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ジ・アナザー  作者: sularis
第九章 生き別れて
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第九章 第二話 ~蒼い月、ユフォルで~

 ユフォルにいくつかある、上等とは言えない宿の一室。

 既に外は暗くなり始めている中、室内は外よりも一足先に暗くなっていたが、部屋にいる誰もが明かりを点けようとはしなかった。

 部屋にいるのは男女それぞれ3人ずつ。計6人。

 閉め切った窓を貫いて、外の喧噪が聞こえてくるが、6人の纏う空気は限りなく重かった。

 尤も、全員が全員、動く気力もないほどに暗く沈んでいるわけでもない。

「……何か食べるもん手に入れてくるわ」

 そう言って立ち上がったマージンに、

「……ああ、頼む」

 グランスがそう返した。他の仲間たちも、マージンに視線をやって微かにだが頷く。

 そんな仲間たちの様子を見ながら部屋を出たマージンは、後ろ手にドアを閉めるとため息を吐いた。

「思った以上にみんなきとるな。早いとこキングダムに戻らへんとあかんな」

 そうぼやくと、頭を軽く振って沈んだ空気を追い払い、軽く食べられるものがいいだろうと宿の食堂へと赴いた。

 マージンが出ていった後の室内では、残された5人もため息を吐いていた。とはいえ、先ほどまでの重たい空気はマージンが動いてくれたことで随分と軽くなっていた。

「マージンではないが、少しは動かねばならぬかのう」

「まだ……あまりそんな気にはなりません……けど」

「折角、多少は慣れてきたってのに、帰ってきた早々あれじゃな」

 クライストの言葉に、仲間たちは先ほどの出来事を思い出した。



 ワイバーンとの戦闘から、二週間後。ワイバーンとの戦闘でレックを失った仲間たちは、レックの捜索を数日ほどで打ち切り、重たい足取りでユフォルへと帰ってきていた。

 その足で最初に向かったのが冒険者ギルドである。

 ワイバーンを倒したという報告をしておく必要があるし、ロイドのところに向かうに当たってユフォルで待たせていたミドリとコスモスにも連絡をつけなくてはならない。


「なんだか物々しいな」

「やはり、あれが原因じゃろうな」

 ギルドに入ってそうそう、重武装で身を固めた冒険者たちの視線を一斉に集めたグランスとディアナの脳裏をよぎったのは、仲間の一人を失った原因そのものであるワイバーンの姿である。

 ユフォルの出入り口付近はいつも通り……というより、むしろ人が少ないくらいだったのだが、その分冒険者ギルドに集まっていただけらしい。その理由に心当たりがあったグランスたちは、たむろすぐ冒険者たちを横目にとりあえず受付へと足を運んだ。

「ああ、いらっしゃいませ。こんな時期にユフォルに来るなんて……もしかして救援要請でいらした方々ですか?」

 受付の女性の目には、どこか期待の色が浮かんでいた。が、

「救援要請?」

 グランスが首をひねると、一瞬で沈んだ雰囲気に戻ってしまった。

 ついでに周囲の冒険者たちから向けられていた視線も、彼らの失望とともに雲散霧消した。

 そんな中、最低限の丁寧な対応はするあたり、流石受付嬢である。尤も、折角の戦力を逃がしたくないだけかも知れないが。

「ええ。一ヶ月くらい前になるんですけど、身体強化の祭壇に向かう道の途中で、ワイバーンが目撃されました。本来この辺りにはいるはずがないんですが……とにかく、町にいた冒険者たちだけでは手に負えない相手ということで、ギルド本部と軍に救援要請が出されたんです」

 それを聞いて、グランスたちは状況を大体理解した。

「できれば、この町から逃げ出したいところなんですけど……目撃された場所が近くて。下手に町から出るのも危険ですし。かといって、たまにあるという襲撃であのワイバーンが襲ってくるかも知れませんし……」

