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第2話

広い高原を颯爽と馬を走らせている少女たちがいた。


そしてしばらくしてから木陰で休憩に入る。


「ふう、いい汗掻いたぜ」


その中の最も年上の少女が馬を目一杯走らせて満足した表情を浮かべていたが、一緒にいた少女二人が疲れた表情をしながら苦情を言う。


「本当、お姉様に付いて行くのは大変だよ~」


「もう少し私たちに合わせてよ~」


「何、言っているんだ。蒲公英に蒼。私たちは騎馬の民だぞ、これくらい簡単に付いて来いよ」


翠と呼ばれた少女は西涼の狼と呼ばれている馬騰の長女馬超であり、ここ最近の五胡との戦いなどで勲功を上げていることから巷では「錦馬超」と呼ばれる様になっていた。


そして蒲公英と呼ばれた少女は馬騰の姪にあたり、悪戯好きであるが翠とは従姉妹関係であり、昔から姉の様に慕っていたので普段からお姉様と呼んでいた。


そうと呼ばれた少女は馬騰の三女の馬鉄で、物怖じせず、あっけらかんとした性格であるが、脳内妄想が大好きな少女でもある。そして同年代の蒲公英と仲が良かった。


しばらく雑談していると


「ねぇ蒲公英様、街で流れている管輅の占い聞いたことある?」


「あーあれでしょう。『黒天を切り裂いて、天より飛来する三筋の流星、それは天の御遣い達を乗せ、乱世を治める』と言う話でしょう」


「それそれ!それがもしかしてここに落ちてきて、私に会いに来たりして~」


「でも本当に落ちて来たら面白いよね~」


「何だそれは?そんな与太話、お前たちそんな話信じているのかよ」


蒼と蒲公英の話を横で聞いていた翠は呆れた表情をする。


言われた二人も噂話を信じていた訳ではないが、色恋話や世間の情報に疎いに翠をからかう様に反論する。


「えー別に良いじゃない。噂話を信じるか信じないか私たちの自由じゃない」


「駄目だよ、蒼ちゃん。だってお姉様の頭の中、武芸と馬の事しか興味がないじゃん。こないだだってお見合いの話が出た時、向こうがお姉様の名前を聞いた瞬間ビビってすぐに話を断ってきたじゃない!」


「キャハハハ!そうだよね~それで丁度五胡の連中が攻めてきて、八つ当たりでぶちのめしたもんね~」


「いや~あれは違う意味で五胡の連中には同情したよ~」


「お前たちな~~~!」


「うわ!お姉ちゃんが怒った!」


「やばい逃げよう!!」


「こら待て!お前ら!!」


翠がからかう二人を追い駆けようとすると一瞬空が明るくなる。


三人が空を見ると真白い三つの流星が目の前を流れ、そしてその先で落ちて行く様にして消えると明るくなった光も治まった。


「あれって若しかして……」


「多分、そうだよね……」


「本当かよ……」


三人は目の前で起こった事に戸惑いを隠せなかったが、


「よし、噂が本当か見に行こう!」


「賛成!」


好奇心旺盛な蒲公英が流星の捜索を提案すると蒼が逸早く賛成すると翠の返事を待たずに二人は馬を走らせる。


「おい、こら!お前ら、ちょっと待て!!」


二人の素早い動きに翠は反応が遅れ、慌てて二人を追い駆けた。


丁度、その頃西涼・武威の城内では


「暇よね」


「ハァ……お母様、せめてこの書簡全て片付けてから、冗談を言って下さい」


「鶸様の言う通りです、碧様が目を通さねばならない案件は、それこそ山の様にあるのですから…」


ここは西涼太守である馬騰の執務室である。


現実逃避して執務用の机で疲れ伏せている女性を尻目に後の二人がせっせと書簡を片付けていく。


因み机に疲れている女性は馬騰、名を寿成、真名を碧。馬三姉妹の母親で現在の西涼太守であり、涼州に度々侵略してくる五胡からは『西涼の狼』と恐れられている。


そしてるおと呼ばれた少女は、名を馬休と言い真名を鶸と言い、馬三姉妹の次女にあたり翠の妹である。


馬姉妹の中で唯一会計管理ができる将であり、馬一族で一番真面目で、文官仕事をしない母親に文官仕事が苦手な姉妹を宥め賺しながら仕事をさせるという気苦労が多い将でもある。


だが馬一族でもあるので妹の蒼や蒲公英には負けない武や馬の技術を持っている。


もう一人は馬騰の配下で名は龐徳、字は令明、真名を渚。碧の側近で馬姉妹たちの武芸の師範にも当たり、4人の中で渚と互角以上に戦えるのは翠だけという強さの持ち主である。


