二つの陰謀、叶わぬ想い
豆知識。
微精霊は知覚は可能だが、あまりにも小さ過ぎるので視覚的には捉えられない。
だけど、見えないのは微精霊が自身に降り注ぐ光をそのまま透過するからである。
だからこそ、微精霊を見るためには光を反射させてやればいい。その色はその領域にいる微精霊の数と密度によって様々な色に変わる。
基本的には赤、青、黄、緑に分かれるが、時たま赤と青を混ぜ合わせたもの、つまり紫になったりもする。
そんなことを習ったのを覚えている。
頑張って覚えた事が活かされたところで再び、この現象について考察する。
俺の眼の前に広がる黄色の微精霊についてだ。
まず、間違いなく魔法が行使されていることは確実だ。でも、俺は出していない。
俺は警戒を強める。
「ここから…仕掛けてくるかもしれない……!」
俺は咄嗟に避ける。
「これが、魔法弾」
魔法弾。
魔法エネルギーから物理的エネルギーに変換して相手に打ち出す基本的魔法。
言ってみれば、拳銃の弾のかなり弱くした版だと思っていいと思う。
「うっ、……え?」
誤って、弾を受けてしまったが、全然痛くないしまるでBB弾に当てられた、くらいの痛みしかない。
「いで、痛てててててててて…」
まるで、リンチされてるようだが、BB弾ほどの痛みしかないので、連射されても死ぬようなことはない。
ただ……。
「避けられねぇ……」
とにかく速く、生きている様に曲がったりと方向転換されるので、全く回避できない。
「鬱陶しいぞ!」
無数の弾が悠人へと向かうギリギリで一閃する。
「ふぅ……それにしても魔法弾はどこから……?」
魔法弾は術者が作り出すものだし、ましてや付術化する意味がわからない。俺を消したいのであれば、もっと凶悪な毒でも仕掛けておけば一瞬だと思うが……。
「弱ぇな俺」
そんなこと考えられる俺が惨めだった。自分でさえ、毒一つでやられると判断するくらいなのだから。
ますます、肩を落としながらとぼとぼとまだ見ていないところを歩く。
「クソッ、嫌な感じしか浮かばねぇ」
アイナはミルを振り切り、再び高速で館の方へ向かう。
最近は誰も近寄らない廃墟になっていた館だ。我々の部隊もあの場所は学園の狂気になる可能性を踏まえて警戒させていた。
部隊の報告では何も無かったとあったが、何せ不気味さだけは抜きんいでて放っていたので気にはなっていたが…。
ハルが悠人を英雄だと思ってるらしいが、到底信用する事など出来ない。ユージェスはここの世界大戦を力を持って収束させた人物、とはいえヒトだ。100年も生きる事など出来ないし、ましてや若返りなんてできるわけが無い。そんな魔法はあってはならないし、できるわけが無い!
館に着き、壊す勢いで門を突き破り、大きな扉を開ける。
「待っていたよ。阻害者」
「ほう、私をそう呼ぶとは。随分裏の世界に詳しいんだな不遇の精霊」
「その呼び名は好きじゃ無いな。もう違うのだから」
「そんなわけ無い。あいつはユージェスじゃない。分かるだろ? 良い加減気づけよ」
ハルの霊視はミルと戦いながら確認していた。悠人になぜか、致命的な一打を加えないのも見ていた。
「さすがは上級魔法師だね。僕くらいの精霊なら知覚は朝飯程度ってわけか」
「ああ、だからもう止めろ。さっきも言ったが、分かってるはずだ。お前がうちの厚生荘に空間転移しているのは確認している。おそらく、悠人を見に行ってたんじゃ無いか? まぁ、あの時には悠人はいなかったけどな」
「ますます、頭が上がらないな。でも、それでいて僕が襲う事は想定できなかった訳?」
「それは私も腑に落ちない。お前は単独犯だろ?」
「?」
ハルも当たり前だと言った意思表示を示した。
「なんでこう、何も起きないんだ?」
三たび首をかしげる。本当にこの状況に解せないといった感じだった。
「そろそろ、帰ろうかな?」
俺は完全に失念していた。なぜ、ここを捜索する必要があるんだ? 別に会わなければ俺の身の安全は保障されるじゃないか!
そう思い帰る事にする。
「あっ、先生……動くなって言ってたよな…」
さらに、帰る方向もわからない事に気づく。
「!」
後ろから、音が聞こえて振り向く。
「こいつが目標か?」
「おまえたちは?」
「…ふん」
鼻で笑われた。
「なんだか知らんがよくない事は確かみたいだ」
突然、切りかけられる。
嘘だろ⁉︎ 今どこから刃物を?
