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第23話

何進の嫌がらせを切り抜けた一刀は官軍と共に洛陽に入城する。


だが一刀たちが入城して見物人とかは多数いるものの、何か街には活気が無く何か澱んだ雰囲気を醸し出していた。


「思いの外、静かだね……」


璃々が予想外の雰囲気に戸惑いの言葉を出す。


行進していると建物と建物の間から何かみすぼらしい民が幾人といるので、璃々は紫苑に小声で質問する。


「あれは?」


「行く宛のない流民よ、璃々」


「流民?」


「ああ…干魃や蝗の被害、それに戦いなどで畑が荒らされて税が払えなくなり、洛陽に行けばどうにかなると期待してきた民たちだよ」


紫苑と一刀は璃々の質問に真摯に答える。一刀や紫苑は元々以前の外史ではそれぞれ為政者として活動してきたので貧しい者の正体について大体の想像は付く。


「だけど……期待していた都の姿では無く、結局はここでもどうにもならず行き詰まってしまいあのような姿になってしまったという訳なんだ…」


「そうよ、璃々。洛陽に元から住む民でさえ、日々の暮らしに困る有り様。更に流民を受け入れる余裕などある筈がないわ」


「そして国の無為無策に苦しむのは、何時でも民だと言うことだよ。璃々」


「………」


一刀と紫苑は璃々に漢という国の現状を改めて説明する。璃々は民を顧みない今の漢という国と自分が一刀に会いたいが為に武威を飛び出した事も同じ様に民を顧みていない点では同じ事だと今改めて気づかされた。


そう気づいた璃々は宿泊する屋敷まで無言のままでいた。


「でもよ、ご主人様。陛下は民がこんな状況になっていること知らないのかよ?」


三人の会話を黙って聞いていた翠が一刀に質問する。


「多分知らないか知っていてもどうする事も出来ないの何れだろうな。もし皇帝陛下が、民がこのような状況であると気付いて政治を取っていれば何進と宦官はあそこまで好き放題に振る舞っていないし、白湯も涼州には来ていないと思うよ」


一刀の回答に翠は「そうか」と一言返事をしただけだった。


「でも…ご主人様。不安はないのですか?」


以前の外史では一刀や紫苑もこのような宮廷抗争を経験した事が無かったので紫苑は少々不安になっていた。


「勿論不安はあるよ。でもこの程度で臆していたら、紫苑や璃々、翠にも見限られてしまうかもしれないからね、俺はそっちの方が不安だよ」


一刀の紫苑の不安を和らげようと態とおどけた返事をする。これを聞いて紫苑も一刀の心が改めて強くなったと感じ取り、


「フフフ…愚問でしたわね。無論何があっても、ご主人様は私が命に代えても守り通してみせますわ」


「紫苑。その言葉、そのまま返すよ」


二人はそう言って気を引き締めるのであった。


「あ、愛紗ちゃん、ど、どうしょう。陛下に謁見なんて」


「桃香様、しっかりして下さい!桃香様が漢の皇族として認められるかもしれないのです」


そして官軍の中に劉備軍の姿があった。本来であれば劉備自身官位が無い為、軍を引き連れての入城が出来ないが、劉備の師匠である盧植が親友である皇甫嵩に手を回し、皇甫嵩の配下という形を取った事と劉備が所持している『靖王伝家』が漢の中山靖王劉勝の末裔として証明できるかもしれないという事もあり鑑定の為、特例として軍を引き連れての入城が認められたのであった。


だから入城してからの劉備の顔色が良くなかった。なぜなら明日皇帝との謁見が予定されており、その時に今回の褒賞並びに鑑定も併せて予定されているので緊張の余り、劉備たちは周りを見る余裕がない状態であった。


一刀たちが入城している頃、


「ホホホホ、何進め。『天の御遣い』やらにちょっかいを出して逆にやられるとはこれほど面白いことはない」


張譲は何進が一刀を挑発したが逆に失敗して痛い目にあったことに笑いを隠せないでいた。


「張譲殿、では我らは『天の御遣い』に対してどうなされますか?」


張譲は趙忠の問いにしばらく無言でいたが


「趙忠…奴らは嵐みたいな物、嵐と真面に当たって勝負になるか?所詮奴らは西涼という僻地にいる蛮族じゃ。今は戦に勝って勢いづいているかもしれぬが何れ漢が力を取り戻した時には所詮滅びる者、今は以前お前が言った様に奴らに恩賞を与えて精々喜ばせておくのが1番じゃ。それとも他に方法はあるか?」


「い、いいえ」


張譲は先の戦いで韓遂を使って一刀たちを滅ぼそうとしたが、逆に敗れてしまい更に援軍を求めた手前、一刀を陥れるのに暗殺などは以ての外、思い付きの案では何進同様失敗するのが関の山と判断した張譲は今回一刀たちには手出ししない方針とした。


