不安と葛藤
授業中………
かつかつと、チョークが黒板を叩く音と、先生の声が同時にだったり、もしくはそれの一方がたんたんと聞こえてくる。
そして………
しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ…………………。
俺は膝をカクカク上下させていた。
言ってみれば、イライラしてた。
なぜかというと………もちろん、無駄に押し付けられたことには、少しはたつが、それだけではない。
あの、決闘を申し込んだ後のこと………。
クラスに着いた俺はもちろんのごとくみんなに囲まれてしまう。
「ねぇ、ほん〜〜とうにラネイシャさんとやるの?」
「どういうことだよ………」
俺は素直に聞き返す。
と、どこからか現れたカレンが頭を抱えてた。
「…ねぇ、いくら悠人君でも今回の相手はちょっと…厳しいんじゃない?」
「ん?なんで?」
俺が素っ頓狂な返事をすると、みんなが交互に見合って、その後、カレンが口を開く。
「もしかしてラネイシャ先輩のこと知らないの?」
「し、知らないもなにもさっき会ったばっかだよ」
「いや…噂ぐらいは…聞かない?」
「いや…そんなことは…ないな…」
思い出すように天井を見るがなにも思い当たらない。
言い終わって、天井から目線を戻すと、みんなが俺を呆れるように見てたり、青ざめて見ていたりしていた。
俺はシビレを切らした。
さっきから少しイライラしていたりもあったが、みんなにそれをぶちまけるほど幼稚ではなかったが、あまりにも質問攻めにあうのでこっちから聞くことにした。
「それで、ラネイシャさんはどんな人なの?もうみんなの口ぶりからは大体予想できちゃうんだけど…」
自分では鈍感ではないと思っている。
だから、みんなの表情やカレンの質問からラネイシャさんがどんな“実力”を持っているかぐらいは想像がつく。
俺の質問に答えたのは、横から現れたアイナだった。
「そりゃあ、風紀委員の会長もやるくらいなんだから、実力は折り紙つきだぞ。なんせ風紀委員なんだからな。ここは魔法学校だ。一年ならともかく…二年、三年になるにつれて、生徒一人一人が、刃物やら、銃器やらを持ってるものと同等の扱いを受ける」
「そうですね」
「だからこそ、何か争いごとがあった場合、“風紀委員”がその争いの間に入って決闘を取り仕切っている」
俺はアイナ先生の顔を真剣に見る。
「…だが、お前が前にやった試合は風紀委員を通さなかったから言いがかりをつけられたんだろう」
「…それって誰のせいですか?」
アイナはとぼけたように、「誰だろうな………」という。
「アイナ先生のせいじゃないんですか………」と、小さく呟く。
「んあぁ、なんか言ったか⁉︎」
俺は椅子に座っていたので、上から睨みつけられる。
一瞬にして場の空気が凍る。
「…いいえ、なんでもありません」
そういうと、みんなのため息が聞こえてきそうに場の空気が緩んだ。
「そうか…ならいい。で、ラネイシャのことだが…」
「何か、知ってるんですか⁉︎」
俺はまるで先生にすがりつきそうな勢いで聞く。
「そうだな…私の一年の時の教え子だったよ。でも、ヤツに教えることなどまったくなかったよ」
「それはどういう…?」
「そういうことだよ。分かれ」
「それで、ラネイシャさんの得意な魔法とかありますか?」
「ラネイシャ先輩は『カード』を使うんだよ。それでー」
カレンが答える。が…。
「それくらいにしとけ、それは決闘をする“本来の意味”がなくなる」
アイナがカレンに言い放つ。カレンはそれで素直に引き下がる。
決闘の本来の意味というのは大体わかる。
前も聞いたのは闘技場は本来、魔物や敵国の兵と対峙するための練習場、であれば相手の手の内など知らないのが当然である。
(だったら“そういう”決闘を黙認する学園側もどうかしてるだろ)
俺は心の中で突っ込んだ。
この後の授業はほとんど頭に入らず、放課後を迎える。
すぐに俺は演習場に向かう。
演習場と闘技場は基本的には観客席があるかないかだけで、戦う者の場は変わらない。
受付で申請する。
受付の人は俺の顔を見る。
「一応、学生証のご提示をお願いします」
「あ、はい」
と言って、学生証を渡す。これは転入してきたときに先生からもらった。
ここでもそうだが、他にも学術図書館やラーニングルーム、学生支援課などいろいろな場所で使う。
それを見た係りの人が怪訝として、俺に券を返した後奥に行く。
(なんだろう…?)
