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ジ・アナザー  作者: sularis
第一章 魔王降臨と閉じ込められたプレイヤー達
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第一章 第一話 ~日常~

第一章


連投。途中で入る説明文が長いです。なんでだろう……?

「じゃ、また明日な!」

 高校からの帰り道、家まであとちょっとというところで、張田恭平は手を振って、リアルの友人である同級生の工藤泰介と別れた。

 今日は定期試験の最終日。

 手応えとしては割と良かった……ので、試験の結果を気にすることもなく、ここしばらく続いていた試験勉強から解放され、久しぶりにジ・アナザーにログインできると、恭平はうきうきしていた。

 正確に言えば、勉強もジ・アナザーの中でやっていたので、ジ・アナザーには毎日のようにログインしていたのだけれども。

 兎にも角にも、定期試験の最終日だったということで、学校は午前中で終わり。学校を出たあとは、仲のいいグループで集まって、ファーストフードの店で軽く食べた後、CDショップで新しいCDを漁ったり、ゲーセンに寄ったりと、遊び倒した。

 ジ・アナザーがない時代なら、全員でそのまま暗くなるまで遊んでいたのだろう。しかし、1~2時間も遊ぶと、誰とも無くそろそろ帰ろうか、と言い出すのが常だった。

 ジ・アナザーにログインするために。



「さて、みんなもう来てるかな?」

 恭平は自分の部屋に戻ると、僅かな手荷物を棚に放り込んだ。

 学生の手荷物は情報技術の発達によって、劇的に減っていた。教科書も資料も全てデジタル化され、いつでも仮想ディスプレイで閲覧できるようになっていたし、ノートをとるのも仮想ディスプレイ上で文字や図形を書けば済む話なので、物質としてのノートは既に存在していない。

 部屋着に着替えた後、念のため、用も足しておく。ジ・アナザーにログインした後に、トイレに行きたくなったからといっていちいち席を外すのはあまり好ましくなかった。

 準備が終わるとリクライニングシートに横たわり、BPからジ・アナザークライアントを呼び出す。仮想空間に入るときは、リアルの運動神経も五感もほぼ全て遮断される。例外は空腹とか尿意とか痛覚とか――ユーザーの肉体の異常を知らせる感覚だけだ。平衡感覚などは完全に遮断されると言っていい。なので、予めリクライニングシートやベッドに身体を横たえておく必要がある。BPの普及に伴って姿を消したテレビやらオーディオ機器の代わりに普及した、現代の必須品だ。

 ジ・アナザーにログインした恭平は、何もない白い空間に放り出されたが、すぐに目の前に2つのアバターが出現する。

 フォーマル・アバターとパーソナル・アバターだ。


 ジ・アナザーのサービス開始直後は、全てのプレイヤーは1つしかアバターを所有することが認められていなかった。しかし、仕事で学校で……とジ・アナザーが利用される場面が増えるにつれ、(イデア社曰く本来の目的である)ゲーム目的でのアバター利用が困難になるケースが多発した。というのも、ジ・アナザーが広すぎるのが原因である。

 ゲーム目的でジ・アナザーにログインしているプレイヤーは、冒険だの何だのの目的でジ・アナザー内を自由に移動しているが、仕事や勉強目的で利用できる場所はジ・アナザーでも限られている。いくら何でも洞窟の中で勉強したり、火山の真上で事務書類をまとめたり――なんて訳にはいかない。モンスターもうろついてるし。

 かといって、勉強や仕事の都度、街に戻ろうとしても、ジ・アナザーには瞬間移動のような強力な移動手段は用意されていなかった。そのため、勉強や仕事のためにジ・アナザーを利用することが広まり始めると、街に縛り付けられるプレイヤーが続出し、このままではゲームとしてジ・アナザーを楽しめない!という意見が、イデア社に大量に寄せられた。

 そこで、イデア社は従来のアバターの名称をパーソナル・アバターに変え、全ユーザーに対して新しくフォーマル・アバターを追加した。

 この新しく追加されたフォーマル・アバターは、あくまでも現実の社会活動の延長を行うためだけのサブアバターとしての扱いであり、多くの機能制限がかけられていた。

 その最たるものが行動範囲と実名登録である。

 ジ・アナザーには仮想空間への入り口となるメトロポリス・ゲート、キングダム・ゲート、カントリー・ゲートの3つのゲートと、それを核とした3つのエリアが設定されている。フォーマル・アバターはそのうちの1つ、近代都市メトロポリス内でしか活動できないように設定されていた。

