日常1
今でも、まだ疑心暗鬼のままでいる。魔法というものはおとぎ話の産物としか思っていなかった自分にとって、ただ増幅器を体に触れさせただけで自分から炎や何やらが出るなんて、自分が何かの要因で変られてしまったかのようで、一種の気持ち悪さを感じている。
そのせいで、今もなかなか、威力の調節ができない。
そもそも魔法はおとぎ話の産物としか思っていなかった反面、もし使えたら…などと想像を膨らませていたが、実際使えるとなるとあまりの難しさに想像とのギャップを感じてしまい後悔があるのも事実だった。
(でも帰れないんじゃぁな〜)
窓の外を眺めながら感慨にふける。というほど大層なことを考えていたわけではないように思えるが。
まぁいい。
そう、これが心理学で言うところの“ローボール”なのだろうと思った。
(ってか、先にそれ言ってから決めさせるだろ!)
……
いささか、“ロー・ボール”というには悪質すぎるやり方だなと思った。
そんなこと言っても帰れないことも事実、何も持ってない俺に今更、スローライフが送れるとも思えない。
だから、何となく学園に通っているわけだが…。
「‼︎」
何やらさっきから前にいる生徒が騒がしいと思ったら何か俺たちの身長をゆうに超える巨大なイノシシが見えた。
「みんな離れてください!」
イノシシとマンモスを合わせたような獣が暴れている。どうやら、魔法で作ったネットで動きを抑えているようだった。
意を決して、獣に近づく。勿論、あったこともない。しかも、凶暴そうな顔立ちを見れば、いつものように足を踏み出すことなどできなかった。少しずつ、恐怖と好奇心が入り混じったまま近づいていく。
獣が人ではない咆哮を出す。それだけで、恐怖心が好奇心を上回り、ビクっと硬直してしまう。
「くぅ!」
唯一、ネットを張って抑えている人が苦しそうだった。それを周りの人は助けたいがどうしようもできないというのとネットが破られた時に仕留められるよう準備している者とに別れているように見えた。悠人だけが唯一、例外的にこのグループとは違った行動をとっている。
「きゃあ!」
パァンと弾ける音がして、ネットが破られたというか壊された。なぜなら、ビリとはいわなかったから。
その瞬間に周りを囲んで臨戦態勢をとっていた生徒が一斉に攻撃を仕掛ける。
あるものは脚の辺りを切る。
獣の態勢が崩れたところでガラ空きの急所に残りが一斉に攻撃する。
獣が地面に落ちて軽い地震が起こる。獣はそこで死んだ。
悠人はそのすぐ隣で尻餅をついてしまう。
「あなた、ちゃんとしなさい。これくらいで尻込みは流石にまずいぞ。特に魔法師目指すなら、ね」
彼女はそう言い残し去っていく。
彼女は獣の態勢を崩した張本人だ。1人で態勢を崩せる一撃を放ち、かつ適切な指示を送る。まさにリーダーの風格を持っている人だった。
「おい、見たか!」
今は、魔物の話で持ちきりだった。一年生は見たことはあるにせよあれと戦ったことはないようだった。
その点ではまだ俺も同じ場所にいることを実感できてホッとした。
でも、みんなの表情に恐怖が全く無い。あれを見ても怖がっている人がいないのが驚きだった。
みんな、あれをどう倒すか話し合っている。
「やっぱ、あのやった先輩達みたいな崩して的な方が無難だな」
「いや、遠距離からの魔法攻撃の方がもっと効率が………」
などなど………
正直言って、今のでかなり自信を失った。俺は戦っていないにもかかわらず、あそこで足がすくんでいた。みんなの表情を見れば俺のやったことはかなり恥ずかしいことなのだとわかる。
それと同時に悔しかった。あの場面で何もできなかったことが。
強いと言われているだけでは何故か空虚な感じがしている。
「く………っ」
気づかれないように言った。
いつもの先生の特訓が始まった。まだ全くと言っていいほど魔法の扱いが難しく、剣さばきも鈍いようではやっていけないので、先生には剣術を教わっている。
「はぁっ!」
アイナが容赦なく急所に剣を向ける。
「ぐ………っ」
俺のところに届くギリギリで弾く。
「ほう、少しはマシになってるな」
剣術の方は少しずつではあるが着実に成長している。といってもまだまだだと思っているが…。
「そろそろ私を殺してほしいものだな」
「そう簡単にいくわけないじゃないですか」
今のでも先生の剣を殺されないように弾くので精一杯で全く攻撃に転じてない。
汗が滴り落ちる。それを拭い、反撃に出てみる。
(百聞は一見にしかず。だよな!)
