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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
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25/97

確証なき壁、届かぬ想い

「んん!」


一瞬の眩い光に包まれた後、本来いるはずの無い場所に立っていた。


周りを覆い尽くす木々の山々。それは幻想的な雰囲気を醸し出すと共に、飛ばされたこともあって不気味に感じる場所だった。


木々が生い茂っている為、光が差しているところはほとんど無く、それが一層の心配を募らせる。


「だけど……」


俺は色々な飛ばされる主人公? 的な映像を見たことがある(前の世界で)が、大体は飛ばされたとこに黒幕が居てくれていると言っちゃ親切すぎるが、まぁ、そんなとこだと感じて先生に言われた通りに抜刀しているわけだけど……。


悠人はくるりと見渡してみる。


まるで、ホロスコープのなかをずっと見させられているような感じがした。

周りが、木、木、木では仕方ないのかもしれない。


取り敢えず、最初に前を向いていた方へ歩く。


自分でも、なんとなくだが、どこへ進めばいいか全くわからないので端の方へ進んでいることを願って進む。


持っている長剣を今回ばかりは農具代わりにして木々を切り倒して真っ直ぐとにかく進む。



【アイナ】


とにかく急いでいた。

誰も使わないような門をくぐり、森へ入る。


「チッ」


と舌打ちをしながら、有象無象の魔獣を一撃でなぎ倒していく。それはまるでどっちが悪か分からないほどにアイナは無差別に進行を阻む者を倒していった。


スピードは落とさない。


ここはただの森では無いことはアイナも重々承知している。でなければここに誰も近寄らないわけが無い。


唯一、ヤツだけを除いては…。


間に合え!


