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第29話

董卓が上洛してから何進と十常侍の対立は表面上では収まっていた。何故なら董卓は上洛してまず手始めに行ったのが衛尉(宮門警備を担う)という地位を利用して洛陽城内の城門の出入りを厳しく規制した。


特に規制したのは深夜帯での城門出入り禁止であった。基本夜になると城門は閉められ翌朝になるまで城門は開かれないのであるが高官や貴族等は自分たちの地位を利用して勝手に城を出入りしていたのであった。


上洛して早々、十常侍の親族が城門の夜間通行を強行したことにより、これを聞いた董卓の軍師である買駆は法令により処断した。


それに対し宦官たちは抗議の声を上げたが、董卓は宦官たちに反論した


「私たちはここに来たのは陛下や洛陽の民を守るために来たものです。その洛陽を守る大切な城門を勝手に出入りされては私たちの職責が果たせません。皆さんはそれをどう考えておつもりですか」


これを聞いた宦官たちはすごすごと引き下がるしか無かった。


更に董卓たちは違反者に対しては何進派、十常侍派関係無く取り締まった事から表面上治安も正常化されつつあった。


「何進様、報告に参りました」


「ああ…董卓か、書類は後で読む。書類はそこに置いておけ」


そんな中、董卓は何進の元に何度か訪問していた。上洛した当初何進は董卓が十常侍派と思っていたので面会自体を拒否していたが、董卓が十常侍派を処断してから少し風向きが変わり、業務上での会話は応じるようになっていたもののまだ何進は董卓の警戒心を解いてはいなかった。


だが董卓と同行していた買駆は何進の言い方に内心腹を立てたが二人ともそのまま下がろうとせず、買駆は


「何進様、何太后様の事で少しお話が…」


これを聞いて何進の顔色は変わる。


「二人ともちょっとこっちに来い」


何進は二人を別室に連れて行く。


何進は緊張した表情をして買駆から事情聞こうとする。


「で…妹の事でどんな話だ」


「ええ…何太后様は最近側近として就任した張贋ちょうがんという者出来ているという噂です。何進様はこの事についてはご存知では?」


買駆は何進の表情を見ながら説明していたが内心ではほくそ笑んでいた。何進は何太后の力があって大将軍という地位に付いた事は誰もが知っている。その何太后が皇帝の目を盗んで不貞行為をしている事が発覚すれば何太后は勿論、その姉である何進も地位どころか命まで失うだろう。買駆は何進の後釜に何とか董卓に就任させそこから一気に十常侍たちを除き権力奪取を目論んでいた。


しかし董卓の本心は漢王朝の復興を願っていたので、できる限り穏便に何進と十常侍の関係修復を図り、そしてそこから漢王朝の改革を考えていたので、買駆との考えには隔たりはあったものの現状では何進と敵対するのは得策では無いこともあり、董卓の融和政策に買駆は乗る形を取っていたのである。


これを何進は狼狽もせず、ただ苦々しい表情をして一言


「……二人とも、私について来い」


何進は董卓と買駆を連れて部屋を出る。


その間三人は無言で何進の足は宮廷の奥へ向けられる。


そして漸く何進の足が止まったが、


「ここは…」


「董卓、静かにしろ。そこの者、妹に伝えてくれ。姉が来たと」


何進は何太后の女官に来訪したことを告げ、女官は一礼して何太后の元に行く。そしてしばらくしてその女官は戻って来ると一言


「何太后様は、今日も体調を崩しておりまして…何進様には申し訳ございませんが今日のところはこれでお引き取りを…」


「ハァ…またか。そこの者、妹にいい加減しろ!と伝えておけ!!」


何進はそう言って董卓ら連れて踵を返して再び自分の部屋に戻った。


「董卓、買駆見ての通りだ。私も噂を聞いてから妹を問い質した。最初の頃は根も葉もないことと否定していたが、日が経つに連れて妹は段々私を遠ざかるようになってな…今やこうして面会ままならず門前払いよ」


何進は自嘲しながら呟くが、その姿は大将軍では無く妹を心配する身内の顔になっていた。


「私も妹のお陰で大将軍と地位に就いたのは誰もが知っていること、妹が失脚すれば勿論私もただじゃすまないことは分かっている。だから妹には張贋を離すように求めたんだがな…」


何進は董卓らにすでに妹が張贋の虜になっていることを示唆していた。


「では何進様はこのまま手を拱いているのですか?」


買駆は恰も心配する体で助言するが、買駆の助言を聞いて何進は怪訝な表情する。


「……董卓、買駆、貴様らは張譲に呼ばれて洛陽に来たのではないのか?何故、私の心配をする?」


「何進様、確かに私たちは張譲様に要請されてここに参りましたが、私たちの目的は陛下や洛陽の民をお守りするためです。そしてこれ以上乱を起こさせないという事でここに来ているのです」


