特訓
我ながら、よくあの場所であんなにも冷静を保て
た。と、内心驚いてる。
相変わらず魔力の実習はミスだらけ、どころか危うく大惨事になりかねないことがしばしば…。
これはさすがにやばいと思ったのだろうか、俺だけ別室で、しかも擬似空間までしての実習になった。
「はぁー」
俺はこの円形状のスペースにたった1人だけポツリと立っている。
観客も、ましては相手までいないこの空間では自分が小さく思えた。
そんなことを考えながらも、魔法の構築に入ろうとしたとき、擬似空間から穴が開き、そこからアイナ先生がやってくる。
「相馬、今日も派手にやってるか?…まぁ、見ればわかるが…」
先生が周りを見渡す。そこには地面に穴が空いてたり、部分的に色が変わってたり、といったありさまになっていた。
「先生、どうしてここに?先生はみんなのところじゃ…」
「いや、これは私であって、私ではないんだ」
「え、どういうことですか?」
言葉が重くなる。確かに見た目は完全に先生なのだが、もし先生でないのなら敵かもしれないと警戒する。
だが、先生は俺の行動を見てくすくすと、笑っている。
俺がこれにムッとする。
「いや、悪い。ただ…、警戒するものでもない。私は言ってみれば分身だ。本体はちゃんとあっちにある」
「そ…、そうですか…」
と、警戒を解く。
「よし、じゃあ始めよう。特訓だ」
と言って、キーホルダーを取り出し、手で握る。
「はぁっ」
先生の手に剣が現れる。先生は日本刀のような刀を使うらしい。
「もともと、日本には少しばかり憧れていてな。日本刀を使ってみたかったんだ」
それがこの剣を持つ理由らしい。どうやら、まじまじと見ていたらしい。
その刀を俺の前に向ける。
「そうそう、ここでは剣に名前をつけるらしいから考えたほうがいいぞ」
「ちなみにこいつの名前は、天星だ」
俺は何から突っ込んでいいか分かりかねていた。この一方的なことに頭がついていかない。
数秒してから…。
「はあっ!何を言ってるんですか⁉︎いきなり特訓って言われても…何をどうするっていうんですか?」
俺は訳がわからないなりに抗議する。
アイナは顔をだけを下に下げて…「でも、現状には満足してない…。だろ?」と言う。
「いや、そうですけど何をしたらよくなるかも分からないのにどうしろっていうんですか⁉︎」
まるで今までのうまくいかない鬱憤を吐き出すかのように先生に言ってしまう。
ハッとなってシュンとなる。
「す、すみませんでした…」
アイナは手で制する。
「ここでは、日本人のような性格だと、ヘタレ扱いになる。やすやすと謝るのは止めておけ」
「ただ…、お前が苦しんでるのに何もしてあげられないってのも…、お前と同じくらい苦しいんだよ」
先生は刀を再び俺に向ける。
「だから、私にはこれくらいしか出来ないんだ。お前がきっかけを掴めるようになるまでとことん付き合ってやる。教師としての務めだ」
先生の言葉に何も返す言葉が出なかった。アイナは刀を揺らして、俺に剣を《出す》ように合図する。
ポケットから俺のキーホルダーを取り出し、右手に力を込める。
右手を前に向ける。と同時に剣が出てくる。
悠人の剣は長剣だ。剣は片手剣と同じ横幅だが、片手剣の2倍の長さがある。
そして、最大の特徴は前回、決闘で見せた長さを変えられることである。自由に…というわけにはいかないが、普通の片手剣と長剣の両方をとれる。
右手を前に向けたことで、剣と刀が向き合った。
「…じゃあ、やるぞ!ふんっ」
先生が剣を振る。その綺麗な剣さばきは素人の俺であろうともわかる。
その振りで、俺の剣が弾かれて隙を作ってしまう。
その瞬間に胸を突かれる。
………死亡。一回目。
アイナの刀は俺の胸に突き刺さった。
「う…がはっ!」
俺は吐くが、当然血は出ない。同じだけの痛みが俺に来てる。
(これが心臓を刺された感覚…)
こんなことは覚えたくないが…死を《死なないで》感じてしまったことにはなんだか、複雑な気分だった。
「はぁはぁはぁ…」
アイナ先生が寄ってきる。
「大丈夫か?」
「いえ、結構痛みだけが来るとはいえキツいですね」
「いや、それくらいのことはじきに慣れるよ」
「慣れたくないわ!」
俺は瞬時に突っ込む。先生はニコニコしたままで、「突っ込む余裕があるなら大丈夫だよな」と言って、俺から離れる。
………………。
………。
…。
俺は今日だけで何回死んだのだろうか。そのせいで何回か痛みで記憶がぶっ飛んでる。
「だっはっ!」
俺は急所を突かれて床に大の字になる。
アイナは刀を肩に担ぎながら、歩み寄る。
「なぁ、あんなこと出来る魔力があるのに剣さばきはとか…下手すぎじゃね?」
アイナはからかうわけではなく、真顔で聞いてくる。
