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第38話

一刀たちが洛陽に向け出兵する少し前、各地で反董卓への気運が高まっていた。


~南皮~


「ホ―――ホホホホ!皆さん!!遂に時は来ましたわ!これからは私の時代が始まりますわ!!」


冀州袁家の当主で見た目豪奢な金髪の巻毛で、胸は紫苑に負けず劣らずの大きな胸を持ち、そして名門の血筋を誇りとしている袁紹こと麗羽がけたたましい高笑いをしながら自分の時代が到来したと周りに宣言する。


「麗羽様――何か悪い物食べたんですか?」


「麗羽様……」


「ハァ……」


この麗羽の言葉に文醜こと猪々子、顔良こと斗詩、そして田豊こと真直が呆れた表情を浮かべる。


「何を言っているのですか、三人とも!!あのにっくき十常侍とそして名門であるこの私を差し置いて大将軍となった何進さんが同時に居なくなるなんて田舎者の董卓が始末したに違いありませんわ!!」


袁紹は十常侍と何進が相次いで亡くなったのは全て董卓の仕業と思っていた。


「でも麗羽様、その様な証拠が……」


側近である顔良が袁紹を宥めようとするが、自説を曲げない袁紹は更に熱弁を振い


「いいえ斗詩さん!田舎者の董卓が相国になったのがその証拠!!劉弁様を強要して相国になったに違いありませんわ!!」


ここまで頑なに自説を唱える袁紹を引き留める術が無いと分かっている袁家の頭脳と言われる田豊が麗羽の袁家の天下を考え麗羽の覚悟を問う。


「……もし麗羽様が覇を唱えたいと言う強い意志をお持ちでしたら、今後麗羽様ご自身に降りかかる可能性がある汚名、悪名、全て被る覚悟は御有りですか……?」


「オ―――ホホホホ!覚悟は当然ありますわ!!そしてこのわたくし以外に劉弁様を救う者はいませんわ!!」


自分に酔っている袁紹に田豊の言葉が届いたかどうか分からないが、袁紹は田豊の言葉を承諾する。


「それより三人とも諸侯に檄文を送りますわよ!」


「真直さん!檄文の内容は貴女に任せますわ!!今も董卓に操られている劉弁様を救いに行きますわ!そしてこの私、袁本初が諸侯を引き連れて劉弁様を助けに行きますわよ!!オ――ホホホホ!!」


袁紹の高笑いは部屋中に響き、そしてその後田豊が苦心して出来上がった檄文は各諸侯に送られたのであった。


~陳留~


「麗羽にしてはよく出来た文章内容ね……いやあの麗羽が考えた文章では無いわね。恐らくは田豊が考えたのでしょう」


曹操は袁紹から来た檄文を読んで呟くが、袁紹がのし上がる為に無い知恵を絞ってこのような手段を考えるとはあからさまではあるが袁紹としてはやるわねと思っていた。


「それで桂花、貴女はこの檄文を読んで参加した方がいいかしら?」


「んっ……ぺろ、ちゅぷ。で…ですが、あの袁紹から書状が来て従うのは……」


玉座に座っている曹操の足を舐めながら桂花こと荀彧が不服そうに言ってきた。


「麗羽から檄文が来たことはどうでもいいわ。これを切っ掛けにしてこの曹孟徳がのし上がる好機よ」


「は、はい……ん、じゅる……ちゃぷ」


曹操の言葉を聞きながら恍惚な表情をして曹操の足を舐める荀彧。


「それにこの先、私の前に立ちはだかる者を見定めるのにも丁度良いわ。それに何れはこの私を『おぼこ』呼ばわりをした北郷紫苑と北郷璃々を私の目の前で屈服させて何としても手に入れたいの」


「……そのような胡散臭い者を華琳様の横に…」


荀彧は曹操と紫苑、璃々との経緯を聞いていたので、紫苑や璃々の存在が疎ましいと思っていた。


「あら桂花、嫉妬なの……フフフ…可愛い桂花……でもね、私は手に入れたい物はどんな事をしても掴み取ってきたわ。だから天下と狙った獲物は必ず手に入れるわ。だから桂花、私の野望に付いて来なさい」


