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ジ・アナザー  作者: sularis
第四章 霊峰へ
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第四章 第七話 ~再びキングダムへ~

 レック達がロイドのログハウスにやってきてから16日目。

 この二週間ちょっとの間、レック達はロイドに魔術の訓練を付けて貰っていた。具体的には、日常的な制御の訓練のやり方と既に覚えている治癒と身体強化の2つをより効率的に使うための訓練である。

 最初こそロイドと顔を合わせる度に眉間に皺が寄っていたもののあれからは暴れることもなく、クライストもレック達と一緒にロイドの訓練を受けていた。

 その結果、リリーを除くレック達全員の魔力制御は、本人達も実感できるほどに上達した。それでもロイド曰く、「まだまだDだな」との事だったが。

 既に使えるようになっていた治癒魔術と身体強化魔術でもそれなりの上達があった。何と言っても、使える回数や時間が増えたのである。もっとも魔力が増えたのではない。当初は魔力が増えたと喜んでいたレック達だったが、「制御が上達して魔力の無駄な消費が減ったのだ」とロイドに一刀両断された。それでも、今までより回数や時間が増えたことには変わりはなかったので、レック達が凹んだりはしなかったのだが。

 ちなみに、ロイドから魔力を貯めておける指輪を貰っていたグランスは、その使い方を――仲間達曰く、必死に――習い、何とか使えるようになっていた。


 そして今朝。

 レック達はロイドに「今はこれ以上教えることはない」と言われ、いよいよ精霊王が封じられているという精霊の筺(エレメンタルアーク)を求めてキングダムに戻ろうとしていた。


「で、全然出てこないロイドは一体何の用なんだ?」

 ログハウスの前でそう言ったのは、この二週間ちょっとの間にロイド個人への悪感情をほぼ拭い去ったクライストである。

「餞別をくれてやるとか言っておったが……なんじゃろうのう?」

 ディアナも首を傾げている。

 ちなみに、ディアナは今まで着ていた紫色のローブがあまりにもぼろぼろになってしまったため、とうとうすみれ色のローブに着替える羽目になった。本人はかなり残念がっていたが、仲間達はディアナの銀髪と濃紺の瞳にはすみれ色の方が似合っていると判を押していた。

「餞別か。まさかこの多めの食料がそれってことはないよね?」

「ないやろやな」

 レックの言葉にマージンも頷く。

 先ほどの朝食の席で、レック達が今日出発することを確認したロイドは、ここを発つ前に餞別があるからログハウスの前で待っていろと言っていた。それでかれこれ5分ほどログハウスの前で待っているのであるが、レック達のその背中にはロイドに押し付けられたやたら多い食料でパンパンに膨れ上がったリュックを背負っていた。

「まあそれはすぐに分かる……出てきたようだぞ」

 グランスの言葉に仲間達がログハウスの入り口へと視線を向けると、ロイドが見慣れない杖を持って出てきていた。

「待たせたな。少しこれを探すのに手間取ってしまった」

 そうロイドは手にした杖をレック達に見せた。白銀色の本体の頭には、蔦の形をした金の台座が取り付けられ、そこには六角形に切り出され磨き上げられた青い水晶が埋め込まれていた。

「これが餞別なのか?」

 思わずそう訊いたグランス。

「いや。これは今から行くところを開けるために必要な鍵なのだよ」

 ロイドのその言葉に、レック達が首を傾げていると、

「すぐに分かる。ついてきたまえ」

 ロイドはそう言い残して、いつものようにさっさと歩き出した。慌ててレック達もその後を追いかける。

 そして歩くこと数分。

「ここが目的地?」

 木々に覆われた山肌にぽっかりと開いた洞窟の奥を覗き込みながら、レックがそう言うと、

「そうだ。……まだ入るな。危険だぞ」

 レックに答えながらロイドは、興味深そうに洞窟に入っていきそうになっていたリリーを止める。

「危険って……何かいるのか?」

「いや。何もいない。だが、ここの封印を一時的に解く時に、あまり近くにいるとどうなるかは保証できないな」

 グランスの質問にロイドがそう答えると、

「封印?」

 とレックが首を傾げた。

「そうだ。見ただけでは分からないが、変なモノが勝手に入り込んで住み着かないようにこの洞窟は封印されている。このままでは入ろうとしても、途中から進めなくなっているのだ……だから、入るなと……まあ、いい」