奥でいろいろな人たちが話し合っていた。なにを言っているかはわからなかったが、良い話でないことは察しがついた。
しばらくして、受付の人が戻ってくる。
「ええと、あなたは演習場破壊の恐れがありますので、擬似空間を展開した中での魔法の行使を許可します」
「はい、分かりました」
「もし、これを破った場合。学園長から厳重な処罰が課せられます。いいですね」
俺はもう一度受付の人に返事をして指定された場へ向かう。
まず、円上の縁にある機械に向かって擬似空間の起動スイッチを押す。
その後に円の中に入る。その10秒後に擬似空間が展開される。
「よし!」
俺のポケットからキリストの十字がついたようなキーホルダーを取り出し、
「はぁっ!」と、力を込める。
目の前に長剣が白の光となって現れる。
その柄の部分を掴むと、白い光が消え、剣の姿が現れる。
前から、“映像”の敵が現れる。一見、本物の生きている人間そっくりだ。
人間が差別される社会ではあるけれども、かと言って外見が人間と異なるわけではない。よく見たら違うところもあるのだけれど、色々ありすぎて訳がわからない。
例えば、カレンだったらキツネのような耳があったり、ロビンの場合は歯が尖っているなどなどあるが、そんなものは昔いた社会では些細な問題であった。
目の色とか、肌の色とかの違いはあっても共存ができている。
だからこそ、今回の決闘はある意味重要であるんだと感じていた。
俺は剣を振った後、すぐに逆向きのベクトルに変わる魔法をかける。言うなれば高速の『燕返し』ってどころだろう。
先生に使って以来、やってなかったが、まずまずだったと思う。
それを何度か繰り返す。
燕返しは最初の振りと帰ってくる時に剣をターンさせ、かつ剣の切る方の向きも変えなければならない。
それではスピードの面で劣る。
悠人が練習している燕返しは最初の斜め切りした後、カーブをせずに折り返しの振りをするというものであり、魔法でなければ使うことなど出来ない。
しかも、悠人が使っている剣は長剣だ。ただえさえ重たいそれを悠人は片手で持っている。
なぜならば、魔法を使う瞬間に増幅器に触らなければならないからだ。
以前、セバスにもしてしまったとおり、魔法を発動できるのは一瞬。魔力制御が出来ればいいのだが、今は時間的にも不可能だ。
そのため、片方の手はいつでも増幅器に触れられるようにポケットに突っ込んでいる。ポケットに増幅器を入れるのは言わなくてもいいと思うが、もちろんバレちゃいけないからだ。
その過程を頭で考えながら、再び剣を振る。
「はぁっ!」
ブン、シュ。
(ようやく、達人の域までになったかな?)
でもここは魔法学園、生身の人間の達人レベル如きは通用しない。
(もっと早く)
何度も剣を振る。
普通なら1.5秒ぐらいで往復するのをカーブを省くことで0.5秒まで縮めている感じだ。
だんだんと息が荒れてくる。
(でも、俺に何かできるって言ったらこれしかないんだ。これしか思いつかないんだ)
………子供の頃……………
小学生の俺はかけっこで速くなりたくて、みんなより速くなれないか、幼げながら研究した。
その結果、“省く”という考えに辿り着いた。
足が速くなるために足を鍛えるのは勿論みんなやってる。
それ以上と考えるとみんなとは違うことをしなければならない。
では、それは努力か?
いや違う。努力でなんとかなる“才能”がなかった。
それでも勝ちたかった。一番になりたい!
何を省いたかと言うと、『着地する足の面積を出来るだけ無くす』という今思えば馬鹿らしいことを思いついた。
理屈では、それで少しは速くなる。速くなるが、それは小学生だからこそ通じる手だった。
中学になった瞬間、俺がそこまで鍛えていないというのもあるが、あっさり抜かれてしまう。
高校も然り。少し早い方、となる程度。故に目立たない。
目立つかどうかはそれこそ問題ではない。
ふと、振り返した剣を剣で抑えられる。
ギンと音がする。
「えっ………」
恐る恐る目線を上に上げる。
「なぁー、お前……そんなに速くして何がしたいんだ?」
「それは………」
俺は再び顔を地面に向ける。
「私とやった時はここまで速くは無かった…。だけどな…それではラネイシャに勝つのは難しいな」
「で………でも!俺にはこれしか………」
俺の発言に先生はため息をつく。
「あのな、やってもいないのにそれしか出来ないと言い張るのはヘタレのすることじゃないか?」
「だったらどうしたら……!……あっ……」
思わず、先生に怒鳴ってしまう。それに気づいてハッとしてしまい、申し訳ない気持ちになる。
すぐさま謝ろうとするが、先生に手で制される。
「みなまで言うな……。……ふっ、そうか…そんなに強くなりたいと思っているんなんて…」
先生が自虐的になる。
「そんな大層なもんじゃ無いんですよ。ただ…みんなの期待に応えたい。期待してくれるのなら、それを裏切りたくは無い。たとえ、無茶ぶりだったとしても…」
その言葉に先生が笑う。
「お前、“あっち”ではボッチだっただろ。くっふふふふふ……」
「なっ、そそそ、そんなこと無いですよ!す、少しはいましたよ。先生なのに失礼ですね」
俺は先生に少しむくれる。が、『タリス』では確かにボッチに近かった。
なぜかは、言いたく無いので想像してほしい。そんな俺にもとっても少ないが理解者はいた。
(あいつらはどうしてるかな〜?)
