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第30話

改めて一刀たちは璃々から開拓村の開発状況及び張三姉妹の状況を確認した。


開発について元々西涼は未開発の場所が多いので黄巾党の残党や洛陽の流民などが入植したこともあり今後期待できるが、しかし当面の食料確保が期待出来ないので璃々は西涼の乱に官軍が置き去りにした物資と黄巾党討伐時の褒賞による物資の余剰を回していたので食料面での問題は無かった。そして璃々の知識、菫(姜維)による人員配置、陳登の農業知識により開発は順調に進められていることが分かった。


そして張三姉妹については当面開拓村のみの巡業だけ継続して、何れは涼州内での興行も検討するという方向を確認した。


一刀はこれとは別に璃々に姜維と陳登の事について聞く。


「菫は何故か私を慕って来たんだよね。それで喜雨すう…おっと陳登は私が開墾していた時、私がその農地の肥料に石灰やら色んな肥料を使ったんだけど、たまたまこの地を旅していた陳登は今まで見た事無いやり方だと驚いて教えて欲しいと言ったから、私が条件として私の手伝いをして欲しいと頼んだら本人も承知して、それでお互いの知識を融合する形で開墾事業を進めてくれてるんだ」


「璃々、それは分かったが…陳登は客将と言っていたけど、それは何か理由があるのか?」


「うん…何れ彼女徐州に居るお母さんの陳珪さんのところに戻るからと言っていたけど…でも彼女何かお母さんと上手く行っていないみたい」


「どういう事?」


「うーん、彼女はお母さんを嫌っている訳じゃないけど、はっきりと言わなかったけどお母さんの政のやり方が気に入らない様な言い方に聞こえたよ」


「……ご主人様、憶測ですが陳登ちゃんは農業を専門でどうしても民から目線になるけど、陳珪さんは治世者としてどうしても民だけでは無く中央や州牧等様々の人達と色々な駆け引きをします。それは陳登ちゃんがまだまだそう言った面で純粋だから素直にお母さんの考えが受け入れにくいのでは…」


「その可能性はあるな…璃々の話を聞いている限りではお母さんの陳珪さんは現実的で実務家、陳登ちゃんは理想を追い求める研究家という感じだから、どうしても理想と現実という面で考えにズレが生じてしまうよな」


「ですが…今、ここで私たちがとやかく言っても仕方がありませんわ。折角ですからまずは陳登ちゃんに私たちに仕えるかどうか確認してみましょう」


紫苑の意見に一刀も同意し、陳登を呼んで自分たちに仕える意志を確認するが…


「話はありがたいけど、僕は何れ徐州に帰る身。残念だけどこの話は受けることができない」


陳登はあっさりと一刀の話を断った。


「そうか残念だけど仕方ないな……じゃ今までの報酬という形でこれは受け取ってくれないか」


一刀は陳登の言葉に強い意志を感じ勧誘を諦め、その代わりかなりの額の報酬を渡そうとする。


「えっ…こんなに。でもこれだけの大金受け取れない。それだけあれば農民の生活向上に役立てて欲しい」


一刀が陳登に渡そうとしたお金はかなりの額でこれには流石の陳登も驚いたが、尚も報酬を受け取る事を固辞しようとしたが


「陳登ちゃん、これは貴女への正当な報酬よ。立派な仕事をしたからには私たちは貴女に報酬を出さないといけない。これだけのお金を出すということは、貴女はそれだけの仕事をした証よ。それを受け取れないということは貴女が今まで培ってきた自分の技術を卑下しているのと同じ事。それにお金さえあれば緊急時、何かしら役に立つわ。それに農民への手当も今の所大丈夫だから心配する必要はないわよ」


紫苑からそう言われると陳登はこれ以上断るのは失礼だと思い、漸く報酬を受け取った。


そしてその場を去ろうとする陳登に一刀が一声掛ける。


「陳登さん、璃々から話を聞いて第三者が勝手な事を一言言わせて貰うけど、君がお母さんの事をどう思っているか分からないけど…親というのは何時までも居ないからね。もし何か蟠りがあるのならお母さんと一度とことん話したらどうかな?事情を知らない者が勝手な事を言って申し訳ない」


