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ジ・アナザー  作者: sularis
第五章 精霊の筺
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第五章 第十話 ~地底湖~

「ここは……」

 サークル・ゲートで転移した先でレックが最初に見たのは、狭い空間だった。部屋と言うより洞窟の途中にたまたま出来た広場……と言った方が正確だろう。地面こそ比較的平らに均されている様だが、壁も天井も洞窟そのままである。

 中央には中央にはめ込まれている平らな岩が光っているサークル・ゲートがあり、その光で広間の中はほんのり明るい。

「どこかで水が流れてるみたいだな」

 正面に見えるどこかへと続く曲がりくねっている様に見える通路。通路の先は闇に包まれて……とレックは思っていたが、今いる広間に比べれば暗いからそう見えるだけで、実際にはどこからか光が漏れてきているのか、真っ暗と言うほどではない。

 そして、クライストの言葉通り、その向こうから水音が微かに聞こえてくる。

「特に危険はないみたいだね」

 広間には何もいないし、水音は聞こえてくるものの、それ以外に特に物音はしない。周囲に動くものはいないらしいとレックは考えた。尤も、遺跡を模したダンジョンなどにいるガーゴイルの様に、人が近づくまで微動だにしないエネミーもいるので、断定は出来ないのだが。

 やがて、サークル・ゲートが二度三度と光り、リリー、ディアナ、ミネアが姿を現した。

「洞窟の中?」

「みたいじゃのう。てっきり外に出るかと思うておったがのう」

 リリーとディアナがそう話している間に、サークル・ゲートがもう二回光り、マージンとグランスも姿を現した。

「……地下か」

「やな」

 短くそう言った後、グランスは素早く周囲の様子を窺い、危険がないか確かめる。

「問題はないか」

 そう言いながら、誰もサークル・ゲートを取り囲む石柱の輪からすぐには出ようとしない。

 そんな仲間達の様子を見ていたレックはあることに気がついた。

「……サークル・ゲートがまだ光ってる」

「ん?そういやそうだな……何でだ?」

 レックに言われ、仲間達もまだ光っているサークル・ゲート中央の岩を見た。

「確かに、前の時は転移してすぐに光が消えた様な気がするのう」

 仲間達はそう言って首を捻るが、それで何か分かるわけもない。そもそも、サークル・ゲートについて知られていることなど殆ど無いのだ。

 だが、分かることもある。大抵のサークル・ゲートはこんなに長くは光っていない。

「ここが特別なんやろうな。つまり、この先に何かあるっちゅうことやな」

 マージンのその言葉に、仲間達は頷いた。

「ところで、ここはどこだと思う?」

 そう言ったのはグランス。この疑問はある意味当然であった。というのも、サークル・ゲートを通った以上、ここがキングダムの地下であるという保証はどこにもないのだ。

 だが、

「……分かるわけねぇぜ」

「せめて、外に出ねばのう……」

 グランスの疑問を正確に察した仲間達からは、当然の様にそんな答えが返ってきた。

「それもそうなんだがな……まあ、動いてみるしかないか」

 そんなグランスの言葉で、レック達は隊列を組み直す。

「危険は無さそうだな」

 そう言ってグランスがそろそろとサークル・ゲートの外へと出ると、仲間達もゆっくりとそれに続いた。

「大丈夫、みたいだな」

 グランスの言葉通り、仲間達にも特に危険は感じられない。

 ただ、

「何か、妙な圧迫感があるぜ?」

 クライストの言葉に、何人かの仲間達が頷く。

 サークル・ゲートを出てすぐに、全身を包む様な圧迫感を感じていたのだった。

「そうだな。イヤな気配ではないが……注意はしておこう」

 圧迫感を感じている一人であるグランスがそう言う。

 一方で、何も感じていない仲間もいた。

「あたしは何も感じないけど……」

「圧迫感と言われても……僕も感じないよ?」

 リリーとレックである。

「ふむ。私も圧迫感は感じておるが……個人差なのかのう?」

 ディアナが首を捻る。とは言え、何が違うのか分かるはずもない。

「運が良ければ理由も分かるだろう」

 そう言うグランスの言葉に頷く他はなかった。