 それで町に残った冒険者たちはこうして一カ所に集まり、せめて襲ってきたときにすぐに対応できるようにと構えているらしい。

 ちなみに、他の者たちもできる限りギルドかその近辺で寝泊まりするようにしていたらしい。だが、いつまで経ってもワイバーンが襲ってくる気配はなく、事態が長期化するにつれ、だんだん普段の生活に戻ってしまったとのことである。

 それでも、町の外で活動しようという者はほとんどいなかった。何しろ、直後に逃げ出した者たちがいたのだが、ユフォルからそれほど離れていないところでワイバーンに襲われ壊滅的な被害を被ったというのだ。無理もないと言えるだろう。

「話は分かった。それで、そのワイバーンってどんなやつだ?」

 その言葉に、周囲の冒険者たちから馬鹿にしたようなヤジがあがるが、グランスたちは誰一人として気にしない。ただ、グランスの腕にしがみついていたミネアの力が少し強くなったくらいである。

 受付嬢も今のグランスの言葉には多少呆れたらしいが、それでも仕事は仕事と割り切っているのだろう。

「生き残った冒険者の方々の証言になりますが……」

 だから多少曖昧なところはあるのだと前置きして、分かっている限りの情報を説明する。

「ふむ……」

 その説明を聞いたグランスたちが恐怖で黙り込んでしまったように見えたのだろう。受付嬢が心配そうに声をかけようとしたとき、

「やっぱ、あいつだよな」

 そうクライストが口を開いた。

「ワイバーンと言うだけでもそうじゃが……外見もそこまで似ておるのがそうそうおってはたまらんのう」

 そう相づちを打つディアナに、受付嬢は一瞬彼らが何を言っているのか理解できなかった。

 が、それも一瞬。

「えーと、あなた方もあれを見かけられたんですか?」

 受付嬢のその言葉にギルドがざわつき、冒険者たちの視線がグランスたちへと集中した。

 雑談などのざわめきも消え、静寂が落ちた。だから、次のグランスの言葉を誰も聞き逃したりはしなかった。

「見かけたというか……襲われたんだがな」

 それを理解するための一瞬をおいて、一斉にざわめきが爆発する。

「よ、よく無事でしたね!」

 受付嬢が思わず座っていた椅子から立ち上がり、目を丸くした。

 他の冒険者たちも一斉に立ち上がって、

「よく無事だったな!」

「どうやって生き残ったんだよ!?」

「撃退したのか!?」

 口々にグランスたちに迫ってくる。

 だが、それを見ていたグランスたちは眉を顰めた。あれとの戦闘は正直思い出したくないのだ。いちいち答えたいことでもない。

「ディアナ、報告は頼む」

 だが、迫ってくる冒険者たちから女性陣を守るために、グランスとクライスト、マージンが壁となって冒険者たちの前に立ちふさがった。放っておけば、ミネアやリリーあたりはもみくちゃにされかねない。

 勿論、グランスたちから話を聞きたいだけの冒険者たちからすれば、グランスたちが壁となったとは全く意識されなかった。実際にはグランスたちが女性陣を守る壁になったことに何人かの冒険者が顔を顰めたが、どさくさ紛れに良からぬことを企んでいたのだろう。

