予想し得ない出来事、w
俺がまたもや地雷を踏んでから数日間はとてつも無く恥ずい日が続きながらも試験勉強をするといういっそ死んでしまいたいと思う様な日々が続いた。
まぁ、気にしない事にする。
さっきの過去形は偽りの無い過去形だ。
そう、今日はテレパシーが起きてないのだ。
これは両手拳を上げて喜びたいぐらいの幸福感だ。実際にやったし。
試しにしたのはアーニャだけであったが、大丈夫だと確信している。
世の中、ポジティブに生きていかないと心が持たないぜ!
これが、高校まで生きてきた中で得た考えだ。
つまり、言いたかったのはまだまだ経験不足だということだろう。たった16年間で得たものなど通用しない所にいるのだからまだまだ様々な考え方の変化は当然あるだろう。
あーやめ止め!
俺は首を横に振り、頭の中を一瞬リセットする。
なんでこんなこと考えてるかというと、今日がテストの日だからだ。さすがに当日になると少なからず俺にも緊張感が芽生えた。
何やってんだろ?
テストと言われると不意に考え込んでしまう。
どうして違う世界にまで来て勉強やらされなきゃならないんだ。とか、救世主なんか呼ばれてるぐらいなんだからもっとこの世界の事が手っ取り早く分かってしまう俺専用のアイテムがあってもよくね?
とか、思う。
やはり、世界が変わっても本質は変わらない…って事なんだろうか?
自分がヒトとして生きていくためにはただ、本能のままにでは無く、知恵が必要だった。
逆に言えば、その知恵、知能と言ってもいい。つまり考える事を身につけたからこそ
今日の世界で人間が生きられるように、こっちの世界でもそのことは変わらないという事なのだろう。
「ああ、着いてしまった」
考え込むと時間が早く感じる。時間だけでは無い。何かに集中すればと言った方が良いだろう。
「良いんですよ。大丈夫ですよ。ファイト、です」
「ああ、そうだな」
その時は気付かなかった…。
アーニャの親切に。
アイナは今日の試験用紙を手にしたまま裏校門へ向かう。
ここからは大自然の森に繋がるので、誰も近寄らない。
アイナがそこに着くと隅の壁にもたれかかった。
「首尾はどうだ?」
「今のところ、そのような様子は無いっすね」
「そうか。ご苦労だった。あとは私がやって置く」
「分かりました」
と、マントの者が姿を消す。
アイナはフゥッと行き着いた後、教室へ向かう。
「何も起きないと良いのだがな」
空にはグレー色に染まった雲が太陽の日差しを覆い隠して、どこか物足りない空気感を漂わせていた。
「よっと」
悠人は教室に入り、カバンを自分の机に置くときにわざとらしく声を出した。
この空気感が気に入らなかったからだ。自分以外誰もいない教室。それだけに余計教室が広く、かつ今までこの教室でたった一人だということがなかったことによる孤独感。
「そういえば、この感覚は久しぶりだな」
誰もいないことを良いことに独り言をする。この世界に来るまではこんな事が結構あった。だが、それで少しも寂しいなんて感じた事がなかった。なんとも思ってなかった。逆に嬉しいとさえ思っていたかも知れない。
「だけど、たまには良いのかも知れないな」
この自分の胸の中にあるこの気持ちを逆に喜ばしいと思えた。それだけ、今の生活が好きなのだ。
そういうふうに思えた。
悠人は窓を開け、まだ日が昇りきってない空を見る。
不意にスゥ〜っと流れ込む風。それは強くも無く弱くもないというよりも優しい気持ちになれる風に思えた。
「さぁ、頑張りますか」
手で軽く自分の頬を叩くと、自分の席に戻り最後の確認を始めた。
「よし、ちゃんと来てるな。怯えて出てこないかと思ったわ」
先生は笑ってる。
「いや、来るでしょ普通。なんで怯えなきゃいけないんですか⁉︎」
「ん? 聞いてないのか? 私がテストを作るって言ったら……ってその顔は聞いてない顔だな」
「……そうですね」
「よしよし、では教えてやろう。私のテストで合格点を取れなかった奴はいない」
「だったら、なんで怯えなきゃいけないんですか?」
「それはだな…」
アイナは悠人一人だけをテストするには多すぎる紙の束を教卓に置く。
「……合格するまでやってもらうからだ」
「……」
「なんだその顔は、なんか反応が普通だな」
「いや、だってそうでしょう? 俺はその方がものすごく有り難いんですけど」
「え……」
「多分そんなことで怯える奴って全く勉強してない奴らだけですよね?」
「え? え? えええええーーーーーーー⁉︎」
アイナが大声で驚く。
いや、当たり前じゃん。むしろ有り難いよねそれ。てか、それで恐怖とかありえないでしょ。
って、言いたいのを止める。
「マジか……」
アイナは割とマジでがっくりしている。
「まっ、いいや、もう一回一年やらせんのもめんどいし」
「いいのかよ!」
そこは、もうちょっと悪さをしてくるかと思っていた。
「じゃあやるぞー」
アイナは紙を渡す。
ドン!
