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『うちの旦那は…』  作者: 【Farfetch'd】ネギ愛好家
一章 「うちの旦那は…」
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「サンタさん、うちには煙突がないので換気扇から入ってください」

 うちの旦那のクリスマスプレゼントは毎年困る。

 大切な人に贈るプレゼントであるから、色々考えて、迷ったりするだろう。しかし、うちの旦那の場合は一筋縄ではいかないのだ。


 今日はクリスマスイブの日。

 それはクリスマスの前夜、すなわち十二月二十四日の夜を指す言葉である。クリスマスが近づくにつれて、街はイルミネーションなどで賑わい、徐々にクリスマス関連の商品が店頭に並んでいた。日本人はイベントごとが大好きである。仏教国であろうが、無信教であろうが、他国の聖者の誕生日を、面白ければ意味なんて知らずに騒いでしまうのだ。

 それは、私たち夫婦でもそうである。クリスマスは夫婦で過ごす大切なイベントの日。今年はお家で一緒に祝うことにした。本当はどこかレストランを予約して、イルミネーションに彩られた夜景を見ながらディナーをしたいっていう本音があったが、


「れなの作ってくれたケーキが食べたい」


 なんて、満面な笑みで言われてしまっては、そうは言ってられない。クリスマスは来年も再来年もずっとやって来るのだ。だから今年くらいは家で過ごしたっていいじゃないか。そう思いながら私は、ケーキを頑張って作った。前日の夜から、旦那が寝静まった後に。おかげで今日は寝不足である。もともとお菓子作りが好きであり、ケーキやパイは実家では何度も作っていた。だから、ケーキはなかなか上手にできた、気がする。

 旦那は仕事帰りにシャンパンを買ってきてくれた。同じく買ってきたチキンとサラダを並べて、二人きりのクリスマスパーティーを始めた。まあ、こういった感じの過ごし方も悪くないもかもしれない。家という落ち付く環境に、二人っきりで人目をはばからずに甘えられるというのが良い。

 シャンパンの栓を開けると、ポンッという軽快な音がした。こじゃれたワイングラスに注がれた仄かに桜色に色づいた中に、浮かんでいく炭酸の泡を見つめていると、それっぽい雰囲気がしてくるような気がした。我ながら単純なものである。

「ふにゃ~、おいしい~」

 それにしてもこのシャンパンは甘くて、本当に飲みやすい。ついつい飲んでしまうが、私はお酒があまり強くない。

「大丈夫か?」

「ん~。全然、大丈夫だよ~」

 旦那が心配そうに声をかけてきた。少し調子に乗って飲んでしまい、返す声が少し高くなってしまったが、まだ大丈夫だ。まだ、酔うわけにはいかないのだ。やや酔いを感じながらも、私の心の中にはある緊張感と不安があった。

 その理由はというと……。


 それは少し遡って、十月某日のこと。


「夏くん、夏くん、今、なにか欲しい物とかないの?」

「特にないな」

「そ、そうなんだ……、ははは」

 こう、返されてしまうからだ。

「あ、靴は?あの靴買ってからだいぶたってない?」

「ん? まだ、穴が開いてないし、ボロボロになったら、二千円くらいのを適当に買うよ」

 この人は、ブランドとかに興味がなく、安くて長持ちすればいいと思う人である。

「じゃあ、リュックは? 肩掛けの所の金具が壊れて、紐が切れてなかった?」

「紐を、金具をかませて固く結んで、使えるように直した」

「あら、そう。ずいぶんと器用なことで……」

 こうやって粘っても、思いつく限りの案を出しても、旦那はこれだというものが全然ないのだ。

 だから、私のクリスマスの準備は早い。

 私も最初はいろいろ調べた。インターネットで『クリスマスプレゼント 彼氏』と調べて、ランキング形式で載せられている物たちを、試しに話してみたりした。

 けれども旦那は、時計はつけないは、マフラーはもういくつか持っているは、鞄も必要分は持っているだは、ネクタイは仕事で使わないだはで、ほぼ全滅してしまっているのだ。そんなこんなを繰り返してしまっていたら、クリスマスプレゼントのリサーチがこんなに早くなってしまっていた。

 無欲、とも違う。漫画は買うし、ゲームも買って普通にする。ただ、一般的にプレゼントと呼ばれる物たちに興味がないのだ。まず、旦那は必要なものは自分ですぐに買ってしまう。例えば、パソコンであったり、タブレットであったり、ミュージックプレイヤーであったり、リュックであったり。そして、必要なものが揃ってしまったら、それ以上のものを買わなくなるのだ。靴であったり、服であったり、鞄であったり、時計であったり、そういったものを最小限しか持ち合わせないのだ。

 質素、というには電子機器に囲まれ過ぎている。だから、私はこう悟った。


――彼は自分の興味のない物には、本当に興味がないのだ、と。


「そ、そんなこと言わないで、本当になにかないの? ほ、ほら、お財布とかずいぶんボロボロになっちゃったじゃない」

 けれど、惚れた弱みという奴である。そんな旦那であるが、どうにかして喜ばせたいと思ってしまうのが私なのだ。

「いや、これはれなに昔買ってもらったものだから、簡単には捨てたくない」

「そ、そうですか」

 だけど、こうしてプレゼントが気に入ったりすると、本当に、それは本当に大切にしてくれる。付き合って最初のクリスマスプレゼントとして買った『財布』は、今でも使ってくれるくらいに、クリティカルヒットしていた。だから、プレゼントした者としては本懐である。まあ、使うたびに所々切れていたり、裂けていたりしているのが目に入るのはどうかと思うが。

 そんなこんなで、私のクリスマスプレゼントのリサーチは難航しているのだった。


 ああ、助けてサンタさん。



【読了後に関して】

感想・ご意見・ご指摘により作者は成長するものだと、私個人は考えております。


もし気に入っていただけたのであれば、「気に入ったシーン」や「会話」、「展開」などを教えてください。「こんな話が見たい」というご意見も大歓迎です。


また、なにかご指摘がございましたら、「誤字脱字」や「文法」、「言葉遣い」、「違和感」など、些細なことでも良いのでご報告ください。


修正・次回創作時に反映させていただきます。

今後とも、【Farfetch'd】をよろしくお願いします。

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