 途中で再び好奇心を抑えきれなくなったリリーに気づいたロイドだったが、今度は止めるのを諦めてしまった。

「……いいのか?」

「構わん。封印を解く時には離れて貰うがな」

 ロイドは呆れたようにグランスに答えた。

 そして、ロイドの許可?を貰ったリリーが恐る恐る洞窟の入り口へと近寄っていく。その後ろには興味はあったのか、ディアナとレック、ついでにクライストまでついて行っていた。

 そんな仲間達の様子を、

「物好きやなー……」

 とマージンは生暖かく見守っている。

 グランスは「仕方あるまい」と苦笑し、ミネアはそんなグランスの横に張り付いていた。

 やがて、前に手を伸ばして歩いていたリリーが叫ぶ。

「ホントだ。ここに見えない壁があるよ!」

 そう言いながら、リリーが楽しそうに洞窟の入り口の何もないように見える空中を手で押している。

「ふむ。確かに……壁のようじゃな」

 リリーと同じように見えない壁を手探りで確認しているディアナ。レックとクライストも、どこか楽しそうに見えない壁を触っていて、その様子はまるで、

「あれじゃパントマイムだな」

 グランスは思わずそう漏らし、それを耳にしたマージンとミネア、おまけにロイドまでが苦笑した。

「まあ、そろそろいいだろう。戻ってこい!流石に封印を解く時にそこにいたら、どうなるかは保証できないぞ」

 ロイドのその声に、好奇心を満たされたらしい4人が素直に戻ってくる。

「では、封印を解く」

 レック達を自分の後ろにまで下がらせたロイドはそう宣言すると、杖を自分の正面に縦に構え、目を閉じる。

 そして、レック達が固唾を飲んで見守る中、

「……封印は解けた。もういいぞ」

 あまりのあっけなさに、レック達は思わず呆然としてしまった。

 だが、さっさと歩き出したロイドの姿が洞窟に飲み込まれていくと、慌てて追いかける。

「ホントにさっきの壁が消えてるよ」

 見えない壁があった直前で一度立ち止まり、手を伸ばしてみたリリーは、驚いたようにそう口にすると、さっさと奥へと入っていった。触ってみていないグランス、ミネア、マージンはそんなことはせずにすたすたと洞窟に入るが、レック、クライスト、ディアナはリリーのように手で一度確認していた。

