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ジ・アナザー  作者: sularis
第五章 精霊の筺
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第五章 第十二話 ~水の精霊王ウィスリフティ~

 それを感じられたのは、キングダムを除けばごく一部の人間に限られていた。

 だが、確かにその瞬間、世界が揺れたのだ。

 それが何なのか知らない者たちにとっては、それは単なる揺れでしかなかった。そもそも、自分しか揺れたと思っていないと知るや、疲れでも溜まって目眩を起こしたのだろうと納得していった。

 だが、震源地とも言えるキングダムではそれでは済まなかった。

「なんだ、今の揺れは?」

「地震?」

「まさか!仮想現実にんなもんあるわけないだろ」

「じゃあ、何だ?」

 多くのプレイヤー達がそれを感じ取り、それ故に自分だけの目眩や錯覚ではないと、確かに何かあったのだとすぐに確信してしまった。

 勿論、

「え?何かあったのか?」

「なんだなんだ?」

 と、何も感じなかった者たちも少なくない。

 だが、それを感じた者が少なくなかった故に、感じなかった者たちも何かが起きたことを確信するのは早かった。

 とは言え、誰にもそれが何だったのか分からない。

 ただ、異変が起きたことだけは分かった。

 そうなると、ざわめきが混乱に発展するのに時間はかからない。

「地震だ!逃げろ!!」

「湖から水竜が上がってきたぞ!!」

「いや、魔物の襲撃だ!!」

「なんだよ!?また、魔王でも出るってのか!」

 誰かが口にした推測が、人混みの中で瞬く間に現実味を帯びて伝播し、

「逃げろ!逃げろ!」

「くそっ!どけよ!」

「軍はどうしたんだ!?」

 押し合いへし合いという言葉では生ぬるいほどの騒ぎへと発展していった。

 勿論、推測から発生したデマを見抜き、冷静さを維持できた者も少なくない。

 そもそも、人が少なかった場所ならデマが広がるのも遅い。その間に、不安を感じた彼らはそそくさと自らの住居へと戻っていったのだった。

 だが、人が多かった場所ではそうもいかない。デマに惑わされ、暴走を開始した群衆をどうにか出来る力など、個々人にあるわけもない。むしろ、集団心理によって、あるいは繰り返し囁かれることによって、流れたデマこそが真実であるかのように皆が感じ、一層暴走は酷くなっていっていた。

 だが、この状況下にあっても冷静さを維持できた集団もある。



「今のは何だったんだ?」

「さあね。僕には分からないよ」

 部隊の訓練中にそれを感じ取り、そんな会話を交わしたのはレインとホエールだった。

 この日の訓練は、部隊単位で行うということで、キングダムの城壁外の草原で1000人ほどを率いて模擬戦を行っていた。その途中の出来事だった。

 二人が見ると、模擬戦を行っていた兵士達も動きを止め、ざわついている。

 それを見たホエールはイヤな予感に捕らわれた。いや、簡単な推理に基づく確信だったと言ってもいい。

「……すぐに戻った方が良いかも。暴動起きるかも知れないよ」

 その言葉に、レインも同じ想像に至ったらしく、顔から血の気がさっと引いた。

「全員、姿勢を正せ!整列しろ!」

 レインは声を張り上げて叫ぶと、隣で戸惑っていた伝令にも、

「模擬戦は中止だ!すぐに部隊ごとに整列させろ!」

 と命令を伝え、走らせる。

 こうなると後は早かった。

 起きた出来事から来る不安で兵士達は騒然とはしていたが、目に見える脅威があるわけでもない。そのせいか、レインの命令は速やかに実行に移され、ものの数分でレインとホエールの前に訓練に来ていた全兵士がきちっと整列したのであった。

 その間にもレインとホエールは二人で相談し、幾つかの命令を実行させるべくチャットでの連絡を試み、チャットがまたしても機能停止していることを確認すると、命令を持たせて伝令を走らせていた。

 兵士達が全員整列したのを確認すると、レインは再び声を張り上げる。

「今日の訓練は中止する!代わりにやるべき事が出来た!おまえらが体験したように、キングダムのプレイヤー達もさっきのを感じ、それが原因で混乱や暴動が起きる可能性が極めて高い!それによって、多くの怪我人や下手すれば死人まで出るかも知れない!

