「夫婦という関係に攻略本はない」
うちの旦那はゲームが好きだ。
学生の時から独身の間、趣味と言えばゲームと即答するくらいゲーム廃人であった。たしか、就活の履歴書にも書いていた。聞けば深夜にインターネットで通話をしながら戦争するゲームを朝までずっとやっていたのが日常であったりと、私には到底理解のできない場所にいる事だけは確かであった。
「結婚しても、ゲームはやめない」
そう、プロポーズの後に言われたのを今でも覚えている。
独身の時代、アルバイト先で一緒だったことがある。そういえばその時も、ほかのスタッフとゲームの話をしていたような気がする。私はその時、ゲームが好きな男の子なんだなとしか思っていなかった。私自身もゲームは妹と良くしていたが、私はあまり細かい操作というのが得意ではなく、妹のゲームしているのを見ていることのほうが多いような気がした。
「れなは、あれだよね、不器用」
「失礼だね!」
旦那とゲームをしていると、驚くほどサクサク進んでいて、見ているのが楽しいが、そんな旦那に見られながらゲームをするというのは、凄くプレッシャーがある。だから、私は旦那がゲームをすることを止めようとは思わなかった。
しかし、旦那のするゲームがよろしくなかった。
一緒に住み始めて間もないころ、旦那は『FPS』と呼ばれる、戦争の一兵士になり人間と戦うというゲームをやっていた。インターネットで世界中の人間と一緒にゲームをし、インターネットで通話しながらやる。このゲームはコンピュータ相手に戦うのではなく、人同士がゲームの中で戦うというオンラインゲームであった。ネットの友人がいるらしく、その友人たちとチームを組み、電話をしながら連携して戦うらしい。なので旦那がゲームをやるときはテレビの前の机の上が大変になる。テレビとゲーム機、パソコンが起動し、テレビとパソコンからそれぞれヘッドフォンをつなげ、パソコンからはさらにマイクを引いている。それらを装着、机の上に置き、コントローラーを一生懸命操作している。エンディングのないゲームの何が楽しいのかわからないが、男の子っていうのは戦うことが本能的に好きなんだろう。それ自体は良い。
しかし結婚して一緒に住んでいる1LDKの部屋では、旦那がゲームと通話をしていると私に居場所がないのだ。リビングにあるテレビ、その前に置いてあるテーブルとローソファー、それらを独占されたら、私はどこにいたらいいのだろうか。一人暮らしや独身の時なら別に良いだろう。しかし、一緒に住むとなると別問題である。
ゲームを見るのは好きだ。妹とゲームしているときや、旦那と一緒にゲームするときは見ているほうが多い。しかし、旦那はヘッドフォンをしているのでゲームの音声や向こうの会話は聞こえず、音のないゲーム画面と、旦那の喋る声だけが部屋に響く。ゲームの結果や仲間との会話で旦那が笑ったり、怒ったりする。しかし私は何を話しているのかわからない。旦那の話に混ざれず、ただ旦那の怒ったり、嬉しそうにしている様子を見ているしかない。
――それを見ていても、楽しくはない。
隣にいても私の声が通話に入るのが嫌だし、邪魔をしたくないので、極力音をたてないように部屋の隅で仕事をしたり本を読んで時間をつぶそうとしている。ひたすらに、個人の時間は大切だ、と頭の中で唱えながら。けれど、いくら時間が経過しても本を読む手が、仕事をする手が進まないのだ。
――それはすごく寂しいのだ。
旦那と一緒の部屋にいるのに、まったく一緒にいる気がしない。物理的な距離ではない。精神的な距離。考えすぎかもしれないが、心がすごく離れているような気がするのだ。旦那に無視をされたまま、見向きもされないまま、同じ部屋にポツンというような気がして、すごく悲しくなる。泣きたくなる。
「私をかまってっ!」
「夏くん、こっちを見て!」
「寂しいよ! 悲しいよ!」
そんな言葉が喉元まで出かかて、私は慌てて飲み込む。楽しそうに笑う旦那の笑顔を壊したくはない。言ってしまえば、楽になるだろう。優しい旦那はすぐにゲームを辞めて、こちらに来て抱きしめてくれる。私の寂しさは消える。しかし、それではいけないのだ。私がこんなことを考えていた、感じていたと旦那にばれてしまうと、生真面目で融通の利かない旦那は最後の切り札を、言ってはいけない一言を言ってしまうだろう。
『もうゲーム辞める』
と。それは絶対に言わせてはいけない。「結婚をしてもゲームを辞めない」と言った旦那の最後の砦であり、旦那の唯一の娯楽を奪うことなんて、絶対にしてはいけない。他人から見たら馬鹿みたいに思われるかもしれないが、それを言われてしまったら、私はきっと自分を責めてしまう。
「……」
なので私は今日も何も言わない、言えない。本や仕事で時間をつぶしてはいるが、結局は寂しさに耐えられず布団の中に潜り込んでふて寝をしてしまう。それでいいのだ。
しかし、私の葛藤を知ってか知らずか、旦那は夜な夜な私をほっといて、ゲームをし続けた。
「………」
けれど、寂しさの限界というものもあるのだ。
【読了後に関して】
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