「は、はい!この荀文若。華琳様の為でしたらどんな困難も打ち破ってみせます!!」


「ふふっ。期待しているわよ桂花」


「はい!」


「素直でとても可愛いわね桂花。今夜は特別にたっぷりと可愛がってあげるわ」


「あぁ、華琳さまぁ~~~!」


~平原~


「ねえ皆、袁紹さんからこんな書状が来たんだけど…」


劉備は袁紹から届いた檄文を皆に見せ、その書状には洛陽で民が苦しんでいることも書かれていた。


「これが事実だったら董卓さんをやっつけてみんなを助けてあげないと!!」


「この噂は既にこの中原では広まっていると言うのでないか!そして洛陽の民は董卓の暴政によって苦しんでいるそうではないか!」


「お姉ちゃんの言うとおりなのだ!そんな奴は鈴々がギッタンギッタンにやっつけてやるのだ!」


書状を見て劉備は勿論、義姉妹である関羽こと愛紗や張飛こと鈴々は憤慨して今にでも洛陽に向けて兵を出しそうな勢いを見せる。


「ちょ…ちょっと待って下さい桃香様!この書状が事実かどうか…」


「朱里ちゃんの言うとおりです。これが間違いであれば私たちは朝敵になる恐れが…」


劉備の軍師である諸葛亮こと朱里や龐統こと雛里は取りあえず三人を落ち着かせようと諫言するが


「朱里、雛里。まさか参加するべきではないと考えているのか?」


「はわわ、そんな事は…」


「あわわ…私たちは桃香様の事を案じて…」


関羽の脅しとも言える睨みで怯える二人であるが、何とか勇気を振り絞って言葉を返す。


「愛紗ちゃん。そんな目で睨んじゃ駄目だよ!朱里ちゃん、雛里ちゃん、何でそんなにためらっているの?」


「そ、それは…まず洛陽で十常侍と何進様が同時に殺害したのが董卓さんかどうか怪しいんです。もしもこれが袁紹さんによる策略だとしたら私達はその片棒を担がされることになります」


「だが朱里よ。董卓が相国に就任したのは両陣営の者を殺害したからこそ出来たのではないのか?」


「それはそうですが…」


「私たちも何とか洛陽の様子を調べようとしているのですが、密偵の人たちが帰ってこない状態で……」


「朱里ちゃん!雛里ちゃん!!それはつまり董卓さんは私たちに知られたくない事があるって事だよ!!だからきっと董卓さんが洛陽で民を苦しめている事に違いないよ!!」


「朱里、雛里。桃香様が前陛下から漢の血筋と認められ、漢皇室の危機であり民が苦しんでいるかもしれないと言うのに躊躇することは我慢ならん。此処は何が何でも参加するべきだと思うが」


劉備と関羽の言葉に決断が揺るがないと判断した諸葛亮と龐統はお互いにアイコンタクトを取り


(「……平原は袁紹さんの領土と近くで参加を拒否すればどんな目に遭うのか…」)


(「そうだね朱里ちゃん、いざとなれば袁紹さんの圧力で仕方無しに付いたという態にすれば…」)


