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第41話

「月、賈駆っち、大変や!」


「どうしたのよ、霞。そんなに慌てて」


張遼がここまで血相を変えて執務室に走り込んで来たので、二人は余程の事があったと瞬時に判断できた。


「潼関に派遣されてた皇甫嵩と盧植の二人が一戦も交えずに維新軍に降伏したんや!」


「えっ……」


「何ですって!!それどういうことよ!!」


董卓は明らかに動揺し、賈駆は張遼を問い詰める。


「詳しいことは分からんが劉協様が皇甫嵩と盧植の二将軍に降伏の説得行ったところ、二人がそれに応じたらしいんや」


厳しい表情をしたままの張遼から取り敢えずの経緯を聞くと董卓と賈駆の二人はがっくりうなだれる。


官軍の協力を得て何とか一刀たちと決戦を挑み勝利し、返す刀で袁紹ら連合軍に勝利してこそ、自分たちの力を保持できる唯一の方法であったが皇甫嵩らが降伏したため兵力差が寧ろ維新軍の方が優位に立った現状、董卓軍が維新軍と袁紹の両方と戦をすることは事実上無理な事だと誰の目でも明らかであった。


「何、考えているのよ!あの二人は!!このままじゃ私たち……」


「何を言っているのです。恋殿が居れば維新軍など簡単に撃退できるのですぞ!」


「ねね、維新軍は黄巾党とちゃうでアホな事言うんはやめときぃ」


「なんですと!」


「やめなさい!」


「詠、ちょっと黙っておくのです!」


「ねね、いくら恋でもそんなこと出来る訳無いでしょ!?」


「恋殿を舐めるななのです!維新軍など簡単にやっつけてしまうのです!」


「そうだ!この私も居るのだ!維新軍など鎧袖一触だ!」


ねねこと陳宮と華雄が意気盛んに戦うことを主張するが


「ねね、華雄!お前らアホか!維新軍は官軍、ウチや曹操、孫堅らと戦って打ち破ったんや。そんな相手を恋一人で勝てる訳ないやろ!二人ともそれくらい分からんくらいアホなんか!!」


「なんですと!」


「な、何だと!張遼その言葉聞き捨てならん!!」


「喧嘩は止めて下さい!喧嘩は…」


これ以上の混乱を避ける為、普段物静かな董卓が大声を上げて仲裁に入る。そして感情が込み上げて辛い表情を浮かべる。これを見て皆、神妙になり


「……詠、霞、華雄。ねねが悪かったのです。きちんと策を建てて対応を考えるのです」


「……ボクも悪かったわ。そうね、ねねの言う通りだわ」


「……うむ。私も、悪かった」


「……悪いな。ウチも言い過ぎたわ」


「……喧嘩、良くない」


最後に呂布が注意して取り敢えず騒ぎは収まった。


「さて…皆も聞いてとおり、皇甫嵩と盧植が維新軍に降ったわ。兵の数はこれで向こうが上回る形になった。でもボクはまだ諦めない。絶対に維新軍と袁紹たちを打ち破って月の天下を作り出すのよ!」