 それ以外に何事もなく、通路の向こうからの明かりを目指す様に歩き続けるレック達。

 通路を歩いて行くうちに、一行の耳に入る水音はだんだん大きくなっていく。それと同時に、また別の変化も現れていた。

「……顔色、悪くないですか?」

 ミネアにそう言われたのは、グランスである。既に周囲の明るさはランタンが要らないほどになっており、そのおかげで顔色の悪さに気づけたのだった。

「……やっぱり、そう、か?」

「……休憩を入れた方が良さそうじゃな」

 しんどそうにそう言ったグランスの様子を見たディアナの言葉で、レック達は足を止めた。

「クライストも……あまり顔色が良くないね」

「ああ……この圧迫感のせいだろうな……」

 レックの言葉に、クライストがそう答える。

「サークル・ゲートから離れるほど、圧迫感が強くなってきている気がするな……ああ、済まないな」

 グランスにアイテムボックスから取り出したコップに注いだ水を渡しながらミネアが、

「わたしもそう思います」

 と言い、

「確かにのう……この調子で圧迫感が強くなっていけば、私もつらいかも知れんのう」

 ディアナもグランスの言葉を肯定する。

「にしても、そんなにつらいのかの?」

「動けないほどとは言わないが……な」

 そう言ったグランスを疑うわけではないが、ディアナとミネアはそれほどつらいとは感じていなかった。

「これも個人差、なのかのう……」

 そう言いながらディアナが視線を向けた先は、レックとリリーだった。

「おぬしらはまだ圧迫感を感じておらぬのか?」

「うん、全く」

「あたしも何にも感じないよ」

 その言葉通り、二人ともけろりとしている。

 ちなみにマージンはというと、ホッとした様子で地面に腰を下ろしているところから、それなりに圧迫感を受けているらしい。ディアナはそう見て取った。

 そして、あることに気がつく。

「魔力量が少ないほど、酷い気がするのう……」

「そう言えば……そうですね」

 ディアナが言ったとおり、一番魔力が少ないとされるグランスが一番容態が悪い。次にクライストである。それより魔力が多いとされるディアナ、ミネア、マージンはそれほどでもなく、魔力が最も多いレックとリリーに至ってはぴんぴんしている。

「つまり……ここは魔力が多くないとまずいってことか?」

「そう言うことなのかも知れんのう」

 クライストにそう答えながら、ディアナはリーダーであるグランスに視線を遣った。だが、かなりつらそうなその様子に決断を求めるのは酷かと考える。

「とりあえず、少し戻った方が良さそうじゃのう」

「……そうだな」

 ここにいてもつらいだけで何も出来ない。せめて、サークルゲートの所まで戻ればマシになるだろうと、クライストも同意する。

 他の仲間達もグランスとクライストの様子を見れば反対することもなく、レック達は一度サークル・ゲートの所にまで引き返した。

 その効果は抜群で、歩くのもつらそうだったグランスが途中からしっかり歩けるようになり、サークル・ゲートにまで戻ってきた時には全員が元気な状態に戻っていたのだった。

「さて、魔力が少ないと先に進むことすら出来ないわけだが……」

 どうしたものかと、元気になったグランスが言う。

 とは言え、選択肢は多くはない。

「一度引き返して、ホエールやギンジロウに話してもっと多くの人数で来るのが1つ」

 だが、何人が無事に先へ進めるかなど分からない。ロイド曰く、大抵のプレイヤーの魔力はそんなに多くないのだ。相当な人数をかき集めてこないと、意味がない可能性も高い。

「レックとリリーだけで奥まで行って貰うのが1つ」

 グランスとクライストの限界が近かった場所ですらぴんぴんしていた二人なら、相当奥まで進めるだろう。しかし、たった二人というのはかなり心許ない。

「俺とクライストを残した5人で、行けるところまで行って貰うのが1つ」

 ディアナ、ミネア、マージンの限界がどこで来るかによるが、レックとリリーの二人だけよりかはマシそうである。それに、途中までしか進めなかったとしても、どの程度の魔力があれば奥まで行けるのか。その目安にはなりそうだった。

 そう言ったことをレック達はサークル・ゲートの石柱の輪の中で話し合う。その結果、多少ミネアが駄々をこねたものの、グランスとクライストが留守番して残りの5人で奥を目指してみることになった。