「桃香様……本当に参加でいいですね」


諸葛亮は劉備に最後に確認するが劉備は躊躇することなく


「勿論だよ!朱里ちゃん!!皆で洛陽の人達と皇帝陛下を助けに行こう!!」


~呉郡~


「フン…連合に参加せよ。これは間違い無く茶番だな」


袁紹から来た檄文を興味無さそうに見る孫堅こと炎蓮であるが


「ですが炎蓮様、我々は知っているから良いものの、御遣い殿が霊帝様の遺言を持っているなど袁紹にすれば想像外でしょうな」


「そうだな……」


「それで…炎蓮様。我々はどう動くおつもりですか?」


孫呉が誇る軍師である周瑜こと冥琳が炎蓮に確認する。


「……よし!決めた!!我々は連合に参加するぞ!!」


「ちょっと待ってよ!お母様!!一刀を裏切るつもり!?」


炎蓮の連合参加に孫策こと雪蓮が反対する。


「まあ待て雪蓮、この俺が一刀を裏切る訳ないだろう」


「じゃあどうして連合に参加すると言ったのよ!」


孫策は孫堅の意図が分からず不満の声を上げるが、冥琳が微笑を浮かべ


「なるほど…我々が獅子身中の虫となり御遣い殿に情報を渡すという訳ですな」


「ああ冥琳その通りだ。俺たちが仮に御遣い殿に合流するにしても連合側に付くと思われる袁術や劉表らと一戦交える可能性がある。そうなると連合から俺たちも董卓ら同様に袋叩きに遭ってしまう。幸いにも今向こうには蓮華がいる。蓮華を使って向こうの情報を得てそれを利用してやるのざ」


「そう簡単に行くかしら?」


孫策は孫堅の策に疑問の声を上げるが孫堅は意に帰さず


「何、伊達に歳は喰っておらん。袁紹の小娘などあしらって見せるわ。それとだ、今回の遠征だが儂と祭、それと粋怜、思春と明命を連れて行く。後の者は留守番だ」


「ちょっと待ってよ!お母様!!それどういう意味よ!!」


「そうですよ大殿!!何で私たちが留守番なの!」


孫堅の発言に孫策と太史慈の二名が真っ向から反対の声を上げた。


「……まあ落ち着け…雪蓮、梨晏」


「冥琳、何でそんな冷静なのよ!!」


「そうだよ――!こんな大戦に参加できないなんて武人にとっては屈辱だよ!!」


「炎蓮様……この大戦の隙に私たちに袁術を倒すというお考えで」


「ほう…冥琳、俺の心の内を読んだか」


「ええ、大殿がただ私たちに留守番を命ずるはずがありませんから、思春や明命の両名を連れて行くのは御遣い殿の連絡役や袁紹らの動向を探るためでしょう」


「その通りだ、冥琳。この好機を逃すほど、俺は呑気ではないからな。そして改めて一刀に俺たちの力を見せつける必要があるからな」


「分かりました炎蓮様。袁術攻略は我々にお任せを。雪蓮、梨晏二人とも異存はないな?」


「仕方ないわね…まあ袁術には今までの恨みがあるからそれを晴らす好機だから我慢するわ」


「雪蓮の鬱憤晴らしされる袁術軍が気の毒かもね」


「梨晏それどういう意味よ!!


孫堅軍は自ら埋伏の毒となる覚悟を持って連合軍に参加することを決断した。


~洛陽~


一方、賈駆は連合軍の動きを察知して袁紹の檄文を手に入れていた。そして苦虫を噛み潰した表情で賈駆は玉座の間に集まった者にその書状を回し始めた。


「早速だけど。皆、これを見て頂戴」


「賈駆っち?これに何が書かれて……って何やこれは!?何書いてねん!?」


「どうした張遼、何を大声で驚いて……何だと!?」


まるで汚らわしい物かの様に賈駆から渡された書簡を受け取った張遼は目を通すと唐突に驚きと怒りを爆発させる。


その張遼の様子を見て横からそれを覗き込んだ華雄も怒りを露わにする。


「……………………」


「なっ!?なな、何ですと―――!!」


もう一枚、同じ紙を渡された呂布は、表情を動かす事無く読み流すが表情は硬い。そして呂布の傍らに控えていた陳宮は食い入るように紙面に目を通した後、呂布の分を足したか様に驚愕の声を上げた。


