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『うちの旦那は…』  作者: 【Farfetch'd】ネギ愛好家
一章 「うちの旦那は…」
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「はーふ&ハーフ」

 うちの旦那は言葉遣いがおかしい。


 たまに「オネエ言葉」になるのだ。初めに言っておくけれど、うちの旦那にそういった趣味はない、はずである。

「夏くん、たまに変なしゃべり方するよね?」

「んー、癖……かな?」

 旦那は医療系の仕事をしている。毎日何十人と患者と話す必要があり、話し方には注意しているそうだ。曰く、医療関係の仕事だと、「先生」と言われることが多いため、鼻が高くなってしまい、やや高圧的になってしまいがちなのだと。それを避けるために、男性にも女性にも柔らかく接することのできる、中性的な言葉になってたのだとさ。

「やっぱり家でもでてる?」

「うん、たまに」

「うわー。まじかー」

 私が答えると旦那がすごく恥ずかしそうな顔をしていた。普通に話しているときはそんな喋り方はしない。ただ、ふとした拍子に言葉の隅にいるときがあるのだ。それもすごくナチュラルに。 

「新人の時にお前の言葉遣いは言い方がきつくて厳しすぎるって患者からクレームが来たことがあって、先輩から指導を何度も受けたことがあるんだ」

 昔は神様のように崇められた医療職も今や言葉一つ一つにクレームが来るようなサービス業となってしまっている。時代の変化ってのは怖い。インフォームドコンセプトとかいう説明義務、患者主義の治療、患者がどんどんものを言えるということは良いが、サービス業とまで言われてしまうのはどうかと思う。

「夏くんって怖いの?」

 旦那は理学療法士という怪我をした患者にリハビリをする職業である。若い患者もいるが、大体が高齢者である。正確に言うと「先生」ではないのだが、患者から見れば、辛い時にいろいろ言葉通り手取り足取り教えてくれる人というのは「先生」に見えるのだろう。

「なんだか新人のときって、妙に責任感っていうか使命感ってない?」

「使命感?」

「僕はリハビリする人間だから、どうしてもその人を良くしたいって思うんだ。けど、その思いが行き過ぎたとき、それは治療ではなくエゴなんだよ」

 なんだか旦那が思いつめた表情で深刻なことを語りだしてしまった。何か地雷を踏んだだろうか。

「もっと相手の話を聞こうとか、相手と同じ目線になろうって思ってたら、いつの間にかこんな喋り方になってた」

 深刻に思いつめた先の解決策が「オネエ言葉」っていうのもどうだろうか?

「周りから何か言われなかった?」

 旦那は色が白くて細いが男性である。いきなり「オネエ言葉」になったら違和感だらけだろう。私は周りの人間がある日「オネエ言葉」になってたら引く。

「いや、むしろ指導が減って、患者受けが良くなった」

「……。ああそう」

 好評だったようだ。何故?

「べ、別に職場でずっと、その喋り方をしているわけじゃないからね? 患者と一対一で話すときとかだけだからね?」

 私が少し引いた目で見ていたからだろうか、旦那が急に焦りながら弁解し始めた。

「わかってるよ、そんなこと。もし、常時そうだったら単純に気持ち悪いなって思っただけだから」

「れな、何気にひどくない?」

 旦那が何か言っているが無視をした。

「で、患者からはなんて言われたの?」

「患者から『君はあれだね、歌舞伎の女形の役者に似てる』って言われるんだけど、それは褒められているの?」

 そういうことか。

「それはお年寄りからの最高の褒め言葉だよ。顔が整ってるって言われてるんだよ、それ」

 確かに、旦那の肌は色が白いだけではなく、女の私から見ても羨ましいくらいにきれいな肌をしているのだ。なのに洗顔とか化粧水とか一切使っていないのだ。見ていて腹が立つ。交換してくれ。

「なんだが褒められてる気がしない」

 旦那はやはり納得していない表情でそう呟いた。けれど私は少し納得してしまった。多分、いかつい男や毛むくじゃらなおっさんが「オネエ言葉」を使ったら犯罪臭がするのだろう。しかしお年寄りから「女形」っぽいと言われている旦那だからこそ、その言葉がしっくり来ているのだろう。お年寄りも、女形みたいな若いお兄さんが女みたいな喋り方をして話してくれたら、それは嬉しいものなのだろう。なんだか男っぽい解決策ではないが、周りからの受けがいいならいいんでしょう。

「けど、れな。一つ言っておく」

「なに?」

 突然旦那が真剣な顔をして、こちらを向いてきた。いつになく真剣な旦那に思わず私は唾をのんでしまった。


「『オネエ言葉』じゃなくて『中性的な言葉』ね。人をオカマみたいに思わないでくれ」


「は?」

 思いがけない旦那の言葉に、私は思わず聞き返してしまった。

「だって、この場のニュアンスが違くない?絶対僕のこと変な目で見てるでしょ?」

「ソ、ソンナコトナイヨ」

「僕の目を見てから言ってね?」

 旦那は本当に細かいところを気にするのだ。困ったものである。まあ、そんな細かいところまで気を遣うからこそ、喋り方まで変えるなんて言う芸当までできてしまったのだろう。まったく恐ろしいものである。

しかし、

「あらまあ」

 とか、

「~かしら」

 を、家でたまに言われると、本気でビビる。本当にナチュラル言っているあたり、自覚がないのだからたちが悪い。

「ん?」

 私はふと思うことがあった。

「夏くんの患者さんって、女の人多い?」

「んー、たぶん」

「あー、やっぱり……」

 それは「中性的な言葉」でもなく「オネエ言葉」でもなく、単純におばさんとばかり喋っているから「おばさん喋り」になってしまっているのではないだろうか? と思った。しかし、口に出すと旦那が怒りそうなので、心の中にしまっておくことにした。



【読了後に関して】

感想・ご意見・ご指摘により作者は成長するものだと、私個人は考えております。


もし気に入っていただけたのであれば、「気に入ったシーン」や「会話」、「展開」などを教えてください。「こんな話が見たい」というご意見も大歓迎です。


また、なにかご指摘がございましたら、「誤字脱字」や「文法」、「言葉遣い」、「違和感」など、些細なことでも良いのでご報告ください。


修正・次回創作時に反映させていただきます。

今後とも、【Farfetch'd】をよろしくお願いします。

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