「随分と地面がきれいだね」

 歩き出してすぐに、レックがそんな感想を口にする。

 とは言え、この世界は全て仮想現実に過ぎず、当然この洞窟も人がコンピュータ上で作った物なのである。

「言われてみればそうだな」

 レックの言葉にそれ以上の反応がなかったのは、ある意味当然のことであった。

 洞窟は思った以上に浅く、レック達はすぐに洞窟の奥にまで辿り着いた。そして、そこで思いもかけない物を目にする。

「祭壇……?」

 誰かが口にしたその言葉に、

「如何にもその通り。これが餞別だ」

 部屋の中央にあった石造りの魔法――魔術の祭壇の隣に立っていたロイドがそう答えた。

「これは、何の魔術の祭壇だ?」

 わらわらと祭壇を取り囲んだレック達のうち、クライストがそうロイドに訊くと、

「そうか。見ただけでは分からないのか」

「見て分かるようなら苦労はしねぇな」

「今まで苦労したことないやろ」

 余計なツッコミを入れてきたマージンを軽く小突いて黙らせると、クライストは視線でロイドに答えを求めた。

「いや、見方は教えるが、どんな魔術を覚えることが出来るのかは、君たち自身で調べてみてくれたまえ。その方が、今後新しい祭壇を見つけた時に役に立つだろう」

「見れば分かるものなのか?」

 グランスはそう首を傾げていたが、他の仲間達同様、好奇心は刺激されたらしい。

「分かるとも。でなければ、あまりに威力の大きすぎる攻撃魔法など、いちいち使ってみるわけにもいかないだろう?」

「しかし、そんな話は聞いたことがないが」

「イデア社としては特に教える必要もなかったからな」

 確かに、エントランス・ゲートがある3都市を除けば、ジ・アナザー内部でイデア社がプレイヤーに助力したケースは皆無だった。正確には、露骨な不具合に対処する時や、あらかじめ用意されていた道具・仕様などを除けば、であるが。

 その事実に思い当たり、クライストなどはため息が出そうになっていた。

 そんな様子には頓着せず、ロイドは祭壇の側で屈み込んだ。

「まあ、教えるからよく聞いておけ。……ここだ」

 そう言いながら、くびれた石柱の上に載せられた形になっている台座の裏を指し示す。

「む、よく見えんのう」

「てゆーか、近づけないんだけど」

 グランス、クライスト、レック、ディアナの4人は何とか見える位置に陣取れたものの、はみ出した形になったリリーが文句を言う。ミネアとマージンは後から見るつもりなので、その様子を横から眺めているだけだった。

「何か……文字が書かれてるな」

「うん、ルーン文字っぽいね」

 グランスの言葉に、レックが頷く。

「ひょっとして、この文字が?」

 振り向いてそう訊いてきたディアナに、ロイドは1つ頷くと、

「大体、どの祭壇にも同じ場所に記されている」

「しかし、俺達はルーン文字など読めないぞ」

 そう言ってグランスが立ち上がって出来たスペースに、リリーが急いで入り込んでいた。

「そうだな。簡単なヤツだが解読に必要な辞書もあげよう。街に帰る道すがらにでも、解読を試みるといい」

「それでは正解が分からないだろう。今この場で教えてくれるというのはないのか?」

「ないな。敢えて言うなら……使っても怪我人が出るような魔術ではない。ただ、ある程度効果を知らないと、何が起きたかも分からないようなものだ。使ってみてカンニングするのも難しいだろうな」