 また、フォーマルアバターは仕事や勉強で使われるため、ジ・アナザー内で人と会うときの事を考慮し、プレイヤーの実名をもったアバターしか作れないという制限もかけられている。

 一方で、旧来のパーソナル・アバターには一切の制限が設けられなかった。当然、パーソナル・アバターをフォーマル・アバターの代わりに使うことも出来たが、多くのプレイヤーはイデア社の意図したとおり、勉強や仕事にはフォーマル・アバターを利用していた。


 黒髪のパーソナル・アバターを選んでジ・アナザーに入った恭平は、すぐに所属ギルド「蒼い月」の仲間達との待ち合わせ場所を目指した。

 ジ・アナザーでは最初の5回のログインを除けば、原則として前にログアウトした場所から再開される。

 定期試験前のプレイで、予め今回の待ち合わせ場所とした中世風の街エラクリットの路上でログアウトしていた恭平は、システム時刻を確認し、

「ちょっと遅れたかな」

 と呟きながら、待ち合わせ場所としていた噴水広場に入った。

「お、来た来た」

 恭平のアバターを見つけた厳つい如何にも粗野な山賊といった感じの大柄なアバターのグランスが大きく手を振った。本人は騎士になるつもりらしいが、それっぽい鎧を手に入れて装備するまでは、ぼさぼさのくすんだ赤い髪とボリュームたっぷりの立派な髭もあって、山賊の親分にしか見えないだろう。武器がでっかい斧なので余計に山賊っぽい。

 その隣では、

「あ、ほんとだ。レック、ひっさしっぶり~♪」

 と、軽装の小柄な少女リリーが軽く上げた手をひらひらさせている。こちらは、神官志望なのだけど、回復魔法はまともに使えず、鍵開けが得意で、周りからは盗賊だろうと言われている。ただ、人目を引くきれいな金髪碧眼なので、隠密行動には向きそうにもない。

 ちなみに、レックというのが恭平のアバターの名前である。

「5分の遅刻じゃな」

 とレックを睨んだのは、首から下を趣味の悪い紫のマントで覆い隠した魔女っぽい女性。仲間内では、銀髪と濃紺の瞳のアバターが美形なだけに残念なファッションセンスとされているディアナだ。ちなみに、魔女っぽく杖を持ってはいるものの……リリーと同じで戦闘では魔法はまともに使えない。

 リリーとディアナ曰く、「ジ・アナザーの魔法は難しすぎる」とのこと。実際、ジ・アナザーに魔法が存在することは確認されているものの、使えるプレイヤーは限られている。

「ごめんごめん」

 と仲間達の元に着いたレックは頭を下げた。

 ちなみにレック自身は肩からはマントを垂らし、腰に一振りの剣をぶら下げている。いわゆる剣士スタイルだ。防具は今は知り合いの職人に修理で預けている。

 先に来ていた仲間達に頭を下げたレックはすぐに妙に人数が少ないことに気がついた。

「あれ?他の連中は?」

「マージンとクライストは仕事で来れないってさ。ミネアはかなり遅れるから、後から合流するとか言っていた」

 と、顎に手をやりながらグランス。

「まーまー、全員集まれるのって元々あんまないし、気にしちゃダメだよ」

 リリーの言葉にレックもそんなものかと頷いた。

 ちなみに、レックとリアルで会ったことがあるメンバーはこの中にはいない。今いないマージン・クライスト・ミネアも同様だ。


 他のネットゲームと同じで、ジ・アナザーでは住んでいる地域とは無関係に知り合いを作ることが出来る。さすがに自動翻訳機能が実装されなかったため、他の国のプレイヤーと仲良くなるケースは少ないが。実際、レック達のギルドも今いないマージンを除いて全員が日本人だし、イギリス人だというマージンも一緒に行動できているのは、日本語を自在に操れるのが大きい。兎に角、公式には1億を超えるとも言われるユーザーがいるジ・アナザーで、リアルの友人以外の知り合いが出来ない方が珍しい。

