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第15話

一刀と孫堅との同盟が決まり、一刀側は真里と鶸、孫堅側は粋怜(程普)と包(魯粛)が出て同盟内容を取り決めた結果、両国間が離れているので当面は交易によるやり取りを行いお互いの力を蓄えるという事で一致した。


ただ孫堅側からある条件が出された。孫堅側が出した条件とは、今回の交易で孫堅軍に涼州の軍馬を売る事になったのだが、孫堅軍は今まで歩兵や水軍の運用が中心で、騎手の乗り手が少なく又騎兵の運用に不安があるので騎兵の教育係として誰か馬一族の将軍1名を貸して欲しいという要望であった。当初真里は渚(龐徳)を派遣しようと考えたが、粋怜と包が馬一族の者の派遣を要望してきた


これには粋怜たちにも言い分があり、孫策が客人として涼州に滞在するのであれば、その代償として人質とは言わないが馬一族の者を派遣して欲しいと。確かに粋怜の言い分には筋が通っており、真里たちは今後の孫堅軍との関係を維持するためこれを了承した。


そして一刀や紫苑、碧、翠、真里を交えて誰を派遣するか相談することにした。翠は流石に馬一族の棟梁であり出すことは無理な話であり、鶸は馬一族の内政の要であり真里の補佐も兼ねているので派遣するのは難しい。そうなると残るのが蒼と蒲公英の何れかになるのだが騎乗技術は互角であるが、蒼よりやや武に長ける蒲公英を派遣することに決まったのであった。


この決定を当初一刀から言うつもりであったが、一刀たちは孫堅らの接待という役目があったので代わりに碧から伝えることになった。


そして碧が蒲公英を呼び出して孫堅軍への派遣を告げると


「何で私なのよ!」


「だからさっき説明しただろう!向こうが騎馬の運用に長けた将軍が少ない、それをお前がそれを教えに行くだけの事だろうが!!」


思わぬ蒲公英の反論に碧もきつく言い返してしまう。


「私だけじゃなく蒼だっているじゃない!あっ…叔母様、もしかして蒼を出すのが嫌で私に…」


蒲公英の言葉を碧は最後まで言わせなかった。碧は蒲公英の顔を平手で叩いていた。


「……私は貴女を翠たちと同じく実の子供と同様に育ててきたつもりだよ。その言葉、私に対して侮辱だよ」


碧は悲しそうな表情をしながら蒲公英に言ったが、


「伯母様の馬鹿―――!!」


蒲公英は涙を浮かべながら部屋を飛び出して行った。


説得に失敗した碧は仕方なしに一刀たちに事情を説明した。


碧からの説明を聞いて紫苑が難しい表情をして


「もしかしてですが…涼州を守るのに自分が必要ではないとそう感じたのではないでしょうか」


紫苑の言葉を聞いて一刀も納得できる部分があった。反乱起こす際、蒲公英は兵を起こす事に蒼と共に賛成し、そして一度は官軍を撃退したとは言え再び攻勢してくる可能性がある現状、ここで涼州から離れる事は戦力として見なしていないと思われても仕方がないからだ。


「それに碧おばさん…蒲公英に何故自分がなったか詳しい理由を説明しないで行ってこいと説明したんじゃないの?」


これは璃々の勘であるが娘の立場としたら、親が理由を説明しないで要件を行うことについて納得できない事がある、理由を聞けば納得できるのだが反抗期とかの場合、ついそれに反発したくなることがある、璃々はそれを碧に指摘したのだ。


「チィ……揚州行くことが涼州を守る事に繋がる大事な事なんだがね…これは私の説明不足だ。これは話し合う必要があるね」


碧は紫苑と璃々の意見を聞いて、自分の迂闊さに渋い表情をしながらそう呟いた。


「それで話し合いなんですが、碧さんさっき蒲公英に手を出してしまってまたお互いが感情的に不味いでしょう。ここは俺が行きますよ、そして俺から今回の事ちゃんと説明しますから」


「……分かったわ。一刀さん、蒲公英の事よろしく頼むわね」


一刀自ら事情説明すれば少なくとも命令を拒否することもないだろうと判断した碧は一刀に任せることにしたが、その時の表情は子を思う母親の表情になっていた。


部屋を出る時、翠が一刀に


「ご主人様、蒲公英の事頼む。あいつ普段は馬鹿やったりするけど、本当はお母さまの事尊敬してるんだ。それに今回お母さまの説明が足りなかったかもしれないけど、こんな事で私たちの仲を不仲にしたくないんだよ」


