第十五章 第二話 ~百億都市~
「……確か、おまえも日本人だったよな?」
気怠げにベッドの上に横になったまま、男はそう言った。
「……そうよ」
さっきまでそのベッドの上で行われていた事の痕跡を隠すかのように身支度を調えていた紗耶香は、男の方を振り向くこともなくそう答えた。
出来ればシャワーも浴びたいところだが、そんな気の利いた物は流石の男の部屋にもない。自室に汲み置きしてある水で身体を洗うしかないだろう。
紗耶香がそんなことを考えていると知ってか知らずか、男は言葉を続ける。
「新しい冒険者達との接触を任せようと思うが、どうだ?」
「愚策ね。略奪のこと、気取られても知らないわよ」
一瞬の躊躇もなく、紗耶香は男の提案を拒否した。新しい冒険者達というのがクラフランジェにいたあの冒険者達である以上、無闇な接触は避けるべきだった。まともに顔を合わせたわけではないが、もし姿を確認されていたなら、下手に接触すればその場で揉める、最悪殺し合いになってもおかしくない。
そのことを指摘すると、
「そうだな。他のに接触を任せるか」
男はどこか残念そうに、そう言った。
男の用はそれで終わりだったようで、それ以上呼び止められることもなく、紗耶香は男の部屋を出た。時には朝まで男と一緒に過ごすこともあるのだが、幸い、今日は男にそこまで元気はなかったらしい。
(もしかしたら、別の女が来るのかも知れないけど、ね)
などとも思うが、それならそれでそっちにもうちょっと執着して欲しかった。あまり執着されすぎるとこっちが捨てられてしまう心配をしなくてはならないのだが、それならそれでいいと紗耶香は思っていた。
(そうなったら……また別の男に媚を売るだけよ……)
そこまで考えたところで、紗耶香は自らの思考がかなり悪い方へと走っていることに気がついた。
久しぶりにメトロポリスに戻ってきたそうそう、男に呼ばれたからだろうか。それとも周囲が暗くなり始めているからだろうか。
太陽が地平線に近づくと、この都市は一気に暗くなる。高すぎる建物の数々が太陽の光を遮ってしまうのだ。
これが夜ともなればごく一部の例外を除き、例え満月だったとしてもこの街は本格的な闇に包まれる。太陽に比べてあまりに弱い月や星の明かりでは、地上にまで届かない。ただ、満月の夜の真夜中だけは、天頂からの月の光が地上に届くため、そこそこ明るくなるのだが。
そんな、急速に暗くなりつつある街の中、紗耶香は自らに割り当てられた部屋へと急いだ。
この辺り一帯はあの男がかっちりきっちり支配しているため、それほど治安は悪くない。問題なのはその暗さの方だった。
(暗すぎて、怪談ができちゃうくらいだもの)
メトロポリスでは『魔王降臨』の後の混乱で、それこそ数え切れないほどの人間が死んだ。傷つくことも飢えを感じることもないはずのソーシャル・アバターのはずだったのに、ある者は血を流し、ある者は骨と皮だけに痩せ細り。
そうして二度と動かなくなった者達を見て、ここが仮想現実だという事実はメトロポリスの住人達の頭からいとも簡単に吹き飛んだ。それほどまでに彼らの死は現実味を帯びていたのだ。
そうして、無数の人が死んだが故に、夜のメトロポリスで囁かれる怪談は材料に事欠かないこととなったのだった。
幸いなことに、割と現実主義者だった紗耶香はその手の怪談に怯えることはなかったのだが、それでもあまりの闇の深さは前に進むことすら困難にする。
そうなる前に、紗耶香は家路を急いだ。
翌朝。メトロポリスの北東にある町で。
「行ったか。しかし、報告より人数が少なかった気がするが……」
いかにもお粗末な、しかし何度となくその役目を果たしてきたことが見て取れるほどにあちこちに破損や焼けた跡がある防壁の上に二人の男が立っていた。
一見軽装に見える二人の腰にはホルスターがぶら下がり、その中には当然のように銃が収まっていた。ただ、傷だらけの革製のチョッキ以外、防具らしき物は身に着けていない。
そんな二人の視線の先には、メトロポリスへ向かってこの町を離れた三人の男達の背中があった。既に百m以上も離れた彼らを見ながら、二人の男は話をしていた。
「別の冒険者グループかも知れませんが」