陳登は一刀からそう言われると無言で一礼してこの場を去った。


「どうしてあんな事言ったの?」


璃々は一刀に陳登に母親と和解を勧めるような発言をしたのかその真意を確認した。


「そうだね…親というのは子供が大きくなっても何らかの心配はするもの。だから修復できない親子関係ならいざ知らず多少の蟠りなら溝が深くならないうちに修復した方がお互いの為だよ。俺たちもなんだかんだ言って璃々の事は心配しているよ」


「うん…心配してくれてありがとう」


璃々は一刀から話を聞いて笑みを浮かべて礼を言った。


丁度、一刀たちがそのような話をしていた頃、洛陽では…


後漢王朝第12代皇帝『劉宏』の崩御の時を迎えようとしていた。


「陛下……ご遺命を…」


劉宏の傍で張譲が最期の言葉を聞こうとする。


「陛下!この弁に皇帝の座を就けると明言して下され!」


無言の劉弁を抱きしめながら何太后が劉宏に詰め寄ろうとするくらいの声を出す。


この場に何進もいるが流石に場所が場所だけに何太后のこれまでの行動について問い質す事はできない。


劉宏は何太后と劉弁を一瞥だけして


「…瑞姫(何太后の真名)…お前か。……弁よ…決してお前は母を真似るではないぞ…」


劉宏は何太后に対してこの一言言っただけで、劉弁に対しては何太后を否定する言葉を言い残す


劉宏のこの一言に何太后は自分の不貞を知っているのでは無いかと内心冷や汗をかく。


そして劉宏は張譲に目配せしながら


「遺命か…そちたちはこの弁を皇帝の座に据えようと思っておるだろう……だが弁は皇帝の座に値せぬ」


「えっ!?ま、まさか陛下は劉協様を皇帝の座に!?」


劉宏の言葉に張譲の表情が虚を突かれたか驚きの声を上げ、これ以上ないくらいに目を見開いて固まっている。


劉宏は今まで張譲の見たことが無い表情を見て満足したのか、最期の力を振り絞って言葉を続ける。


「……我が王朝は既に一度は滅んでいるのだ。今も既にそれに近い状況じゃ…それを弁や協に負わせるのは余りにも不憫じゃ。何なら、張譲……お前が皇帝になってみるか?」


「お、お戯れを……陛下」


権力に対して貪欲であるはずの張譲が、劉宏の言葉に恐縮して身体を震わせている。


劉宏は張譲の姿を見て落胆する。平然と拒絶するならまだしも身体を震わせているということは国を奪う気概が無く、漢という国にしがみ付く寄生虫に見えたからだ。


「で、では陛下、誰を後継者に…」


気を取り直した張譲が再度劉宏に確認する。


「後継者は……そちたちの好きにするが良い…」


この言葉を聞いて何太后は内心喜びの声を上げる。現状後継者と言えるのが劉弁しか居ない状態だからだ。

「…だが…朕の遺命を記した書状を持った者が現れたら帝位をその者に譲位。若しくはその者の好きにさせよ……」


「どういうことですか陛下!?まさか劉協に譲位するおつもりですか!?」


何太后は悲鳴とも言える声を上げるが劉宏は無視して言葉を続ける。


「……もはや漢はほぼ死に体同様じゃ。漢は約400年、朕を始めそちたちなど含め皆好き勝手にやってきたのじゃ。朕の代で国が絶えても悪い道理が無かろう……どうせ滅びるのであれば……せいぜい華麗に滅びるが良い……」


「へ、陛下!だ、誰に遺命を残したのですか!?」


張譲が劉宏に誰に遺命を残したのか聞き出してその者を除外しようと考えるも、劉宏は最期の力を振り絞って言い終えると昏睡状態に入ってしまった。


劉宏は昏睡状態のまま、二刻後(約4時間後)に崩御してしまった。


劉宏の遺言については張譲たちにより箝口令が引かれ劉弁が第13代皇帝として即位することとなり、劉宏の崩御により群雄割拠の時代へ突入する事になる。




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