表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジ・アナザー  作者: sularis
第五章 精霊の筺
44/204

第五章 第四話 ~二人、洞窟で~

「何とかここまで戻って来れたな……ミネア、大丈夫か?」

「はい……少し疲れましたけど、大丈夫です」

 昨晩、一夜を過ごした洞窟に戻ってきたグランスは、今、ただ一人側にいる仲間であるミネアを気遣って声をかけた。ミネアも疲れた様子を見せながらも、そう答える。


 二人がサークル・ゲートからこの洞窟に戻ってくる途中に日も落ちてしまって、森の中は真っ暗としか言いようがない状況だった。

 そんな中、エネミーとの遭遇を警戒し、グランスもミネアもその精神を大いにすり減らしてしまっていた。幸いなことにエネミーとは全く遭遇しなかったのだが――一度でも遭遇していたら無事では済まなかったハズだ――おかげで二人ともへとへとであった。

 洞窟に戻ってきた二人は、まずは洞窟の奥へと進んだ。火を焚きたいのだが、洞窟の入り口ではあまりに目立つからだ。

 魔獣の中には火を恐れるどころか、むしろ嬉々として寄ってくるものもいるため、外から目立つような場所で火を焚くことは出来ない。普段の野宿でも、焚き火の火を出来る限り小さくし、周囲を石などで囲って周りに光をあまり漏らさないようにしているのは、それが理由であった。


「これで良しと。……ミネア、連絡は付きそうか?」

 洞窟の地面で焚き火が赤々と燃え始めたのを確認したグランスに訊かれ、ミネアは首を振った。

「ダメです。まだ、チャットは動かないみたいです」

「そうか……まあ、あいつらのことだ。無事だろう」

 しみじみとそう言ったが、グランスとしてはあまり期待はしていなかった。今はまだ無事かも知れないが、転送された先によっては、手に負えないほどのエネミーに襲われる可能性もあるのだ。

 もっとも、本来なら飛ばされたレック達の心配をしている場合でもない。自分たちの安全すら覚束ないとすら思っているのだから。

 ただ、そんな不安を顔に出すような真似はしない。少なくとも、隣にはまだミネアがいる。守るべき仲間がいるのだ。

 だから、

「ですよね。無事にまた合流できますよね」

「ああ。絶対大丈夫だ」

 不安そうなミネアに、グランスは力強く頷いて見せた。それが表面上のものでしかなかったとしても。


 それでも、ミネアの不安は拭い去ることは出来ない。

 グランスの隣に寄り添うように腰を下ろしていたミネアは、まだ震えていた。

 あの『魔王降臨』以降、今までに危ない場面は数多くあった。よく考えてみれば、少しだけとはいえ命の危険に晒されていたことすらあった気がする。

 それでも、仲間達が一緒にいたからこそ、今までは無事に乗り越えてきたのだ。だが、その仲間達と引き離されてしまった今、ミネアは途轍もなく怖かった。

 どこかへ飛ばされてしまった仲間達、ディアナ、リリー、クライスト、マージン、レックは無事なのか?

 彼らが死んでしまうような事があったら……いや、死ななかったとしても二度と会えなくなってしまったら……そう考えると、不安で不安で堪らなくなる。とても、とても、怖い。

 クランチャットが使えれば、まだその不安は半減するのだろうが、間の悪いことにクランチャットは今日も調子が悪い。しばらくは使えないだろう。

 それに、不安なのは、心配なのは彼らのことだけではない。

 彼らとはぐれてしまった自分たちの身も心配である。

 幸い、この洞窟に戻ってくるまで魔獣に襲われることはなかった。しかし、これからもそうだとは限らない。そして、襲われた時にグランスと自分の二人だけで勝てるのか。勝てなくてもせめて追い返せればいいが……どうなのか?

 少なくとも、ミネアには楽観的な予想は出来なかった。どう考えても悲観的な予想しか思い浮かばない。

 グランスは最悪、ロイドのログハウスまで戻るつもりだと言っていた。確かに、今いる場所から一番近い安全地帯はそこだろう。しかし、そこまで一週間はかかる。その間に何があるか知れたものじゃない。

 それでも……と、ミネアは右隣に座っているグランスに視線をちらちらやりながら考える。

 それでも、一人じゃない。グランスがいてくれる。

 飛ばされた仲間達が無事に帰ってこれる可能性なんて、限りなく低いと思う。それでも、グランスが大丈夫だと言ってくれたことで、ミネアはすごく安心できていた。

 これがもし、別の仲間と二人きりだったら……そう考えて、ミネアはある意味、少しくらいは自分にもツキが残っていたのかも知れないと思った。

 ミネアにとって、一番安心できる相手はグランスなのだ。

 まだまだ子供っぽいリリーやレックは頼りないし、ディアナやクライストは何を考えてるのか、いまいち分からない。何を考えているのか分からないと言えば、マージンもそうかも知れない。

