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ジ・アナザー  作者: sularis
第八章 再び東へ
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第八章 第一話 ~リヴォルド~

第八章の始まりです。


いよいよ話が大きく動く!のか????


とりあえず、八章のタイトル考えてきます(ぉい



ふと、各話のタイトルに何章何話とか付けた方が良いのかな、とか今頃思ったり。

 キングダムから遙か北の地にある街ペル。更にそこから北東に進んだところに、深い谷間がある。その両岸の崖に張り付くように作られた町。それがラッパだった。

 そのラッパの崖に張り付いた建物の1つに、3人の男女が集まっていた。


「ロマリオ達はユフォルに向かうそうだ」

 群青色の髪の毛を持った青年――ヨハンが、髪と同じ色の眠そうな瞳でそう言った。ちなみに外見こそ青年だが、その中身がオヤジであることは、周知の事実である。

「また急な話ですね。彼らがついていたパーティが動いたのですか?」

 椅子に座ったままそう答えたのは、金髪青眼の天使の如き容貌の若き女性――フランである。服装も天使に相応しく、白いゆったりとしたドレスである。ウェーブがかかった髪は、今日は後頭部でまとめられていた。いわゆるポニーテールである。

 ちなみに部屋にはもう一人、フリフリのメイド服を着せられた銀色の髪の少女がフランの横に静かに立っているのだが、彼女――メリルが口を開く気配はない。

「違うな。何でも例の予言者とか名乗る声から、そう指示を受けたらしい」

 フランの言葉にヨハンはそう首を振った。


 予言者の声は、銀色の鱗を持つ化け物蛇と戦う蒼い月の支援を命じた後も、何度かロマリオに話しかけてきていた。その多くは蒼い月の行き先を予め伝える内容だった。

 一方、予言者はロマリオに口止めをしなかった。それでも当初はロマリオもどうするべきか悩んでいて、仲間に予言者のことを伝えていなかった。だが、予言者の声に従い続けると挙動不審を仲間達に疑われ、そのまま粛正される可能性もあった。そこで、キングダムに入る少し前に仲間達にも予言者のことは伝えられていたのである。


「予言者ですか……」

 ヨハンの口から出た言葉に、フランが眉を顰める。尤も、眉を顰めたのはフランだけではなかったが。

「正直、胡散臭いことこの上ないがな。……イデア社の手先だと言われたら、すんなり頷けるぞ」

「でも、今はその掌の上で踊るしかないのでしょう?」

 フランの言葉にヨハンは不承不承頷く。

「あちらから連絡を取ってきたということは、あちらはこっちを監視できる立場なわけだ。一方、俺達の方は相手のことを何一つ分かっちゃいない。ロマリオも何度か逆探知を仕掛けたみたいだが、全部空振りに終わったというしな」

「空振り?」

 そう口を挟んできたのはメリルである。

 メリルは主であるフランの会話を邪魔することはあまり好まないものの、別に誰からも禁じられてもいないし、咎められることでもない。単に本人の主義みたいなものであるが、黙っていることに飽きるとこうして言葉を発するのだった。

 なので、ヨハンも普通に答えを返す。

「そ。空振りだ」

「何の手がかりもなかったの?」

「見事なまでにな。魔力の痕跡すら無かったと言っていたな。……まあ、システムサイドの人間なら簡単なことだろうが」

 それが、予言者を名乗る何者かがイデア社の関係者だと予想している根拠の1つだとヨハンは続けた。が、

「でも、イデア社に見つかったなら、無事じゃ済まないんじゃないの?」

 というメリルの言葉に、ヨハンは唸った。実際、メリルの言うとおりだったからだ。

『魔王降臨』以前にも、現実でイデア社と接触した、あるいは仮想現実でイデア社に発見されたと覚しき仲間は何人かいた。だが、その全員と連絡が付かなくなっていた。

 これは他の魔術結社でも同じようで、リヴォルドと付き合いのあった魔術結社でも、何人かメンバーが行方不明になっていた。おそらく、全員が捕縛され、そのまま殺されてしまったのだろうと推測されている。

 そのことを考慮すると、予言者がイデア社の関係者だった場合、自分たちが未だ無事である理由が分からない、という事になってしまう。

 尤も、

「方針が変わった可能性もあるけどな」

 と、可能性を挙げればキリがないのであるが。

「まあ、いろんな可能性がある訳だから、現時点では断定は出来ないな。言えるのは、予言者を名乗る何者かがいる事と、そいつにこちらから接触する手段がないって事くらいか」