ふと、考えてしまう。“友達”など…と思っていた俺に手を差し伸べてくれた奴らだ。何度も差し伸べた手を払いのけたのに。
「……いやいや、悪かった。まぁ、そうだな。お前に教えられる魔法はほとんど無いからな〜。……じゃあ私の固有魔法を教えてみるか」
「えっ………」
俺は驚いてしまう。通常、固有魔法は人に教えるものでは無い。当たり前だ。折角、身につけた魔法を人にバレたくは無いだろう。教えるとすれば、子供とか、身内にするだろう。
だからこそ、名門と言われる家がある。
それを教えるというのは正気では無い。いくら先生が“単なる人間”であっても…。
「い、いいんですか⁉︎」
期待半分、残りが不安で尋ねる。
「ああ、いいぜ」
その言葉を聞いて少し、嬉しくなってニヤけてしまうがその顔に先生の人差し指がビシッと突きつけられる。
「………ただし、この私が教える条件はただ1つ」
(何⁉︎条件があるだと………)
俺はすぐに身構える。
「何、簡単なことだ。明日の試合に勝つことだ」
「そ、それはちょっと………」
無理だ。と言おうとする俺に先生の“怖い顔”が突き刺さる。
(くっ、あの顔が俺の防御力を………ってそんな事思ってる場合じゃ無いわ⁉︎)
頭の中で漫才してしまったが、この空気では笑いをも表に出せない。
「わ、わかりました。全力は尽くします」
「違えだろ。そこは、“勝ちます”だろ。男ならそれくらいの勢いで行け!」
先生が俺に激励の意味での叱咤をかけてくれる。結構これには乗せられてしまう癖があるのは自分でも分かっていたが、つい舞い上がって、
「勝ちます!絶対に‼︎」
余計な言葉まで付け足してしまった。
「よっしゃ、その意気だ!」
そうして、下校の時間まで、特訓をしてくれた。
先生は去り際に、
「そういや、そんなのに来たんじゃ無かったわ」
思い出したようにそう言う。
(なんじゃい、俺を励ましに来たんじゃねぇの⁉︎)
心の中で突っ込む。
「はい、これ」
アイナ先生の手から俺の手に渡される。
渡されたのは本?
「これはー?」
純粋に聞くと、
「ある偉大なる最初の人間が書いた本さ。それには英雄譚が書いてある」
俺はすぐに疑問に思ったことを聞く。
「この本と今回のことに関連があるということですか?」
「どうだろうな、おそらく今回だけに限らないとは思うな。まぁ、持ってて損は無いよ」
そう言って、演習場を去って行ってしまった。
「そう………ですか。」
去っていくアイナに向かって自然と声が出る。
先生は右手を上げる。
お礼はいらないと言った仕草だろうか?俺はそう思った。
いつも読んでいただいてありがとうございます!
pvが増えるというのはささやかな自分の喜びです。
…さて、1つ皆さんに謝らなければならないことは今回ので「ラネイシャとの決闘」に行けなかったことです。
自分でも考えて、もう少し展開ペースをゆっくりにしようとした結果です。
文字数稼ぎと言われればそれまでですけど…。
前回宣言しといてこれはなんだと言われてしまうので、先に申し訳ないと謝ります。すみませんでした。
皆さんとの信頼だと思ってるので、極力裏切りは避けたいと思います。
ということで、次回は必ず「ラネイシャとの決闘」を書きます。
それまでもう少しの間、妄想して欲しいと思います。
必ず、かっこいい主人公を書けると思います。
ではでは〜
小椋鉄平