試合(中編)
咲は教師に連れられ、準備室に向かっている。その途中でアミとすれ違う。
アミちゃんはすれ違いざまに耳打ちしてくる。
(霊能力用の噴水と松明と電灯、あれを封じれば、戦いは随分と楽になるわよ。頑張ってね)
(ありがとう。アミちゃん、行ってくるね)
2人はそう言って、すれ違う。
「試合はこのペンダントを首につけ、ペンダントを取られた方が負けだ。武器や道具は他の学科の物を使っても良い。銃系は模擬戦用のペイント弾を使用すること。質問はあるか?」
「ありません」
「よし、準備を開始せよ。時間になれば放送が入る」
教師はそう言って、観客席の方に歩いていく。私はドアを開けて中に入る。
装備は自分である程度用意してある。炎、氷、衝撃、地属性の杖が腰のホルスターにあって、小型の魔道書も腰のポーチにある。魔導装飾品は『龍石の指輪』。お姉ちゃんがくれたかなり強力な魔導装飾品らしい。紫色の宝石がついた指輪である。効果は魔法の大強化と『龍王の吐息』(バハムートブレス)という魔法が使える様になる。まだ隠された能力があるらしいけど私にはまだ使えない。もう一つ魔導装飾品をつけていて『幻影の指輪』。これは幻覚系魔法が使える様になる物。これは強力だから少し高かったけど自前で購入した。
支給用道具は、衝撃魔法の杖を5つ持って行くことにした。無いよりあった方がマシと考えた。腰のホルスターにしまう。
『一条 咲! ゲートに入れ!!』
準備室にそう響く。私は準備室のゲートに入る。ゲートはエレベーターみたいなっている。私がゲートに入ると扉が閉まり、ゲートが上に上がる。
試合場は観客席から見るよりもずっと広かった。反対側のゲートから小柄な女の子がやって来る。私は試合場の中心に行く。
「お互いにベストを尽くせる様に頑張りましょう」
私は試合相手にそう言う。相手は少し笑顔になり、返してくれる。
「よろしくですわ。私も精一杯頑張りますわ」
2人は試合開始位置につく。俺は観客席からそれを見ていた。対戦相手のデータを見ると、名前は十六夜 葵。霊能力者で式神を操る。
式神は魔法で言う召喚獣みたいなものだな。まあ、契約を結ぶ事で使える強力な霊能力だな。
式神の名は『麒麟』。データによると容姿はユニコーンみたいらしい。雷と風の霊能力を操る。
『試合開始!!』
開始の合図がする。十六夜は式神を召喚したな。さて、咲はどうでる?
対戦相手が式神を召喚する。
(あの式神は確か、『麒麟』。雷と風を操る式神ね。なら……!)
腰のポーチから魔導書を取り出す。呪文の詠唱を始める。
(そんな棒立ちで呪文の詠唱とは、素人か余程の実力者かしら? 私と麒麟のコンビネーションを見せてあげますわ)
「行きますよ、麒麟!!」
《御意》
十六夜は麒麟に乗る。麒麟についている縄を使うと、麒麟は動き出す。麒麟は空に飛び、雷のブレスを吐く。これをどうする? 咲。
雷のブレスは10mくらいの土の障壁に阻まれる。ブレスを防ぐと同時に土の手が、地面から生えて十六夜と麒麟を襲う。
「麒麟! 回避行動を!!」
《了解しました。我が主人》
麒麟は高速で空を駆ける。土の手は増え続ける。十六夜は霊能力で迎え撃つ。十六夜の霊能力は結界を張るもので結界は強力で土の手じゃ結界は破れない。
結界か。咲が地味に苦手としているな。さて、どう対応する
(結界を出されたか………。仕方ない、この呪文を使うしかないわね)
十六夜と麒麟を挟むように土の柱が出て来る。土の柱は十六夜と麒麟を押しつぶし、土の柱が爆発する。そして、咲は再び呪文を詠唱を始める。呪文は、少し長い。溶岩の竜巻が試合場全体に出来る。そして、咲の上方に溶岩の大玉が出来る。
(これは………)
俺は知っている。この魔法のコンボを。咲の魔法は土や溶岩を操る事に特化している。この溶岩コンボは咲が結界を破る為に作ったコンボ。溶岩の竜巻は結界の耐久力を下げる為の連続攻撃、溶岩の大玉はまあ、見ておけば解る。
溶岩の竜巻が消え、煙も消える。十六夜と麒麟を守っていた結界が消えている。結界が消えた事を確認すると、土の手が麒麟を拘束する。そして、溶岩の大玉が十六夜と麒麟を襲う。それは、一つの隕石だった。
溶岩の大玉は十六夜と麒麟を押し潰す。そして、溶岩の大玉は大爆発を起こす。
(はあ、はあ、はあ。これで………!!)