アイナは走る。目にも止まらないスピードで。



一方。


「なんだ? あれは」


森を抜けたと思った悠人だったが、どうやらこの森よりも奇妙なところにたどり着いたようだ。


「なんか、雰囲気ある館だな」


そう、森の真ん中と言った方がいいかくり抜かれたような広い平原に館が建っていた。


「ここにいるのかな? 俺を転移させたヒトは」


だったら、最初からここに連れてこいとか、思ったが、口には出ず代わりに怒りが湧いてきた。


俺は重苦しい鉄格子の門を長剣で一凪して中に入る。


中庭はまるで手入れされていない様子だ。それは当然だろう。


明らかに無人っぽいもんな……。


玄関であろうか、大きなドアに着く。

ノブの部分が丸いやつでは無く、縦に伸びたただの押したり引いたりできるやつになっていた。


悠人は迷わずそれを引く。


「開いちゃったよ」


普通ならここで不用心だぞとか言うところだろうが、どう見ても空き家っぽい雰囲気が漂ってるこの屋敷では到底そんな言葉は思いつきもしない。


「ええと…」


なぜか、気はずかしいがそうも言ってられないので意を決し、息を吸って、


「誰かいませんかー!」


と大声で呼んでみる。


「……」


しかし、何も返ってこない。


「仕方ない。少し散策するか」


と、クモの巣を剣で割きながら馬鹿デカい部屋を一室ずつ回る事にした。



「‼︎」


アイナは急に立ち止まった。

あれだけの猛スピードで走ったので疲れたからでは無い。


「お久しぶりです。アイナさん」

「やはりお前か…ハル。いや、かつてあの偉大なユージェスという名の英雄に仕えていた精霊のハービルとでも言えばいいかな?」

「よく私の事をご存知で」

「それは肯定だと受け取って良いのかな? フン、であればその口調も解いて良いんじゃ無いか?」

「そうですね。ただ、肯定とも言えますし、また違うとも言えます。ですから…」

「もういい、お前の正体ばかしに来たんじゃあ無いんだ。そこを通してもらえるかな」


アイナが一歩を踏み出すが、ハルがそこに立ち塞がる。


「ごめんなさい。それば出来ないんです」


淡々と話し、かつアイナに怯える感じも受けられないのでやり方に困った。


「理由は…訊かせて貰えるのか? それと、悠人の安全は?」

「はい、お話し出来ます。これを聞いて貰えば納得されると思います。ですが、悠人さんという方の安否までは分かりません」

「どういう事だ?」

「これも今から話せば納得頂けるかと」

「…分かった」


というと、ハルはお辞儀をしてから話を切り出した。


「ではまず自己紹介から。私はハルの中にいる別人格ミルです」

「当然だな。いつものハルならもっと論理的って感じに話すからな」


と言うと、ミルは「がっかりです」と言った。


「…早くしてくれ」


アイナの焦りは消えない。こんな空気感でも一定の気はしておく。


「ハルが言うんです。彼、相馬悠人さんは私達のマスターのお方だと」

「それはいくらハルでもとんだ勘違いだな。お前には話すがあいつはここの世界のヒトじゃない。私も含めてだが」

「ええ、それはハル自身も分かってるはず。というか、あなたはうまく隠せてますけど悠人さんは隠せてませんよ。全く」


それはごもっともなことだった。私は常時一定の魔力を放出、循環を“意図的”に行ってる。

そうでもしないと魔法を自在に操れるものにとってはただのヒトに見られ差別されてしまうからだ。

であれば、なぜ悠人は差別されずに日々を過ごせているか?

それは一つにこの国にいる事が大きな理由になる。前にも言ったかもしれないが、法律上では差別はない、ということになってるからだ。しかし、それでは暴力による差別はないにしろ、言葉の暴力での差別なら十分にあり得るのにも関わらず彼にはそれがない。


そこで考えられる可能性の二つ目。


それは、悠人が莫大な魔力の持ち主だという先入観だろう。最初に彼が闘った時の彼から湧き上がる魔力の量は上位クラスよりも上をいく量だろう。その莫大な魔力に周りが怖じ気付いているというのが最大の理由であろう。


他にもいくらでも理由は述べられるがな。


「でも、ヤツは増幅器ブースターさえあれば、かの英雄に匹敵する魔力量は軽く持ってるがな」

「ええ、そこが引っかかったところです。そこだけが私達のマスターと被るところなんですよ。それで、私はたったそれだけの共通点ではマスターだとは判断出来ないと言ったのですが…」

「ハルは違ったんだな」


ミルはアイナの言葉に頷く。


「それで試すと切り出したんです。悠人さんがかの英雄にして私達のマスター“ユージェス”かどうか」

「それで、悠人がどうなるか分からないという答えなわけか」


ユージェスは大陸全土の争いを止めた英雄だとコッチではかたられているが、それはこちらに有利に彼が働いてくれたからであって、他の国からしてみればとんだ悪党の異名でさえも持つ。

