「オタクは結婚しても治らない!」
うちの旦那は、世間一般に言う「オタク」である。
アニメ、ゲーム、漫画と、趣味に生きている人間である。それを知って付き合ったし、それを込みで好きになったのだから、後悔はない。それに私もアニメは嫌いではない。いや、嘘です。世間一般の女性よりかは、アニメは好きである。しかし、旦那よりかはライトであると自負している。ニコニコ動画は見るし、カラオケに行けばボーカロイドは歌うし…、あれ私も「オタク」か?
――閑話休題
なにはともあれ、結婚してはや二年。晩御飯のお供はここ最近ずっと、いや一緒に住んでからずっとブルーレイに撮り貯めされたアニメである。または時々午後十時台のニュース。お笑い? 連ドラ? そんなの見たことありません。私は学生時代そういったものは大好きで、いろいろな番組を見ていた。しかし、旦那はお笑いやドラマに一切興味がない。二次元に興味がほとんどないといっても良い。だから今はやっているお笑い芸人の顔や名前が全然わからない。それどころか、ためしに一度お笑い番組を見せたところ、
「なんか見ててイライラする」
と言って、布団に潜り込んでしまった。うちは1LDKのアパートに住んでいる。リビングと寝室は薄い半透明のスライドで仕切られているだけなので、実質一部屋、逃げ場がない。隣でイライラされながら布団で駄々をこねている旦那を横目にお笑いなんぞ楽しめるわけもない。仕方なく、私は歓声が上がっているテレビの電源をそっと落とすことにした。さよならお笑い芸人。
そんなこんなで、二人でいるときはもっぱらアニメを流すのが日常になってしまった。テレビの前のローソファーに旦那とくっつきあって視聴する。旦那は、悪びれるそぶりもなく、子供のように笑いながらアニメを見ている。そんな旦那を見ているだけで、幸せというものである。
『きゃー、エッチ!』
テレビの向こうでは、ヒロインらしき人物が下着姿で立っていた。主人公がヒロインの着替えを覗いてしまったらしく、謝っていたが魔法か何かで吹っ飛ばされていた。
「むぅ……」
最近、こういう『ラッキースケベ』と言われるようなシュチュエーションをよく見かける。特に今のように、季節の変わり目の新番組が始まる頃の第一話に多い。本当にやめてほしい。
――男の人って本当にこういうのが好きよね……
そう思い隣を見た。すると旦那はニヤニヤしていた。なんだか無性に腹が立ってきた。私は、ブルーレイのリモコンを取って、停止ボタンを押した。
「あっ……」
旦那は情けない声を上げた後、無言でこちらを見て、無言で抗議していた。
「ああいうの、嫌」
私はきっぱりとそう言った。大体、新番組が始まると一話だけ見て、視聴を継続するか会議する。基準は簡単である。
「夏くん、私言ったよね、『胸が大きく強調された女の子ばっかりなのは嫌』、『難しい話は嫌だ』、『裸が多く映るのは嫌だ』って」
「むむ……」
旦那が渋々と、次の番組をメニューから探し出す。
――なぜ、そこで嫌そうな顔をするの?
――私という嫁がいながら、二次元の女の子にニヤニヤしてほしくないし、そんな姿を見たくない!
私は、文句が喉元まで出かかったが、飲み込んだ。あんまり言いすぎると、束縛しすぎてしまって旦那に悪い。これでも旦那には譲歩してもらっているのだから、文句を言うのはやめよう。
けど……、
「夏くんは、ああいうの好き……?」
私はリモコンを弄る旦那に、意地悪とわかっていながらあえて聞いた。旦那の動きが止まり、こちらを向く。
「う……」
案の定、旦那が困ったような顔をした。否定してくれないことに対して、少し思うこともあるが、旦那も男の子である。そういうのが好きなのはわかってはいる。わかってはいるのだ。
「夏くんのエッチ」
だからせめて、少しの抵抗として旦那を虐めたくなった。
「めんぼくない……」
そうしょんぼりしながら謝る旦那の姿を見て、無性に可愛く見えた。
「嘘、ごめん。意地悪してた」
私はそう言って、旦那を後ろから抱きしめた。
「私のこと好き、って言ってくれれば、あのアニメ見てもいいよ」
自分でも何を言っているのだろうと思うが、どうしても意地悪になってしまう。
「れなのこと好きだから、見ない……」
意地悪しすぎただろうか、旦那が少しすねたような口調でそう呟いていた。
「もー、可愛いんだから!」
子供をあやすように、髪の毛をわしゃわしゃさせながら旦那を抱きしめた。旦那の匂いがした。旦那が恥ずかしそうなそぶりを見せたが、構わず続けた。
十分に旦那成分を補充し終わると、旦那を解放した。
「じゃあ、ほら次の見ようよ」
「うん」
旦那は、子供のように嬉しそうに頷いて、リモコンを再びいじりだした。新しいアニメが流れ出す。
「どれどれ……」
『キャー、変態!』
冒頭からいきなり、ヒロインの着替えから始まった。私はそっと旦那に微笑みながら、リモコンのスイッチを押した。
《後日談》
夏 「あー、可愛い」
れな「夏くんって、ほんとに白髪の幼女好きだよね? ロリコン?」
夏 「ろ、ロリコンちゃうわ!れ、れなは可愛いと思わないの?」
れな「え? 可愛いと思うけど…」
夏 「ほらな、そうだろっ?」
れな「なんでそんなに焦るの?」
夏 「いや、なんとなく…」
れな「たぶん、夏くんが言うと犯罪臭がするからだろうね」
夏 「ナニソレヒドイ」
れな「あ、この娘めちゃかわっ!」
夏 「貧乳幼女は良いのかよ!あと、人の話聞け」
れな「うるさい、聞こえない」
夏 「……」
【読了後に関して】
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今後とも、【Farfetch'd】をよろしくお願いします。