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第6話

五胡との戦いを終え武威に凱旋途中、蒼と蒲公英は、離れた位置から一刀らと話をしている璃々を観察していた。


「ねぇ蒲公英様、何か璃々様、急に女らしく見えない?」


「うんうん。何か急に色気というか、こう男を引き寄せる感じがね」


二人がじっと璃々を見ていたので、気になった鶸は注意する。


「貴女たちね~何で璃々をじっと見ているのよ!」


「「一足先に大人の世界に行った璃々(様)を」」


「そんな恥ずかしい事、声に出して言わなくていいから!」


二人の回答に顔を赤くする鶸。


「鶸ちゃんも興味あるくせに~」


「そうだよ。鶸ちゃんも恥ずかしがらず一緒に話をしよう♪」


「わわわわ、私は、そういう事には興味が無い訳ではないわけじゃないけど、や、やっぱりこういった時と場所考えて…」


「へぇ~時と場所って、何時何処が良いの、鶸ちゃん」


「教えて教えて♪」


「きゃー何言ってるの、私!」


五胡の戦いに向けて出陣前に璃々の様子がおかしいと感じた蒼と蒲公英は、耳年増並みの知識で璃々が一足先に大人の世界に行った事を察知し、これを翠に言ったところ、翠は一刀に鉄拳制裁を加えていたことは先に書いたが、紫苑についてはその後、普段通りの行動であったので、三人一緒でしていた事は悟られていなかった。


こういう事に興味がある年頃の蒼と蒲公英は、行軍中や戦後の璃々の様子をずっと見てきたが、色んな意味での初体験を飾った璃々を見て、今までの雰囲気が変わった事に気付いていた。


璃々の様子が変わった事に興味が無い振りをして、本当は思い切り興味がある鶸に蒼と蒲公英は、茶々を入れていた。


三人の様子を見ていた碧は、良い意味での変化ということで今後に期待していた。すると横で碧と同じ様に見ていた翠に


「翠、アンタここに居ていいのか?」


「お、お母様、何言っているんだよ」


「全くあの三人を見な、素直じゃないか。早いとこ素直にならないと、お前より先にあの三人の方が世継ぎを産むかもしれないね」


「よよよよ、世継ぎって、気が早すぎるだろう!」


「そうかね。一度結ばれてしまえば、あっと言う間に子が出来てしまう可能性があるんだ。そうするとアンタの立場というもの危うくなるかもしれないよ」


「それどういう意味だよ」


「言葉の通りだよ。いいかい翠、アンタは馬家の頭領なんだ。だけど世継ぎがいない頭領なんて、万が一あった時どうする気だい」


「……」


「仮に世継ぎを産んだとしてもあの三人は、アンタを慕っているし、アンタに変わって頭領の座を奪い取るという考えなんて、これっぽっちも考えていないよ。しかし、周りがそれを許してくれるかどうかだ」


碧は、もし三人の誰かが一刀の子供を産んだ場合、馬家の内部分裂を危惧する。


「だから家の為に結婚しろと?」


「嫌なのかい、アンタ、以前に私に『自分より弱い奴とは結婚しない!』と豪語してたよね。一刀はアンタより強いし、それに容姿や性格も良いし、どこに問題あるんだ」


「だけど一刀には紫苑や璃々がいるじゃないか」


「それがどうした。紫苑や璃々から奪い取ろうという気構えがないのか?だから挑まないと?」


碧は翠に対してけし掛けようとするが


「まだ……よく、分からないよ」


碧から結婚について言われたが、まだ深く考えていなかった翠は、堅い表情をしながら、そう返事をするのが精一杯であった。


「フン……まぁ、アンタが思うようにしたらいい、無理強いはしないよ。でもね、母親としてじゃなく、一人の女として、助言してやるけど、翠。女は、好きな男と添い遂げるのが女に取って一番の幸せさ。それが叶うなら、そうした方が良い、そうじゃなければ一生後悔して生きていくことになるんだからねぇ」


碧は翠を一人で考えさせたかったのか、それだけを言うと馬を前に走らせた。


そして一人残された翠は、思考の海に入ったままであった。


五胡の侵略を喰い止めた事は涼州では既に評判になっていたが、これを聞いて面白くない人物がいた。


「クソ!馬騰軍だけで五胡の侵攻を喰い止めるとは、このままでは儂の涼州での地位が危うくなるではないか!!」


そう叫んでいたのは碧と同じく、西涼軍閥の雄の一人である金城郡太守の韓遂であった。


韓遂は何かと馬騰と張り合い、勢力を拡大させてきたが、一刀たちの登場で流れが変わり始めてきた。


というのは韓遂が治めている金城郡と碧が治めている武威郡は隣接しているが、一刀たちが降りてから、武威郡の住民の生活が豊かになり更に人手を求めているという話を聞くと、軍事優先、更に重税で苦しむ住民は田畑を棄て、碧のところへ亡命する者が後を絶たなかった。