俺は一瞬バカにしてるのかと思ったが、真顔で言っているので口をつぐんでしまった。
「俺は昔の世界で何もやってこなかったんだ!」
「え…、本当か?」
何やら神妙になって聞いてくるので、「そ…そうだよ」と答えると何やら肩を震わせている。
(これは何か、言ってはいけないことをくちばしってしまっのか⁉︎)
冷や汗で少しずつ後ずさりする。
と、急に俺の方をキッと向く。俺は途端に身の危険を感じて、顔を手で覆う。
「どうして…日本の者は皆、武術を習うと聞いた。特に隠密に関しては随一だと…。そ、それがないというのだな…⁉︎」
どうしてかとても、先生が動揺しているように見えた。
「どうしたんですか?急に」
「どうしたもこうしたもないぞ!日本人は皆、武術に長け、隠密に関しては随一だと聞いていた!それが何故だ!なぜ、廃れてしまったのだ!そもそも…………………」
なぜか、日本出身ではない方に日本のことでお説教されています。日本のことをここまで盛大に勘違いしてるとは…危ないな。
俺はそう思った。
さすがに疲れたのか、お説教が終わり、今日の特訓は終わった。結局、考えたら、特訓で5時間もやってたみたいだ。夢中になっていて気づかなかった。
俺はとぼとぼ帰る。
校門に近づくとまた、彼女が脇に立っていた。
「またか?俺に心配していった言葉そのまま返してやろうか?」
そう言ってからかう。
しかし、彼女は急に押し黙り、下を向く。
俺はがっかりしたのかと冗談だと手を前に出す瞬間。
シュッ
俺は石のように固まってしまう。
………なにせ、首の数ミリ後ろをナイフが通過したのだから。
「あら、外してしまいましたか…残念です」
(おいおい…当てるつもりだったのかよ。てか、早すぎてナイフだとわからなかったわ。何か、ナイフじゃなくて閃光みたいなものが来たと思ったくらいだぞ)
「でも、これであなたの言葉は必要なくなりましたね」
これが返答だと言わんばかりに俺を見上げてくる。
この実力は到底敵わないと一瞬で悟った瞬間だった。
(ひょっとしたら俺は最強だと言われていて舞い上がってるだけで、実は最弱⁉︎ …いや、一応、ドベ2か…………って大差ないよね?)
ローレラには肩を落としたり、上がったりをしている俺を無機質な目で見ていた。
もちろん悠人はそんなこと知る由もなかった。
厚生荘まで歩きながらの途中。
「…決闘はどうでしたか?」
とローレラが聞いてくる。
「正直、やばかったね。実際、複数でくるなんて思いもしなかったからね。めちゃくちゃ痛かったよ」
と俺が腹などをさする。当然、擬似空間のおかげで痛みだけで痕になど残っていない。
「あ、そ。でも私は、忠告したはずだけど?」
とローレラが言うので思い返すと俺はハッという顔をして納得する。
「そうだったのか!だから……はー、なるほど…」
そう言うとローレラが意外そうな顔をするので、「ん?どうした?」と言うと。
「いえ…怒ると思ってたので…」
逆にローレラが恥ずかしそうな顔をする。少し、(可愛いところもあるんだな)と思いつつ、素朴な疑問をぶつける。
「何で分かったんだ?」
「闘った事があるからです。彼はランキング戦で当たりました。その時にあなたと同じことをされたので…でも同じことをするとは思いませんでした」
「なぁ…一応聞くけど…それってアリ?」
俺は答えを逆にして言って欲しいという願いを込めて聞いた。
「いいえ、どんなことをしようとも認められます。ただ、相手を“本当の意味で殺すこと”だけは禁止です」
「いや、それだけなのか⁉︎…例えば前入りして舞台に仕掛けても問題ないというのか⁉︎」
ローレラは俺が取り乱しながら聞いてくるのを、まるで非常識だなという顔をして「ええ」と、言う。
(まじかよ。下手したら開始直後に勝敗が付くこともあるってことかよ⁉︎…恐ろしいな…)
俺は身震いしながらとぼとぼ帰る。
「まぁ、滅多にそんなことはありませんけど」
「ないんかい!」
「ええ、そんなことする人は性根が腐ってるとみなされますから」
(それはそれで恐ろしいぜ…)
笑えないことをたびたび言われて、心身ともに疲れ果てて寮に帰った。
読んでもらって、また、フォローもしていただいでありがとうございます。幸せ者です。
結構、なろうやってみて一ヶ月と少し立ちますけど皆さんとてもいい方たちばかりなんだなと感謝するばかりです。
最近はもう、学校が始まってかつ来週がテスト…ということでかなり正念場に立っております。
大学も甘くはありませんね〜。
ということで、あまり妄想する暇もなく日々を忙しく過ごしております。
こういう何気ないこと書くことでストレスを解消したりとか。で現実逃避できるのもこれが最後っぽいですね。
あ、そ、それでは〜
無事に一年生きて入られますように
小椋鉄平