「いや、それはないだろう。確かにこっちに来る冒険者全てを確認できているとは言わないが、冒険者自体がそんなにいるもんじゃない」
実際には、キングダムからメトロポリス大陸へと渡ってくる冒険者そのものは決して珍しくはない。だが、その大半がモスト・イースト近辺で活動していて、そこから千km以上も離れた所まで出張ってくる冒険者ともなるとほとんどいない。三大都市の一つであるメトロポリスまでやってくる冒険者ともなると、今まででも十数グループもいなかったはずである。
故に、男達は今まさにメトロポリスへと向かって歩いて行った彼らが、報告にあった冒険者達だろうと――外見上の特徴も名前さえも知らなかったが――確信していた。別のグループかもと言った男も、実際にはそんなことは思っていない。ただ、言ってみただけなのだ。
「まあ、いい。兎に角、急いで連絡を。査定に響いて配給が減ったりしたらイヤだからな」
そう言った男に、もう一人の男も苦笑しながら頷いたのだった。
さて、防壁の上にいる男達に見送られているとも知らず、グランス達と合流すべく、レック達はてくてくと歩いていた。
「ほんと、この辺は治安がいいよね」
「だな。ただ、日本語が通じないことがあるのは参ったぜ……」
町にいる間はあまり町の感想を口にするのは避けていたレック達だったが、ここまで来ればうっかり聞かれる心配も無いだろうと、一夜を過ごした町についての感想を話し合っていた。
で、町の感想の中で一番のものがクライストが口にしたそれだった。
「キングダムじゃ、日本語だけで十分だったもんね」
「ったくだ。端末の翻訳機能のありがたみがよーっく分かったぜ」
ジ・アナザーの全ユーザーのアバターが必ず所持している個人端末。『魔王降臨』と共に停止したその大半の機能の中には多言語のリアルタイム翻訳機能があった。
尤も、『魔王降臨』前でも出身が同じ国のプレイヤー同士で遊ぶことが多かった上に、『魔王降臨』の後のキングダムに至っては、ジ・アナザーに取り残されたプレイヤーの大半が日本人だったこともあり、一部のプレイヤーを除けば、端末の翻訳機能が停止していることすら気づいていなかったのだが。
それはさておき、現実世界でも機械翻訳が十二分に発達していたため、レックもクライストも日本語以外はさっぱりだった。簡単な英単語くらいは分かるが、と言ったレベルである。
ただ、それでも二人が困ることはほとんど無かった。
その理由が、今レックとクライストの視線を集めているもう一人の仲間である。
「まっ、マージンがいてくれて助かったけどな」
「だね」
そんな二人の視線の先にいるマージンはと言うと、実にめんどくさそうな顔をしていた。何しろ、何かあるたびに通訳として駆り出されたのだ。一日に満たない間のこととは言え、かなりげんなりしていた。ましてや、これからメトロポリスに向かおうというのである。
「……できたら、メトロポリスに着くまでに二人にも簡単な日常会話くらいはできるようになって欲しいんやけど?」
恨めしそうなマージンの視線に、
「悪い。無理」
「同じく」
即座にクライストが首を振り、レックがそれに追従した。
尤も、
(まー、英語とドイツ語くらいはどうにかなるんだけど、ね)
などとレックは考えていたりする。
レックがサビエルから渡された記憶の中には幾つかの外国語の知識もあった。完全ではないとは言え、それらに頼れば日常会話どころか、割と突っ込んだ話さえも出来る。のだが、現実ではただの学生に過ぎなかったレックがぺらぺらと幾つもの言語を理解し操るのはあまりに不自然だった。故に、日本語しか話せないふりをすることに決めていた。
勿論、いつまでもそれでは不便なので、折を見て徐々に覚えたふりをするつもりではあった。が、いくら何でもたった一日で日常会話が出来るようになるのはやはり不自然というわけで、マージンの要望にはあっさり首を振ったのだった。
さて、二人にあっさり首を振られたマージンはがっくりと肩を落としていたが、しばらくすると立ち直ったらしい。
「……よっしゃ。旦那に絞めてもらおう」
「え?」
「締めるって何をだ?」
不穏な気配を感じたクライストが問い質すと、