 だが、実際に彼らがグランスたちに質問する機会は来なかった。

「件のワイバーンじゃがの。襲われた際に何とか返り討ちにしたのじゃ。もう、あれが襲ってくる心配はないのう」

 そのディアナの言葉は、何故か騒いでいた冒険者たちの耳にもしっかりと届いた。

 再び落ちる沈黙。

 そして、さっき以上に今度は歓声が爆発する寸前、

「じゃが、私たちも仲間を失った。死体の場所は教える。しばらく、静かにさせてくれると助かるのう」

 その言葉で、爆発するはずだった歓声は一気に(しぼ)んでしまった。

 この場に、仲間を失うことの意味を全く理解していない者は一人もいない。運良く仲間を失っていない冒険者たちであっても、失いかけたことすらない者はいなかったのだ。

 故に、ワイバーンが倒されたことに喜びながらも、それを成し遂げたグランスたちに声をかけづらい空気が生まれていた。

 だが、受付嬢は立場上、そうもいかなかった。

「……分かりました。確認のため、場所をお伺いします」

 その言葉に、もう壁はいらないだろうと戻ってきたグランスがミネアに確認をとりながら、ワイバーンの死体がある場所を伝えた。

「それと、連絡をつけたい相手がいるんだが」

「どなたでしょう?」

「ミドリとコスモスという名前の女性たちだ。まだこの町にいると思うんだが」

「その名前だけでは、私には分かりかねます」

 そう言った受付嬢が二人の特徴を聞こうと口を開きかけたとき、

「その二人なら、数日前に町から逃げ出したぜ」

 グランスたちに迫ってきていた冒険者の一人がそう言った。

「逃げ出したって?」

「ああ」

 その冒険者はクライストにそう頷くと、

「三日くらい前かな。これ以上この町にいるのは耐えられないとか言って、出て行ったんだ」

 そう答えた。

 正直、その冒険者はあの二人が生きているとは思っていなかった。いや、他の誰もが多分死んだだろうと思っていた。

 何しろ、女二人だけである。ワイバーンに襲われればひとたまりもない。そうでなくとも、人気が絶えた街道には様々なエネミーが彷徨き始めているはずだった。女二人でどうにかなるとは思えなかった。

 そう考えていた冒険者だったが、流石に仲間を失ったばかりというグランスたちに、そのことを伝えるつもりはなかった。

 無論、それでもグランスたちも冒険者である。すぐに同じ結論に辿り着いてしまった。

「……そうか。教えてくれて礼を言う」

 冒険者が言わなかった部分を察したグランスは、そう返すと、仲間たちを促してギルドを後にしたのだった。



「やっぱ、俺たちの帰りが遅くなったから、待ちきれなくなったのか?」

 クライストがそう言うと、ベッドに腰掛けていたミネアとリリーが体を震わせた。

 ディアナはというと、クライストを睨み付け、

「クライスト、言って良いことと悪いことがあると思うのじゃがのう?」

 そうクライストを非難した。一方、クライストの考えを察した者もいる。

「ディアナ、クライストを責めるな。確かにタイミングは悪いが、俺たち全員がいずれ向き合わなくてはならんことだ」

「しかしのう……」

 ディアナはまだ不満そうではあったが、その考え方も理解はできた。

 自分たちのせいで誰かが死んだかもしれない。そんな考えは、まだレックを失った喪失感から立ち直っていないグランスたちにとっては、重すぎた。

 だが、クライストが口にするまでもなく、既に何となくそう思ってしまっていたのだ。ただ、それから目を逸らそうとしていただけのこと。

 そう出来ないように直視させられたからと言って、クライストを責めるのはお門違いであるのは確かだった。

 だが、空気が悪くなってしまったことも確かである。

 再び全員が黙り込んでしまった部屋に、窓の外から聞こえてくる歓声だけが静かに響く。


 ワイバーンが討伐されたという話は、既にユフォル中に広まっていた。

 ワイバーンのせいでここしばらく流通が停滞していたユフォルは、そろそろ食料だのなんだのが足りなくなりつつあったらしく、まだ確認が済んでいないにもかかわらず、お祭り騒ぎになっていた。

「なんや、みんな随分浮かれとるな」

 宿の食堂で軽食を頼んだマージンは、通りから聞こえてくる歓声に首を傾げていた。

「そりゃそうだ。今日来たばかりのあんたたちには分かんないだろうけどな。ワイバーンのせいでみんな結構ストレスたまってたんだ。それが倒されたってんだから、騒ぎたくもなるさ」