「無理はするなよ」

「俺達の代わりに頼んだぜ」

 残される二人の言葉に、レック達は頷くと、改めて通路の奥へと歩き出した。

「この奥、一体何があるんだろうな?」

「さあな。言えてるのは、俺達には見れねぇってことだぜ」

 通路の向こうへと歩いて行った仲間達の背中を見送り、グランスとクライストはそう話していた。

 そして、通路の奥へと向かったレック達はというと、

「この辺でグランスの顔色が悪くなったんだっけ?」

「そうじゃな」

 そう話しながら、先ほどの地点にまで戻ってきていた。緩やかに通路が湾曲しているのでサークル・ゲートからは見えないものの、せいぜい数十m程度の距離なのですぐである。

「とりあえず、あそこが出口っぽいけど……ディアナ達は持ちそう?」

 ここから出口まではもう一直線らしい。通路の先に見える出口と覚しき光をレックが指さすと、

「行ってみねば分からぬのう」

「……ですね」

「わいも同じく」

 ディアナとミネア、それにマージンがそう答えた。

 そして、更に歩くこと数十m。

 徐々に強まる圧迫感に次に音を上げたのはミネアだった。

「ごめん……なさい。もう、限界……です」

 通路の出口まではあと少し。その先から聞こえてきている水音も随分大きくなり、そればかりか水面と覚しき反射もちらちらと見えてきていただけに、残念そうである。

 そればかりか、

「私も……限界が近いのう……」

 と、ディアナも声を上げる。

「なら、ミネアとディアナはもう戻った方がいいね。……歩ける?」

 レックの言葉に、ミネアは首を振ったがディアナは頷いた。

「あと……マージンは大丈夫?」

「ん~……わいも戻った方がええかも知れん」

 レックが思っていたよりマージンの顔色は良かったが、無理はさせられない。

「なら、3人はグランス達の所に戻って一緒に待ってて。僕とリリーで何があるのか見てくるよ」

 レックの言葉にディアナ達は残念そうに頷くと、

「何があったのか、後で話してあげるね」

 リリーも何故か残念そうにそう言った。

「ああ、楽しみにしとるで」

「土産話を待っておるぞ。じゃが、無理は禁物じゃ」

 そう言いながら、3人はディアナとマージンがミネアを支える様にして、通路を戻っていった。尤も、十数mも戻らないうちにミネアも元気になったらしく自分で歩き始め、振り返ってはレックとリリーに手を振りながら戻っていったのだが。

 そんな3人を見送ったレックとリリーの二人は、再び通路の出口を目指して歩き出す。ちなみに、リリーと二人っきりになったレックは密かに心臓の鼓動が早くなっていたりするのだが……それをあまり強く意識することは結局無かった。

 というのも、すぐに通路は終わり、開けた場所に出たからである。

「うわ……地底湖?」

 そこにあったのは、レックの言葉通り広大な地下空間に広がる地底湖だった。

「すっごいね~……」

 そう言ってリリーも眼前に広がる光景に見とれている。

 レックが見たところ、地底湖のあるこの空間はかなり広い。向こうの端まで1km以上あるだろう。どうなっているのか明るい光を放っている天井までの高さは、一番高いところで確実に40m以上ある。

