は思った。
「君は人間だろ? 」
「まさか⁉︎」
俺は大体の見当がついた。まさか、それがここでも足枷になってしまうのかと悔しくなる。
「君は人間。だとすれば、裁判で無罪を勝ち得る事は難しい。なぜならば、このヴィッフェルチアでは裁判は裁判官ではなく、国民の代表が行うからね。 まだ差別意識の強いヒトに当たれば間違いなく死刑に近い罰が与えられる。 …私のような老ぼれならまだしも、君はまだ若い。 その子は絶対に守らなければいけないと、そう思ったんだ」
「そうだったのですか……」
俺はこの話を聞いて、ほのかに怒りが芽生えた。なぜに人間をここまで嫌うのか? 弾圧するのか? 不思議でならなかった。
「残念ながら、理由はもう一つある。君には知らないだろうが、うちにはいくらか従業員といて、または教師として、あるいは生徒として、人間をうちは積極的に入れていたんだ。 人間という身分は隠すのが当たり前。 そんなのに裁判沙汰になれば、学園も調べられる。 他にも人間がいたなんて事が知れたらそれは大騒ぎになるだろうし、なおかつ君が人間だと公になる事も問題だった」
俺は下を向いたまま話を聞いていた。はたから見ればヒトの話をまともに聞こうとしないやつに見える事だろう。
つまり、アルベルトさんからの話は、
第一に、人間を認めていてくれる事にある。
俺にとってはとてもありがたいヒトだった。
「さて、君はどうだった? 悠人くん。 今の話を聞いて」
不躾だな、と思いつつも俺にとって正直な感想を述べる事にした。
「アルベルトさんが私たち人間を毛嫌いしていなかった事に嬉しく思いました。 しかし、周りはアルベルトさんのような寛大なヒトもあまりいないという事に少し、憤りを感じました」
俺が話すと、アルベルトさんはウンウンと頷いていた。
「確かに、認められないのは辛い事だ。 でもね、認めてくれない者は何も認めてくれなくたっていいんだよ。 君は君自身を認めてくれる者とだけ、大切にしていればそれでいいんだよ」
俺はその言葉に雷が落ちたような感覚に陥った。今まで、そういう考えを持つヒトを認めさせようと考えていたが、そうではないと教えられ、さらに自分を認めてくれるヒトだけと繋がっていればいいなんて考えにはたどり着かなかったからだ。
「ありがとうございます! なんだか、胸の内が晴れたような気がしました」
アルベルトさんは素晴らしいヒトだと思った。
「さて、ここで一息、淹れようか? 君たちは紅茶かコーヒーどっちがいい?」
と、アルベルトさんがみんなを見回して尋ねる。
「俺はコーヒーで」
「私もそれで」
俺とアイナ先生はコーヒーのようだ。
「私はいつものを」
サーシャ学園長が言う。アルベルトさんは「はいはい」と言って理解したようだ。
「そちらの二人は?」
アルベルトさんが尋ねる。アーニャは今は俺の魔力を使って実体化しているので飲めるはずだが…。
「何をそんなに悩んでるんだ?」
俺が二人に問う。二人はなぜか睨み合っていた。
何が君たちをそんなふうに働かせるんだ?
常に何かしらいがみ合っているように見えていざという時に手を取り合う。この二人の関係は仲が良いのか悪いのか判断しかねる…。
「わわわ、私も悠人と同じものを」
「わわわ、私だってそうしますわ」
「そうか、ではアルベルトさんよろしくお願いします」
アルベルトさんはニコニコして台所に行く。
アーニャとラネイシャはまたキリッとお互いを威嚇し合っていた。
そして、運ばれてくる。
コーヒーの香りが俺は好きだった。もちろん最初から飲めたわけではないが、少しずつ飲むたびにコーヒーの良さが分かってきた。
「ありがとうございます」
俺は礼を言って、口をつけようとカップに手をかけようとしたところでアイナ先生に止められた。
「少し、待ってろ」
小声でそう伝えられる。なんで⁉︎と言おうとして、アイナ先生を見た途端、何も言えなくなった。
アイナ先生のあの顔は見た事ないくらいの真剣さで、たとえ俺の方を向いて無くてもそれが分かった。
アーニャとラネイシャはおずおずとコーヒーの入ったカップに口をつけようとする。二人とも口をつけた途端に苦いのにやられたようだ。渋い顔をしている。
俺も最初はそうだったと思いながら二人に。
「おいおい、だったらなんで紅茶にしなかったんだよ」
と突っ込もうとした途端。
二人が俺に倒れ込んでいた。慌てて二人を受け止める。
「ちょ! 大丈夫か⁉︎ ……息はある。 ……これはどういう事ですか?」
俺の質問に答えたのはアルベルトでは無く、アイナだった。
「悪いな。 ちょっと二人には聞かれたくない話なのでな」
「では、彼女たちは?」
「眠ってもらっているだけだ。安心しろ」
それを聞いてホッと胸を撫で下ろした。まさか、ここへ来た事自体が俺への罠だと思ってしまった。
「お前も学園長室で話を聞いていたから分かるよな?」
と、アイナ先生が俺に問う。 俺はああ、やっぱりと思った。 学園長はよく分からないが、アイナ先生が盗み聞きに気づかない訳がないと思っていたのだ。
「ええ、何か先生もアルベルトさんに話す事があるとか…?」
先生は「そうだ」 と、短く答える。
「アルベルト学園長、 私はあなたに助けられてきて感謝している。 あなたに会えて良かった」
アイナは頭をさげる。ただ、それだけの為にわざわざアーニャとラネイシャを眠らせる必要は当然なかった。