「そりゃ、勿論クライスト達をや。その後はみっちりと英会話講座やで!」
そう言ったマージンはいきなり走り出し、「え?」と驚いていたレックとクライストがハッと気がついたときには、その背中は豆粒のように小さくなっていたのだった。
「……なるほどな」
合流地点にやってきたマージンから話を聞いたグランスはそう溜息を吐き、まだ息が荒いレックとクライストへと視線を移した。
マージンに言われたように二人を締める気は無い。マージンも本気で言ったわけではないだろうから、そこは問題ないだろう。
だが、日本語が通じないことがあるというのは問題だったし、その都度マージンに通訳を頼まなくてはいけないというのは、正直に言ってかなり気が引けた。一応、簡単なところならディアナも英会話が出来るらしいのだが、あまり自信が無いとのことだった。
「とりあえず、英語で良いから簡単な会話くらいはこなせた方が良さそうだな」
ここまでそのことに気づかなかった理由は……まあ、考えても仕方ないと切り捨てて、グランスはそう結論づけた。
レック達が昨日一泊した町で聞いてきた話では、メトロポリスには日本人以外も相当数がいるという話だった。それでも半数程度は日本人らしいと言うから、日本人のジ・アナザーへ閉じ込められた確率は相当高いことになる。
それはさておき、母国語以外話せない人間というのは、機械翻訳のおかげで実に多い。それは日本人に限らなかった。平たく言って、マージンのように複数の言語を扱える者は非常に珍しいと言っても良い。
言い換えれば、メトロポリスにいる人間の半分には日本語が通じないと思っても良かった。
「あれから2年や。日本語だか英語だかを必死に覚えたんも多いんちゃうか?」
とマージンは言ったが、
「英語の方に統一されておってもおかしくはないのう……」
という可能性を考えれば、グランスが出した結論は実に無難なものであった。
「と言うわけで、マージンとディアナには悪いが、英会話を教えてくれるか?」
「まー、通訳になりっぱなしよりはマシやな」
「私ではあまり力にはなれんじゃろうが、それで良ければじゃな」
頭を下げたグランスに、マージンとディアナが快諾の意を示した。
ただ、問題もある。
「でも……今日の夕方にはメトロポリスが見えてくる……はずですよね?」
ミネアの言ったように、もうメトロポリスは目と鼻の先なのだ。つまり、本格的に勉強をする時間などどこにも無い。
「まー……最低限の挨拶くらいはできるように、やな」
「ふむ。それが妥当なところじゃろうな」
こうして、メトロポリスまでの馬車の中で、急遽、英会話講座が開かれることとなったのだった。
そして、その日の夕方。
「お~、なつかしのメトロポリスや!」
夕焼けに赤く染まりつつある丘。その上へと伸びるメトロポリスへと続く道を登り切った馬車をマージンが止めた。
それにあわせ、馬車の中から次々と仲間達が飛び出してきた。
「こうして見るとでかいな!」
「メチャクチャ広いよね!」
「写真では見たことがあったが……こうして見ると圧巻だな」
「あーっ! あーっ!」
目の前に広がる光景に圧倒された仲間達は英会話講座の疲れも忘れ、次々と感想を口にした。ちなみに、最後のはミネアに抱かれたエイジである。
彼らの目の前には、人工物の数々が地平線の向こうまで広がっていた。これが昼間なら白と灰色の冷たい景色だったのだろうが、夕焼けの赤に染まったその巨大都市は、ここが仮想世界に過ぎないことを考慮に入れても、見る者を十分に圧倒できた。
「確か公式発表やと、1万平方kmやったか?」
「それってどれくらい?」
「東西南北に100kmずつ広がってる……計算ですね」
はしゃぐエイジを宥めながらのミネアの解説で、やっとリリーも広さが実感できたらしい。
「すごいんだね!」
そう言ってマージンに話しかけるリリーから、レックはそっと視線を逸らし、
「……?」
そこで何故か隣にいたアカリと視線が合った。
「あ、えっと、すごい、ですよね」
「うん。そうだね。頭では知ってたけど、こうして見てみるとすごいね」
アカリにそう返し、レックはリリーとマージンを視界に納めないように気をつけながら、夕焼けに赤く染まるメトロポリスへと視線を移した。