「……詠、維新軍と戦わない方がいい」


賈駆は皇甫嵩と盧植が降った現状においても徹底抗戦の意志を見せるが、何とここで反対したのが呂布であった。


「れれれれ…恋殿!どうしたのですか!」


「恋、どないしたんや。あっ…そう言えば前も似たようなこと言っていたよな。何かあるか維新軍に?」


「分からない……でも恋の勘がそう感じている。それに何か懐かしい匂いがする」


「恋、なんやその懐かしい匂いって?」


「……分からない」


「恋の勘か…これは馬鹿には出来んな。なあ、賈駆っち維新軍に降伏したら頭下げたらどないや。袁紹と違って、向こうには翠たちもおる月の命まで奪うようなことはせんやろ」


「駄目よ!ここで引いたら月の天下の道は無くなるわ!私たちは前に進むしかないのよ!!」


賈駆は呂布と張遼の話に応じず、尚も戦いを主張するが、そんな中一人の兵士が伝令としてやって来た。


「し、失礼します!只今、維新軍からの使者が来ました!!」


話は少し遡って、皇甫嵩と盧植が降伏し一刀たちが潼関にやって来たところまで戻る。


「北郷一刀様、話は白湯様から伺いました。本当に劉弁様や董卓殿の命を救っていただけるのですか」


皇甫嵩が一刀に念押しという意味で確認する。


「ああそれは保証するよ。俺自身も二人の命を更々奪う気は無い。ただけじめとして皇帝と相国の座は降りて貰う以外他に条件は無い」


「二人の命を助けて貰えるのは嬉しい事ですが……何故そこまでするのですか」


盧植はそれぞれの位から降るだけでそれ以外の条件が無いという事に驚きを隠せなかった。普通であれば敗者として見せしめとして先に上げた条件以上の処分をするからだ。


「白湯にお姉さんの命を助けて欲しいと頼まれたというのもあるけど、でも二人とも時代の犠牲者だと思うんだよ」


「時代の犠牲者ですか?それはどういう意味ですか?」


一刀の言葉の意味が今一つ理解出来なかった盧植が尋ねる。


「……二人は今まで漢王朝の色々やらかしてきた負の遺産を結果的に背負う形だけで二人だけの責任では無い。寧ろそれまでの為政者たちの責任だと言っても良い。今こそ、漢という国の負の連鎖を断ち切る時期だと思っている。だからそんな状況で二人の命を奪おうとは俺は考えてないよ」


皇甫嵩と盧植は一刀の話を聞いて、一刀が劉弁と董卓の地位を奪い取ると言っているのは、その地位の重圧から解放させるためだと理解したが、逆に一刀からこう言われている様にも聞こえた。


”貴女たちは漢の将でありながら何をしてきたのですか”


勿論一刀は二人にそう思っている訳では無い。皇甫嵩と盧植も出来る限りの事はしてきたが、どうしても権力の中枢から離れている身では限界もある。だが敵であったはずの一刀がここまで漢の事を理解して尚且つ、劉弁だけでは無く一方の勢力を張っている董卓の事を理解をして生かそうすることに二人は一刀の度量に感服するしか無かった。


二人は一刀の力量を認め、何進に預けていなかった真名を一刀に預けたのであった。


そして一刀たちは現在函谷関にいる董卓軍の交渉をどうするか軍議するのであったがその席上、一刀が


「……董卓さんの直接交渉に俺も行っていいかな?」


「まだ敵地なのに自ら捕まり行くなんて何考えているんだよ!!」


「ハァ!?何を言っているのご主人様!」


翠や璃々らは当然反対の声を上げるが、紫苑は一刀の言葉に何か理由があると判断して言葉を発せず黙って見守っている。


「ご主人様、自ら行くというのは何か理由があるはず、その理由を聞かせて貰えますか?」


紫苑の意図を察知したのか、真里が代わりに一刀に尋ねる。


「ああ…正直に言うと時間が欲しい。時間を掛けてお互い交渉していると連合軍が集結してしまいそれを迎え撃つ準備の時間が少なくなってしまう。だから董卓さんと直接交渉した方がいい」


「気持ちは分かりました。でもやはり相手の本拠地に行っての直接交渉は危険です。まずは使者を立ててお互いの中間地点で人数を取り決めて交渉にすべきです」


真里の意見は直接交渉反対派も何とか妥協出来る線にしたが、そんな中紫苑が


「ご主人様の意見は分かりました。もし直接交渉に董卓さんが出てこなかったり、向こうが交渉を拒否した場合はどうされますか?」


「……直接交渉に出てこない場合はその時に対応を考えるが、もし向こうが交渉を拒否した場合は戦わざわる得ないだろうな。差し出した手を向こうから払われたらどうしようも無いし、変に下手に出ればこちらが舐められてしまうからね」


「分かりました。ご主人様にその覚悟あれば交渉の使者を送りましょう。では誰を送るかですが…」


「紫苑様、その役目、私たちが負いましょう」


「いいのですか?貴女たちは劉弁様や董卓様の事を想い降伏したのは承知していますが、今、使者に行けば殺される可能性がありますわ」


何と使者に名乗りを上げたのは皇甫嵩と盧植の二人であった。


「それは承知の上ですわ」


「先帝の遺言状がある事情を知った今、董卓殿には事情を説明して降伏を促してこれ以上の流血を避けるようにします」


「ふむ……では俺も付いて行こう。俺が行けば向こうも二人には手荒な真似しないだろう」


董卓と面識があり皇甫嵩と盧植と盟友でもある碧が同行することを言い出すとこれに反対する者も無く、まずはこの三名が董卓の元へ使者と訪れたのであった。


話は元に戻り、三人は董卓らと面会するが、賈駆は皇甫嵩と盧植を見るなり


「アンタたち、自分たちが助かりたいが為によくも私たちを売ったわね!!」


皇甫嵩と盧植は罵倒されることは覚悟していたので賈駆の暴言を甘んじて受け入れるつもりであったが、これに対抗したのが同行していた碧であった。


「おい詠、それを言うならお前たちも朝廷の命とは言え盟友とも言える俺たちを攻め込んで、その後の詫びの一つも言ってこないお前らはどうなんだ。朝廷の命に従ったという時点で命が惜しかったんだろう?命が惜しいという点でこの二人とどう変わるか説明してくれよ」


