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『うちの旦那は…』  作者: 【Farfetch'd】ネギ愛好家
一章 「うちの旦那は…」
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「続・夫婦という関係に攻略本はない」

 うちの旦那は鈍感だ。


 とうとう限界に来てしまった。

 今日も旦那は私を置いてけぼりにしてゲームをしていた。私は疲れたふりをして「先に寝る」と言って、ベッドにもぐりこんだ。旦那は数十分ゲームをした後、寝支度を整えてベットに入ってきた。無言で、寝ている私を起こさないように静かに。それは私を起こさないようにしてくれているのはわかるのだが、起きている私からすると、凄く冷めている夫婦の姿にしか見えないのだ。それが凄く、とても深く悲しくて、とうとう我慢の限界が来てしまった。


「ゲームと私、どっちが大切なの?」


 言って馬鹿らしくて涙が出た。こんな昼ドラでしか言われないであろう言葉を、それよりもひどくして自分が言う羽目になるなんて思わなかった。なんだよ、「ゲームと私」って。私という存在は、ゲームと天秤に掛けれるものなのか。

 そんな言いたいことや溜まっていたことを好き放題言ったら、寝ようとしていた旦那も驚いて、流石に旦那も言い返してきた。何度もたがいに言いたいことだけを言い合った。  

 そして最後には案の定、

「じゃあ、今やってるゲームを辞める」

 と旦那は言った。とうとう言わせてしまった。一気に怒りから、悲しみへと変化していった。

「そんなことを言わせたくて、私は言ったんじゃない!」

「だって、自分の好きなゲームで、大好きなれなを悲しませるなら、大好きなれなのために好きなゲームを辞めるもん」

 私はそう言って引き留めたが、旦那は拗ねてしまっていて、聞く耳を持たなかった。

 それから旦那はオンラインでゲームをしなくなった。特に、休日に休みが合い私と一緒にいるときは、そういうゲームをしなくなった。休みも上司に無理を言って、私と極力合うようにしてくれた。仕事や結婚式の準備やらで、ゲームをする余裕がなかったのも事実だが、『一緒にいる』ことで、ゲームをすることを我慢させてしまっているような気がした。

「夏くん、最近無理してない?」

 私は旦那に無理をさせてしまっているのだろうかと思い、旦那に尋ねるも、旦那は少し寂しそうな顔をして首を横に振るのだ。

「……」

 どうしたらいい。旦那に我慢はさせまいと思う気持ちと、一緒にいるのに一緒にいない疎外感を味わうのが嫌だという自分が頭の中で戦っている。旦那には好きなことをさせたい。しかし、寂しいのも嫌である。

 何も答えが浮かばないまま、時間だけが過ぎてしまった。




 しかし、今度は旦那の限界がきてしまった。

 結婚式を翌月に控えたある日、旦那が壊れた。夜中に寝る直前に、いきなり旦那が泣き出した。ゲームがしたいと。二十歳を超えたいい大人が。

「やっぱり、ゲームがしたい……」

 そう旦那は子供のように言った。そのとき旦那は半年ほどゲームをしていなかった。落ち着いてきたのかと思ったが、いつもやっているゲームシリーズの新作の発売日が近くなって、ネットや友人たちがその話をするたびに、だんだんと我慢が出来なくなっていたようであった。旦那は泣きながらに、ネットの友人から誘いがあるも断ったり、ゲームのコマーシャルを見るたびに、言おうと思っていたが、結婚式の前で忙しいからそんなことは言えなかったと言い出した。

「……」

 私は正直少し引いてしまった。しかし、同時にそれだけ旦那に我慢をさせてしまったのだと後悔をした。旦那のゲーム好きは知っていたし、結婚してもゲームはやめないと結婚する前から公言していた。その泣くほど好きなことを、仕事や結婚の準備で強制的に制限してしまっていたのだ。

「ごめんね、夏くん」

「うぅ…」


『結婚とは我慢である』


 そんな言葉が、頭をよぎった。なにが我慢だ。私はそんなことはさせたくはなかった。

 けど、そうは思おうが、現実はどちらかが我慢をしなければいけなかったのだ。

 互いが互いのしたいことをさせたり、させなかったりというのは、結局は「我慢」なのだ。妥協、といえば聞こえはいいのかもしれないけれど、やっていることは大して変わらない。今度は、私が我慢をさせてしまっていたのだ。

「ごめんね」

 私には謝ることしかできなかった。



 

