人間同士の矛盾
俺たちは囮をアーニャに任せてその隙に門を開け、囚われている人質を解放するという作戦にした。
しかし、俺はこの光景に感心すると同時に悔しさも湧いた。
アーニャの精霊としては人工精霊なので属性は無い。その代わりと言っては強すぎる力なのかもしれないが契約した主人の固有魔法を引き継げる。
つまり、俺の魔法をアーニャは使えるというわけだ。
だが……。
これではどっちが固有魔法を持ってるか分からないな。
テロの兵士達は俺たちでは無い物に臨戦態勢で迎え撃っている。
「なんだぁ、あれは⁉︎」
アーニャかと思ったが、何かよく分からない飛行機だった。
「敵兵だ! 第一班は戦闘に向けて出動せよ! ここまでたどり着かせるな!」
物々しい雰囲気がこの辺りまで漂う。あちらも必死なようであった。
俺たちは、両側の門に分散して配置して好機を待つ事にする。
「第一班やられました!」
「構わん、次々出動せよ!」
参謀の声らしきものが聞こえている。
「よし、では作戦を実行する。くれぐれも殺害はいかなる理由で無い限り許さない。お前達なら忠告する必要も無いかと思うがな……戦闘不能にするのは構わない」
アイナの号令が入り、いざ行動に移す。
俺は剣で相手に瞬時に近づき、最小限の力で無力化する。一人終わったところで後ろを向いて、「残党は?」と思ったがさすがと言うべきか、一人残らず片付けられていた。
「……」
「どうした? 悠人? さっきからお前はそればっかだぞ。ここは戦場なんだもっと気を引き締めろ!」
アイナ先生が俺の背中を叩く。軽いかと思ったが、さすがアイナ先生だな、容赦なかった。
少しは気合が入ったと思う。
俺たちは門をヒトが一人入れる分の隙間しか開けなかった。アーニャの戦闘に行ったもの達が帰ってこられては困るからだ。
そして、中に入る。
その中でさえ物々しい雰囲気で、緊張感が増す。
バンバンと発砲音がする。この世界にも銃があるのだろうか?
やがて、街の中心部に辿り着く。人質は集落に集められていた。俺が直ぐさま駆けつけようとみんなから先に行こうとした瞬間襟を握られ進行を急に止められてなんで?と答えようとした瞬間に何か痛みが走った。頬に。
俺は頬を触る。血が出ていた。
「あそこにいるだろう?」
いくつかの建物の上にスナイパーらしき物を持った男が数人人質を囲むように配置している。
スナイパーは俺たちを挑発して銃口を人質の方へと向けられる。
「やめろ!」
俺は無意識で跳んだ。
「お前っ! どうやって、あがぁっ!」
残りのスナイパーがここぞとばかりに人質に発砲する。
「やめろって言ってるだろ!」
「あいつ、……防御障壁展開だ!」
アイナ先生たちが発砲を止めていたが、俺はそっちに意識はなく、跳んで倒すを繰り返して無力化した。
「はぁはぁはぁ……」
やっとの事で正気になる。するとアイナ先生にゲンコツをくらう。
「お前は何してくれてるんだ! 任務を忘れたのか⁉︎」
「い、いえ、そんなことは……無いですが…」
「幸いにも初任務だ。今回は大目に見てやる」
と、ポンポンと頭を叩き人質の救命に行く。
悠人もそれに続いた。
「こちらです。焦らないでください」
と、人質を誘導している。
「悠人、もういい、私達はいくぞ」
と、アイナ先生が俺に指示を飛ばす。
「分かりました」
と付いて行く。
アイナは他の奴らに人質を任せる命令を下した後、俺と共になぜか人質の誘導した方向とは逆の方向に歩き出す。
俺は怪訝に思って尋ねようとしたが、あまりに真剣なアイナ先生の表情に口を紡ぐ。
「見えたぞ」
「え?」
アイナ先生は集落の端まで来たところで止まる。
俺は目を凝らす。すると、一人の男が立っていた。
「お待ちしておりましたぞ、フィアルテーレ学園の特進生と先生かな?」
男は軍服らしきものを着て、尚且つ胸にはキラキラと輝くバッジがいくつかあった。
確かに敵兵を見てもスナイパーとか、剣を持って戦っている敵を一人も見ていない。しかし、裏話としてこうしてアイナ先生という人間がいるということは『タリス』。いわゆる地球の文化というより武器が広まっていてもなんら不思議では無い。
もちろん、それ以外の可能性もあるにはありそうだが、可能性だけ考えればとてつもなく偶然が重ならなければあり得ない事であろう。
「単刀直入に言おう。もう、こんな事はやめてもらいたい」
アイナ先生がこんな事と言い、やめろと言う。俺には分からない話をしているのだろうか?
