アーニャの能力
アーニャはこれで何とか助かった…ようだ。いや、普通は苦しそうにしているアーニャに魔力を注ぐのが普通だと思うが…なぜか、腑に落ちない俺がいた。
「それで、今回はただの魔力供給だったわけだが…本来ならどんな魔法が使えるんだ?」
俺が聞くと、アーニャはキョトンとして「え?」と言ってくるので、もう一回同じ質問をする。
「いえいえ、ちゃんとは聞こえていますよ」
「何だよ。じゃあどういう事だよ?」
「さっき見せたじゃありませんか〜」
「………マジで、言ってんの?」
「マジのマジですよ、こっちは〜えへへ」
俺はアーニャの頭にチョップする。アーニャは痛そうにしながら、「何するんですか〜」と抗議の声を漏らす。
「何だよ…お前…全然使えねぇじゃん」
素直に声が出てしまう。だが、本当なら(助けた意味ねぇじゃん)も付け加えて言いたいところだった。
「え〜使えると思うんですけどねぇ〜。あっ、まだ私の姿しか見てないからですね〜」
と、アーニャだけ勝手に納得して、片手を握り、もう片方の手を開いて、ポンっと開いた手に握った手を軽く叩いていた。
「だから、お前だけ勝手に納得するなよ」
そう言うと、「えへへ〜早とちりが過ぎました」と、アーニャが舌を出して、おどけて見せて、
「では、外にでも出ましょうか」
と言って、スタスタと外へ出て行く。
「お、おいちょっと待てよ!」
と言いながら、慌てて外へ出る。が………
「あ」
とアーニャと一緒にそこにいたのは…
「ローレラ⁉︎ あ、いや、こ、これはだな…」
ローレラは一瞬こそ驚いていたものの瞬く間に冷静さを取り戻して、俺を蔑んだ目で見る。
「ねぇ、このヒトは? 見た事ないんだけど…」
「こ、こいつは……えっと…」
俺は咄嗟に言い訳が思いつかなかった。
(この状況で、『実は俺の契約精霊なんです!』なんて言えねー。絶対信じてくれないだろ! いや、待てよ…嘘をつく必要性はここではないだろう。だったら……)
俺は意を決して、ローレラと向き合う。
「こいつは、俺の精霊なんだ」と、真顔で真剣な事を表現する。
「でも、ヒト型の精霊なんて…聞いた事ないわ」
ローレラはアーニャの顔をまじまじと見ながらそう呟く。
「信じれないかもしれないけど、本当なんだよ!」
俺は必死に訴える。
(ここは、これで押し通すしかない…!)
そう思っていたが、ローレラが何か気づいたような表情をしていた。
「まさか……あなたが……?」
「ええ、私がそうですよ。ふふふ」
何やら2人だけで会話が成り立ってるが、俺には訳分からない。
今度は俺が質問する側に変わる。
「なぁどういう事だよ?」
『なんでもないわ(でーす)』
2人にそう言われてそれ以上踏み込めなかった。
結局、ローレラも見たいと言って、ついてくる事になった。
そして、俺たちは寮のすぐ側の空き地に来ていた。
寮の周りは田んぼだらけになっており、そういったもので、食のやり取りをしているらしい。
そのところでも、唯一、何もされていない空き地のようのものがあった。
「それで、何をするんだ?」
「そんな焦らないで下さい。もうすぐですから」
俺はそれ以上は何も言わない。
「では、私と距離を取ってください」
俺はアーニャと向き合う形にして立つ。
「では、戦いましょう」
「は!?」
俺はポカンとしてしまう。当然だと思う。さっき、アーニャが見せた魔法はただ実体化しただけだった。
「し、知らねぇぞ」
と、断ってから、ポケットからキーホルダーを取り出して、剣を出現させる。
「では、いきます! 悠人、私を使ってください」
「どうやってやるんだ?」
「私に魔力を注いでください」
今度はさっきのような方法ではなく、念じるようにする。
「え、こんなに…? でも、これさえあれば完璧に………すぅー、能力発動!」
アーニャの周りに水色の淡い光が輝いている。
「学習、過去データと照合……一致。出力へ移行」
「………」
俺は黙って見ているしかなかった。
すると、終わったのか俺の方にアーニャが向き直る。
「終わったのか?」
「ええ、行きますよ。構えてないと死ぬかもですよ、てへっ」
ローレラは俺たちの会話を外から見てた。よく見るとローレラは目を見開いていた。よほど驚きなのか。
「創造!」
アーニャが入った途端に俺の足元の地面が盛り上がる。
「うおっ!?」
咄嗟にその場から離れる。
「まだまだですよ」
今度は炎の玉が俺に向かって放たれる。
「くっ……!」
俺は横に流れて躱すが、間髪入れないでくる炎の塊に避けきれず、最後だけは剣を振る。
「甘いですよ。こっちが本命です。てやぁっ!」
「嘘だろっ!」
その顔からは全く想像できない動きに驚くが、
「はあっ!」
アイナ先生との戦いで編み出した高速の逆切りで、アーニャの剣に当てる。
ここが、地面だったせいか、土煙が上がる。
「速すぎて、見えない」
ローレラは土煙に目を手で遮りながら、悠人たちを探すために首を振る。
俺はアーニャの剣と鍔迫り合いになっている。だが、俺は押し返そうと真剣になる顔ではなく、とても信じられないといった顔をしている。
「くすっ、わかります?」
「俺と……同じ剣? 2つあるのかこの剣は?」
「まだ、分かりませんよね〜じゃあ、次行きますよ」
アーニャは不意に鍔迫り合いにした剣を外し、土けむりの中に消える。