 宿屋の主人兼食堂の親父――アバター作成時にプレイヤーが何を考えたか、珍しく美形ではない外見だった――はマージンに頼まれたサンドイッチを作りながら、そう笑った。

 ちなみに、食堂に他に客はいない。元々、本来宿の客である冒険者たちは皆、ギルドの方に泊まり込んでいたのだから仕方ない。

 そんな中、何故食堂の親父がワイバーンのことを知っていたかというと、その話を町中に知らせて回っている気の早い冒険者がいたからである。勿論、すぐに他の冒険者たちに捕まって、確認が取れていない話を触れて回るなと説教を食らったのだが、皆、先走った冒険者の気持ちも分かるので、たいした説教ではなかったとか。

「正直、今日も客なんて来ないと思ってたからな。あんたたちが来るのがもう少し遅かったら、戸締まりして俺も飛び出してたぜ」

「あー、ぎりぎりやったんやな」

「おうよ。ついでに言うと、さっき降りてきたタイミングもな」

 どうやらこの親父、客がいるのに食堂も宿も放り出して飛び出していくつもりだったらしい。

 マージンはそう察すると、こっそりとため息を吐いた。

 無理もない。もう少しで沈んだ仲間たちを空腹のままにしてしまうところだったのだ。沈んでいるときに腹まで減っていると、大体ろくな事を考えないというのがマージンの経験則だった。

 そんなマージンの目の前で、親父は次々とサンドイッチを作っていく。

 やがて、

「ほらよ。それじゃ、俺もちょっと外に行ってくるからな。留守は頼んだぞ!」

 作り終えたサンドイッチをトレイの上に積み上げた親父は、そう言って食堂を飛び出していった。

「……いや、客に留守番頼むって、ありなん?」

 後に残されたマージンはしばし呆然としていたが、すぐに気を取り直し、トレイを持って部屋へと戻った。

「サンドイッチもらって来たで」

 そう言って部屋に入ったマージンは、先ほどと微妙に違う空気に気がついた。だが、何がどう違うのかと言われると、分からない。ただ、なんか違う気がした、程度のものである。