「ああ分かった、翠。できるだけの事をするよ」


そう言って一刀は部屋を出て行った。


「心配しなくていいですわ。ご主人様ならうまく説得してみせますわ。それで碧さん部屋で一杯しながら結果を待ちましょう」


「ああ…そうだね」


そして翠から蒲公英が何か嫌な事があれば川辺のところにいると聞いてやって来たのだが、その前に鶸と蒼が蒲公英を見張る様な形で木の影から見守っていた。


一刀の来訪に気付いた二人は一刀のところに駆け寄る。


「蒲公英は川岸の処にずっと座って考え込んでいるよ。でもご主人様…今回の事、引き受けない方が良かったかな?」


鶸の中では幾ら涼州の為とは言え、今回の事で一族の誰かを派遣する事で一族が不和になるのではないかと不安になっていた。


「別に鶸のせいじゃないよ。これは最終的に俺が決断して決めたこと、何かあれば責任取るのが俺の役目だよ。だから今回の事は俺が責任を取るし、もしどうしても蒲公英が拒否した場合、俺、もしくは代わりに紫苑か璃々にでも行って貰う」


「ご主人様、それは駄目だよ。もし蒲公英様が断ったら私が行くから。ご主人様たちが向こうに行って万が一の事があったら、それこそ元も子ないよ。だから馬鹿な蒼が向こうに行って役に立つがどうか分からないけど頑張ってみるから」


蒼が屈託のない笑顔で語ると


「蒼ありがとう。だけど蒼は馬鹿じゃないぞ、蒼は素直でいい子だ」


「へへへへ、ありがとうご主人様」


「ご主人様、蒲公英の事よろしくお願いします」


鶸は最後に頭を下げて一刀に蒲公英の事を託した。


そして一刀が川辺に駆け寄ったが蒲公英の姿が無かった。しかし出入り口の道は一刀が通ってきた道しかなかったし、まだ人の気配を感じたので、一刀は取りあえず


「蒲公英、何処にいるんだ―――!」


二、三度呼んででも応答がない。そしてもう一度


「蒲公英…」


「ここにいるぞ――!」


「わっ!」


丁度、一刀が再度呼ぼうとしたのと同時に蒲公英が大声を出したから、一刀も吃驚した。


「吃驚させるなよ…蒲公英」


「あははは、ごめんね。ご主人様」


一刀を驚かせて大成功とはしゃいでいた蒲公英であるが、その後すぐに冴えない表情になったので、


「取りあえずここに座ろうか、蒲公英」


「あっ…うん」


一刀に促されて蒲公英もその場に座るが、座ってから一刀は敢えて蒲公英に何も聞こうとしない。


しばらく長い沈黙あった後、痺れを切らして蒲公英が


「どうしてご主人様、何も聞こうとしないの」


「そうだね…無理強い聞くのが俺の流儀に合わないと言ったらいいのかな」


「ははは、ずるいなご主人様は」


蒲公英は乾いた笑い声を上げてから


「蒲公英は別に揚州に行くのが嫌じゃないよ。ただまた涼州に官軍が攻めてくるかもしれないのに、ここで向こうに行くという事がまだ蒲公英が皆の役に立っていないのじゃないかと思って…」


「蒲公英、ここで君が抜けるのは軍としては大きな痛手だよ。でもね、敢えて蒲公英には涼州を一度で出て大きな視野を持って他の土地を見て来て欲しいという気持ちがあるんだよ」