咲は一瞬油断した。その一瞬が戦いを分けた。そう、咲は大技を使った事で魔力を大量に消費していた。十六夜はそれを見逃すわけでは無かった。溶岩の大玉が落ちたところから、ボロボロになりながらも、最速で咲に向かった。そして、十六夜の手が咲のペンダントを奪った。
『試合終了!! 勝者十六夜 葵!!』
試合終了の合図がなる。
「よい、戦いでした。お疲れ様でした」
十六夜が咲に向かって握手を求める。咲はその手をしっかりと握る。
「今度戦う時は、負けないわよ!!」
私は十六夜に向かって言う。彼女もそれに答えてくれる。
「ええ。私も負けないように鍛練を積みます」
そう言って、2人はそれぞれのゲートに向かった。
「ただいま、帰りました。ご主人様」
アミが俺に話しかける。
「お疲れ。相手はどうだった?」
「相手にもなりません。あれで超能力のトップクラスとは疑わしいですね」
まあ、お前が強過ぎな気もするがな。魔法一回で、勝負決めるとかただの化け物だぞ。
「倉崎 翔太!! 試合の準備をしろ!!」
ようやく、俺か。俺が最後か?
「行ってらしゃいませ。ご主人様」
「ああ。行ってくる」
俺はアミにそう言って、準備室に向かった。
廊下。
(最近、自分は丸くなって来たと思っていたけど、全力で戦っていいんだ。不良の血が騒がない訳が無いだろう!)
俺は、この世界に来てから大分丸くなっている。前回は家庭の環境が悪いからグレてしまったのか? 環境一つで変わるもんだな。だが、俺は元不良だ。公式で喧嘩が出来るんだ。血が騒いでいる。
「試合の説明をする。試合は他の学科の武器や道具の使用を許可している。銃類の使用は模擬戦用のペイント弾を使用しろ。他に質問は?」
「特に無いです」
「よし、なら入れ。時間になれば放送が入る」
俺は準備室に入る。中に人がいた。咲の対戦相手の十六夜 葵だ。
「あら、貴方は今から試合ですの?」
「それ以外に来る用事があるか? 咲はどうだった?」
俺は、十六夜に咲について聞いてみる。相手は少し迷ってから答えてくれた。
「中々いい魔法使いでした。麒麟もあれほどの手練れと戦うのは久し振りと言っていました。彼女の知り合いですか?」
「ああ。昔からの幼馴染でね。そうか、そう言ってもらえると咲も少し良くなるな。ありがとうな」
「いえ。武運を祈ります」
彼女はそう言って、準備室を出て行った。
準備と言っても、俺は道具を使用しないため、相手の情報をみるしかない。俺は電子学生手帳を出す。
この電子学生手帳。準備室にあるターミナルに繋ぐと試合相手のデータを見れるようになっている。その他に色々機能がある。今は使わないから説明しないが。
俺は準備室のターミナルに電子学生手帳を接続する。試合相手のデータが出て来る。
俺がターミナルで試合相手のデータを見終わった後に放送が入る。
『倉崎 翔太! ゲートに入れ!!』
俺はゲートに入って行く。さて、喧嘩を始めようか。