落ち落ち考えている暇を与えずに一閃が振るわられる。
一人でこのザマだ、これがあと二人増えたら死ぬだけじゃあ済まないかも知れない。
俺は回避だけをするのを止め、受けに徹する。
間髪いれずに次々と剣尖が飛び交う。さらには、避けきれないものを防ぐ為に時折金属音も聞こえてきた。
「そろそろ遊びは終わりにしょうや」
さっきまで座っていた男のうち一人がそう話しかける。その顔はまさに豚だったが、目をみればかなりの手練れだと分かる。
というか、こいつが放っている? わざと。
なんだ? この身体が動けないくらいの威圧感からくる恐怖感は⁉︎
「そうだな。作戦もバッチリだったみたいだからな」
俺は動けなかった。
奴の放つオーラが俺の脚を竦ませる。
奴らが近づく。ゆっくりと。
なのに逃げられない。まるで、脚が地面に縫い付けられたような感覚。
俺は身体を反る事しかできない。
奴らはニヤニヤ笑っている。まるで、獲物を狩れたときの幸せに浸っている様な。
そして、ゆっくりと俺の方へ近づく。一歩ずつ。
「ひ……」
奴らが近づくたび、足がガクガク震える。
くそっ!身体が…どうして?
とうとう、尻餅をついてしまう。
「終わりだ。クソガキ。強いって訊いてたが、まさかこんなドヘボだったとは、とんだ拍子抜けだな」
先ほどの短剣を長さに似合わず振りかぶり…振り下ろす。
俺は咄嗟に目を瞑る。
もう、抗う術はない。
その時の心境は、
「やっぱり……俺には…ダメだったんだ……」
だった。
「うっ⁉︎」
奴らの後ろの一人が倒れる。
「くそっ…誰だ?」
「誰に向かって言ってるのかな? 君たちは。ここは僕の住まいなんだけど」
そこに姿を見せたのは、ハルだった。
なぜそんなところにハルが⁉︎ という事は口に出す暇はない。
「この⁉︎」
やきになったもう一人が切り掛かる。
「うわっ⁉︎」
ハルは立ったままなのに倒された。倒したのは……。
「先生!」
「よう、悪かったな。少し遅れた」
颯爽と現れたアイナ先生だった。
俺の目からは今、来てくれた事に先生が、眩しくそして、女性でありながらかっこいいと思ってしまった。
「悪いが、私が来た目的は教え子を守ることでな。そっちには構ってやれん」
「構わないよ」
あとは俺を逃さないようにしているやつ一人になったが、当然することは…。
「こ、こいつがどうかなったらやばいんだろ? 取引しよう」
やつは俺の方に刃物を向け、脅迫にも似た交渉に持ち込む。
だが、一方、アイナとハルは特に表情を変えていない。
何か策があるのだろうか?
「ねぇ、戦っている人が誰かわかっての発言だよね?僕がどんな能力を使うか知ってるの? それで言ってるならとんだ笑ものだよ」
ハルはどうやら策があるのだろう。
「悠人はお前に任せるよ。言っとくが、監視は継続してるからな」
「分かっていますよ。では、お借りします」
「うお⁉︎」
俺はまるで、ブラックホールのような丸い球体の中に吸い込まれる。
「なに⁉︎」
俺しか吸い込まれなかったことから、どうやら選択性があるようだ。
「では先生、あとはしっかりやってくださいね」
「言われなくてもやるよ」
ハルは笑顔を見せて、自らも異空間に消えた。
「さぁ、これで一対一だな」
「くっ!」
ヤツは睨みつけるようにアイナを見る。
「私も、残りの魔力が少ない。もう少し楽しみたいところだったが、悪いと思ってるよ」
言葉からしても力の差は歴然、といった感じだった。
アイナの放つオーラは豚のようなヤツとは比べものにならない。
「舐めるのもいい加減にしろよ!」
怒ったヤツが短剣を片手に襲いかかる。
「豚の分際で調子にのるなよ?」
アイナは蔑んだ目で一瞬の速さでヤツの鼻の前に剣先を突き立てる。
これにはブタも凍りつくしかなかった。
「今の私は立場上殺せないが、教え子の命令とあらば殺るのも厭わない。でも、お前らにも情けをかけてやったつもりなのだがな」
刹那、アイナの突き立てた剣が光を放つ。
その光は分裂してブタの周りに広がる。
「ライトランス!」
その光がブタを貫く。
「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
返り血を魔法で吹き飛ばし、元のシャキッとしたスーツ姿に戻る。
「ふっ、もっとブタはブタらしく鳴いてくれ」
そう言い残し、去っていった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
なんとかね、更新してるって感じです。
楽しく、やりたいので読んでもらってる人にも楽しんで欲しいし、自分も楽しく書きたいので更新は勘弁してください。
最近はプロットする以外にも誘惑があったというのもあるんですけどね。
まだ、アマなので許して欲しいって感じです。
では。
(本格的にこの小説の終着点が見えなくなってきた)
小椋鉄平