 空間のほとんどを占める地底湖はどれほどの深さがあるのか想像も出来ない。その水面は、天井からの光を受けて淡く煌めき、人が迂闊に入ってはいけない様な気にさせる。

「……一体、ここ、どこなんだろう?」

 レックの脳裏にも、先ほどのグランスと同じような疑問が浮かんでくる。だが、それに答えが返ってくることはない。

「どこって……地下だよね?」

 そんな力の抜ける様な答えで、少なくともリリーはレックの様な疑問を持っていないことだけはよく分かった。

 まともな返事を諦めたレックが視線を地底湖にやると、その真ん中にあまり大きくはない島が浮かんでいるのが見える。

「ん?あの島、何かあるよ」

「え?……ホントだ」

 レックの言葉で島に視線を向けたリリーも、レックが見つけたそれに気づいた。

「……四角い……何かだよね?」

 リリーの言葉にレックは頷いた。しかし、ここからでは遠すぎて何なのかよく分からなかった。

 幸いなことに、数十m先から始まる地底湖。その岸から真ん中の島までは飛び石の様なものが見受けられる。レックはそこから島へと渡れそうだと判断した。

 リリーも飛び石に気づいたらしく、

「あそこから渡ってみようよ」

 そう言って、さっさと飛び石目指して走り出してしまった。

「あ、ちょっと待って!」

 慌ててリリーを追いかけたレックは、すぐにリリーに追いつくことになった。

「どうしたの?」

 湖岸で立ち止まっていたリリーにそう訊きながら、リリーの視線を追いかけてレックも水面を覗き込む。

「うわぁ……」

 そこには飛び石から無意識のうちに想像していた地底湖の深さを裏切る光景が広がっていた。

 どこまでも青く澄み切った水は、しかし湖の底を見せることはない。言ってしまえば、底が見えない。時折揺らめく影は……魚だろうか。うっかり落ちて溺れてしまえばそのまま浮いて来れなさそうな深さだが、レックとリリーはそんなことは思いもせずに水中を見つめていた。

 やがて、そんな深い地底湖にどうやって飛び石があるのかと疑問に思ったレックが視線を動かすと、

「飛び石……浮いてる……?」

「やっぱり、そうだよね~……」

 レックの見間違いなどではなかったようで、リリーも目をこすりながら、レックの言葉を肯定する。

 直径1mほどの飛び石は、水中に何の支えも無いまま、浮いていた。しゃがみ込んで横から見れば、実は飛び石の底は水面にすら触れていないことに気づくだろう。

「乗っても大丈夫?」

 リリーの言葉に、レックは鞘ごと抜き放ったグレートソードで一番近くの飛び石を突いてみる。

「簡単に揺れたりはしないみたいだね」

 かなり強く押してもビクともしない飛び石に、思ったより大丈夫そうだとレックは感じた。

 そんなレックの行動を見、返事を聞いたリリーはと言うと、楽しそうな笑顔になったかと思うと、

「あ、ちょっと!」

 とその笑顔に見とれかけたレックが言う間もなく、一番手前の飛び石に飛び乗っていた。

「大丈夫大丈夫!落ちたら泳げばいいし」

「確かに、リリーは装備軽いから良いけどさ……」

 レックはと言うと防具もそれなりに重たいが、それ以上にグレートソードが重たい。はっきり言って、これを持ったまま水面に落ちれば身も蓋もなくどこまでも沈んでいく自信がレックにはあった。

 そんなレックだったが、子供のように飛び石を身軽に渡っていくリリーを放っておく訳にもいかない。

 水に落ちてもすぐに手放せる様にグレートソードを手に持ったまま、湖岸から飛び石へと飛び乗った。全く揺れない飛び石にホッとしつつ、おまけに興味を引かれつつも、急いでもう10m以上先に行ってしまっているリリーを追いかける。

 そんな風に、レックとリリーが思った以上に安定している飛び石を渡り始めて、割とすぐのことだった。

「?」

 リリーを追いかけるレックは、右手の水面の下に巨大な影を見つけた。その直後のことである。

 レックが危険を感じ、リリーに警告を発そうと口を開いた直後、凄まじい水音が鳴り響き、影のあった場所から天井まで届こうかという巨大な水柱がつき立った。それと共に、飛び石の上にいたレックとリリーにも下手すれば飛び石から落ちてしまいそうなほどに大量の水しぶきが降りかかってくる。

「きゃああああ!!!」

「リリー!大丈夫!?」

 前方から聞こえた悲鳴に、レックは慌ててそっちへ行こうとして……固まった。

 屹立した巨大な水柱。それはすぐに重力に従って湖面へと戻っていくはずだった。

 だが……水柱が無くならない。いや、違う。

(何かいる……)

 前方の飛び石の上にずぶ濡れになったリリーの姿を確認しても、レックは全く安心できなかった。むしろ、頭の中では激しく警鐘が鳴り響いていた。

 それはレックの先を行っていたリリーも同じだった。

 突然の爆音。つき立つ水柱と押し流そうとするかのごとく襲ってくる大量の水飛沫。飛び石に着地しすぐだったから良かったものの、そうでなければ間違いなく湖面に叩き落とされていた。