裏ではヒト精霊計画を潰した張本人だと今でも殺し屋が彼を探し回っているとか。ユージェスに関しては分からないし、かつ良くない噂ばかり目立つ。


「それでその“試し”が終わるまで手を出すな。そういうことだな」

「ええ」


ミルはアイナの睨みつける視線に全く動じない。


しばらく二人で睨みある形になる。


「教え子に手を出すって言われてんのにわざわざはいそうですかって引き下がる教師がいるかよ!」


アイナは拳でミルを殴りにかかる。もちろん魔法付きのを。


「バッハーモーテラル!」


ミルはアイナの拳を手の平で受け止められた。


アイナの拳はミルの手の平で包まれている。


「はぁっ!」


アイナはすぐに剣を抜き、一太刀する。


「ん」


アイナの頭から振り下ろされた剣は易々とミルに取られてしまった。片手で。


「それがお前の能力か?」

「ええ、バッハーモーテラルはいわば反作用です。自分の周辺にある空間ならどこでも置くことが出来ます」

「だが、それではいつまでたっても私を打ち負かすことはできない!」


再び、アイナの頭から一太刀を受け止める。

今度は種明かししたためか、手すら出していない。


そのためアイナの剣ははたから見れば寸止めだった。


「だからこそ私なんですよ。要は時間が稼げられればそれで良いんです」

「ある意味、劣勢という訳か」


アイナは苦虫を噛み潰した気になった。


「……うーん」


悠人はもういくつぐらい回ったかわからないくらいの部屋を回って、扉を閉めて廊下に出でいた。


「なんか、よく分からないな」


異世界召喚っぽい転移の仕方だったからてっきり敵か味方か分からないようなヒトがいても可笑しくない、というかそうじゃない事がとてもおかしい。


この状況に首を傾げる。


ここに立ち尽くしても埒があかないので、最初のエントランスに戻ることにした。


「なぜ…なぜ気づかない」


ハルは正直焦りつつ、苛立っていた。

それなのはもちろん、悠人が自分の思った通りに動いてないからだが。


「この館は私を見つけてくださった場所だというのに何故なんだ⁉︎」


……100年前。


一人の男が現れた。

それは、男とは到底言えないまだ未熟な少年だった。


ここは霊界の館。と、呼ばれているらしい。


「また噂を信じてフラフラ来たのだろうか?」


いつもの準備に取り掛かる。


そう、物を動かすとか、ドアを急に閉めるとか、色々だ。

だが、それは誰かに気づいて欲しいという裏返しの心でもあった。


私は何者だろうか?何のためにここにいるのだろうか?


生まれた瞬間から一人でかつここには私を見てくれるヒトは居なかった。


だから現れて欲しかった。私を見つけてくれるヒトを。


「キミも幽霊の話を聞いて来たの?」


不意に声を掛けられる。


これは私に話しかけてるのだろうか? いや、私以外のヒトが他にいてそのヒトに話しかけているのだろうか?


不意に拡大した想像が頭をめぐらせていたが、少年は確実に私の方を真っ直ぐ、純粋な瞳で見つめる。


その視線に妙な暖かさを感じた。


「あなたは私が見えるの?」

「見えてるよ。何言ってるの? 大丈夫?」


少年はずいっと彼女の顔を覗き込む。


「な、何でもないの! 気にしないで」

「そう…」


と言って、引き下がってくれたもののまだ心配している表情を浮かべたままだった。


私はとっさに大丈夫だからと諭し、ようやく分かってくれたが、私はその行為にさえ胸がときめいているような感じもあり、嬉しくなった。


まず、私を見つけてくれた事もそうだけどそんな私を心配してくれる。意味もなく。


それが私の胸の中を満たしていた。嬉しい。


「じゃあ、僕と一緒にここを回ってくれない? あいにく、怖いのは苦手なんだ」

「うん‼︎」


私はその時、満面の今までした事もなかったような笑顔を見せられたと思う。


「じゃあ行こう」


少年が手を差し出す。

私はその手を躊躇なく握り、歩き出す。


私の唯一の友達!


そう思った。




月日は過ぎていった。


彼はまだ容姿は幼い容姿であったが、魔法量が多い事が良かったのか悪かったのかともかく大きな存在となっていた。


その時には私が人間から造られた人工精霊だということを知った。


人工精霊だとしても私は特に何かを憎むという感情は抱かなかった。なぜならば。


「ハル、悪いけどまた力を貸してくれるかい?」


少年が私に話しかける。


「今度はどこへ行くの?」

「やっと、君たちがつくられている工場らしきものを見つけた。そこを破壊して、君たちのようなヒトを解放する」


その時の彼の目は鮮明に覚えている。そう、決意の目だ。それだけは何が何でも成功させるという目だ。


恐らく、彼は私達のためなら悪になる事もいとわない。そういう決意だ。


彼は魔法が使える。私たちとは違う存在。


なのにも関わらず、私に力を貸してくれる。支えてくれる。それだけで私は満たされた。


「じゃあ、行きましょう」


それが、あんな結果になるとは思っていなかった。


「逃げろ‼︎ ハル!」


少年が声変わりしていない高い声で叫ぶ。


そこは、戦場よりも悲惨な場所だった。巨大な竜が彼の前に立ち塞がっている。


彼は私を逃がすために通路を塞ぐ。


徐々に見えなくなる景色。彼が私の方を振り向き、笑ったのを覚えている。


それから、何百年過ぎただろうか。私には分からない。


あの後に妹と名乗る同胞に巡り会えたが、彼はそこにはなく、遺体すら見当たらなかった。


それから、約100年。魔法師の寿命はもう潰えている頃だ。彼と会った頃が幼少の頃とはいえ、もう生きているかどうかすら危うい年月が過ぎてしまった。


その時だ。彼と会ったのは。


私は彼を探すために魔法学校を転々として、彼の記録などを探して回っていた。


その時は知らなかったが、彼は英雄として語られている事が分かったが、それが、彼はもうここにはいないことを象徴しているようで気に入らなかった。


(彼はまだここに居るんだ!)