(うん。きっと大丈夫。グランスが一緒だもの……)

 そう考えて、少し落ち着きを取り戻し始めたミネアは、ふとあることに思考がいった。

 一度それに思考が行くと、さっきまでの不安が急速に小さくなっていく。正確には、「グランスと二人きり」という事に意識が行き過ぎて、不安を感じる余裕が急速に無くなり始めていた。

 さっきまではいつ魔獣に襲われるかという緊張があった。しかし、洞窟の中にいる今はその緊張がだいぶ薄れてしまっている。だからこそ、なのかも知れない。

 ミネアは今、自分が好きな人と二人っきりであることを、心のどこかで不謹慎だと思いながらも、強く意識し始めていた。


 ミネアがずっと震えている。グランスはそれに気づいていた。

 多少慰めてみたりはしたし、その結果、ミネアの震えも小さくなった気がしていたのだが……焼け石に水なのかも知れない。

(寒くて震えている、なら良かったんだがな)

 などと考えてみるが、そんな訳がないことは分かりきっている。

 何とかしてやりたいとは思うが、正直、レック達と連絡が付かない今の状況では、何を言っても大した慰めにはならない。そして、そのなけなしの慰めももう言ってしまった。

 流石に何度も同じ言葉を言っても意味もないだろうが、そうなるとこれ以上は何も出来ない。

 いや、それどころか、下手にミネアのことを意識しない方がいいのではないかと、グランスは考え始めていた。

 洞窟に入ったのがそもそもの間違いなのだとすら、ずれた思考で考える。

 洞窟の中に入って、魔獣に襲われる心配が皆無になったとまでは行かないものの、激減したのは確かである。だが、それ故に、精神的な余裕が出来てしまった。

 そうなると、はぐれてしまったレック達のことも心配だが……もっと差し迫った、目前の状況に目がいってしまう。

 つまり、ミネアと二人きりという状況だ。

 ミネアは今もグランスのすぐ左隣に座っている。それこそ、ちょっと動けば互いに触れ合うくらいの距離である。

 勿論、二人ともそこそこ防具に身を包んでいるので、少しくらい触れ合ったくらいでは、体温が伝わったりなんだかんだはあり得ない。

 それでも、片手を伸ばせば簡単に抱きしめられる距離というのはいただけない。

 今までは仲間達がいたから、大して意識することもなかったその距離は、二人きりという空間ではいつグランスの理性を破壊してもおかしくないものだった。

 だから、グランスは別のことを考える。

 例えば、レック達のこと。

 一体どこに飛ばされたのか。今どうしているのか。

 クランチャットが使えればいいのにと考えると、次はクランチャットが何故最近おかしいのかと考え始める。

 単純に考えればサーバートラブルなのだろう。ただ、それならもっと別の異常も発生していてもおかしくないはずだがと考え、しかし、機器のトラブルが現実の自分たちの肉体に影響したら……と考えそうになったところで止める。

 代わりに、レック達と合流できなかった時のことを考える。何日くらいで諦めるのか。ロイドは何らかの手助けをしてくれるのか。

 ロイドは……駆け込めば、自分とミネアの身の安全くらいは保証してくれるだろう。だが、デスゲームという状況にプレイヤーをたたき落としたイデア社が、危険な状況に陥っているプレイヤーを助けに動くとは思えなかった。

 なら、自分たちだけで助けるか、他のプレイヤーの手を借りるか。……出来れば、どうやっても助けが間に合わないという可能性は考えたくない。

 しかし、そこで隣にいるミネアに視線をやり、ミネアまで危険な目に遭わせるわけにはいかないとも思う。

 が、そこでふと気づいた。

 ミネアの震えが収まっている。あと、さっきより微妙に距離が近い気がする。

(いやいや、待て待て……!)