董卓からそう言われると何進は


「そうか…今まですまぬ。私は今までお主たちを単なる張譲たちの雇われだと思っていたわ……董卓に買駆、まだ貴女たちに詳しく言えないけど一つだけ言っておくわ。妹をこのようにしてくれた十常侍たちにそれなりの礼を返さないといけない…と。もし張譲たちに聞かれたら何進がそう言っていたと伝えといて」


何進は十常侍たちに対して何らかの形で逆襲することを企んでいた。


「張譲様の策、見事に嵌まりましたな」


「うむ。だが趙忠、貴様が買っていたあの男、芸達者で女の扱いが上手、それに女に囁くのが上手いだけの遊ぶことしか知らぬ能無しだが役に立ってくれた。何太后様もあの者を傍に居らぬ不安みたいで何進の面会を謝絶されているようじゃ」


張譲と趙忠は宴会を行ったが、その時に張贋が男の一物を使った芸を皆の前で披露したことで、その噂が何太后の元に入った。何太后は張贋の色男ぶりや一物を見てまずは酒の相手をさせたところお気に入りとなり、張譲と趙忠に張贋を側近に置きたいという何太后の要望に困惑の表情をしたが、予想通りの流れだったので形式上宦官という形で何太后の側近についたのであった。


しかし何太后が張贋を愛用する為、宦官ではないのではないかという噂が上がっているが張譲たちは自分たちの前で張贋は去勢手術を行ったと言った為、周りからみると張譲と何太后が手を結んだという形になってしまい官人たちは難を恐れ批判を避けるようになった。


そしてここに来て皇帝である劉宏の体調がかなり悪くなり寝台から出られない日々が続いていた。その為若い何太后は益々張贋に熱を上げて行ったのである。


「では張譲様、今後はどうなされますか?」


「まあ焦るな趙忠、まずは何太后様を確実に性の虜に落としてからことじゃ。そうなれば後は我らの意のままに動く人形と同じじゃ」


張譲は趙忠に早、劉宏死後の道筋が付き始めていたことに自信を深めていたのであった。


一刀たちは遠征の間、溜まっていた案件を終了させ漸く一段落付いたので、先の黄巾党討伐時に捕虜にした張三姉妹や残党たち並びに洛陽で集められた難民たちが開墾業務にちゃんと従事している事は璃々から報告が上がっているが、それが実際に実行されているかどうか一刀たちは抜き打ち視察という形で様子を見に行くこととした。


今回の視察には一刀の他には紫苑、真里、白湯、蒼が同行していた。因み小蓮も同行を強く希望したが張三姉妹の事があるので、今回は婚約者候補の段階では行動制限があるという理由で同行を断念させた。(因みに白湯には張三姉妹の事情を説明済み)


今回は白湯が涼州に来てから武威の周辺しか見ていなかったので、他の場所に行ける事に喜んでいた。


そして璃々が滞在する村まで一刀たちは数か所の村を回ったが、一刀たちは璃々の手腕に驚きを隠せなかった


璃々は当然各村々を開墾させていたが、そしてそれぞれの村で薬草や茶畑栽培、織物や紙の生産等の各村の名産物を最低限1つ作らせて農作物以外の収入面を確保させ、更に開墾業務や日々の労働に耐えられない老人には作業中親が居ない子供たちの面倒を見ることなどして仕事を与え村が一丸となれるような村造りをしていたのである。