 そんなヨハンの言葉にフランは頷き、

「どちらにしても、私たちは予言者を名乗る者に対して圧倒的に不利な立場にいます。しばらくは踊るしかないのでしょうね」

「そうだな。出来れば、俺達の目的に反しない範囲で踊らせて貰えることを期待するか。……ああ、もう1つ言えることがあった」

「何?」

 ポンと手を打ったヨハンにメリルがそう訊ねる。

「予言者とやらは、蒼い月の近くにいる可能性が高い。じゃないと、蒼い月の動向を予めロマリオに伝えることなんて出来ないだろ?」

「それもそうね。……でも本物だったら?」

「その時はお手上げだな。でもまあ、その方が面白いんじゃないか?」

「それは……同意はしかねるわね」

 そんなメリルの様子に、ヨハンは驚いた。

「そうか?未来視と言えば魔術……いや、魔導の一大目標だろう?それに手が届いている人間に会ってみたいとは思わないか?」

「興味はあるわ。でも、予言者なんてものが現れるのは、大抵碌な事が起きない時だって決まってるもの」

 心底嫌そうにメリルは答えたのだった。



 さて、場所は変わってキングダムの東門。

 その門を、一頭の馬に乗って後にしたばかりの男女がいた。

「ユフォルか……かなり遠いな」

 空色の髪の青年が、緑色の瞳に遙か東の空を映してそう言えば、

「外れたら大損」

 と、ストレートの銀の髪を腰まで伸ばした幼さの残る美少女が、短く答える。

 ロマリオとエセスである。

 エセスが前に乗り、そのエセスを両腕で囲うようにしてロマリオが後ろから手綱を握っていた。


 二人が馬に揺られているのは、ロマリオが予言者を名乗る声からユフォルに向かうようにと指示を受けたからである。それもいつまでに到着していなくてはならないという期限付きである。徒歩でユフォルに向かうとその期限に間に合わないことは明らかだったので、冒険者ギルドで馬を借りたのであった。

 それでも、ユフォルまで約一月はかかるのだが。


 二人はのんびりと馬に揺られながら、ぽつぽつと会話を続ける。周囲には東に向かう、あるいは東からやってきた冒険者や隊商が時折行き来しているだけなので、会話の内容を聞かれる心配もない。

「予言とかはあまり信じないけど、今までは外れていないからね。今度も当たるんじゃないかな」

「情報漏洩?」

「かもね。そうだとすると、蒼い月の中の方針を決められる立場にいる誰かが予言者だって事になるけど……」

「斧を持った?」

「彼がリーダーっぽいね」

「っぽくない」

「確かに予言者のイメージからはかけ離れてるけど……偽装かも知れないよ?」

「催眠術」

「それで他の仲間を操ってるのがいるって?まあ、それも否定は出来ないけど、それがずっとばれないってのは、相当なものだよ?」

「…………」

 黙り込んだエセスを見ながら、ロマリオは苦笑する。ここでエセスを言いくるめたところで、意味はないのである。

「ま、誰が予言者なのかは、今の段階では推測しかできないんだ。深く考えるのは止そう」

 そう言って、エセスの頭をぽんぽんと軽く叩く。

「ただ、状況の見極めだけはしっかりしないとね」

「言われるまでもない」

 少しふて腐れた様子のエセスは庇護欲をそそられておつりが来るほどに可愛いのだが、兄貴分としてすっかり慣れているロマリオは再び苦笑するだけだった。

「……ユフォルでの目的は何?」

 馬に揺られて暫し。機嫌が直ったのか、エセスがそう口を開いた。

「さあね。予言者は彼らを勇者の種と呼んで、僕達にそのサポートを期待してるみたいだから……僕達の力がないと乗り越えられない事件か何かが彼らに起きるんじゃないかな?」

「そう」

 そして再び沈黙が落ちる。

 互いによく知っている仲だけに、用事も話題もなければ会話が途切れることも珍しくないので、別に気まずい空気が漂うこともない。

 エセスは何を考えて言えるのか、いつも通りの無表情で馬の鬣を見つめているし、ロマリオはそんなエセスの頭の上で揺れているヘッドドレスを時折眺めながら、もっぱら左右をゆったりまったり流れていく景色に目を遣っている。放っておいても馬が勝手に道なりに進んでくれるので、常に前に目を遣っている必要がないのであった。

 そんなのんびりとした時間のなか、ロマリオは予言者について思いを馳せる。

 彼は一体何者なのか。イデア社とどう関係しているのか。

 勿論、その答えはロマリオには分からない。ただ、イデア社のメンバーでないとは思っていた。イデア社のメンバーであるならば、もっと露骨な接触をしてきてもおかしくないからだ。だが、それ以上は分からない。

 あるいは彼の目的は何なのか。

 自分たちと同じようにジ・アナザーからプレイヤー達を生還させようとしているだけなのか、あるいはまた別の目的があるのか。イデア社と予言者の関係が分かればある程度の予測も立てられるのだが、情報が少なすぎてどうにも分からない。一応、一般プレイヤーに対して害意を持っているということだけは無さそうだったが――これまた断定は出来そうにない。

 そこで別のことを考えてみる。

 自分は一体どこまで彼の指示に従うのか。

 これに関しては、エセスにすら伝えていないが、例えリヴォルドの当初の目的に反することになったとしても、力の及ぶ限り予言者の指示に従うつもりである。流石に、エセスや仲間達を傷つけるような指示には従わないだろうが。

 その理由は明らかで、予言者に見せられたあの映像である。

 あれが結局何だったのか、僅かな時間で急速に記憶が曖昧になってしまっていた。しかしそれでも、本物だとしか思えないあの映像から受けた衝撃と恐怖は、しっかりと心に焼き付いている。あれがいつ、どこで起きるのか。それは全く分からないが、それでも、あれを避けるためだと言われれば、予言者の言葉に逆らうことは難しい。

 ちなみに、ロマリオはあの映像について、エセスを含む仲間達には一切話していなかった。あれは直接見なければ、理解できないと何となく感じていたためである。

 とそこで、

「……3763本」

 エセスに声にロマリオの思考は遮られた。

「えっと、何かな?」

「毛の数。そこまで数えた」

 エセスの唐突な発言にも割と慣れているロマリオであるが、それでもエセスが言っていることを理解するにはいくらか時間がかかる。

「……要するに、飽きた。暇だと」

 ロマリオが少し考え込んで出したそんな答えを、

「否定はしない」

 エセスはやや遠回しに肯定した。

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