 折角逸らした意識が、再びミネアに……ミネアの身体に向かいそうになり、慌てて距離を取ろうとするも、不自然だと気がつく。

 そもそも、ジ・アナザーに閉じ込められてから、いろんな事がご無沙汰になっている。無駄だろうからと試したことはないが……アバターにその機能がなくとも、現実の身体が抱え込む欲求不満は着実に蓄積していくのだ。

 他の仲間達はこの不満をどうしているのだろうかと考えるが、どうにも悶々とした気持ちはなかなか収まりそうにもなかった。


 ミネアもグランスを強く意識していた。

 仲間達についての心配や自分達のこれからについての不安も無くなったわけではない。だから、不謹慎だと思う。

 その一方で、少しの間だけでもそんな不安を忘れたいと思う。だから、いっそのことグランスに抱かれてしまいたいと思う。

 勿論、仲間達がどんな危険な目に遭っているのか分からない時に、自分だけ幸せになるのは不謹慎としか思えない。でも、今を逃せば、後悔しか残らないかも知れない。仲間達とはぐれてしまった自分たちも、明日には魔獣達の餌食になるかも知れないのだから。

 そう考えると、不謹慎だという気持ちが薄れてくる。

 その分だけ、ミネア自身も気づかないうちに、ミネアの身体はグランスの方へとすり寄って行っていた。

 グランスも気づいているのかいないのか……距離を取る気配はない。身動き一つしないのは不自然なのだが、ミネアはそれに気づく余裕はなかった。

(あ……)

 今、肩が触れた。

 そう分かった。分かってしまった。

 途端に、ミネアの心臓が大きく跳ね上がった。


(マジか……どうすればいいんだ)

 グランスは左腕に感じた感触に、心臓が跳ね上がった。

 ミネアから如何に自然に距離を取るか。その事ばかり考えている間に、どうやら手遅れになっていたらしい。

 恐る恐る視線を左へ向けると、ミネアが寄りかかってきているのが見えた。

 正直、既にレック達のことは頭の中から吹き飛んでいた。

 むしろ、まだ理性を保っている自分に拍手を送りたい。そのまま頑張れと全力で応援したい。

 が、同時にいっちゃえいっちゃえと悪魔の声も聞こえてくる。

 後一押しがあれば今すぐにでも。

 無かったとしても、そんなに長くは持ちそうになかった。

 焚き火がゆらゆらと揺れる。

 そんな中、所在なく彷徨っていたグランスの視線は、ふと隣のミネアへと向いてしまった。

 そして、いつからだろうか。自分を見つめていたミネアと視線が合ってしまった。

 そのまま固まってしまうグランス。

 誰かがごくりとつばを飲む音が聞こえる。

 グランスの理性は既に崩壊寸前で……

 そのグランスの視界の中で、ミネアがそっと目を閉じ、

 グランスは陥落した。

 自分も目を閉じ、ミネアにそっと口づけする。

「んっ……」

 身じろぎしたミネアを逃がさないように、その肩を思わず押さえてしまう。

 最初は唇と唇を触れ合わせるだけだった口づけは、すぐにより深いものへと変わっていく。

 焚き火の明かりによって洞窟の壁に映し出される二つの影はやがて一つに溶け合い……



 外から小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 いつしか夜も明けたらしい。

「……よく眠れたか?」

 あの後、何とか服装だけ整えるとそのまま泥のように眠ってしまったミネアの髪を撫でつけた後、グランスは一晩中起きたまま、洞窟の外の様子に気を配っていた。明るくなってからは、洞窟の外が見える場所で、見張りを続けていた。そして、鳥の鳴き声が聞こえてきた先ほど起きてきたミネアに、そう声をかけたのだった。

「……はい。おかげでとてもよく眠れました」

 グランスの横にやってきて、ぴとりと身を寄せ、ミネアはそう答えた。

 そのまま、どちらからともなく目を閉じ、唇を触れ合わせる。

「……とりあえず、少し何か食べるか。それから、サークル・ゲートの様子を見に行ってみよう」

「はい……」

 ミネアがそう答え、アイテムボックスから携帯食料を取り出そうとした時のことである。

 ふと、ミネアの動きが止まった。

「……どうした?」

 瞬時に身体中に緊張を走らせ、すぐにでも武器を構えられるようにするグランス。同時に、周囲の様子を窺うことも忘れない。

 しかし、もう一度ミネアの様子を窺ったグランスの頭の中は疑問符で溢れかえった。

 ミネアは見る見るうちに顔を紅潮させると、両手でバッと顔を覆い隠し、洞窟の中へと駆け込んでいってしまった。

 思いも寄らぬミネアの行動に、呆気にとられていたグランスだったが、近くの藪ががさがさと動きだし、慌てて武器を構えた。

 しかし、その警戒は全くの無駄に終わった。

「やっほ」

 そう言って藪から出てきたのは、何故か顔を赤くしたリリーだった。

 その後ろから、少々ぼろぼろになって疲れ果てた様子のディアナ、クライスト、レック、マージンがぞろぞろと現れる。

「おまえら……無事だったのか!」

 仲間達の姿に武器を放り出し、喜色満面で両手を広げるグランス。

 しかし、レック達はそのグランスとミネアが駆け込んでいった洞窟に交互に視線をやりながら、微妙な笑みを浮かべるばかりで、グランスほど再会を喜んではいるようには見えなかった。