「なるほど……」

 どこか釈然としないものの、ロイドの一連の言い分には教える側としての一連の整合性はあるような感じもするので、グランスはそこで引き下がった。

 見ると、最初に祭壇の下を覗いていた仲間達は既に立ち上がって、ミネアとマージンが代わりに覗き込んでいる。

「そのルーン文字のメモだけ取っておいてくれ。それが終わったら、祭壇から魔術を習得しようか」

 その言葉にミネアが頷くと、アイテムボックスから紙とペンを取り出し、素早くルーン文字を書き写した。

「では……」

 全員が立ち上がるのを待って、グランスは祭壇に手を乗せる。仲間達も一斉に手を乗せ、そして目を閉じた。

 すると、すぐに今までの2つの祭壇の時と同じように、彼らの周囲に光のもやが浮かび上がり、暫くしてそのまますーっと消えていった。

「流石にそろそろ慣れてきたわな」

 手を離したマージンがそう言うと、

「僕はまだわくわくするけどね」

 とレック。

「あたしは……意味あるのかな?」

 魔力制御が壊滅しているリリーは、何となく皆と一緒にやったものの、使えないのでは意味がなかったと首を傾げていた。

「確かに意味はないな」

「……やっぱりそーなんだ」

 ロイドに肯定され、がっくりと肩を落とす。

「早速試してみるかのう」

「ダメですよ。カンニングは為になりません」

 そう言って、ミネアがディアナを止めていたりもする。

 そんなレック達を無表情で眺めていたロイドだったが、暫くすると口を開いた。

「では、戻ろうか。辞書は私の書斎にあるし、それにこちらはキングダムとは反対方向だったからな」

 言うだけ言うと、いつものようにレック達がついてくるのを待たずに、さっさと歩き出す。

 流石にもう慣れていたレック達は、今度は行き先も分かっているので慌てず騒がず追いかけた。

 数分後、レック達がログハウスに戻ってくると、ロイドがちょうどログハウスから出てくるところだった。

「思ったより早かったな」

 などと言いながら、入り口の階段を下りてくるロイド。尤もレック達に言わせれば、

「ロイド、どれだけ早くこっちに戻ってきたんや……」

 というマージンの言葉のようになる。

 そんなマージンの言葉をあっさり聞き流すと、ロイドはグランスの前までやってきて、右手に持っていた小さな本をグランスに渡した。

「これが、ルーン文字の辞書だ。簡易版だから、載ってない言葉も多いが、それでも役には立つだろう」

「いいのか?」

 受け取ったそれのページを軽く捲り、グランスはそう確認する。

「構わん。もう使うことはない代物だ」

 その言葉を聞き、グランスは受け取った辞書を自分のアイテムボックスへと仕舞おうとして、興味津々のディアナに渡してやる。

 レック、リリーと共に、ぱらぱらと辞書のページを捲り始めたディアナは放って置くことにしたグランスは、二週間を過ごしたログハウスを眺め、

「随分世話になったな」

「構わんさ。これも仕事だ。それに久しぶりに生身の人間と話せてそれなりに楽しかった」

「生身、か」

 ロイドが口にした表現に、思わず苦笑する。仮想現実のアバターを指す表現としては、あまりにも不適切ではあったが、ロイドの気持ちも何となく分かる気がしたからだ。

 グランスの横ではミネアとマージンもこっそり苦笑していたが、グランスは気づかず、ロイドとの会話を続ける。

「いずれまた来ることになるのか?」

「それは君たち次第だろう。だが、まだ教えていない助言もある。たまには来た方がいいだろうな」

「そうか」

 グランスは頷くと仲間達に振り向き、手をパンパンと鳴らし、彼らの注意を集めた。

「出発するぞ。ディアナ、辞書はアイテムボックスに仕舞っておけよ」

 それだけ告げると、再びロイドの方に向き直る。

「では、世話になった。いずれまた会おう」

「ああ。私が必要となったなら、また訪ねてくるといい。歓迎しよう」

 そう言って、グランスとロイドは互いに握手を交わした。

 レック達も――一応クライストも――口々にロイドに別れを告げると、ロイドに貰った地図に沿って、ユフォルへと歩き出した。



「行ったか」

 レック達を見送ったロイドは、そう独りごちるとログハウスの中へと戻った。

 また一人になったログハウスの中の空気は、妙に寒々しく感じる。

「随分騒がしかったが、いなくなると寂しく感じるものだな」

 そう呟きながらも、またすぐに慣れるだろうと気にしないことにして、書斎へと足を運んだ。レック達がここを発ったことを、師に連絡しなくてはならない。

 書斎に戻ると、机の引き出しを開ける。その中身を全部抜き出して、二重底になっていた底を開け、隠しておいたトランシーバーを取り出した。

 プレイヤーと同じように、個人端末からチャットを使う手もあるのだが、これから連絡を取る相手がそれを嫌っているのだ。ロイドとしては、トランシーバーも似たような物ではないかと思うのだが、相手にとっては違うらしい。尤も、どうでもいいことでもある。

 スイッチを入れ、決められた順番で表のボタンを操作し、連絡相手を呼び出す。

『……ロイドか』

 すぐに返事があった。トランシーバーのスピーカーから聞こえてくるノイズ混じりの嗄れた声は、まごうことなくロイドが師と仰ぐ人物のものだ。

「はい。先ほど彼らがこちらを発ちました」

『……そうか』

 ロイドからの報告に、彼の師はそれだけしか返さなかった。

 ロイドの報告は重要ではあるのだが、必ずしも結果に結びつくとは限らない。ロイド自身、そのことを知っているだけに、師のなおざりとも言える反応が気になることはなかった。