「そ、それは……」


碧の言った事は詭弁とも言えるが、董卓たちは一刀たちを攻撃した後、孫堅の直接謝罪したことと違い、その後の謝罪の使者を送っていなかったこともあり賈駆は強く言い返すことが出来なかった。


「まあ碧、落ち着きなさい。私たちは喧嘩しに来た訳じゃないでしょう。話し合いに来たのでしょう」


このまま口論になりそうな処を皇甫嵩が宥めて、そのまま董卓に話しかける。


「董卓殿。このまま戦えばでは北郷様と袁紹に挟撃される事は必至。北郷様は董卓様の命を救いたいとお考えで董卓殿が降伏すれば命は必ず保証すると言っておられます」


「何故私たちが謀反人に降伏しないといけないのよ!」


皇甫嵩が董卓に降伏するように促すが賈駆が直ぐに反対の声を上げる。


「謀反人ね……」


「なあ詠、それは誰が誰に対しての謀反なんだ?」


「ハァ!?何言っているの、アンタたちが劉弁様や私たちに対しての謀反に決まっているでしょう!」


「劉弁様か……なあ詠、劉弁様の地位は劉宏様から認められたのか?」


「それはどういう意味ですか?」


ここまで黙って聞いていた董卓が碧の言葉に何かを感じ質問する。


「月……劉宏様の遺言状と言えば分かるか?」


「まさか…その書状が御遣い様のところに」


董卓の言葉に碧は黙って頷くが


「嘘よ!そんなの信じられないわ!!私たちを騙す方便よ!!」


「賈駆、書状は間違いなく亡き皇帝陛下の物。少なくとも私たちは貴女より亡き陛下の書状を見てきてるわ、本物に間違いないわ」


朝廷内でも将軍で学者として名高い盧植から回答があると賈駆は返す言葉が無かった。


「碧様……もし私たちが降伏すれば全員の命を保障してくれるのは間違いないですか」


「ああ、月。こちらの条件は董卓軍の降伏及びケジメとして相国の辞任、それを一刀様との会談で認めることだ」


「分かりました。返事は御遣い様との会談する時にお答えしますが、私も維新軍との戦いでこれ以上の流血が出るのは本意ではありませんとお伝え願えればと」


碧から降伏の条件が伝えられると董卓は即答を避けたが、暗に降伏を仄めかす回答した。


これを聞いた碧たちは双方の中間地点において連れて行く兵数を決めて一刀と董卓との会談するが決まった。


碧たちが一刀のところに帰った後、董卓が賈駆たちに頭を下げ


「すいません。私の力ではここらが限界の様です。私は御遣い様に臣下の礼を取ります」


「仕方ないやろ、あの兄ちゃん(一刀の事)やったら月の事、悪い事にせえへんやろ」


「私はどんな事があって董卓様に従います」


「……その方がいい」


「悔しいですが、仕方ないのです」


「何言っているの、皆!まだ私たちは戦えるわ!!」


張遼たちは降伏止む無しという考えに至っているのに対し、賈駆は尚も戦いを主張する。


「なあ…賈駆っち、月の天下の為に意地張りたいのは分かるけど、このままやったら天下どころか月の命も危ないわ。ここは頭を下げてでも月の命を守ることが大事とちゃうんか」


「でも…」


「詠ちゃん、詠ちゃんも知っていると思うけど、以前御遣い様とお会いしてあの方の強い意志を感じたの。あの方は大事な人たちを守る為なら皇帝陛下でも殺すと言ったことがあるの、だから御遣い様が私の命を保障するという約束は守ってくれると思う。だから詠ちゃん、一緒に降伏しよう」


だが賈駆は董卓の問いかけに黙り込んで、口を開こうとはしない。


「……詠ちゃん…どうしてそこまで意固地になるの?」


「……」


董卓は更に賈駆に問いかけるが、賈駆はひたすら黙り続ける。


「詠ちゃん……私の事を思ってくれるのは嬉しいけど、今の詠ちゃん、冷静な判断が出来ないと思う。だから一人になってまずは落ち着いてから考えようね」


現状では冷静に判断できない賈駆を見て董卓は優しく言葉を掛けて、賈駆を落ち着かせる為、張遼たちを連れて部屋を出て行くのであった。


董卓たちが部屋を出て一人取り残された賈駆は


「許せない…許せない。北郷一刀。ボクの月の天下統一の夢を奪い取るなんて」


そう言いながら賈駆の目には狂気の意志が宿っていたのであった。

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