「……どうした?」

 レック達の間を流れる微妙な空気に気づいたグランスは、浮かれていた気持ちが急速に覚めるのを感じた。

「いや……な?まあ、あれや、な?」

「うむ。そうじゃのう」

 意味不明の呟きを発するマージンと、何故かそれで意味が通じているディアナ。

「???」

 何が何だか分からないグランスだったが、ふと、二人の顔が微妙に赤いことに気づいた。そして、他の三人の顔も見ると、やはり何やら赤い。

「…………まさか……」

 そう言えばレック達が姿を現す直前、ミネアが顔を赤くして洞窟に駆け込んでいったが……さらにその前に自分とミネアが何をしていたのか。グランスはそれに思い当たった。そして、あまりにも恥ずかしい予想もしてしまう。

「見て……いたのか……?」

 恐る恐る訊ねるグランスに、

「まー、なあ?」

「まさかこのタイミングとはのう……」

「だよね~」

 クライスト、ディアナ、リリーが口々にそう言う。レックも口にしないだけで、その表情は三人と全く同じだった。そして誰もはっきりとは肯定していなかったが、その意味するところは明らかである。

 ミネアに遅れることしばし。グランスも自分の顔に血が大量に上ってくるのを感じた。

「まー……おめでとさん?」

 マージンのその言葉で、あまりの恥ずかしさに耐えきれなくなったグランスもまた、ミネアの後を追って洞窟の中へと逃亡した。

 グランスが洞窟に逃げ込んだ後、レック達も暫く待ってから洞窟に踏み込んだ。

 無論、ミネアは顔を真っ赤にしてグランスの後ろに隠れたのだが……それをリリーとディアナに冷やかされ、どうやら頭に血が上りすぎたのか倒れてしまった。これには流石にリリーとディアナも少々からかいすぎたと反省し、大人しくなった。

 代わりに疲れたからと言って、洞窟の地面に思い思いに横になったレック達はすぐに寝息を立て始める。

 一睡もしていないのだろうと、なんだかんだで無事に再会できた事を喜んでいたグランスはその様子を見守っていた。もっとも、これで暫くからかわれなくて済むとホッとしてもいたが。

 暫くするとミネアも目を覚まし、周りで泥のように眠りこけている仲間達を見て驚いていたが、グランスがシーッと合図すると、事情は察したらしい。

 二人で再び洞窟の入り口に腰を下ろし、見張りをする。今度は後ろで眠っている仲間達がいつ起きてくるかも分からないので、流石に密着したりはしなかったが。



 結局、レック達が起き出してきたのは昼過ぎになってからのことだった。

 朝方のことでまだちょっと気恥ずかしい空気が残る中で、改めて薪を足した焚き火を囲んで簡単な食事を済ませ、

「さて、あの後お互いにどうなったのか、話しておこうではないか」

 そう切り出したのは珍しくディアナだった。

 まだまだグランスもミネアも、気恥ずかしさもあって積極的に話が出来る状態ではない。

「とは言え、そちらの状況はおおよそ見当は付くがのう」

 微妙ににやけながら、ディアナがそう言うと、再びグランスとミネアが真っ赤になる。が、

「ディアナ、ほどほどにしとき。ミネアがまたひっくり返ってまうで」

「……む、そうじゃの」

 マージンに止められ、ディアナは表情を引き締めた。

「では、話を戻そうかの。おぬしらがどれくらい待っておったかは知らぬが、チャットが使えなかった故にあのメモを残し、その後はすぐこの洞窟に戻ってきた。それだけじゃろう?」

