異空間転移と悲しい出来事
「ここは……?」
俺は周りを見渡す。
あたりは中世の町が広がっている訳ではなく、なんとも言葉にできない空間というか、まさに「異空間」という言葉が似合う空間に立っていた。
足下は見ることが出来ない。自分は立てているのか不安になる。
「やぁ、君と逢うのは二回目だね」
不意に声をかけられる。
「ハル…さん? さっきは助けてくれてありがとう!」
そう、言ってみたもののハルは悠人を値踏みするようにじっと見る。
流石の悠人も、顔を赤くしてしまう。
「ふむ…」
「な、なに?」
ハルは十分に悠人を観察すると顎に手を当てて考えている仕草を見せる。
その格好が、とても絵になっていて悠人も釘付けになる。
女性らしさも残しつつもその姿はまさにかっこいいとしか形容できなかった。
どこかの男役を優にこなせそう。
つい、失礼なことを考えてしまう。
その、考え事も終わったのか、改めて俺の方に向き直った。
「ふっ…ここまできたらやはり聞くしか無いね。悠人くん、君はユージェスという男について知ってるかい?」
ん?
突然なにを言い出すのかと思えば、ユージェス?
ユージェス、ユージェス……?
「確か、歴史の授業で出てきてたような気がする」
考えた結果この答えになった。
だが、俺の頭の中にあったのはなぜ、そんな質問をしたか、ということのみだった。
「そうか…」
またも爽やか男子っぽい仕草で答える。
俺ですら、惚れてしまいそうだ。
あっ、惚れてもいいのかな? 女の子な訳だし。
ついつい、邪な考えがよぎってしまう。
「これはもはや、最終の手を使うしか無いのか…」
でも、感じられたのは明らかに俺とハルの温度差があまりにもあることだった。
「俺にも分かるように言ってくれないか?」
考えているハルを呼び起こすように一歩近づき、そう切り出す。
「ん、じゃあそうしよう」
と、ハルは言って俺のおでこに手を当てる。
「‼︎」
最初はやはり、女の子から触られたことに身体が強張ってしまうが、すぐにそうで無いことに気づく。
そして、頭の中に入ってくるイメージを捉える。
いや、正確に言えばイメージが入ってくると同時に俺の頭の中を探られている。
そう感じた。
「君は……」
「なにも言わなくていい。僕の記憶と感情が流れてきただろ? でも、それで同情はして欲しく無いよ」
「悪い」
咄嗟にこの言葉しか出てこなかった。
だってこんなにそのヒトを待ち焦がれていたのかと思うと申し訳なさしか出なかった。
俺だったら耐えられない。
「君の記憶を見させてもらった。やはり、君がユージェスではなさそうだ」
「うん」
「でも分かったことがある。君では無く、君の父君がユージェスとそっくりだ。だから最初君をユージェスだと思ったんだと思う。おそらく君は英雄の子孫なんだよ」
急にそんなことをふっと言われて『はいそうですか』ではもちろん終われない。
「それで、君の父君は今どこに? ご存命なのは君の記憶からは明らかだ」
俺はどう答えればいいか迷った。精霊は《あっちの世界》の事など知っているはずが無い。とはいえ、死んでるとは言えない。いや、正直親父がどうなっているかなんて俺ですら分からない。
「少なくとも、ここには居ないよ」
俺はこう答えるのがあの強い気持ちに報いる今できる最大限の言葉だと思った。
「ど、どうして⁉︎ 君まで僕を裏切るのか⁉︎」
ハルが今まで見たことも無い表情で叫ぶように言う。
だが、俺はそういう反応になるのは選択肢として予想できていた。だから、ハルを落ち着かせる意味も込めて首をゆっくりと振る。
「…理由を、教えて、くれるかい?」
ハルは俺の意図通りに落ち着きを取り戻してくれた。
「もちろんだ」
と、一連の経緯を話した。
この世界では絶対にひた隠しにしようと誓ったことだったが、こうもあっさりはいてしまうとは自分自身に苦笑しかない。
そんなことを話した後思った。
ハルは俯いたままでいた。
「……ぐすっ…」
「……」
俺もそうなるのだろうと思った。
ハルの女の子らしい一面を垣間見た気がした。
しばらくして、ハルはふっと顔を上げる。
「あっ………」
咄嗟にかける言葉が分からない。
こんな時、なんでかければいいんだ? 思い出せ、俺!今までのギャルゲーから推測するんだ。
脳内で考えた挙句、出した答えは………。
二、ニコ?
「ぷっ、あははははは……!」
「え? なんで⁉︎」
俺が選択したのは笑顔、それが一番だと思ったんだ。だが、それは大きな間違いだったようだ。
そうだよね、ギャルゲーつっても十もいってないくらいの数こなした位で正しいことができるわけ無いよね〜。
「い、いや、ありがとう。君のぎこちない笑顔はナンセンスで笑えたけど、いい気分転換になったよ」
「そう……」
もし、成功していたなら胸を撫で下ろして安堵だっただろうけど、逆に追加して心に矢が刺さってしまった。
ハルは「じゃあ、帰ろっか」と言ったので同意して、この空間から出られることとなった。
「ああ……ホッとするー」と、大きく息を吸う。
もう、すっかり空にキラキラと光るものが広がっている。森だからだろうか? それが一層輝いて見える。
「どうしてんのかなぁー、俺の家族は」
と一人呟くと
「おいおい、もうホームシックなのか?」
とアイナ先生の声。
「そうじゃ……でも、案外そうかも知れません」
「そうか」
と、ただ一言。
俺たちは三人で空を見上げていた。
……一方。
「あわわわ……これはマズイですぅー。マズイですよー」
アーニャが悠人の部屋でさっきからわなわなと焦っている様子だ。
「悠人が帰ってきません! どうしてでしょうか? さっきからテレパシーは全く聴こえて来ません! どうしましょう……」
ここで、悠人から近くにいないから聴こえてこないと考えられないところがより焦っている事を如実に示している。
しばらくして………。
「ただいまー」
とドアを開ける。
「むすぅー」
と、むくれ顏のアーニャとそれに呆れているラネイシャがいた。
まぁ、しっぽり絞られたのは言うまでもなかった。
「理不尽だ〜‼︎」
いつも読んでくださってありがとうございます。
今回は早めにできたっていうか、区切りがつけられた回だったので早めに出来ました。
いつも迷惑ばかりで申し訳ないですが、何卒よろしくお願いします!
小椋鉄平