「ん?」
その時、赤く染まる景色の中に一点、清涼とも呼べる青い光が見えた。
「あれは……」
「どうした? 何かあったか?」
ぼそりと漏らした声を聞きつけたクライストがそう声をかけてきた。
「いや、あそこ。何か光ってない?」
そう言ってレックが指さした先を見たクライストだったが、すぐにはレックの言う光を見つけることが出来なかった。目を細めじっと観察し、やっとそれを見つけた。
「ああ。何か光ってるな」
「本当……ですね。なんでしょうか」
レックの言葉を聞いていたクライスト以外の仲間も、それを見つけたらしい。
全員で首をかしげている中、
「あれ、クリスタルタワーちゃうんか?」
そうマージンが言った。
が、それはそれで仲間達は首をかしげた。
「あれって、あんな風に光ってたか?」
ソーシャル・アバターでメトロポリスで過ごした経験は誰にでもある。それ故に、メトロポリスで最も有名なクリスタルタワーは勿論全員が知っていた。
ここでメトロポリスの大まかな構造について説明しておこう。
メトロポリスはジ・アナザーのゲーム開始三大都市の1つであると同時に、全世界のジ・アナザーのプレイヤーのソーシャル・アバターが過ごす都市である。
故にその収容人数は現実世界における世界人口の実に半分に達する。そこからついた名が百億都市。実際には50億程度しか収容できないのだが、BPを有しかつ実際にジ・アナザーに接続可能な世界中の人間全てを収容できるだけに、誰もがその呼び名を決して大げさだとは思っていなかった。
ただ、それだけの人数を収容するためにはそれなりの規模が必要だった。実に総面積1万平方km、直径100kmを超え、その広大な敷地には地上1000m、地下500mまで伸びる巨大な建物が無数に用意されていた。
無論、その大半はソーシャル・アバターの住居――つまりは、プライベートな空間――やらジ・アナザーで過ごすための各種施設であり、取り立てて注目すべき物ではない。
しかしながら、仮想現実に作り上げられたこの巨大な都市にも人々が注目すべき物が幾つかあった。
例えば、世界中の美術品が集められた美術館であったり、絶滅種すら含む世界中の動植物が集められた動物園や植物園であったり。
あるいは某一流建築家がデザインした世界的な企業のオフィスや、仮想現実だからこそ実現できたと言われるコンサートホールであったり。
その中でも特に有名なのが、メトロポリスの中央に位置するクリスタルタワーだった。
総クリスタル製とされるそのタワーは実にその高さ2000m。現実では強度などの問題から実現不可能な建築物の1つであるのだが、それよりもクリスタルタワーを有名な物としているのがその美しさと何人たりとも立ち入ることが出来ない立ち入り制限だった。
クリスタルタワーはその名前の通り、全てが磨き上げられたクリスタルで造られている。その造形は太陽の光はおろか、月や星の光までも計算して反射するように造られており、現実、仮想現実の両方をあわせた人類世界で最も美しい建造物だと言われていた。
そのくせ、強度以外では仮想現実でなければ実現できない要素を用いずに造られているというのも有名な話で、現実世界でも再現が試みられたのだが、大きさまでも再現しなくてはその美しさを再現できないことが分かっただけだったとされる。
ただ、それだけに有名な話には事欠かない。
その中でも代表的な話の1つが、クリスタルタワーは自ら光り輝くことはないというものだった。
その美しさ故に、イルミネーションで装飾しようという提案がユーザからしばしば出されたのだが、その全てをイデア社は撥ね付けてきたのだ。サーチライトで彩ることすら拒否したあたり、実に徹底しているとは某評論家の言である。
それ故に、レック達はメトロポリスの中で光っているそれがクリスタルタワーだとは、すぐには気づかなかったのだった。
「クリスタルタワーは光らなかった、はずだが……」
グランスもそう首をかしげたが、
「イデア社の気が変わったんちゃうか? 『魔王降臨』なんぞやらかしたくらいやし」
そう言われてしまえば、何でもありのような気がしてきて否定できなかった。