 というより、リアルの友人よりジ・アナザーの友人との付き合いの方が長い――というのが、二十歳以下の常識だ。その理由は簡単で、ジ・アナザーを始めるのは大抵小学校に入る前。で、ジ・アナザーで出来た友人は引っ越しとかで縁が切れることもないので、長続きする。一方、リアルの友人は引っ越しや進学の際に新しくできるので、一部の幼なじみを除けばジ・アナザーの友人よりも付き合いが短くなってしまう。


「じゃ、試験が無事に終わったお祝いに早速どっか行こっか」

 と、短剣をくるくる回しながらリリー。それを止めて、

「いや、その前にさ。何か変わったこととかあった?」

 とレックは訊いてみた。

「いや、この辺では何もないのう」

「他の連中からも特に何も聞いてないな」

 と、ディアナとグランス。

「まー、何かあった方が楽しいけど、しょっちゅう何かあったら、腰を据えて冒険できないよ?」

 軽そうな見た目とは裏腹に、意外と正論をのたまうリリー。

「そっか」

 元々、ジ・アナザーでは運営によるイベントなど無いに等しいので、プレイヤーによるイベントや発見以外では大きな事は普通起きない。ので、レックもあまり期待はしていなかった。

「で、ギスタダンジョンに行こうか、という予定だったんだが……」

 グランスが今日の予定を確認すると、

「マージンは兎に角、クライストが抜けたのは予定外だったのう」「ダンジョンは諦めて、森にでも行ってみる?」

「それなら、ミネア待たないと、合流難しくないか?」

「うむ、待った方が良いじゃろうな」

「じゃあ、その間に修理に出しておいた装備の受け取って、ついでにポーション買ってくるよ」

 ということで、遅れてくるというミネアを待つ間に、レックは装備の受け取りとポーションの購入をすることになった。

 ジ・アナザーでは各種アイテムの作成にはそれに見合った時間がかかる。修理も同様なので、ログアウト前に装備品を修理に出しておくのがプレイヤーの常識となっていた。ポーションの類は消耗品ということで大抵店に在庫が並んでいるので、その日の予定に合わせてレックは購入していた。


 さて、レックが戻ってくるまでにグランスがミネアに確認を取ったところ、合流できるのは早くてもジ・アナザーの時間で2時間後だとのこと。さすがに何もせずに待つには長い時間だったので、結局、定期試験明けで久しぶりに狩りをすることになるレックの肩慣らしを兼ねて、エラクリットの北の森で黒オオカミだの何だのの雑魚を狩ることになった。



「しっ!」

 食いしばった歯の間から出した気合いの声と共に、大木を背にしたレックは、飛びかかってきた黒オオカミを下から切り上げた。

 一撃で仕留めるには至らなかったものの、前足を両方切り落とされ地面の上でのたうち回っていた黒オオカミに、ディアナが杖という名の棍棒でトドメを刺す。

 ただ、一見残酷なシーンではあるが、凄惨さを抑えるためとして血が飛び散ることはない。胴体を輪切りにしても内臓がどろりとはみ出してくることもない。そのくせ、断面はかなり精緻に作り込まれている。まじまじと見たがるプレイヤーはほとんどいないが。

「次、後ろから来るよ!」

 木の上から投げられたリリーの声に反応して、木を挟んでレックの反対側を守っていたグランスが斧を振り下ろし、低い体勢から飛びかかろうとしていた黒オオカミを叩き潰す。

「まさか、こんなでかい群れに遭うとはな」

 黒オオカミは体長2メートル近い文字通り黒い毛皮をまとったオオカミである。オオカミというだけあって、普段から群れを作っており、その連携故に個体の強さ以上にやっかいな敵となっている。また、その群れの大きさには小さいときの数頭程度から大きな時の数十頭程度とかなりのバラツキがある。今日、レック達が遭遇したのはまさしく最大級の群れだった。

「これもきっとレックの試験祝いだよ」

 地上戦ではあまり役に立たないからと、囲まれる前にさっさと一人だけ木の上に避難したリリーが呑気なことをのたまいながら、パチンコでレックやグランスの死角から飛びかかろうとしていた黒オオカミに小石をぶつけ、牽制する。