 従って、今すぐ我々は市街へと戻り、彼らの不安を取り除き、暴動を抑え込まねばならない!

 一方で、さっきの現象が何だったのかも調べねばならない!」

 そう短く演説をぶつと、1000人もの兵士達を部隊ごとに、暴徒鎮圧、キングダム周辺の監視・偵察などの任務に振り分けていく。

「やはり、プレイヤー相手の方が面倒が多そうだな……俺とホエールは街で指揮を執った方が良いか」

「そうだね。周辺の偵察部隊は何か見つけたら伝令を寄越させればいいし」

「だな。……俺はこのまま兵を率いて行く。おまえは本部に戻って、情報収集と使える部隊の用意を頼む」

「そうだね。1000人だけじゃ足りないだろうしね」

 こうしてレインとホエールは、訓練に出ていた部隊を連れてキングダム市街に戻った。

 その間にも混乱は進行していたが、不思議と暴徒化することもなく、ただ混乱して暴走しているだけだった。加えて、群衆の混乱が発生したと連絡を受けた本部の方でも、幾つもの部隊を治安維持のために派遣していた。そのせいか、一時はキングダム全域に広がった混乱も、押し合いへし合いで多数の怪我人を出しながらも、死者を出すことなく収束へと向かったのだった。

 ちなみに、いくら情報を集めてみても、あれが何だったのかはさっぱり分からず……レイン達の元に原因と覚しき出来事の情報が上がってきたのは翌日のことだった。



 一方で、目眩などではないと断じた者たちもいた。

「今のは……魔力の波動……なのでしょうか?」

「じゃろうな。おかげで、幾つか試作品が壊れてしまったわ」

 どこかの街で不機嫌そうに弟子にそう言った老人もいれば、

「イデア社め……今度は何をしでかした」

「……どうせ碌な事じゃない」

「そうだな」

 草原の真ん中で連れにそう言いながら、大規模な魔力の変動が生じたキングダムの方角へと厳しい視線を向ける青年がいた。

「やれやれ、これでまた解析のやり直しか」

「やることがあるのはいいことだろう?」

 そう言いながら頭を掻く壮年の男もいれば、

「予想通りだわ。……あなたたち、計画を次の段階に進めるわよ」

 そう、目の前の男達に命じた美女もいた。



 彼らの言う魔力の波動。その影響を最も大きく被ったのは、言うまでもなく爆心地とも言える地底湖にいた者たちである。

 何故なら、地底湖ではそれは、突風にも似た物理的な圧力を伴っていたからである。

「ふぎゃっ!」

 水の繭の中で精霊王がその姿を現す寸前、訳の分からない声を上げて吹き飛ばされたのは、水の繭に包まれた島の様子を興味津々で見ていたレックである。身体強化を発動する間もなく――発動していたところで、身のこなしが良くなるわけでもないが――2~3mほど吹き飛ばされ、うまく着地できずに地面にべちょっと張り付く羽目になった。

 いきなりの事態に混乱しつつも、水の繭の向こう、リリーがどうなったか確認しようとしたのは根性だろうか。

 尤も、水の繭は白い水しぶきのせいで中は全く見えない。チャットで連絡を取ろうにも、さっきまで機能していたそれはまたしても停止していた。

「くそっ……!」

 そう言いながら、せめて近づけるところまで近づいてみようと、レックは飛び石目指して走り出した。飛び石の2つか3つ目くらいまでなら、水竜も出てこない――というか出てこれないだろうと考えながら。それ以上進める自信はレックにはなかった。

 一方で、どうにもならなくなったのが隠れて様子を窺っていたクレメンスとフランクである。魔力酔いを防ぐための結界など一瞬で粉砕され、そのまま吹き飛ばされて気絶にいたる。