「ああ、すまんな。それじゃ少し食べておくか」

 マージンからトレイを受け取ったグランスは、テーブルの上にトレイを置くと早速サンドイッチを1つ、口へと放り込んだ。

 それを見た仲間たちも、もそもそと動きだし、サンドイッチを口へと運んでいく。

 流石にお腹が空いていたのだろう。一度食べ始めたグランスたちは、その手を止めることなくサンドイッチを食べ続ける。

 やがて、トレイの上は見事に空になった。

「人心地ついたな」

 グランスの言葉に、仲間たちも頷く。皆、心なしか、先ほどより少し元気になった気がしていた。

「で、外がさっきから騒がしいけどさ、何なんだ?」

「ワイバーンが倒されたっちゅう事で、ちょっとしたお祭り騒ぎになっとるみたいやな」

 マージンの言葉に、クライストは微かに顔を顰めた。

「覗きたいとは全く思えんのう」

 ディアナの言葉に、仲間たちは素直に同意する。

「とはいえ、ワイバーンの死体が確認されたら、本格的な騒ぎが始まるだろうな」

「出来れば、その前にここを離れておきたいのう」

 レックの犠牲でワイバーンを倒せたのだ。ワイバーンが倒されたことで起きるだろうお祭り騒ぎになど参加したくないと、ディアナが言外に告げる。

「そうだな。気分転換には最悪だ。2、3日休んだら、さっさと離れるか」

「キングダムに戻るの?」

 リリーの言葉に、グランスは即答を避けた。

 そもそも、今後の方針が決まっていないのである。

 旅を続けるのか、それとも……

 それを口にしたのはディアナだった。

「まずは、このまま旅を続けるのかどうか考えるべきじゃろうな」

「……打倒魔王をあきらめて、おとなしくする……んですか?」

 ミネアがもう1つの選択肢を口にすると、仲間たちの顔が真剣なものになった。

「これ以上仲間を失いたくない。だから、危険なところに行かないというのは選択肢としてはあり得るな」

「俺たちが頑張らなくても他の連中がやってくれるだろうしな」

 尤も、それは危険を他人に全て押しつけるということでもある。そのことが分かっているのか、クライストの口調はどこか皮肉っぽかった。

 ただ、それでも仲間をさらに失う恐怖を考えると、狡いと言われようとも、危険な真似はしたくないとも思えるのだ。

 そう考え、悩んでいる仲間たちの中で、次にディアナが口を開いた。

「じゃが、ジ・アナザーにいつまでも閉じ込められておって、現実の我々は無事なのじゃろうか、という疑問はあるのう」

 仲間たちがハッと顔を上げる。

 普段はすっかり忘れているが、ここはあくまでも仮想現実――のはずであり、現実世界にも彼らの身体があるのだった。

 万が一、現実世界の身体に何かが起きれば、たとえここで死ななくてもやはり死んでしまう。

「つまり、魔王を倒さずに安全な町に引きこもってても、そのうち死んじゃうかも知れないって事?」

 リリーがそう訊くと、ディアナは頷いた。

「うむ。おそらく私たちの身体は病院のベッドの上じゃろう。じゃが、そんな状態が続けば、いつかは事故が起きるはずじゃ。そうでなくとも、起きる目処が立たない人間を寝かせたまま生かし続けるのには金がかかるのじゃ」

「その金が出なくなったら、アウトという訳か」

「社会問題にはなっておるじゃろうから、ある程度までは国が負担してくれるじゃろうがのう」

「人数が人数だ。国の金庫への負担も大きいだろうからな」

 そう言って、グランスは自らの顎をさすった。

「そのうち、止められるってか?」

「何年先かは分からぬが、その可能性は低くはあるまい。しかも、時間が経てば経つほどにそうなる可能性は高くなるはずじゃ」

 怒ったようなクライストとは対照的に、ディアナは淡々とそう答えた。

「そんなことって……」

 リリーの身体から力が抜け、ふらりと横に倒れ込んだ。だが、支えるはずのミネアもショックで力が入らなくなっていたらしく、一緒にベッドに倒れ込んでしまった。

「旅を続けることの最悪を想定するなら、旅を止めたときの最悪も想定するべきだろうな……ミネア、大丈夫か?」

「はい……。すいません」

 支えに来てくれたグランスに、ミネアが礼を言った。

「つまりは、どっちがマシかって話な訳だな」

 クライストの言葉に、ディアナが頷いた。

 マージンはというと、顔を顰めている。

「なんや、随分と難しい問題やなぁ……」

「そうだな。簡単には決められそうにない」

 グランスはそう言うと右手を上げ、

「天秤のこちらには、何もしなかったときのリスクが乗っている」

 そして左手を上げ、

「こちらには、このまま旅を続けたときのリスクが乗っている。だが、いずれも簡単に分かるようなものではない」

「わいらが役に立たへんのやったら、何もせえへん時のリスクは小さいままやしな」

「逆に、打倒魔王に大きく貢献できるのなら、リスクを承知の上で旅を続けるべきじゃな」

 マージンとディアナがそう言ったものの、

「どっちにしても、情報不足だぜ。今すぐ決められるもんじゃねぇな」

 クライストが口にした、身も蓋もない意見が全てだった。

「……とりあえず、一度キングダムに戻るべきやろうな」

「そうだな。ここにいても、情報は集まらないか」

 マージンの言葉にグランスがそう呟いた。

「キングダムか。馬を借りねぇとな」

「馬じゃと?」

 クライストの言葉にディアナが首を傾げた。

「馬になど乗って来なんだような気がするのじゃが」

「まぁ……来た時はな」

 答えにくそうなクライストの様子にディアナはどういう事かと問い質そうとし、直前にその理由に思い当たった。

(そう言えば、ここに来るときはレックの魔力でサークル・ゲートを使ったのじゃったな)

 そうと思い出せば、余計なことをこの場で言う必要もない。

「わいらの魔力でも動いたらええんやけどな」

 本人なりに気を遣ったつもりなのか、マージンはレックの名前こそ出さなかった。だが、レックのことが十分連想できるような発言に、マージンの頭にはディアナの手による教育的指導が落ちたのだった。

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