「皆、読み終わっ……」


「詠!なんやこの胸糞悪いもんは!!」


「これはどう言う事だ!賈駆!!」


賈駆が皆に読み終わったわね、と言い終わるよりも早く張遼と華雄が怒声を発して賈駆に詰め寄るが、あまりの大声に董卓と賈駆は耳を塞ぐが、二人とも耳を防ぐのが間に合わなかった様で大声の衝撃で一瞬身体がふらつく。


「うっさい、二人とも!!そんなに大声出さなくても聞こえるわよ!」


耳を塞いでいてもよほど頭に響いたのか、賈駆も二人に劣らないくらいの大声で怒鳴り返した。


「へ、へぅ~」


「――ああっ!? ご、ごめん月!?」


賈駆がまた大声を出した結果、隣にいる董卓が止めの被害を受け、ふらつく董卓の小柄な身体を賈駆は抱きとめる。


「あ~……ごめんな月。あんまり吃驚したんでつい――」


「――も、申し訳ありません董卓様! 私もつい!」


「…………月、だいじょうぶ?」


「へ、へぅ。あ、大丈夫です恋さん。霞さんも華雄さんも、行き成り倒れてすみません」


 賈駆に肩を借りる董卓に、呂布が心配そうに声を掛ける。


「月が謝る事無いわ。あの二人が突然叫んだのが悪いんだから!」


「そう言う詠こそ、そこの二人に負けないくらいの大声が出てましたぞ」


「ぐっ……う、うるさいわよ、ねね!」


ふらつきながら弱々しい笑みを浮かべる董卓に肩を貸したまま、賈駆は張遼達を睨みつけるが呆れた表情で陳宮ことねねが突っ込みを入れる。


「……その様子やと悪い冗談やないという訳やな」


 賈駆の怒りがまだ醒めない様子を見て、張遼は眉間に皺を寄せ厳しい表情を見せる。


「冗談だとしても最悪の部類に入るけどね……!」


「詠ちゃん……強引に私が相国に就いたのが不味かったじゃ…」


「違う!月は何も悪くない!悪いのは今まで散々悪い事をやって来て月に後始末をさせている十常侍と何進、それにこんな檄文を作って月を悪者にでっち上げた袁紹よ!!」


「でも、陛下も袁紹さんの檄文を聞いてから御姿を御見せにならないよ……」


「それも今回の檄文に関係してるわよ。絶対!もしかしたら何太后も絡んでいるかもしれないわ!!だから月、ここで弱気になっちゃ駄目!!」


今までの疲れもあるのか弱気な表情を見せる董卓を賈駆は必死になって励まそうとした。


「せや、月はなんも悪うない。今もそないにふらつく程、都に暮らしとる皆の為に頑張っとる」


「張遼の言う通りです。我らの行いは天下万民に対して恥じるところなど何一つとしてありはしません!」


賈駆の言葉に張遼や華雄は凛とした言葉でそれに続いた。


「……敵が来たら恋は月を守る」


「呂布殿が行くのであれば、ねねもどこまでも着いて行きますぞー!」


淡々とした口調ながらも呂布はその双眸に決意の色を滲ませ陳宮も呂布の言葉に続き気勢を上げる。


「……皆さん」


その場に居るすべての者から励まし言葉を受けた董卓は感動のあまり目元が潤んでいたがそれを拭いとはっきりとした口調で


「詠ちゃん、霞さん、華雄さん、恋さん、ねねちゃん」


 一人一人の顔を見ながら、名前を呼んでいく。


「すみません、皆さんの力を貸して下さい」


その表情から先程の弱気の表情を消えていた。


「任せて、月!」


「月、よっしゃ!戦いはうち等に任せとき!」


「我が武、愚か者共に見せつけてやります!」


「……恋、がんばる」


「ねねもやりますぞー!」


董卓軍が新たな決意を見せたところ――――取次の者が血相を変えて飛び込んで来た。


「も、申し上げます!!維新軍が天水(董卓軍の本拠地)を無血開城させ、更に洛陽に向け進軍をしようとしています!!」


この言葉を聞いて、董卓軍は衝撃のあまりしばらく言葉が出なかったのであった。


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