 この二人が目覚めるのは当分先になりそうであった。



 魔力の波動は当然のようにグランス達をも襲った。

 グランス達は黒マントの男達から隠れるため、サークル・ゲートから地下通路に戻って身を潜めていた。チャットで地底湖に残ったレックとリリーと連絡を取ったところ、水竜と遭遇したなどととんでもない話を聞かされ、心配するやら、興奮するやら。

 それでも、あまり大きな声を出すことは出来ず、声を潜めたままこの後どうするかを話し合っている時のことだった。

「……マージン、どうした?」

 話し合いの途中、不意に洞窟の壁を見つめ始めたマージンに、クライストがそう声をかけたその瞬間。

 それが来た。

「「「「!!!??」」」」

 時間にすれば1秒にも満たない出来事だったが、地下通路を駆け抜けていった魔力の波動にグランス達は当惑した。

「なんだ、今の目眩は?」

「目眩というより、船酔いに近い気もしますけど……」

「さっきの連中じゃねぇのか?」

「それとも実はエネミーでもおったかのう?」

 それの正体を知らないグランス達は当惑し、何だったのか推測を試みるが、全く意味はない。

 それよりも、

「まずは、レック達がどうなったかやな」

 というマージンの言葉にハッとなって、急いでチャットを立ち上げ、

「……ダメだな。また、動かなくなっている」

 チャットが立ち上がらないことに、空気が重くなる。

「様子を見に……行った方が良いでしょうか?」

「ミイラ取りがミイラという言葉もあるが、仲間をあっさり見捨てる訳にもいかねぇな」

「そやな。見に行くか……行けるとこまでな」

 マージンの言葉で、途中までしか迎えに行けそうにもないことを思い出した仲間達であったが、それでも行けるところまで行くことにする。

「さっきの連中に気をつけながら進むぞ。……ミネア、俺の指示があれば迷わず撃て」

 グランスの言葉にミネアは戸惑いを隠せなかった。何を撃つのかまでは言われなかったが、間違いなくさっきのプレイヤー達の事だろう。

 それでも、仲間を守るために、何よりグランスの言葉であるし、ミネアは必ず撃てるという自信はなかったが、頷いたのだった。

 尤も、クレメンスとフランクはこの時点で気絶しているし、残るハリスとブラウニーも既に撤退していたため、無用な警戒だったのだが、グランス達は知る由もない。



 そして、魔力の波動の中心では。

 リリーと、ウィスリフティと名乗った水の精霊王が対峙していた。

 リリーに自らの名前を告げた後、水の精霊王は優しい笑顔のまま、リリーを見つめていた。

 尤も、リリーに動きはない。

 圧倒的な力こそ感じるものの、水竜の時と違って恐怖を感じて動けなくなってるわけではない。

 水の精霊王から感じるのは穏やかな、優しい気配。

 それに包まれたリリーは、あまりの安心感に脱力しきっていたのである。

 それを見て取ったのか、再び水の精霊王が口を開く。

「私を解放せし者よ。あなたの名前を教えてくれませんか?」

 そう呼びかけられて、やっとリリーの頭は動き始めた。

「あ、えっと、その……ゆり……じゃない。リリー、です」

 うっかり本名を答えそうになり、慌てて言い直すリリー。

「そう、良い名前ですね」

 尤も、水の精霊王はその様子すらも微笑みながら見守っていた。

「では、リリーよ。私を解放してくれたお礼に、あなたの願いを1つだけ叶えましょう。何か望みはありますか?」

 いきなりそう言われて、答えられる人間など珍しいだろう。

 実際、リリーも当惑した。

 望みを叶えてもらえるのは嬉しいのだが、どの望みを叶えてもらうかは大変難しい問題なのだ。

(お金とかアイテムとか?ううん。もっと大事な……)

 あれこれ考えている最中に、一人の仲間の顔が脳裏に浮かんできて、手をぱたぱたと振ってかき消す。

(そもそも、そう!ログアウトとか?……でも、イベントキャラにログアウトとか……させてもらえるのかな?)