「私たちのやっている事が罪だと、そう言いたいのかな? であればそれは否だ。私達はここで『タリス』と呼ばれている世界にいずれは復讐するために結成された組織だ! そのためならば、この世界の民など! ゴミと同然だ!」
「先生? この人は?」
俺は話の腰を折るような事をして申し訳なく尋ねた。
「我々人間ですら対立がある。この世界に国々がある様に人間にもこの世界の支配か、協調かで分かれてる」
「そうですか」
正直に言おう。どうでもいいわ。ただ、言えるのは……。
罪の無いヒトを傷つけた。それだけだ。
「俺にとってはどうでもいいんですけど、これを起こした事実には憤慨しています」
「ああ、そうか、喜べ。こいつだけは思いっきりやってもいい。私が許可する」
アイナ先生からのお墨付きを頂く。そうだとしても、アイナ先生に止められれば引き下がるつもりではいた。なぜならば、さっきの事があったからだ。
俺の勝手な判断でみんなを巻き込むわけにはいかない。
今日、少なくともここに来ていい経験だったと思う。
「おやおや、そんな余裕ぶっこいてもいいんですか? 私も純粋な人間ですから、何かすれば罰を受ける事になりますよ」
「んな事はどうでもいいんだよ。ただ、お前達が私らの仲間を傷つけた。それだけで殺る理由になる」
アイナ先生が剣を構え、臨戦態勢をとる。
だけど、俺は内心驚いていた。
さっきまで、え? 罪になっちゃうの?なんて思ってだからだ。
アイナ先生がやる気なら俺が咎められる事は無いだろう……たぶん。
俺も剣を握る。
「二対一ですか…少々卑怯だと言いたいですけど、我々もそれ相応のやり方でやらせて貰います!」
そのテロのリーダーはマシンガンを取り出し、めちゃくちゃに発砲する。今の俺からしたら、こんな物はスローにしか見えず、剣で守る事すらしなくても避けられる。
「悪いけど、すぐ終わられて貰うよ」
俺が、宣言する。
「そんなんでよく言えますね。ただマシンガンを撒き散らしていたわけじゃ無いですよ!」
「うおっ!」
俺は弾の残骸に足を取られる。
「はい、ジエンド」
いつしか、リーダーはマシンガンを確実に俺の方へ向けて構えて発砲する。いくらスローに見えるとしても受け身が出来ない体勢だった。
「悠人!」(悠人!)
先生の声とアーニャのテレパシーがシンクロする。
やられる!
いつもの俺であればそう思い、嘘だと思いたいほどの恐怖に怯えるだろう。だが、今は違う。今こそ使うときだろう? 俺の……魔法を!
自分に言い聞かせる様に呟いて魔法を行使する。
それは、バッフロンに使ったときと同じものだ。
「うあっ! ……どうして……?」
リーダーを後ろから刺した。俺はリーダーの背中に背中を向けている。
転移した瞬間刺してやりたかったので、剣を腰の位置に構え、転移したところが刺さる様に高さ調節した。
彼は意識が遠ざかる中、恐怖しただろう。魔法というものがどれだけ常識に反した事をしているか、受け入れられないから、魔法師を化け物だと感じた事だろう。
俺は男から剣を抜き、止めにする。彼にもう一度刺したわけでは無い。もうそんな事はできない。同じ人間として少しは気持ちが分かるからだろうな……。
それに、ただ抜くだけで止血していた部分が取れて何もしなくても出血多量で死ぬ事は明白だったからだ。
彼はもう、声を上げる事なく倒れた。
俺は彼を上から見た後、目を閉ざせて一歩下がり、手を合わせた。たとえ敵であったとしても同じ人間である事には変わりない。
なぜが悔しかった。
どうしてこんな気持ちになるのだろう……。俺自身でさえ分からない。だけど……自然と拳や口に力が入ってしまう。
俺の肩を誰かが触る。
「大丈夫です。 たとえ、今すぐにはダメでもきっとその時は訪れます。それがあなたの使命なのですから」
アーニャが俺の肩に触れて、そう言ってくれる。そう励ましてくれるのにはとても嬉しかった。
みんなとはその後に合流した。彼らがその死体を見て手柄を横取り発言された事に少し腹が立ったが、もう落ち着いたのか案外冷静にあしらった。
そのときの俺は昔みたいにとても冷徹な目をしていたと思う。
いつも読んでいただきありがとうございます!
最近、予定通りの更新が続いてて自分はとてもホッとしております。
それもですね、更新した時にいつも見ていただいている人たちのおかげだと思っております重ねて御礼申し上げます。
まぁ、少しシリアスな最後になってしまったわけですが、この後お話は中核へ進めていくつもりです。
楽しい場面も入れつつ、最終的にハッピーになれるお話を模索しております。
今後も「想起想像の魔法剣士」をどうぞよろしくお願いします!