インターバル(謹慎)
辺りは、何処かの事務所の様な部屋。 ソファーを両サイドに挟んで透明なガラスの机がある。
両ソファーに二人のヒトがそれぞれ座っている。
「どうだった。うちの御仁は」
一人の男が口を開く。
「ええ、可もなく不可もなく、といったところでしょうか。 未だ、覚醒の色は見えませんが、かといって何も成長していない訳でもない」
もう一人の女、ローレラが口を開く。
「そういえば、君の後釜はどうしている。君の連絡では卒業後は監視を新たにつけると言っていたはずだが?」
「ええ、それは勿論ですが…どうやら、必要なくなりまして…」
男が眉をひそめる。少し、怒っているのだろうか?
「それはどういう事かな? 私も後釜をつけるのは彼の安全の事も考慮してもいい案だと思っていたのだけど?」
「いえ、申し訳ありません。 説明不足の様で。 実は、必要なくなった、というのは依頼することが必要無くなったのです」
ローレラが訂正を入れる。それは後釜にしようと考えていた者が自らやってくれるという事か?
「分かった、引き続き監視は君に任せる。 あとは何かあるかな?」
「ええ、彼のことなのですが、女王命令を無視しまして今現在謹慎中となっております」
「どんな違反かな?」
「ええ、人質を救出する任務だったようですが、そこで敵兵を殺してしまったそうです。女王陛下の命令は敵味方関係なく殺しの禁止だったので裁判沙汰になりかけたのですが、学園長が責任を取ることで裁判にはならなかった様です」
「ふむ…あの学園長がね…。彼の実力でも直で見たのだろうか?」
「詳しい経緯までは分かりませんが……彼の謹慎が解けた後に会いに行くそうです」
あの学園長は何を考えているのか分からないヒトだ。故に解せない。今回の行動も不明瞭な点が多過ぎる。なぜ、自身を地位を退いてまで彼を庇ったのか、もともと彼が権力にいささか興味がないことは情報としてあったし、彼も歳だ。そろそろだと思ったのかもしれないが、何か別の理由があるようなそんな気がした。
「分かりました。報告、ありがとう。 引き続き任務を遂行したまえ」
「かしこまりました」
ローレラは立ち上がり、彼に一礼して部屋を出て行く。
ローレラにとってはどちらも考えが読めないと思った。かといって、別に不満はない。私にとって不利益になるような命令は絶対にないと。そう断言できるからだ。
「全てはあなたの為に……」
そう小さく呟いて、歩き出した。
一方、謹慎が明日で解けるというところを迎えていた。別段変わったことはなく。平和な日である。
アーニャは俺が謹慎でずっと寮でいるのは寂しいだろうからと珍しく側にいてくれる。だが、ラネイシャの訪問以来は全く口を聞いてくれなくなった。
「なぁ、アーニャさん? 俺が何かしたのは分かったから機嫌なおしてくれませんかー? というか、俺何をしたんでしょうか?」
俺が質問に似た謝罪をする。俺はとにかくこの雰囲気をなんとかしたい気分でいっぱいだった。
この空気は辛すぎる……。
これは真面目なガチで今すぐにでもなんとかしたい事項だった。
「だったら、私とデートしてくれませんか?」
「え? い、いや、でも今謹慎中だから……ここから出られないし…」
アーニャが俺の言葉を聞いた瞬間、ムッとした表情になる。 ちょっと待てよ。俺は今大事なこと吹っ飛ばさなかったか?