 とりあえず、訊いてみる。

「ログアウトしたいって言ったら、できます、か?」

 そのリリーの質問に、何故か水の精霊王は驚くような顔をした後、痛ましげな表情になった。

「ごめんなさい。その願いは私の力を超えています」

「あ、いいえ。言ってみただけですから!」

 無理だと言われたこと自体は予想の範囲内だったので失望したりはしなかった。ただ、何故か水の精霊王の表情に罪悪感を感じ、リリーは慌ててフォローする。

(やっぱりダメか~)

 かといってお金やアイテムは俗っぽい。

 なら、

「あたしも魔術を使えるようにできますか?」

「そうですね、精霊魔法なら可能でしょう」

「精霊魔法?魔術じゃなくて?」

 リリーがそう聞き返すと、水の精霊王はゆっくりと頷いた。

「精霊使いはその体質上、魔術は行使できません。代わりに、精霊との高い交感能力を持ち、より直接的に精霊の力を借りることが出来るのです」

「…………」

 水の精霊王の説明をいまいち理解できず、首を傾げるリリー。

 その事を見て取ったのか、

「要するに、精霊に直接お願いして、いろいろな事をしてもらえるのです」

 と、言葉をかえて説明する水の精霊王。

「えっと……じゃあ、あなたに何かお願いしたら、力を借りれるんですか?」

 しかし、このリリーの言葉には水の精霊王は首を振った。

「力を借りたい精霊との意思の疎通。それを行えるようにならなくては、力を借りることは出来ません。しかし、精霊の格が高ければ高いほど、それは困難になります。いくら素質があろうとも、訓練無しにそれを行うことは敵わないでしょう」

 要するに、今のリリーには無理と言うことらしい。

「こうして話をしてるけど、無理なんですか?」

「ごめんなさい。言葉とは違うのです」

 目に見えて落ち込むリリーに、水の精霊王は「でも」と言葉を続ける。

「あなたの素質は高い。訓練を積めば、いずれ私とも意志を繋げることも可能となるでしょう。それまでは……」

 そう言いながら、身に纏う水のドレスから小さな水球を取り出して手に乗せる。

「この子の友達になってあげてくれませんか?訓練をしていなくても、あなたとこの子なら契約さえ交わせば意志を繋げることもできるはずです」

 その水の精霊王の言葉に合わせて、その水球はぽよぽよとその手を離れ、空中を漂いながらリリーの眼前へと移動してきた。

 思わず両手を伸ばして、その水球を受け取るリリー。

 リリーの両手の中に収まった水球は、まるで子犬が喜んでいるかのように小さく跳ねた。ホントに子犬ならリリーの頬も緩むところであるが……単なる水の固まりではそれも微妙である。ただ、何となく懐いてくれてるのが感じられ、無下にも出来ない。

「……分かりました。でも、契約ってどうするんですか?」

 ため息を吐きながらも了承したリリーに、水の精霊王の表情が明らかに緩む。

「契約は簡単です……暫くの間、じっとしていて下さい」

 その言葉に頷き、リリーがじっとしていると、リリーの手の中にいた水球がほぐれ、細い糸のようになり、リリーの周りを囲むように広がった。そして、そのままリリーに巻き付くように……消えていく。

 その様子にリリーが驚いていると、

「これで契約は終わりです。その子が落ち着くまで暫くかかると思いますし、その後も慣れるまでは意志を繋げるのは難しいでしょう。でも、近いうちにその子の声が感じられるようになるはずです。そうしたら、あなたからも呼びかけてあげてみて下さい。友人の呼びかけにはきっと答えてくれます」

 水の精霊王に言われ、リリーは耳を澄ましてみるが、何も聞こえない。でも、今はそんなものっぽい。

 ただ、これで精霊魔法を使えるようになったと言われても、実感はさっぱり無かった。

 そんな風にリリーが思っていると、

「それでは、私はこれで失礼します。私の力を借りたい時には、またここを訪れて下さい。あなたが精霊使いとして力をつけていれば、それに見合うだけの力を貸しましょう」

 そう言って、水の精霊王は再び優雅にお辞儀をすると、次の瞬間には竜巻のような渦へと姿を変え、そのまま無数の水しぶきと化して、島を包む込む水の繭へと吸い込まれていった。