その山盛りに積まれた紙を見て俺は「え?」と言わずにはいられなかった。
「これ…は?」
「なんだよ。テスト用紙だが?」
は? いやいや、ありえないでしょ? こんなに?
もうテストじゃないよね?ね?
「もったいないから全部やれ」
「はぁ⁉︎ 無理に決まってんでしょ?」
「大丈夫。ちゃんと進級させてやるから、な?」
「……でも、今までの努力は何なんですかってことにもなりません?」
俺が思うに、アイナ先生は何か焦っている感じがした。
「今後、役に立つから全然問題ないぞ!」
アイナは胸を張って言う。
だが、悠人はそんな知識知らなくても、学園で15位にいるやつを知っている。
まぁ、俺が魔研に入ることがあれば使うかもな。
「分かりました。ただし、こんなには無理です」
「ううむ…ではその半分ではどうだ?」
「ではそれで」
アイナは山盛りの紙の束を半分にする。
悠人は早速、テストという名の作業に取り掛かった。
ったく、何でこんなことに……俺の緊張を返せよな。
などど思いながらやっているのをアイナは教卓から見下ろしている。それはまるで監視しているとも言っていい感じだ。
幸いなことは相馬がこの提案に乗ってくれたことだろう。
悪いな。我慢してくれ。
そう、あれは嘘だ。私に怯える生徒などつくってたまるか。
私の信念は教え子を苦しませ喜ぶ事じゃない。そんな事してる教師はクズだと思ってる。
だからって言って、私が教えるからには手抜きはしない。
胸を張って私の元を去ってもらう。絶対に。
視線を悠人へ向けながら、常に周りに警戒した。
「うわっ! 何だこれ⁉︎ 」
「どうした! ‼︎」
俺の右手が消えていく。まるで幽霊がだんだんと薄まって消えていくそんな感じだ。
「くそう!」
アイナは教卓を叩く。
まさか、相馬自身に魔術を掛けるとは……だとすると犯人は確実に相馬が人間だと知っていて、かつ、大規模な移動魔法が使える者……。
「おい、おいおい……俺はこんな死に方をするのか? まさか、世界の秩序を元に戻そうとして俺を消そうとしてる⁉︎」
俺は慌てふためく。
「おい相馬! ちょっと落ち着けこの魔法は体が消える魔法じゃ無くて、転移魔法だ」
「じゃ、じゃあ俺はどこに?」
と言っている間にも、悠人の身体はみるみる消えていく。
「相馬、一つ訊きたいんだが、お前はハルに会ってるか?」
「ええ、会いました」
「だとすると、恐らくハルがやった可能性がある。これはただの転移魔法だが、転移してからどうなるかわからん。一応、抜刀しておけ」
俺はポケットのキーホルダーを取り出し、握る。
右手に光が差し、細くて長い長剣が姿を見せる。
「あと時々でいいから、増幅器に触ってくれ、お前の魔力を感知できれば場所を特定できる」
俺は地震が来た後の不安と恐怖と興奮が入り混じったような気持ち悪い感情が芽生えていた。
「それだけ守れば、必ず迎えに行く。いいな!」
と、俺の身体は教室から消えていった。
アイナは目を瞑る。
(探索)
そう、頭の中で唱えた瞬間、目にも留まらぬ速さで、アイナも教室から消えていった。
何とか、出来ました。
いつも、読んでいただきありがとうございます。
危なかったです。もう少し遅ければ、ごめんなさいツイートしようかと思ってました。
良かったです。
では。
眠すぎる。 小椋鉄平