「どういう事?」


「今まで蒲公英は涼州の事しか知らないだろう。一度は他の所を見てその土地や風土を見てそれを涼州の為にどう生かせるか俺の代わりに見て来て欲しいんだ」


「だから碧さんも蒲公英の成長を期待して出すことを決めたんだ」


「蒲公英が揚州に行って馬の事だけじゃなく、少しでも何か涼州の事に役立つ事を持ち帰れば皆の役に立つんだね。じゃ私、喜んで行くよ」


「ありがとう、蒲公英。でも後で碧さんには謝っておけよ」


「うん…でも伯母さん怒ってないかな」


「ああ大丈夫だよ。碧さんも逆にちゃんと説明しなかった私も悪いと言っていたから」


「良かった。私、伯母さんにあんな事言って後悔してたんだ」


「じゃ俺も付き添ってやるからちゃんと謝罪するんだぞ」


「うん。それでご主人様…相談あるんだけど」


蒲公英は安心したのか先程の暗い表情から一転悪戯っぽい笑み浮かべるが、一刀はそれに気づかずに話を聞く。


「何、相談って?」


「揚州に行くから前払いで褒美が欲しいな♪」


「そうだな…しばらく蒲公英に会えなくなるから前払いだけじゃなく、後払いでもちゃんと褒美を上げるよ。それで何か欲しい物があるの?」


蒲公英は先程思いついた悪戯を実行すべく、一刀の眼前に急に膝を揃えて座り、そして膝を進めて一刀の間近まで寄ると、三つ指を突いて丁寧に頭を下げる。


「御主人様……あの……、不束者で御座いますが、末永くお願い致します。一杯可愛がってね。キャッ言っちゃった♪」


蒲公英は恥ずかしそうに赤らめた頬を手で覆い、一刀は唖然として


「えっ!?ええええええええええええ!?」


漸く蒲公英の意図に気付くと大声を出して驚く。


「何でそんなに驚くのよ!」


「それは驚くに決まっているだろう!」


それは流石の一刀も驚くしかなかった、何せ蒲公英の褒美の要求が押し掛け妻として自分を貰えという今までにない話だからだ。


「どうせご主人様、私が向こうに行っている間、鶸ちゃんや蒼に手を出しているのは間違いないのだからその前に私が妻になっても問題はないでしょう」


蒲公英の指摘に反論する材料が今の一刀にはない、何せ既に正室の紫苑や璃々、それに翠と既に3人の妻がいるのだから。


「それに私たちはもう謀反人扱いされて私たちどこにもお嫁に行けないようになったからご主人様に責任を取ってもらわないといけないんだから♪」


「責任か」


「そう責任、それに揚州に行って一人でご主人様の事を思うのが不安だから、蒲公英の体にご主人様の証を刻み込んで欲しいの」


「蒲公英、もう後には引けないんだぞ」


「うん、分かってるよ。こう見えても私も涼州の女なんだから、紫苑や璃々、それにお姉さまにだって負けるつもりはないからね」


「よし分かった、蒲公英。そこまで言ってくれたら男冥利だよ。蒲公英、君を俺だけの物にしたい」


二人は肩を寄せ合う様にして、そして静かに草むらの中に消えて行った。


そして一刀と蒲公英が城に帰って来たのは夜になってからであった。


紫苑の部屋に行くと紫苑と碧が一杯やっている状態で一刀と一緒に帰ってきた蒲公英の姿を見て二人は取りあえず安心した。


「伯母様、さっきはごめんなさい!あんな事言うつもりじゃなかったんだけど…」


「もういいのよ、蒲公英。私も説明が足りなかったのが悪かったのよ」


「それで伯母様。私、揚州に行ってくるよ。そして必ずご主人様や伯母様の期待に応えて成長して帰ってくるからね」


「分かったわ。私も貴女の成長した姿を期待して翠たちに気合いを入れるわ」


元々仲の良い関係であったので関係が修復できて安心した一刀と紫苑であったが、何故か意味深に微笑む紫苑がそっと一刀に近づいて話し掛ける。


「ご主人様…、蒲公英ちゃんの機嫌が何時に無く良い様に見えますが、どういう説得をなされたのですか…?」


一杯やってある程度出来上がっている紫苑の指摘に一刀はたじろぐが紫苑は言葉を続ける。


「それに…腰の辺りが何か充実しているような…そうね、腰つきが一人前の女になった感じと言ったらいいのかしら…」


「えっと…」


紫苑の鋭い指摘に一刀が返す言葉がない。


それを横で聞いていた碧も蒲公英に


「蒲公英やったのか!?」


「えっ!?何を」


すると碧は大袈裟に右手を突き出しながら、グッと握り締め拳の人差し指と中指の間からは、親指がグィッと覗き出ている。


碧の右手の仕草は詰り、アレをやったのかという意味であるが、まだその点では紫苑や碧に掛かれば赤子同然の蒲公英は顔を赤くして


「伯母様の馬鹿―――!!」


本日二度目の馬鹿発言であるが、これは蒲公英の照れ隠しである事は言うまでもなかった。


そして出発までに蒲公英は翠たちに迷惑を掛けたことを詫び、3日後には孫堅らと共に蒲公英も一緒に揚州に旅立って行ったのであった。


蒲公英が旅立って翌日、


「ご主人様、大変だよ!!」


璃々が慌てて部屋に飛び込んで来た。


「どうして璃々。そんなに慌てて」


「ご主人様、洛陽から使者が来たよ!」


再び波乱の幕が開かれようとしたのであった。


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