そう心に誓い、図書館で文献を探していた時。

ざわざわと騒がしくなった。


カレンが見えたので、(またなのか…)と思って本に目を落とそうとすると。


「それにしても、どうしてこうなったの?………」


「‼︎」


私はその声に驚きを隠せなかった。


その声はまさしく、彼の声だったからだ。


ユージェス‼︎


「勉強にも質が大事、適当に………」


突然の出来事に混乱と嬉しさと感動、もっと沢山の感情が渦巻いていて、すぐに彼の元へ行けない。


足が震える。百年ぶりの再会に今まで感じた事のない緊張をする。


でも。踏み出さなきゃ。


意を決し、歩み寄る。


「みんな君に興味があるんだよ。……」


その時、落胆を覚えたのは知っている。悲しくて、魔法で逃げてしまった事も。


泣いた。彼が覚えていない事に。


それでも彼を振り向かせる。絶対に。


そう決意した日でもあった。


そして今、彼。悠人がここに居る。ユージェスという名は偽名だと聞かされていたから名前ははっきり言って信用してなかった。私の勘が彼がそうだと告げている。それだけで証明になる。


「もうそろそろかな」


私は気づいてもらうべく、新たな行動を起こすために動き出す。




「くッ……」


何回防がれたのだろうか、何度振っても、彼女の周りで止まる。それはまるで同じ力で押し返されているみたいだ。


「もう、あきらめませんか? 別にあなたをどうこうするつもりはありませんよ? ただ、何もしないでくれれば良いのです」

「何がだ。教え子が危ないんだ絶対に通らせて貰う」


また、剣がミルの前に振り下ろされる。


「何度しても同じにしかなりません」


ミルは防御体制も取らず、ただ立っている。それだけなのに剣はミルにまで届かない。


まるでその場で剣が金縛りにあったようにピタリと動かない。


「なぁ、さっきこの現象は反作用って言ったよな?」

「ええ、確かにそう言いましたけど……」


ミルは首をかしげる一方で不敵に笑うアイナ。


何か思いついたのでしょうか?


ミルにはこの状況を打開できるような策をアイナが、いや、たとえアイナでなくても私のスキルを攻略出来るわけがない。


「至ってシンプルだ。なぁ、悠人君よ!」


再び、アイナは剣を振る。頭から下に向けて振り下ろす。


「はぁああっ!」

「ですから!」効かないと、と言い掛けてミルは目を見開く。


ミルの身体に肩から走る亀裂。


「うっ!」堪らず、膝を地につける。


「これも悠人君のお陰だよ。まぁ、私の方が工夫はいるけどな」


「なぜ?」


「ベクトル変換だよ」


「‼︎」


「ああ、お前のを。だけどな。まさかこんなとこであいつの知恵が役に立つなんて思いもしなかったよ」


まぁ、咄嗟で使える私も結構可笑しいけどな。

自嘲気味に笑う。


まだ、ミルは地面に突っ伏している。


精霊は基本的には死なない。ましてや、人間が放つ物理攻撃で死んだとしたら、微精霊はほとんど生きていられないだろう。


だけど、こういう大きな精霊、見た目も能力も大きくなった精霊は力を失う事がある。

これは人間で言うところの痛みに当たる。それを補うのに時間がかかるのだ。


だから、ミルは動けないんだろう。


「……悪いな」


アイナは一言だけ言って先へ進む。ミルの横を通ろうとした時。


(ハルを……頼みます……)


頭の中に流れるイメージ。


「ああ! それだけは約束する」


走り去っていくアイナを見送るミル。


「私では拭えなかったハルの痛み……申し訳ございません。…ユージェス様。私は本当の意味で妹になれなかったみたいです…」


涙を流し、空を見つめる。今、どこにいるかもわからない英雄を思って。





























いつもようでもらってる方、ありがとうございます!


お待たせいたしました。


予想外にもうちの大学がスケジュールを裏切ってくれたお陰で全く進んでなかったのがやっと出せそうです。


これからもご迷惑をお掛けしますがどうぞよろしくお願いします!

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