「別に私たちが人間だという事だけなら、アーニャは大丈夫だと思いますが、ラネイシャは私の事を人間だと知らないですから…」
それがアイナの眠らせた理由だった。
アルベルトは黙って聞いている。
「今回の事件、よくない事が起きていると考えるのが普通です。我々、学園もいつ狙われるか分かりません。 どうでしょうか、何か現女王に不満を持つ団体をご存じないでしょうか?」
アイナはそう切り出した。 俺にはよく分からないが、とりあえず、反乱分子が何か工作を画策している事だけはなんとなく分かる。
アルベルトは再び考えてから口を開く。
「私が現職の頃は特にそういう話は女王即位して間もなくの頃ならまだしも、今はそれから約五年。 そんな反乱分子は少なっていると考えるのが普通ですが…」
そう、アルベルトは答えるとアイナは首を横に振った。
「私が聞きたいのは、そうじゃありません。 もし、画策している反乱分子の団体が人間だとしたら、ますます我々の立場がなくなってしまいます。 ですから、そうなる前に食い止めたいのです」
アイナは真剣な表情で語りかけるようにアルベルトに話す。 確かに、それが起きてからではますます人間の立場が危ぶまれる。 それに俺はそんなこの国を良しとはしていない。
一方で、アルベルトさんは困った顔をしていた。
「そうは、言われましても私としてもそういう報告は無かった。 これ以上はなんとも……」
アルベルトは出し惜しみしてなどいなく、むしろ、出来ないの方が正しそうだった。
「私なら、その場所を知っています」
後ろから声がした。ここで話していた俺を含め四人が一斉に声の方へ向く。
「私は、今回の大元を突き止めました」
そういえば、そんな事を謹慎中に言っていた。余り、深く考えないようにしていたせいか、頭から抜け落ちていた。
「それは何処にあるんだ⁉︎」
アイナが声を強くして尋ねる。今は、アーニャが何故起きているかよりも、その大元についての方が関心がうわまったのだろう。それにアーニャであればそんな事をしなくても良かったはずだった。
「アリルべ洞窟の最深部でした。 奴らはそこで捕虜を連れていては実験を行っているようです。残念ながら、実験の内容までは目視では判断しかねました。ただ、よくない実験であることは確実です」
それを聞いて、俺はアーニャの事を思い浮かべる。正しく言えば、俺にはその時の記憶がないので想像でしかないのだが、人間の精霊化をのような人の権利を無視した残虐非道な実験をしているに決まっている。
俺の拳に力が入る。そして横を見ると、アイナ先生も同じ気持ちだったようだ。
これで俺の当面の目標は確定した。
「俺はそこに行こうと思う。 どうせ、学園でやる事ないしな」
サーシャが何か言いたげだったが、口をつぐんでくれた。
「いや、お前には任せられん。私が行く」
アイナの言葉で場の空気が収縮する。俺はその言葉に凍らされたような感覚になる。そんなアイナの表情と言葉の覇気は今まで見た事がなく。この中の全員が、アイナの態度の変わり様に驚いた事だろう。だが、何よりも少し傷ついたのは、先生が俺を突っぱねた事だ。正直、心にきた。
「だけど、先生一人でも大丈夫な相手じゃないですよ!」
「今のお前では無理だと言っている。 人を一人殺したところで怖気づいてしまうお前はかえって足手まといだ。連れて行くだけ無駄だ」
「‼︎」
ごもっともな発言。アーニャに元気付けられたとはいえ、まだ完全に人を斬る事に抵抗がないと言えば嘘になる。たとえ、それがどんな悪い事をしたやつだとしても、更生するチャンスくらいはあってもいいはずだから。
「お前にはこの仕事は向いていない。ヒトを殺める事はむしろ日常茶飯事のこの世界でそんな考えではやっていけない。 いいか、あの学園でもそうだが、もっと気を引き締めろ。今はまだ、学園では何も起こっていないが、お前はいつ学園の誰かから殺されても文句の言えない人間だという事に自覚を持って日々を行動しろ! でなければ、ここで生きてゆく事は出来ない」
「……」
そう、アイナ先生の言葉はごもっともだ。やるかやられるかの世界で甘っちょろい事はかえって自分を危うい目に合わせる事くらい。でも、怖いんだ。もし自分がその立場になった時の事を思うと…。
いつかは、断ち切らねばならない煩悩に苦しんでいる。
「どうした? 男ならなんか言い返してみろ! この腰抜けが!」
「アイナ先生、それはいくらなんでも……」
アルベルトがそれをなだめようとしている。俺は頭を下げて、みんなから顔を見えない様にしている。
正直、泣きそうだ。アイナ先生の言葉は本当にその通りだ。今まではなんでも擬似空間があるから、死なないという、絶対的な信頼があった。でも今回は違う。本当に殺し合いなのだ。そんなところに一人では、いくらアイナ先生でも厳しい事くらい分かる。
「だったら……」
「?」
俺が呟く。一斉に、俺の方へ注目が集まる。
「だったら、どうしたら一緒に連れて行って貰えますか?」
俺はアイナ先生を睨みつける様にして尋ねた。
いつも読んでくださりありがとうございます!
今回は調子に乗ってしまってやりすぎた感が否めません。が、悪いとは思ってませんよ。
いろいろ、ツイートがやる事なくて宣伝以外はあまりしなくなってしまっていて、フォローが遅くなっている事に関しては申し訳ないと思っています。
取り敢えず、皆さんの日々が少しの変化と平和があります様に。
小椋鉄平