一方で、あることが簡単に予想できたりもする。
「きっと、あそこに精霊王がいるんだろーねー」
リリーがぽつりと漏らした言葉に、仲間達も「そうだろうな」と一斉に頷いた。
ただ一人、会話について行けなかったのがアカリである。
「え? え? 精霊? 何ですか、それ?」
「そう言えば、アカリってキングダムに行ったことないんだっけ?」
「え? ありますけど、精霊とか知らないです」
そう答えたアカリの勘違いをレックは訂正した。
「いや、そうじゃなくて、『魔王降臨』後の話なんだけど」
「あ、そういうことなら、行ったことはありません」
「やっぱり、そうだよね」
「ひょっとして、キングダムにはそんなのいるんですか?」
「いるよ。キングダムのど真ん中に。会ったことがあるのは……リリーだけだけど」
アカリは信じられないと言いたかったが、ここが仮想現実だということを思い出し、あり得ない話ではないとすぐに思い直した。そもそも、既にレック達が魔術を行使するところを何度も見ているのだ。そこに精霊が加わるというだけの話に過ぎなかった。
「はぁ……何でもありなんですね……」
そう言ったアカリの視線は、ジ・アナザー最大の不思議であるエイジへと向かっていた。
(もう、あれこれ難しいこと考えるの、止めた方がいいのかなぁ)
気分はもう悟りを開く一歩手前とでも言おうか。いっそのこと、このまま悟りを開いてしまった方が楽かも知れないと考え始めたアカリだったが、
「そう、だね。そのくらいのつもりでいた方がいいよ」
そう言ったレックの言葉に、それは駄目だと思い直した。悟りなんかを開いてしまっては、今の自分のこの気持ちもなくなってしまいかねない。
レックが誰を見ているかも、だからこそ届かないかも知れない事は十分承知している。それでも、今のこの気持ちは絶対に否定したくなかった。
と、アカリの思考が明後日の方向に逸れている横では、
「取り敢えずの目標はあそこだな」
「一日で着くと思う?」
「……朝から晩まで歩き続けたら着くんちゃうか?」
「東西南北に100キロあるってことは……単純計算で真ん中まで50キロかよ」
クライストはそう言うとちらりとリーフと馬車を見て、溜息を吐いた。
「馬車、使えねぇだろうから、全部徒歩って事か?」
「……三日くらい見ておいた方がいいだろうな」
クライストの確認するような言葉に、グランスはそう答えた。
「電車使えたらすぐなのにね」
「そうじゃが……!」
リリーの言葉にそう返したディアナは、ハッと気がついたように目を見開いた。
「全員で行く必要、あるのかの? リリーだけリーフに乗せて送り出すのはどうじゃ?」
確かにそれであれば、1時間もかからずにクリスタルタワーに着くだろう。
「確かに……一度、試してみる価値はあるな」
「手抜きっぽいから、無理な気もするけどなぁ……」
確かにゲームや物語であれば、そんな手抜きをして結果だけ手に入れる所謂チートとかズルとか言われることはできないだろう。だが、現実なら試す価値はあると、乗り気ではなさそうだったマージンも反対まではしなかった。
そんな訳であっさりとリリーがリーフに乗って行ってみるという事になったのだが、そこでミネアが口を開いた。
「ですけど……流石にリリー一人は……心配です」
「そう言やそうだな。……レックも一緒に行った方がいいんじゃねぇか?」
そのクライストの言葉に、レックは一瞬ビクッとしてしまった。
正直、リリーがリーフに乗ってという話が出た時点で、ちょっと期待していたことではある。ただ、流石に自分からは言い出せなかった。だが、こうして話が出れば、別……とまでは行かなかった。
(えっと、ここで頷くのはどう、なんだろう?)
そうレックが迷う時間はさほど長くなかった。
「ふむ。確かに何かあったときのことを考えると、一人というのは心配じゃな。私もレックが同行した方がよいと思うのう」
クライストの言葉にあっさりディアナが賛成し、他の仲間達もそうするべきだと続いたからだ。
「あー、うん。それじゃ、僕がリリーを連れて行くよ」
流石にその流れを見送るほどレックは鈍くさくはなかった。浮ついた内心を押し隠し、レックは頷いたのだった。