 洞窟に着いた後は兎に角、それまでに何か特別な事があったとは思えない。それでも、念のためである。

「む。まあ、大体そんなところだな。二人っきりだったから、注意してここまで戻ってきたが、幸い、エネミーに襲われることもなかったしな」

 グランスがそう答えると、ディアナは驚いた。

「それは、本当かのう?羨ましいのう」

「どういうことだ?」

「私たちはそうはいかなんだということじゃよ」

 グランスに訊かれ、首を振るディアナ。グランスが視線を移すと、レックやクライストもディアナの言葉を肯定して頷いていた。

「まあ……では次はそちらの話を聞かせて貰う番だし、いいか?」

 グランスはディアナ達がどれくらいエネミーに襲われたのか気になったが、どうせならと順を追って話して貰うことにした。

「そうじゃな。サークル・ゲートが止まってからでよいかのう?」

「ああ。それでいい」

 グランスが頷くと、ディアナはかいつまんで説明を始めた。

「私とマージンがロイドを質問攻めにしておったことは知っておるな?その中にはゲートの使い方についての質問も含まれておったのじゃ」

 そこで言葉を一度切り、ロイドから聞き出したことは今は全部は話さぬがな、とディアナは付け加えた。必要に応じてまた説明していくと言う。

「さて、ゲートは魔力を注入してやれば、いつでも動かせるのじゃ。無論、これは魔力量Aのレックがおったからこそ出来たことじゃがのう。……まあ、要するにレックにゲートに魔力を注入して貰って、ゲートを動かし、戻ってきたという事じゃ。

 じゃが、それでもどうやって魔力を注入するかは、試行錯誤もあってのう。結局、ゲートを開くのに5時間近くもかかってしまったかのう?」

「ま、そんなとこだな」

 ディアナの視線を受け、クライストが頷いた。

「5時間か。どこに飛ばされたのかは知らないが、よく無事だったな」

 グランスが感心したように言う。

「ふむ。それについては幸運じゃったと言えるじゃろうな。ゲートは、エネミー侵入禁止になっておったようでのう。魔獣が次から次へとやってきたのじゃが、事なきを得たのじゃ」

「エネミー侵入禁止か。なら、俺達もゲートに留まっておいた方が良かったのか?」

 ディアナの言葉を聞いて、首を捻るグランス。しかし、

「でも……全部のゲートがそうかどうかは……分かりませんし……」

「それもそうか。出来れば、危険な賭は避けるべきだな」

 ミネアの言葉に、グランスだけでなく仲間達も頷いた。

 イデア社からの公式発表でもない限り、サークル・ゲートの1つが安全地帯だったからと言って、全部がそうであるという保証はどこにもないのだ。下手に頼ろうとして、実は安全ではありませんでした……では、目も当てられない。

「そのうち弱いエネミーでも捕まえてきて、投げつけてみれば分かる事だしな。……まあ、話が逸れた。続きを頼む」

「うむ。私たちが飛ばされたのはまだプレイヤーがほとんど入り込んだことのない、キングダム大陸の西部地域だったようじゃ。星座の位置からマージンがそう判断しただけじゃがのう。その分、強力な魔獣が次々と現れたのじゃが……今は関係ないかの。

 じゃが、昨夜のエネミーとの遭遇率は異常じゃったのう。

 ゲートが開いてこちらに戻ってきた私たちは、おぬしらの姿が見えなかったので少々焦ったのじゃが、メモを置いていってくれたからのう。すぐにこの洞窟に引き返すことにしたのじゃが……酷かったのう」

「ああ。何とか切り抜けられはしたが……てっきり、グランス達はもうダメかと思っていたな」

「僕達も結構ぎりぎりだったよね」

 昨夜のことを思い出し、今更ながら身震いするレック達。

「そんなに頻繁に襲われたのか?」

「うむ。ここに戻ってくるまでだけで、6回襲われたのう」

「……そんなにか」

 道理で襲われなかったと答えた時に、羨ましいと言われたわけだとグランスは納得する。ついでにレック達がぼろぼろになっていたわけも理解した。

「朝も近くなってからは、襲われることもなくなったのじゃがのう」

「ま、そんなわけで、心配はしてたわけさ」

 どこか呑気に言うディアナとクライストに、

「むしろ、話を聞いたこっちが今更ながら心配になってきたぞ……本当によく無事だったな」

 グランスはそう言ってため息を吐いた。

「でも、不思議だね。グランス達は一回も襲われなかったのに、何で僕達は6回も襲われたんだろう?」

「それもそうだよね~。不思議だよね?」

 レックの疑問に、リリーも首を傾げる。

「人数の違いとか?」

 クライストの言葉はしかし、速攻で否定された。

 人数が多い方が襲われやすいというなら、昨日の洞窟からサークル・ゲートまでの道中で、もっと襲われていてもおかしくないからだ。ただ、

「時間帯なんかの要因も絡んどるかも知れんしな。調べる価値はあるやろうけど、手間の割に危険やろうな」

 と、よく分からないとマージンがまとめた。

 実際問題、調べたくても命がけになりそうなので、調べたくはないというのは仲間達もよく分かる。

 結局、レックの出した疑問は今は分からないということで結論が出た。


 その後は、リリーとディアナがまたミネアをからかったりしながら、今日一日はこの洞窟で休むこととなった。

 そして翌日に洞窟を出立した蒼い月の仲間達は、改めてユフォルを目指した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