「ふん!」
持っている長剣を横になぐ。
先生はそれをジャンプ、ではなくバックステップで避け、まだ、戻りきれていない俺に素早く肉迫する。
剣を一周させて迎え撃つ。
ギンと金属同士がぶつかる音がする。
「工夫は素晴らしいが一手足りなかったな」
「そう簡単にはいきませんね」
「当たり前だ。私をなんだと思ってるんだ」
「そうですね」
両者がつばぜり合いを解き一定距離をとる。
一時の静寂……観客からすればいいシーンだったかもしれない。もし見ていた立場だったら、かなり息をのむ、そんな雰囲気だ。
「行きますよ、はあっ!」
「はじめからお前が来るのを待ってるんだよ」
さっきと同じ手で、剣を横になぐ。
「2度目は流石にナンセンスだわ!」
そう言って、バックステップの距離を短くして俺に素早く肉迫する。
「がっかりだわ」
先生のカウンターが襲いかかる。
「ここだ!はあああっ!」
(どうせ殺られるなら一か八かだ!)
右から左に振った剣を迫ってくる先生の剣がくる瞬間に自分の剣に逆ベクトルの力をかける。
そう、自分の力でなく、魔法による逆ベクトルをかける。
先生の剣が俺の心臓を目掛けて突いてくるのに対し、俺は先生に対し左に体が傾いている。
「!」
先生が気づき、迎え撃とうとするが魔法での一閃なので間に合うような時間的余裕はない。
それを判断して、先生は軌道修正を止めた。
両者の剣が突き、一閃する。
『がはぁ!』
2人共が強烈な痛みに苦しむ。しかし、先生に一撃を浴びせられたことに喜びがあり、少しニヤける。
『はぁはぁはぁ……』
先生が剣を俺の心臓から抜く。
「うがぁはぁ!」
抜かれた瞬間の痛みで変な声が出る。お互いに息を荒げながら互いに見つめ合う。決して、変な意味ではなく、両者ともに笑みがある。
「良くやったな。いてぇけど……、なんか嬉しいわ。こういうのが教師の醍醐味なんだよ」
「そういうものですか…?」
自分の手を見る。とっさでやったことだが、明らかに剣を振るスピードが今までとは、桁違いだった。あの一瞬のことが自分には、もっと長かったことのように感じた。と同時に自分がやったことはよく分からないが、とにかく先生に攻撃が通ったことは嬉しかった。
今日で、先生の特訓は晴れて終わり…ということになった。
「……ええ、こうでなくては…あなたは…」
影で見ていた“彼女”が小さく笑みをこぼし、立ち去っていった。
「はあ〜〜〜」
つい、気持ちに正直になる。嬉しいというか安心したというのが正直なところだと思う。
「何か、嬉しそうですね」
「おわっ!なんだアーニャか…」
「なんですかーそれはー!私はいらない子なんですか、そうなんですね〜!あっ、なんで目をそらすんですか!」
(なんか、ついていけねぇ…苦手なタイプだわ…顔はこんなに可愛いのに…これが残念系ってやつか)
そんなアーニャに飽き飽きしながら
「それでなんか用か?最近、あまり姿が見えなかったが…」
あっそうだと思い出したような顔をしてる。
(忘れてたんかよ…)
「私になかなか、魔法を行使してくれないので、そろそろ私を使役してもらえないかと…キャ、言っちゃいました」
「いや…俺にはよく分からなくて…だから、もう少し待ってくれないか?その…使役?だっけ、そういうののやり方がまだ分からないんだ」
「イヤン、そんなこと言って…私を放置プレイですか」
「なんでそうなるんだよ!別に契約はしたが、お前はお前だ。俺の言いなりにならなくていい。そういうのは嫌いだ。俺の従者的なこと言ってたけど、俺はそんなこと思ってない。むしろ、俺とお前は対等でありたい…」
言いながら、アーニャの肩に手を置くとー
「あっ!」
アーニャは泣いていた。
(そんな泣くようなセリフはいたか?)
俺は頭を掻いて、アーニャから目線を外す。
アーニャは目を擦って俺をまっすぐに見て、
「本当に凄腕ですね。悠人は、ますます気をつけなければなりません」
「いやいや、そんなことに一生懸命にならなくていいから…でも、今言ったことは嘘じゃない。忘れないでくれ」
少し、キメに行ったつもりのセリフを吐く。
アーニャはよくわからないが、表情を目まぐるしく変化させて…
「あなたの言葉は忠実に守りたいのですが、つまり…このままでいいと?」
「ああ、それでいい」
「………は、はいっ!」
恍惚とした笑顔で返事をした。
(普通にしてくれれば、可愛いのに…)そう思った。
いつも読んでいただいている方には、感謝です。ありがとうございます!
さぁ、テスト中なのに書いちゃってます。いけないのはわかってるんですけど…続かないですよね〜勉強。まぁ、再テストにならなければいいなくらいに願っています。
今回は、少しネタバレありますので言っておくと、先生との戦闘、というかバトルでは勝って喜んでいる主人公ですが、これではぁー良かったねと思わないでくださいね。突っ込んでくださいよ。
何を突っ込むかは、まぁ、はぐらかしとくとして。
もう少し、エッチな方とか出せればいいんですけど、戦いばっかになってしまっていますね。何故か書けば書くほどそっちにいってしまうんですよ。なので、テスト終わったらそっち方面を勉強しようと思っています。期待しててください!では
テストに慌てふためく
小椋鉄平