 そこにすかさず杖を振りかぶったディアナが詰め寄り、黒オオカミの頭を殴り、気絶させた。

「こんな祝いは嬉しくない……」

 とため息をつきながら、レックは剣を振って、ディアナに噛みつこうとしていた一頭を追い払った。

「まあ、面倒なだけだじゃしな」

 念のため、気絶させた黒オオカミをもう一発殴ってから、ディアナはリリーが上っている木の下に戻ってきた。

 連携が手強いと言われている黒オオカミだが、実際には5年以上プレイしている中級者にとっては大した敵ではない。レックやリリーでも5年以上、それより長くジ・アナザーをプレイしているグランスやディアナはもうプレイ歴が10年近い。

 ということもあり、レック達は囲まれている割にはさほど緊張もせずに黒オオカミの群れに対峙していた。というか、退治していた。

 既に、足下には黒オオカミの死体が10頭以上も転がっており、徐々にオオカミの群れの士気が下がっているのが感じられる。さっきの攻撃が退けられ、警戒感も増したのか、遠巻きに構えているだけで一匹たりとも襲ってくる気配がない。

「後一押しだな」

 というグランスの言葉に、

「じゃ、火薬玉でも使おっか」

 と言って、リリーは懐から出した黒い玉をパチンコにセットし、一匹の黒オオカミに適当に狙いを定め……撃ち込んだ。

 ッパアァァン!

 狙われた黒オオカミにとっては幸いなことに、リリーが放った火薬玉は僅かに狙いを逸れ、黒オオカミの斜め後ろにあった木にぶつかって、大きな音を立てた。

 その大きな炸裂音に黒オオカミたちはビクッと身体を震わせ、そのまま向きを変えて森の奥へと走り去っていった。

 それを見て、やれやれとため息をつきながら、レック達は各々の武器を収めた。

「残念~、はずしちゃった」

 木から飛び降りてきたリリーは、そう言いながらも対して残念そうではない。

「別に当てる気無かったんだろ」

「てへっ」

 心にもないことを言うなと言わんばかりに突っ込んだレックに、リリーは可愛らしく舌を出して見せた。最初の頃はその仕草にどきっとしていたレックも、今ではすっかり慣れた。

「で、毛皮はどうするのじゃ?」

 杖の頭に付いていた黒オオカミの血を拭き取ったディアナが訊ねると、

「いらんだろう。それより、思ったより時間くったし、そろそろミネアを迎えに行かないとな」

 と、懐から個人端末を取り出して、グランスが答えた。


 ジ・アナザーは妙なところがいろいろと他のMMOと異なる。妙にリアリティに拘っているというのが、プレイヤー一般の見解である。

 個人端末もその1つで、普通のVRMMOなら空中にそのプレイヤーにしか見えない仮想画面が表示されるところを、そんなの現実的ではないという理由で、わざわざ小さな携帯機器の形で実装されている。ディスプレイ部はさすがに実体を持たないホログラムだったりするので、中世風という世界観にはやっぱりあってないのだが。

 ただ、この個人端末は非常に高機能で、自分の現在のステータスの表示からプレイヤー同士のメッセージのやりとり、ジ・アナザーでの銀行の入出金処理などなど、様々な場面でお世話になる。なにより、リアルでも同様の機能を持つ個人端末が普及していることもあり、プレイヤーには割と素直に受け入れられていた。



「あ。もう、ミネア来てるじゃん」

 エラクリットのに戻ってきたレック達は、エラクリットの北門で佇んでいた青い髪の少女を見つけた。背中の弓と頭の帽子が如何にも狩人っぽい。しかし、

「あー、でも、やっぱりナンパされてるな」

 というグランスの言葉通り、ミネアの前には3人の男性アバターが立っていて、ミネアに熱心に話しかけていた。


 ジ・アナザーの現実主義(と一部のプレイヤーは呼んでいる)はアバターにも反映されている。

 容姿や体型は割と自由に決められるのだが、性別と身長だけは基本的にリアルのプレイヤーのそれを設定することを求められるのだ。これには一応理由があって、イデア社の発表によれば、「現実と仮想空間で性別などの大きなずれがあると、無意識のうちにプレイヤーの精神に大きなストレスを与えるため」となっている。

 ジ・アナザーでは、最初に性別も身長も自由に選ぶ機会があって、そこで異性を選んでアバターを作成するプレイヤーも少なくない。しかし、実際には異性でプレイしたほとんどのプレイヤーが、開始直後に設けられている一ヶ月間のアバターリメイク期間に、リアル本来の性別に戻してしまうとされる。仮想空間・仮想現実と分かっていてもあまりにリアルなため、大半のプレイヤーにとって、リアルと違う性別でプレイするのはかなりのストレスになるのである。