 だが、悲鳴を上げながらもそれには何とか耐え、後ろについてきているはずのレックを振り返ろうとして……それが目に入った。入ってしまった。

 リリーの視界の端で、レックもゆっくりとそれに向き直る。

 そこにいたそれは……

 水面から大きく首を伸ばした巨大な水竜だった。



 その少し前に時間は遡る。

「なんだ。結局、おまえ達も戻ってきたのか」

 レックとリリーの二人に後を任せたディアナとミネア、マージンが、サークル・ゲートまで戻ってくるのを見たグランスは、そう言った。

「うむ。おぬしらのつらさがよく分かったわ」

「です……ね」

 サークル・ゲートの石柱の輪の中に入り、腰を下ろしながらディアナとミネアが答える。ミネアが座った場所は言うまでもないだろう。

「ただ……あの二人で大丈夫かいな」

「あー……。お子様組だしな」

 どこか心配そうに言ったマージンに、クライストが頷く。

 二人がいる前では誰も言わないが、グランスを筆頭とする年長組――大人組とも言う――にとってみれば、レックとリリーはまだまだ子供だった。流石に何かにつけて子供扱いするほど子供ではないのだが、目が届かないところに行かれると何かやらかすんじゃないかという心配は尽きない。

「まあ、危なそうなら途中で引き返してくるだろう」

 そう言いつつも、グランスもどこか心配そうではある。……世の中、気がついたら引き返せるタイミングを完全に逃していたなんてこともあるのである。

「大丈夫だとは思うから、行かせたんやけどな……やっぱ、目の届かないところに行かれるとちょっと心配やな」

 ディアナとミネアも、マージンのその言葉に頷いた。

 この辺にはエネミーの気配もないし、迷子になる心配もない。特に危険は無さそうなので、二人を先に進ませたのだが……

「まったく……ガキなんてこさえた記憶は無いんだけどな。これが親の気持ちってやつか」

 そんなクライストの言葉に仲間達は苦笑する。

「では、グランスとミネアがパパとママという訳じゃな」

「そやな。で、ディアナが長女で……」

 ディアナの台詞にミネアが真っ赤になるのも構わず、マージンとクライストの視線がぶつかり合い、火花を飛ばす。

「どっちが長男か……勝負やな?」

「少なくとも、マージンみたいな兄貴はいらねぇぜ」

 そう言いながら、二人の間でジャンケン勝負が始まった。

「「じゃんけんほい!あいこでしょ!あいこでしょ!」」

 二人しかいないくせに不思議と、勝負がつかないクライストとマージンのジャンケン。10連続もあいこが続けば奇跡と言って良さそうなものだが……どうやら無駄に奇跡が起きているらしい。既にあいこは12回目。流石に焦れてきたらしいクライストとは対照的に、マージンは何故か楽しそうだったりする。

 そんな二人の様子に苦笑しつつ、ディアナは端末を取り出した。

「チャットでも打ってみるかのう」

「そうだな。こまめに連絡は入れさせるか」

 チャットを打ち込み始めたディアナに、グランスがそう言った時だった。

 サークル・ゲートが放つ光が急激に強くなる。

「「!!?」」

 何事かと慌てながらも、急いで立ち上がったグランス達の耳に、フオンッ……と微かな音が届く。

 そして、次の瞬間、グランス達の目の前には4人の黒づくめの男達が立っていた。

「……どうする?これは予定外だぞ」

 顔を隠すかの様に深くフードを被った男達。彼らはグランス達の姿に動揺している様であったが、冷静さを保っていた者もいたらしい。

「やむを得まいな……」

 男達の一人がそう言いながら、身に纏っているマントを揺らし、ぶつぶつと何か呟き始める。

 やがて、その男の手には淡い光りが生み出される。

「!!?」

 まさか人が来るとは思っていなかったグランス達は、未だ動揺から立ち直っていなかった。そこに男達が魔術を使って見せたことで、言葉もないほどに動揺する。

 だが、結局、グランス達は何もすることが出来なかった。

 グランス達の動揺を尻目に呪文の詠唱をあっさり終わらせた男が、その手の中の光をグランス達に向かって解き放った次の瞬間、グランス達は全員が意識を失い、地面に崩れ落ちていたのだから。

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