 声をかける間もない出来事に呆然としているリリーの目の前で、さらなる変化が起きる。

 白い水の繭が滝のように地底湖の湖面へと流れ落ちていったのである。

 そして、残されたのは元と同じ風景。

 いや、1つだけ変わっていることがあった。

「服、乾いてる……」

 いつの間にか、びしょ濡れで暫く乾きそうにもなかったリリーの服も髪も、綺麗に乾いていた。

 いつ服も髪も乾いたのか首を傾げながら飛び石を渡って地底湖の岸辺まで戻ってきたリリーが見たのは、さっき水竜に追い払われて一人だけ逃げたレックの姿だった。

 正直、いくら水竜に脅されたからと言って一人だけ逃げ出したレックには思うところもあったリリーであるが、リリーの無事な姿を見て大いに喜び、そうかと思えば、土下座をしかねない勢いでリリーに謝り倒してきたレックを見ていると、レック自身気にしていたことがよく分かり、恨む気はなくなっていた。

 ちなみに、びしょ濡れの服で土下座されるとドロドロになりそうだったので止めたのだが、何故かレックは既に泥まみれだった。

 その後、二人揃ってサークル・ゲートまで戻ると、そこには仲間達の姿があったのだった。



「しかし、一時はどうなることかと思うたが、こうして無事な姿を見て一安心じゃのう」

「やな。レックだけびしょ濡れ泥まみれゆうのは気になるけどな」

 レック達の無事を確認した後のディアナとマージンの第一声がそれである。

「えと、水竜に思いっきり水をかけられたから濡れてるんだけど……」

 びしょ濡れの理由を説明するレックだったが、

「水だけじゃ、そんな泥まみれにはならねぇだろ。コケでもしたか?」

 泥まみれの理由を説明していなかったため、クライストにそう突っ込まれる。

「転けたというか、何かに吹っ飛ばされたというか……」

 正直、レック本人もあの時何が起きて吹き飛ばされたのか、よく分かっていない。

 実はレックを吹き飛ばした魔力の波動とグランス達が目眩のように感じたそれは同じものだったのだが、グランス達はせいぜい目眩程度で済んだため、誰もそういう認識をすることは出来なかった。リリーに至っては、「え?何それ?」である。

「まあ、怪我がないならそれでいい。だが、確か二人揃ってびしょ濡れになったのではなかったか?」

 グランスがそう言うと、仲間達の視線が一斉にレックに集まり、続いてリリーに移動する。

「リリーは全く濡れてへんな」

「そうじゃな……レックと同じくらいに濡れたというなら、ここまで見事に乾くのは早すぎるのう」

 首を傾げる仲間達だったが、リリー本人もよく分かっていないのでは、どういう事か分かることは期待できない。

「まあ、何があったか詳しい話は後で聞くとして、まずは戻るぞ。さっき言った連中とばったり出くわしたくないからな」

 グランスのその言葉に、さっき出会った二人組は限りなく怪しい格好ではあったものの、それほど危険だとは思わなかったんだけど、とレックは思う。尤も、彼らのことを抜きにしても、早く身体を洗いたいので、さっさと戻ることには賛成だった。

「怪しい連中ってどんな人たちだったの?」

 唯一、彼らの姿を見ていないリリーが興味津々で訊いたが、

「それも含めて宿に戻ってからだ。行くぞ」

 仲間達はさっさとサークル・ゲートを通って戻っていってしまった。頬を膨らませながら、リリーもその後を追う。

 最後にレックとマージンがサークル・ゲートの中に踏み込んでいった。

 そして、黒マントの男達を警戒しながら、それでも無事に街に戻ったグランス達は、地下通路に潜り込む前とは違う街の雰囲気に戸惑うことになったのだった。

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