「って、ででで、デート⁉︎」
「はい! デートですよ。 寮内でいいのでしましょうよ〜」
俺の体をゆさゆさと揺らす。
変な気は起こすな、俺。 相手はあのアーニャさん、精霊だ…よしっ。
「分かった、そういうことなら大歓迎だよ」
俺たちは部屋を出る。
「♪…♪♪♪……」
「ちょ、お、おい」
アーニャは腕を組んでくる。当然、慣れてない俺は戸惑う。
「ふふふ、分かりましたよ悠人。 さてはタリスでの彼女はいなかった模様ですね〜ははあー」
アーニャが不敵な笑みを浮かべて俺を見る。
「あ、当たり前だろ⁉︎ い、いたらデートなんて了承しないだろ!」
「そうなんですか〜そうなんですね〜」
相変わらずニヤニヤ顏のアーニャ。
なんか、俺も仕返ししたくなってきた。とはいえ、別段思いつかねぇ。なんだろうなー。
「あ、アーニャに会うまでととと、取っといたんだよ」
ヤベェ、声が上ずってかつ噛みまくっちゃったよ。やっぱり、ここがラノベでハーレム築けるかどうかだよな。 いやー、まじラノベ主人公に尊敬しちゃうわ〜。
と、さっきの発言を頭の中で合理化しようとする。
「え、えへへ〜、あ、ありがとうございます…な、なんだが照れちゃいますね〜」
場の空気をなんとかしようとするが、後半に連れてどんどんトーンが落ちるアーニャ。
あれ? こんなつもりじゃあなかったのに。なんか、真剣モードになっちゃったな…。お互い黙り込んでしまう。アーニャのことを俺は考える。
アーニャにはいつもピンチに駆けつけてくれて、俺を守っていてくれた。感謝しきれない人だな…。
恩返ししたくなってきた。アーニャは何が欲しいかな?
「ところで、アーニャは何か欲しいものはあるか?」
唐突かとも思ったが、今しか聞くチャンスはないと思った。
「えへへ、なんですかぁ藪から棒に……」
「いや、そういえば助けて貰ってばかりで何もお返しできてないなと思ってな…」
その言葉を言った瞬間のアーニャの表情の変わり方が速かった。
「ええ、一つだけあります」
「なんだ? あっ、今更で悪いけど俺に出来ることな…?」
ここだけは言っておかなければならない。いくら、魔法が使える世界でも出来ないことは山ほどあると思うからだ。例えば、過去や未来に行く…とか。
「そこは大丈夫です。 このお願いは悠人にしか出来ないことですから」
それを聞いてひとまず安心した。突拍子のないことお願いされてやっぱりごめんなさいは最悪だし、超恥ずかしい。
「なんだ?」
「私を悠人の側に置いておいて貰えますか?」
「え?」
俺は戸惑う。
それは、もう叶ってるんじゃないのか? そう思った。
アーニャは俺には分からないが、子供時代の俺を随分助けてくれたって言うし、また会える日をずっと待ち焦がれてたと言われた時には申し訳ないとも勝手に思った。
でも、もし俺がアーニャから離れるということを考える。俺にはその考えが全く浮かばなかった。しかも、もう契約しているし、一緒にいてもらわなければ困るはずだ。
だから、俺の答えは、
「ああ、当たり前だ」だった。
けど、やっぱりこれはお願いでは無いんじゃないかと訊くと。
「いいえ、私はそれで嬉しいんです」
と、パーフェクトな笑顔で言われたら俺もそれ以上追求出来なかった。
その後、シンとした寮の中を歩く。
まだ、日が昇っている時間帯なので肝だめし的な要素は全く無く、むしろとてつも無くスローな時間を過ごしていた。ただ、窓から眺める空。いつものことであるのにまるでそうじゃ無いかのような…。
だと言うのも、アーニャが楽しんでるからかもしれない。いつの間にか、暗い顔はすっかり取り去られていた。
俺は安心感を得ると共に微笑ましい気持ちになった。
「めでたしめでたし…かな?」
一人呟く。
気がつくとアーニャが手を振って呼んでいる。
側へ駆けていく。
いつしか俺にも笑顔が垣間見えていたのは俺でさえ気づかなかった。
いつも読んで頂いてありがとうございます!
今回は短めなので速く読めると思います。今週は区切りがちゃんとつけたので、短めになってます。
まぁ、ちょっとした休憩みたいなものなので本質にはほとんど影響しない部分でしたよね。
ただ、ラブコメ要素は少し組み込みたく思ってまして頑張ってはみたんですが、自分にはボキャブラリーがなくて、よく分からない表現も多々ある回だと思いますので何か疑問に思ったら上げてくれると嬉しいです。
次回は学園長との対談! 主人公悠人をかばった狙いとは!
次回もよろしくお願いします!
小椋鉄平