「はぁっ!」
俺は高速の回転凪ぎで自分の周りの土煙を払う。土煙を払って視界が晴れた俺の目に飛び込んできたのは…。
「嘘だろ……!」
「えっへん、これで終わりです」
巨大な、見たこともない大砲だった。
(いや、この形は……)
この形状の大砲に違和感を覚える。妙に現実逃避感のある大砲は“昔いた所”にもないはずだ。
しばらく、考えに耽るように黙っていると、
「じゃあ、撃ちますね〜」
というので、
『ええっ⁉︎』と、ローレラとハモってしまう。
ここで、俺は撃たれるのかと覚悟する。
そこを…。
「あなたどういうつもりなの? このヒトがいないとこの厚生荘が成り立たなくなるのよ。それでも良いのあなたは!」
と、ローレラがいつにもなく必死に訴える。あんなローレラは見たことなかった。いつも興味なさげにしていただけあってこの振る舞いに俺も驚く。
「いえ…殺しはしても決して消すつもりはなかったのですけど…」
と言って、どデカイ大砲を消してくれる。光の粒が霧散して消えていく。
おそらく、アーニャは俺を殺しても、あくまで一時的であって、本当に消すつもりはなかったらしい。
ローレラが、さも珍しく溜息をつく。
ローレラ的には余り、俺の生死には関係がないと思ったが…そんなことがあったのかと納得した。
「それで、悠人、 分かってもらえました?」
アーニャがとてもニコニコして俺を見上げてくる。
俺は両手を横に広げて、降参して、
「アーニャがとても有能だということはよ〜く分かった」
と言って、「疑って悪かったな」と、頭を撫でてやる。
「えへへ〜」
アーニャは顔がフニャけていた。
まるで、その表情はペットのような感じがして、俺にも自然と笑みが零れる。
「えー、こほん。それで」
「それで、なんだよ?」
アーニャと俺は撫で、撫でられるのを止めて、ローレラへと視線を向ける。
「あれは何だったの? 見たところ、とても強力な魔法だったみたいだけど?」
「ああ、あれはコピーですよ」
「コピー?」
ローレラが再び問いかける。
アーニャは、はい、と頷いて、
「あれは、契約したヒトとしか出来ないものですけど…契約者の主の能力を学習してフルコピーして使えるようにする魔法です」
「え、って事は……」
俺は察した。そして確認のために言おうとした事をローレラに遮られる。
「あれは、文献で見た魔法とそっくりだわ。百年前の文献よ。それは誰にも継承される事はなかったとあったわ…それが何故…?」
それを聞いたアーニャはとてもニコニコして俺たちを見ている。
「まず、悠人の疑問からですが、そうですと答えておきます」
それだけかよと言いたい心を留めておく。ここでは、魔法の詮索はタブーだからだ。自分の力で他のヒトの魔法を真似できるのなら良いのだけど…。
「そうですね、確かに誰にも継承されませんでしたね〜。でもその使用者本人の顔はありましたか?」
「………」
「無かったと思います。私はその方と契約していましたが、一度もお顔を見た事はありませんでした」
「そう…」
ローレラは腑に落ちないといった顔をしているが、自分で丸く収めたようだ。
アーニャは再び双方の顔を見て、何が嬉しいのかわからないが、とてつもなく笑顔を放っている。
「さぁ、では遅いですしそろそろ帰りましょうか」
アーニャが促して、3人は寮に戻った。
俺はアーニャと一緒に自分の部屋に帰って寝る準備をして、ベッドに横になる。
(今日はとても濃い1日だったな…)
ベッドの上で、今日の事を反芻する。と、あることに気づいた。
(そういえば、アイナ先生に渡された本があったんだ)
と、カバンから例の本を取り出す。
その本は文庫本のような大きさで、中に挿絵もちょくちょく入っていた。
(へぇ、ラノベっぽいな…)
素直にそう思い、ページの最初に戻り読み進める。と言っても、今日中には読みきれるものではない事はよくわかっていた。
………ーある日、一人の少年いたり、その少年、魔法力なかりけり、ー………
(読み辛いな………)と思いながら進めていく。
ーそのシスターはその子に四角い箱を持たせ、捨てた。純粋無垢な少年はその箱で遊ぶー
俺は自分に似たヒトに少し興味を持った。
ーその周りには、常に噴火のような地響きが鳴り渡り、ヒトビトは恐れる。ー
(これも似てる………)
ーしかし、ある日ポツリと途絶えてしまった。ヒトビトは安堵し、その場に神殿を建て、再び災いが起きないようにと祈祷した。ー
今日はこれくらいにしておいた。
(いつまでも必要だとか、アイナ先生言ってたもんな…)
(さぁ、寝るか…)
明日のことなど既に頭の隅に追いやられていた。
いよいよここまで来ました!お待たせしてしまって非常ーーーにもうしわけございませんでしたーーー‼︎
ついに次回にですね、ラネイシャとの決闘を出せると思います。いえ、これは絶対です!
さて、いつも通り休みを満喫している私ですが、いよいよ明日は現実と向き合わなければなりません。しくしく(涙)
何かは聞かないで下さい。色々あるんです大学生にも…。無理矢理の課金ゲーが。
…まぁ、勉強しない私めが悪いんですけどね。
それでは、いつも読んでくださってありがとうございます‼︎
ラネイシャは2つ前の話にチラッとだけ書いてあるので、ちょっと想像してみてください。
ではでは……
小椋鉄平