「やったよ、れな。このボス倒した!」

 ということがあって、今に至る。

 旦那が喜びの声を上げて、私ははっとしてテレビ画面を見た。そこには、屈強な男がゾンビに囲まれた館から脱出しようと大きなモンスターと戦い、それをちょうど撃破したところであった。旦那は今、私の好きなシリーズのゲームをやっており、そのやっているのを私は見ていたのだ。途中から、眠くなってうとうとしていたら、あの時の夢を見てしまっていた。

「おお、夏くん凄い!」

「へへへ…」

 寝ていたとは言えないため、とりあえず旦那を褒めた。褒められて隣で子供のような笑顔で笑った。とても楽しそうである。そんな旦那を見て私は思った。あの時はいろいろ大変だったなと。旦那はやっぱりゲームがないとダメなのだ。この笑顔を見て改めてわかった。

 あの後、結婚式を無事に終えた私たちは話し合った。どうしたら互いが我慢せずに済むのかを真剣に。

 まず、旦那に私と無理に休みを合わせず、一人の時間を作るようにさせた。二人の休みが減ることは悲しいが、自分の時間というのも大切である。だからその時に、好きなだけ好きなことをすればいい。そのかわり、私も一人の休みの時は好きなことをすることにした。それからは、自由な時間ができても、旦那は私の前ではあまりそのゲームをしなくなった。二人が休みがあった時は、二人でできるゲームをしている。

 今思い出すと、とてもくだらないことで私達は喧嘩してしまったと、恥ずかしく思う。

 しかし、私たちは一緒に住み始めたばかりで、右も左もわからなかった。それに、いくら恋人とはいえ、少し前まで他人だった人間とずっと住まないといけないのだ。距離の置き方、というのがわからなかったのだろう。それをあの出来事で少し掴めたのだと思う。


 恋人と、夫婦では同じ関係ではいられない。

 

 恋人だったら、もしかしたら仕方ないなって思えたり、それが原因で簡単に別れたりできるのだろう。しかし、一度夫婦となったのであれば、そうはいかない。恋人よりもっと深い関係になった結果、夫婦となるわけであって、別れるのであれば恋人よりもっと複雑でめんどくさいことになる。

 だからあれは夫婦になったのであれば、一度は経験することなのだ。これがうまくいかなければ、夫婦生活なんてうまくいかないはずである。そのきっかけが今回は旦那の「ゲーム」であった。けど、人によっては「たばこ」だったり、「お酒」だったり、「食べ物の好み」かもしれない。だから、別におかしなことではないのだ。それに、もしかしたら、きっかけが違えば逆の立場になっていたかもしれない。そう、私の趣味で旦那を悲しませてしまっていたかもしれないのだ。

「夏くん」

「ん?」

 私はふと旦那を呼びかけた。旦那は目線をテレビから動かさず、返事だけした。

「むー」

 私はその態度に少し不満になり、意地悪を思いついた。


「ゲームと私、どっちが好き?」


 それはあの時の問いかけ。旦那は覚えているだろうか。

「もちろん、れなだよ。急にどうしたの?」

 すると旦那はすぐさまコントローラーを置いて、私のほうを見た。それだけで十分であった。

「ううん、何でもないよ」

 私はあふれ出そうな笑みを一生懸命抑えながら、何でもないかのように答えた。

「なんだよ…」

 旦那が良くわからないといった顔で再びコントローラーを持ってゲームを再開した。

「はや……」

 相変わらず、切り替えが早いことで。けれど、私は文句を言わないでいた。

 私達はこれからもつまらないことで喧嘩をするだろう。もちろん喧嘩はしたくはないし、しないに越したことはない。けど、喧嘩をしない夫婦になりたいなんて、綺麗事は絶対に言わない。

「私も、夏くんが好きだよ」

 何故なら、旦那を好きだから。好きであるなら、喧嘩したっていいんだ。そうやって、互いを知っていけばいいのだ。不器用な私達にはそれが丁度良い。

 

 だって、これから何十年も一緒にいるんだから!


【読了後に関して】

感想・ご意見・ご指摘により作者は成長するものだと、私個人は考えております。


もし気に入っていただけたのであれば、「気に入ったシーン」や「会話」、「展開」などを教えてください。「こんな話が見たい」というご意見も大歓迎です。


また、なにかご指摘がございましたら、「誤字脱字」や「文法」、「言葉遣い」、「違和感」など、些細なことでも良いのでご報告ください。


修正・次回創作時に反映させていただきます。

今後とも、【Farfetch'd】をよろしくお願いします。

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