「一刀様、私、正直言って今まで璃々の事を見くびっていましたがこの視察を見て璃々の事を見直しました」


一刀にそう告げたのは真里であった。真里は以前璃々が無断で一刀を追い掛ける為出奔した事もあり、璃々の能力に疑問を抱いていた。


だがこれまでの視察で璃々は計画的な村造りを実行しており、真里自身も自分が実行した場合ここまでできるか正直自信は無かった。


「まあ璃々もあれでも『天の御遣い』の一人でまだまだ若輩者だけど、出来れば長い目で見てくれたら助かるかな」


「はい。今回の視察、自分にとってもいい勉強になります」


真里は一刀の言葉を聞いて内心安堵していた。


「これはこれは『御遣い様』、このようなところまでようこそ」


一刀たちが、璃々が滞在する村に到着した時、最初に一刀に声を掛けてきたのは嘗て黄巾党の指導者であった長老だった。


この長老は一刀が黄巾党の降伏時の受け入れの際に


「我らにも食事さえちゃんと頂け、人間らしい生活を送る事が出来れば我々皆、『御遣い様』の下に降りましょう」


と言った人物であり、現在はこの村を束ねている。


「これは長老、どうですか。ここの暮らしは?」


「ええ、『御遣い様』の一人である璃々様がまさか私たちの村造りの陣頭指揮を取るとは思ってもみませんでしたが、璃々様のお陰で皆、喜んでいます」


「それは良かった。それで長老、今、璃々が居るところ分かるかな?」


「ええ、璃々様でしたらこの時間は舞台の方にいると思いますよ?」


「舞台?」


「ああ…『御遣い様』たちは聞いておられませんか。取りあえず私が案内いたしましょう。面白い物が見れますぞ」


長老の何か隠している様な微笑みが気になるが、取りあえず一刀たちは長老の後に付いて行くのであった。


「みんな大好き――!」


『てんほ―ちゃ――――ん! ほわあああああ!』


「みんなの妹――!」


『ち―ほ―ちゃ――――ん! ほわあああああ!』


「とっても可愛い!」


『れんほ―ちゃ――――ん! ほわあああああ!』


この村の舞台で張三姉妹は活動していた。現在張三姉妹は、開拓村のみの興行が許され開拓民の疲れを癒すという役割を担っていた。


張三姉妹は以前太平要術を使って売れたが、それは自分たちの本当の力では無いと思い知り地道に再起の道を歩んでいた。


一刀たちは彼女らの歌を初めて聞いたが


「凄い…」


「下手な戦場より迫力あるよ…」


白湯と蒼は初めて見る“ライブ”に驚きを隠せずにいた。


そして張三姉妹は璃々の助言もあり、今までみたいに三人で歌うだけでは無く、天和と地和、天和と人和、地和と人和の二人で歌ったり、そしてそれぞれ1人で歌ったりと活動の枠を広げようとしていた。


そして張三姉妹の出番が終ろうとした時に天和が


「次は璃々の出番だからね――!!みんな――ちゃんと入れ替えするんだよ―――!!」


天和がそう言って舞台から離れると今まで居た客が行儀良く退場すると今度は老人や子供、女性など先程の違い様々な年齢層が集まっていた。


「これは…」


紫苑は璃々が歌うと聞いて驚きを隠せなかったが、案内した長老は


「驚きですかな奥方殿、璃々様が三姉妹に強引に舞台に上げられて即興で歌われたのですが、その歌が皆に気に入られましてな。それ以後時間がある時にこうして舞台で歌わる様になりまして、まずは聞いて下され」


すると璃々が舞台に上がり歌い出す。

璃々は歌謡曲やバラード曲、演歌や童謡などを歌うと観客皆聞き入っていた。


璃々は歌の途中、一刀たちの存在に気付き目で合図を送った。


そして璃々の舞台が終わると一刀たちは長老と離れ、璃々がいる舞台裏に向かう。


「ご主人様!」


璃々は疲れているにも関わらず、一刀の胸元に飛び込む。


一刀は璃々の無邪気な面が変わっていないことに安心したが


「コホン、璃々」


紫苑が璃々を見かねて注意する。璃々は


「あっ…」


罰悪そうにようやく一刀から離れる。


そして璃々と一刀たちは取りあえず、璃々住居兼政務所に向かう。


そして政務所で璃々が一刀たちにこれまで行った事を説明するが、璃々の説明を聞いて紫苑が少々怪訝な表情をしている。


「ねぇ…璃々。貴女がここまである程度やったことは認めるわ…でもこれ貴女一人やったの?」


紫苑は璃々の報告を聞いて疑問の声を上げる。確かに案的には璃々が提案したと思われるがここまでの事務的処理能力が今の璃々にあるとは思っていなかった。


「あっ…やっぱり分かる?」


「ええ、幾ら何でも貴女一人で出来る量では無いわ。誰か有能な人がいるのでしょう。璃々、その人を連れて来なさい」


「はーい」


そういうと璃々は別室に行き、二人の人物を連れてきた。


一人は赤色のショートヘアの女の子、もう一人は青色のショートヘアで眼鏡を掛けている女の子であった。


「僕の名は姜維、字は伯約、真名はすみれと言います」


「僕の名前は陳登、字は元龍、元々徐州下邳で母である陳珪の下で働いていたけど、もっと農業の事が知りたくて旅で出ていたのだけど、璃々様が今迄と違う農業をやっていると聞いて、今は客将として璃々様の手伝いをしているよ」


一刀と紫苑は流石に驚いた。姜維は三国志での登場世代が遅い方にも関わらず登場したこと、そして陳登は徐州の名家出身で何故ここに居るのかと。


だが一刀、紫苑は既に外史で色々経験してきているので、これもありかと今更ながら割り切っていたのであった。




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