二人からそう言われると碧は渋々起き上がり、鶸と渚から送られてきた書簡にぶつぶつと小言を言いながら目を通し、必要項目を書き込んでいく。


書簡の半分くらいを終えると、碧は身体を伸ばしながら


「何かこう仕事ばかりじゃ気が滅入っちまうよ。そうだね…五胡が攻めてくるとか何か面白い事ないかね?」


「お母様の面白さを紛らわせるだけの為に五胡に攻め入られるのは凄い迷惑なんですけど!」


「冗談が分からない子だね…」


碧の発言に鶸は本意では無いと分かっているが明らかに「不謹慎です!」というばかりに怒った表情をするが、代わって渚が話をする。


「そう言えば、碧様。最近街で流れている管輅の噂を聞いた事ありますか?」


「ああ確か『黒天を切り裂いて、天より飛来する三筋の流星、それは天の御遣い達を乗せ、乱世を治める』という話だろう?まあ今の王朝の姿を見たら、民がそんな話を信じたくなるよね」


「碧様、もしその御遣い様がこの地に舞い降りたらどうなされます?」


「その予言通り、この乱世を鎮める為、そして馬家の為にその力を使って貰うよ」


だが正直なところ、国を憂いている碧は、今の王朝は滅亡覚悟の改革をしなければ復活は無いと碧は見ている。


だが、それをするにしても自分一人の力では無理があるし、ましてはこのような状況で一族の命運を賭けるなどとんでもない話である。


このような閉塞感を打破するには、相当な劇薬が必要で、その切っ掛けになればいいと思っているが、流石に現実味が無い話なので


「まあ、所詮噂話でそんな都合のいい話は無いな」


最後は碧が話を締めくくって再び仕事を始めようとすると、急に窓の外から真白い光が辺りを照らす。


何が起きたのか三人は窓の外を見る。


三人の目の前を三筋の流星が流れ、そして流星が城の郊外へ落ちると光は治まった。


「今のは一体……」


驚きを隠せない鶸であったが


「あっ!碧様!!」


「あの光を追うよ!誰か馬を出せ!!」


落ちて行く流星を見た瞬間、突如として走り出した碧。


「ちょって待ってよ!お母様!!」


「お待ち下さい!碧様!!」


突然の行動に驚く、鶸と渚は慌てて碧の後を追う。


追い駆ける碧の表情は先程よりも活き活きしている事に本人以外、気が付いていなかった。


碧が光の先に行くと翠が来て、既に流星の行方を調べている様子であった。


「何だ、あんた達もここに来てたのか?」


「お母様か…私たちが遠乗りしてたら、目の前に今までに見た事が無い流星が流れて行くのを見てさ、それで追い駆けてきたんだ」


「それで見つけたのか?」


「いいや。取り敢えず蒼や蒲公英もこの辺を探しているんだが…」


「お姉様―――!」


大声を出して蒲公英が翠のところに駆け寄ると


「あれ叔母様も来ていたの?」


「いいから、蒲公英。それで何の用だよ!」


「あっ、そうだ!さっきそこで三人の男女が倒れているのを見つけたの、今、蒼ちゃんが見ているよ」


「蒲公英、今すぐそこに案内しろ!」


「う、うん!」


蒲公英は碧から言われると直ぐに先頭に立って走り、その後を翠たちも後を追う。


しばらく走ると三人の男女が倒れているのを発見し、そして蒼が三人の生存状況を調べていた。


「蒼、どうだい?」


「あっ、お母様。え~っとね、三人とも外傷もなく、息があったのは確認できたし、単に気絶しているだけみたいだよ」


蒼の報告を聞いて、取り敢えず倒れている三人が死んでいない事に皆、安堵の表情を浮かべる。


そして碧は倒れている三人に目線をやり


「翠、鶸、蒼、蒲公英、それに渚。この三人を城に連れて帰るから準備しな」


「ちょっと待ってくれ、お母様。本当にこいつら城に連れて帰るのかよ」


翠は、碧が倒れている三人を城へ連れて帰る事に反対の声を上げる。


「若しかしたらこの三人、『黒天を切り裂いて、天より飛来する三筋の流星、それは天の御遣い達を乗せ、乱世を治める』と言われている御遣いかもしれないよ」


「ああ何かさっき蒼たちが何かそんな噂話をしていたけど…まさかお母様そんな話信じているんじゃないよな」


「翠。これ(流星)を見て単なる偶然の一言で済ませられるかい?」


「それは……」


碧の言葉に反論できない翠。


「翠様、まずはこの者たちを城に連れて帰り、本人たちから事情聴取してから結論を出しても遅くはないでしょう」


尚も城へ連れて帰る事を渋る翠に渚が妥協案を示すと翠も漸く納得して城へ連れて帰ることを承諾し三人を城へ連れて帰ったのであった。


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