 ということで、ジ・アナザーでのアバターの性別は概ねプレイヤーのリアルの性別と一致しており、そのため、美人キャラがナンパされている光景というのは珍しいものではない。もっとも、アバターが美人・美少女だからといってリアルのプレイヤーがそうであるとは限らないことはナンパする側もよく心得ており、ナンパが軽いコミュニケーションの域から外れることは、ほぼない。


 3人の男にナンパされていたミネアだったが、どうやらリリーとグランスの声が聞こえていたらしく、何回か男達に頭を下げたりレック達を指さしたりしてから、ぱたぱたとレック達の方へと走ってきた。

「はあっ、はあっ……」

 思ったより距離があったのか、息を切らせながら(ジ・アナザーではこういうところも妙にリアリティを大事にされている)走ってきたミネアに、

「今日もナンパされてたね~」

「ま、ミネアは可愛いからのう」

 と、リリーとディアナが声をかけ、ミネアを赤面させた。

「そういうリリーもちょくちょくナンパされてるのを見かけるんだけど?」

 からかうようにレックが言うと、

「可愛いってことだからいいの!」

 と、わざとリリーはふくれて見せた。その横では、

「む、では全然ナンパされたことのない私は、可愛くないということかのう?」

 とディアナがわざとらしく悩んだ振りをする。

 その場にいた全員が心の中で、「いや、ファッションセンスが残念だから」と突っ込んだが、さすがに口には出さなかった。

「あれ?クライストさんはいないんですか?」

 ミネアは何とか息を整えると、メンバーの顔を一通り見て、首をかしげた。

「ああ、急用だそうだ。来れたら来ると聞いてるが、多分無理だろうな」

 と、グランスは肩をすくめて見せた。その横では、

「クライスト、最近忙しいのかな?」

「じゃろうな。それでもマージンほどではなかろうよ」

「マージンの忙しさは異常だろ」

「あー、マージン最後に見たのいつだっけ?」

 と、レック達。

「確か先月だな。何でも、イデア社から受けた仕事がどうとか」

「イデア社?ジ・アナザー絡みでしょうか?」

 グランスとミネアも会話に入ってくる。

「さあな。さすがにその辺は守秘義務とかで聞いてない」

「でも、それなら近いうちに何かアップデートあるかもね」

「いや、アップデート以前に、まだまだ未踏の地が沢山あるのじゃが」

「とゆーか、ジ・アナザー(ここ)、広すぎ。全部見て回るだけで、あたし、しわしわになっちゃいそー」

「まだ若いおぬしがそれでは、私はどうなるんじゃ?」

「……棺桶?」

 と、同じ女という性別の割に、えぐい返しをしたリリーの脳天に、ディアナは容赦ない突っ込みを入れた。

「ったぁ~。ちょっとは手加減してよ~」

 半分涙目になったリリーをディアナは無視して、

「まあ、未だにプレイヤーが誰一人として踏み込んだことのない地域も半分以上残っておるらしいしの。そういった点ではまだまだ冒険者心をくすぐられるの」

「となると、そろそろ新しい町に拠点を移すことを考えてもいいかもな」

 というグランスに、

「そうだね。この辺も慣れてきたし、移動してもいいかもしれない」

「あ、あたしもそれ賛成~」

 と、真っ先にレックとリリーが賛成した。

「わたしも賛成します。最近、ちょっと人が増えてきて……そのあの……」

 何故か途中から微妙に尻すぼみになったミネアだったが、

「ああ、ナンパされることが増えたから人が少ないところに行きたいということじゃな」

 と、ディアナに補足されて、またしても赤面することとなった。

「じゃ、その件はマージン達にも俺から伝えておく。良さそうな行き先については、各自で情報集めておいてくれ。行きたい場所の候補でもいい」

 と、何となくリーダーっぽいグランスが話をまとめた。そうと決めた訳じゃないので、リーダーと呼ぶとグランスは顔を引きつらせるので誰もリーダーとは呼ばないが。

「では、予定よりちょっと遅れたが、ギスタダンジョンに向かうとするか」

「おー!」

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