そして今回の五胡討伐で更に碧の名が上がり、自分の涼州における立場が弱くなると肌で感じていた。


「あの忌々しい天の御遣いめ!あいつ等の所為で儂の立場が無いではないか!ムッ……」


今回、五胡の急な侵攻に対し、兵を出す事も可能であったが、韓遂は馬騰軍が苦戦しているのを見計らって出兵していい処取りを狙ったが、結果的に一刀たちが名を上げることとなり、韓遂の目論見は水の泡と消えた。


ずっと部屋で一人文句を言っていた韓遂であるが、途中である事に気付き、今度は小声でブツブツと独り言を言い始めた。


そして漸く考え、漸く結論出たのか


「ワハハハハハ、精々いい気になっているがいい馬騰、それに天の御遣い!この儂の実力を思い知らせてやるわ!!」


そう嘯いた韓遂は、翌日には側近の者を連れて、しばらく金城郡からその姿を消したのであった。


武威に帰ってから、碧たちの忙しさが更に増していた


それは五胡を西涼の連合の力を使わずに馬家のみの力で退け、そして馬家で保護している『天の御遣い』が五胡の総大将を討ち取った事が波紋を呼び、その力に驚いた西涼の一部の豪族は碧の配下して欲しいと頭を下げて来た。


碧は勢力拡大の好機として、基本降ってきた豪族の領土を安堵したが、ただ配下の者や領民からの支持の薄い者については、領主の息子や弟に交代させ、概ねこれが支持された。


そして五胡との戦いが終ってから、珍しく一人で執務室にて政務をしている碧の元に渚(龐徳)がやって来て


「碧様、朝廷からの使者が到着しました」


「そうか、広間に通してくれ」


碧は使者が五胡との戦いでの何らかの褒賞を持ってきたのであろうと考えていたが


「それと…何故か、副使に金城の韓遂殿と一緒なのです…」


「何だと…」


複雑な表情をしている渚の報告を聞いて、碧は顔色を変える。


決して仲が良いと言えない韓遂が何故朝廷の使者と一緒に来たのか、流石の碧も何らかの異変を感じた。


碧は韓遂の存在を聞いて、翠たちが何らかの形で不用意な言動をする可能性があると考え、まず翠たちを外し、そして念のために一刀たちも席を外す形で、取り敢えず碧と渚の二人で朝廷からの使者に会うこととした。


そして使者が現れたが、その横で韓遂が口元をニヤリとしながら登場する。


碧は韓遂を見て、嫌な奴だと思いながら使者の口上を聞く。


「皇帝の名の下に告げる!武威太守馬寿成!不遜にも『天の御遣い』を騙る者たちを匿い、その者を利用して民心を惑わせる等の不貞許し難し!だが今まで汝の功績を考慮し、忠義を示す機会を与える。汝、『天の御遣い』を騙る者を捕縛の上、直ちに洛陽に出頭せよ!」


「な、何…」


「!」


使者の口上を聞いて、碧と渚の頭上に電流が走った様な衝撃を受けた。


「勅命である!」


使者は大声を上げ、書簡を碧の方に向ける。

そして韓遂がその横で勝ち誇った様な顔をしている。それを見た瞬間、これを仕掛けたのは韓遂の仕業であると見たが、今はそれどころではない。


碧は向けられた書簡を見る。


確かに文には尚書令(宮中に詰め、皇帝の文書の管理をつかさどる秘書官の役)の刻印が押されている事から、正式に朝廷からの書簡である事は一目瞭然であるが、このまま一刀たちを朝廷に渡す事はできないと碧は覚悟を決め、敢えてそれを逆手に取る。


「この馬寿成!真の勅命であれば命に従う!!だが、この書簡には天子の印璽が無いではないか!!このような命は受けられぬ!!」


「何、馬騰!貴様、勅命に逆らうのか!?」


碧の思わぬ反論に流石の韓遂も驚きを隠せない。


碧は反論をして、逆賊覚悟で一時的な時間稼ぎをして何とか今後の対策を練り、最悪自分の命と引き換えにしてでも馬家の延命と一刀たちを逃がす事を覚悟する。


まずはこの場では勅命を受けない事が、一番重要である。


「この馬寿成、逃げも隠れもしないよ!私を命令したければ天子の印璽を持ってきな!!」


碧の生死を賭けた啖呵に正史は明らかに動揺して、口をパクパクさせ、そして韓遂も動揺はしていたが正使より落ち着いており、この場での勅命拒否と判断して


「フン、次会う時はお前が捕縛される時だな!」


何とか強気な捨て台詞を吐き、正史と共に城から出たのであった。


「碧様……」


使者が去ってから、渚は碧に声を掛けるが、次に出る言葉が続かない。


「……渚、大至急皆を集めな」


碧は堅い表情を崩さず、そう命令しただけであった。


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