一方、屋敷に入ってから璃々は部屋に籠り一人で色々考えていた。


「よし!」


漸く考えが纏まると璃々は気合の声を出すと共に部屋にある墨と紙で何かしらの書類を書く。そして書き終わると一刀の元に向かう。


そして璃々は一刀のところに行くと真剣な表情をして


「ご主人様、提案したい議があります」


璃々の普段と違う口調に一刀は勿論、横にいた紫苑や翠も何時と様子の違う璃々を見て驚きを隠せない。


「よし、話を聞こう。璃々」


そんな璃々を見て一刀も表情を改め、璃々の話を聞く姿勢になる。勿論、紫苑や翠も姿勢を正して璃々の話を聞く。


「ご主人様、まずこれを」


璃々は先程書いた自ら書状を一刀に渡す。


書状を受け取った一刀は真剣な表情で読み上げ、それを読み終わると


「璃々…本気か?」


「はい。これは困った民を救う事になりますし、反乱を起こした黄巾党を助けて流民を助けないというのは片手落ちになります」


璃々が提案したのは洛陽に居る流民を開拓民として涼州に連れて帰るという提案であった。


一刀たちは降伏した黄巾党の民を罰として涼州の開拓に従事させることにしたが、璃々は更に流民から希望者を募り涼州の開拓に従事させようと考えたのであった。


「璃々、それは良い考えだけどよ。ここの馬鹿な連中が何か言わないか?」


翠は璃々の意見には賛成するが、何進や十常侍たちが何か因縁を付けてくるのではないかと危惧する。


「翠ちゃん、それは大丈夫だと思うわ。さっきも言ったけど今の国の上層部は自分たちの事しか考えていないから私たちが流民を涼州に連れて帰っても良い厄介払いしか思っていないわ」


「チィ…何だよ。それ…」


紫苑の回答に翠が想像できたのか舌打ちして怒りを露わにする。


黙っていた一刀が真剣な表情をして


「璃々」


「はい」


「璃々がこの人たちを涼州に連れて帰って、後の責任を取れるのであれば賛成してもいい」


一刀は璃々の覚悟を見たかった。何故なら璃々の出奔の罰として黄巾党残党及び流民への開拓責任者として従事させようと考えていたからだ。


これから璃々も一刀や紫苑から精神的に独立しなければならない時期に来ている。だからこそ璃々を甘やかす訳には行かない。一刀は璃々の事を想いながらその覚悟を問う。


璃々も民を顧みず出奔した責任は重々感じていた。だからこそ流民の移住を提案し、そして『天の御遣い』として好感度を上げる絶好の機会だと思い今回の提案を行ったのである。


「……覚悟はあります」


一刀からの問いに璃々は緊張しながらもはっきりと決意を述べる。


紫苑は璃々の顔を見ながら母親では無く一人の将として璃々の覚悟を聞く。


「璃々、貴女もし失敗した時はどうするつもり?」


「もし失敗した時は…どの様な処分を受ける覚悟です」


「それは……首を刎ねられても良いってこと?」


「…はい」


璃々の覚悟を聞いて一刀は


「璃々…璃々の覚悟はよく分かった。だけど全ての責任を璃々がしょい込む必要はない。失敗した時は責任者として指名したのは俺にも責任がある。その時は俺も一緒に処分を受けるさ」


一刀の話を聞いて璃々は涙ぐむ。


璃々は失敗した時の責任は全て自分が背負えば良いと考えていたから、一刀の言葉を聞いて改めて一刀の優しさを感じた。


会議の結果、洛陽滞在中に流民に対して炊き出し等を行うと共に流民への開拓移住を募集する事が決まったのであった。


「ご主人様、璃々の事。ありがとうございました」


紫苑は一刀と二人っきりになってから一刀に礼を述べる。


紫苑は璃々に対して母では無く将として厳しく接した。だから璃々が失敗した場合、本当に処分する覚悟があった。だが一刀が任命権者として共に処分を受ける覚悟を聞いて璃々が決して見限られている訳ではないと精神的にゆとりができたからだ。


「紫苑もつらかっただろう」


一刀は紫苑の頭を撫でながら慰める。誰が好き好んで愛娘を処分すると言い渡したいのか。


「でも…璃々に嫌われたかもしれませんわ」


寂しそうに言う紫苑に一刀は紫苑を優しく抱き締めながら言う。


「璃々も紫苑の事は分かっているさ。だから俺も璃々が失敗しない様、手を尽くす。紫苑も璃々を手伝ってくれ」


「ええ、それは当然ですわ」


そう言いながら二人は静かに夜を過ごしたのであった。


翌朝、一刀と紫苑は参内するが、璃々と翠は流民の炊き出し並びに受け入れを行う、ただ最悪の場合の事を考えて、流民を使って暴動を起こす事も視野に入れていた。


参内すると宮廷内は壮大な建物が幾つもあり又通路は全て石畳で舗装されており、権力を象徴するかの様に石の彫刻や美術品など並べられていた。


因みにこの時間の参内は一刀と紫苑の二人だけであった。と言うのは他の諸侯と違い、今の一刀は白湯(劉協)を娶っており、更に和睦により半独立状態が認められている為、漢としても丁重に扱うしかなく、それを他の諸侯に見られるのは漢の威信低下に繋がりかねないという理由と皇帝である劉宏が一刀との会見を望んだという事もあり先行して参内したのであった。


一刀と紫苑は贅を極めた宮殿に驚くと同時に内心呆れてもいた。と言うのは多少金を掛けるのは仕方が無いにしても必要以上に無駄な金を使うのであれば民に還元した方が余程良いと思っていたからだ。


「ホホホホ、どうですかな。御遣い殿に奥方殿、この宮殿の立派さは」


立ち止まって建物を見ていた一刀と紫苑に案内していた文官が、声を掛けてきた。


「ええ、今までこのような建物を見た事が無いので驚いています」


一刀は当たり障りない返事をするが


「そうでしょう。これこそが本来の漢の実力。今後は大人しくなされた方が貴方たちの為です」


案内した文官が一刀と紫苑に対して物怖じしないどころか不気味な威圧感を与える。


「失礼ですが貴男の名前は?」


紫苑はこの文官は只者では無いと感じ、この文官の名を訪ねる。


「これは失礼を私は十常侍筆頭の張譲でございます。以後お見知りおきを御遣い殿に奥方殿」


一刀と紫苑は名前を聞いて驚いた。まさかこのような所に張譲が現れるとは思っても居なかったので、内心驚きを隠すのが精一杯であった。


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