「彼らに対する処置は予定通り済ませました。報告は以上です」

 レック達についての詳細な報告は、既に済ませてある。尤も、彼らがジ・アナザーに登録した時点でかなりの情報がイデア社に登録されているので、あまり意味はないのだが。

 兎に角、無駄話を好まない師の性格もあって、用件が終わったとばかりにロイドがトランシーバーのスイッチを切ろうとすると、

『まあ、待て。こちらからも連絡すべきことがある』

 そう、止められた。

 頻繁にあることではないが、珍しいことでもないので、ロイドはスイッチから手を離し、師の言葉の続きを待った。

『少々面倒な事態が発覚した。まだおぬしに動いて貰う必要はないが、気には止めておいて貰いたい』

「面倒な事態、とは?」

 少々聞き逃せない言葉を耳にして、ロイドは思わず聞き返してしまった。

 ロイドの知る限り、師やその同志達にとって、大抵の事態は面倒な事態と表現されるに値しないはずだ。例え面倒であっても、それが予定・予測の範囲内なら、やはり言わないだろう。

『我々の監視下にない、我々以外の魔術師がこちらに紛れ込んでおるようだ。そうとしか考えられない魔術の行使が感知された』

 その言葉に、ロイドは軽く驚いた。

「例の際にその手の者は原則排除されたのではないですか?」

『どうやら、完全には排除されなかったようだな。……今のところ問題は起きておらんが、今後は注意する必要がある。基本的にはこちらで対処するが、そちらでも気づいたことがあればすぐに連絡を入れよ』

「はい、分かりました」

『では、よろしく頼む』

 その言葉を残し、通信が切れた。

 ロイドもトランシーバーのスイッチを切り、引き出しの底へと戻した。

(我々以外の魔術師、か。余計なことをしでかさないでくれると良いのだが)

 そう思いながらも、ジ・アナザーのサービス開始直後の時期に何度も起きた問題を思い出し、望み薄だなと考える。

「せめて、一般人を極力巻き込まずに済めばよいのだが……」

 思わずそう口に出し、その直後に、既に十分巻き込んでいるという事実を思い出して苦笑した。



 その頃、自分たちが発った後のログハウスでそんな事が起きているとは露知らず。レック達はある意味ノンビリと山道を下っていた。

「ちょっと遠回りなんだよな」

「仕方ないだろう。ユフォルと身体強化魔術の祭壇の間の橋が直ってないかも知れなからな」

「だよなー」

 ぼやくクライストと宥めるグランス。

 昨夜、ロイドに見せて貰った地図を元にユフォルへの最短ルートを決めたのだが、例の橋が落ちてしまったことで、一週間は余計にかかってしまうルートしか残っていなかった。橋が修理されているかも知れないが、修理されていなかった場合には二週間以上の時間を無駄にしてしまうため、このコースと相成ったのである。

 運営側の人間であるロイドなら、修理されているかどうか分かるんじゃないかとグランスが訊いてみたものの、ログハウスから十数km程度の範囲しか把握できないと答えられ、結局分からず終いであった。

「まあ、今回は荷物運びがおるからまだ楽じゃがな」

 そう言ってディアナが視線を向けた先には、他の仲間に倍する荷物を背負ったレックがいた。

 判定で魔力量Aとされたレックは、ロイドの指導の下、身体強化を効率よく使えるようになったことで、ほぼ一日中でも身体強化を維持できるようになっていたのである。その結果が、荷物持ち(主に食料)である。

「でも、これじゃ戦闘には参加できないよ」

 などとレックがぼやくが、

「荷物を置くまでの時間くらいは稼いでやるさ」

「ま、わいらの身体強化も少しは威力というか性能というか、あがっとるし、ほんまに出番あらへんかも知れへんけどな」

 というクライストとマージンの言葉で、ぐぅの根も出なくなる。

 そんな雑談を時折交えつつ、レック達は再びキングダムを目指す。そこにあるという精霊の筺(エレメンタルアーク)を求めて。

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