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ジ・アナザー  作者: sularis
第二章 雨の森と治癒魔法の祭壇
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第二章 第一話 ~エントータの食堂にて~

第二章


やっと旅に出た主人公たち一行。でも、彼らが活躍するのはまだまだ先。今は力や知識を蓄える雌伏の時。

「全然見つからないね~……」

 夕食を食べながら、ため息をついたのはリリーだった。

「簡単にいくとは思っていませんでしたけど……思っていた以上に大変ですね」

 箸を止めてミネアも同意する。


 雨の森にあるという魔法の祭壇を目指して、エントータに着いてから早2週間(エラクリットからエントータまでは約10日)。

 蒼い月のメンバーは行き詰まっていた。

 理由は簡単で、雨の森という条件と、そこに棲むエネミーである。

 雨の森のエネミー自体は確かに強いものの、蒼い月のフルメンバーで挑めば、何とかならないこともなかった。なので、雨の森の入り口付近で雨の森のエネミーとの戦闘に慣れながら、訓練を積んだのは最初の一週間だけだった。が、そこからが大変だった。

 雨の森はその名の通り、年がら年中雨が降っている。当然、地面は水浸し……なんてものではなく、その辺中に川が出来ていて、川に当たるたびに迂回しなければ進めない。おまけにうっすらと常に漂っている霧のせいで視界も悪い。そんな中をエネミーを警戒しながら進まなくてはならないので、探索がさっぱり進まないのである。

 場所さえ分かれば……とは思うものの、冒険者ギルドで公開された情報にも、詳しい位置は不明……などと書いてあった。


「ま、これだけの連中が毎日探しに行ってるんだ。俺たちじゃなくてもそのうち誰かが見つけるさ」

 箸をくるくる回しながら言ったクライストを、

「行儀が悪いぞ」

 と、ディアナがたしなめた。


 ちなみに、エントータには今、かなりの数のプレイヤーが集まっている。理由は蒼い月のメンバーと同じで、「今後の冒険に治癒魔法は欠かせない」と考えているからだ。

 当然、大陸会議でもこのことは予想はしていて、公認ギルドメンバー不在により管理不能に陥っていたエントータに、「町作り協議会」のメンバー数名が護衛を連れて入り、雨の森を目指す冒険者プレイヤー達の支援を行っていた。

 その支援の最たるものが宿代の大幅割引であり、蒼い月メンバーが利用しているような安宿なら、事実上タダで泊まることが出来た。

 また、魔法の祭壇の捜索も主導しており、闇雲に探すのではなく、「祭壇が見つからなかったエリア」の情報を共有することで、消去法で祭壇がある場所を特定しようとしていた。まだ、雨の森全体の10%も探索が終わっていないが、今も各地から冒険者を目指すプレイヤーが少しずつ流れ込んできており、遅くてもあと3ヶ月以内には発見できる見込みだとされていた。

 なお、探索情報はギルドの方で買い取って貰えるため、見つかるまでエントータで時間を潰そう――と考えるプレイヤーは少数派で、探索を出来るだけの力量があるプレイヤーは皆、どこそこのエリアには祭壇はなかった――という情報を連日のように持ち帰ってきては、ギルドに売り、毎朝ギルドが更新するその情報をチェックしては再び雨の森に入っていくという毎日を過ごしていた。

 蒼い月も言わずもがなである。


「グランスはあとどのくらいで祭壇が見つかると思う?」

「最大三ヶ月かかるというなら、期待値としてはあと二ヶ月って所だろうな」

 レックの質問に、頭の中で簡単な計算を行って答えたグランス。

「ただ、未探査領域にはもっと強いエネミーや厄介な地形が潜んでいるかも知れん。期待しない方がいいだろうな」

 釘を刺すのも忘れない。

「じゃ、どの辺にあると思う?」

 この質問にはここにいたメンバー全員が耳を傾けた。

 この質問には即答しづらかったらしく、グランスは口をもごもごさせ、何か言い淀んだ挙げ句、諦めて、

「普通なら可能性が高いのは一番奥だろうな」

 分かりきった事実を仲間に告げた。


 雨の森は2つの山脈に挟まれた三角形の形をした地域に広がる森である。南西のエントータから入る以外は、北と東を囲む山から入るか、北東の谷から降りてくるかだが、いずれのルートも険しい山とそこに棲む魔獣達によって妨げられていた。

 その雨の森の一番奥とは、北東の谷へ抜ける付近ということだ。

 だが……


「普通ならってどういう事じゃ?」

 グランスの言葉に引っかかりを覚えたディアナが首をかしげる。

「ああ、多分そこにはない」

「何で、そう言いきれるんだ?」

「そんな分かり易いところにあったら、雨の森のどこにあるか分からないなんてことにならないだろうが」

 もっともな説明に、「あー」と納得する一同に、グランスは補足を付け加える。

「まあ、祭壇とか言うくらいだ。多少特殊な地形とか大きな遺跡は期待してもいいんじゃないか?」

 それで一度会話が途切れ、

「あー、今日もよー働いたわー」

 しばらくすると、マージンが帰ってきた。

 いつも通り、一人だけ別行動である。正確には午前中の雨の森の探索にはつきあうが、午後からのエントータ警備の仕事には参加していない。


 エントータでも魔物の襲撃に備え、雨の森を探索している冒険者に給料を支払う代わりに、時間を切ってエントータの警備について貰っている。

 蒼い月もそれに参加しているのだが、マージンだけはその時間帯、鍛冶場に顔を出して鍛冶の訓練をしたり、冒険者達の武器や防具の修理(簡単なもの限定)を手伝ったりしていた。


「おかえり~。今日はど~だった?」

「ぼちぼちやな。ちょっとしたナイフや短剣くらいなら作れるけど、出来はまだまだ微妙やわ」

 そう言いながら、マージンは空いていた席に座り、仲間達が注文しておいてくれた料理に早速手を伸ばす。

「修理の方はどうなんだ?」

 聞いてきたクライストにちらりと目をやり、

「刃物を研ぎ直すんはもう問題ないわ。ちょっとくらい曲がったゆーんも直せるで。割れとったら無理やけどな」

「まだまだ素人に毛が生えた程度ってことか」

「そんくらいやなー」

「そう言えば、生産スキルってコマンドどんな感じ?」

「ふがふが……」

 リリーの質問に食べ物を口に入れたまま答えようとして、

「……やめい」

「ん。確かに声がでんかった」

 白い目で睨むディアナに、マージンは真面目に返すと、リリーに視線を戻し、

「作れるアイテムは図面を見たら端末にコマンドが登録されよるねん。後は図面に書かれてる材料と道具を揃えて、コマンド実行したらとりあえずそのアイテムが完成するっちゅーわけや」

 自慢げに解説するマージン。だが、

「まだ、小物しか作れんのじゃろうが」

 ディアナの厳しい指摘に、「うぐ……」と言葉に詰まった。

「じゃ、作れないアイテムは図面を見てもさっぱり?」

「少なくとも端末にコマンドとしては出てこーへんな。まぁ、見よう見まねで作ってみることは出来るやろうけど、間違いなく失敗作になるやろうな」

 マージンの返事には、質問したリリー以外の仲間達も興味津々で聞いている。生産なんてやったこと無いし、やろうと調べてみたこともないので、全く知らなかったのである。

「まあ、祭壇に行くまでに、まともな武器や防具を作れるようになっておいて貰えると助かるが、どのくらいかかりそうだ?」

「そやなー……今のペースならあと一週間くらいで、ロングソードやブロードソードなんかは何とかなるんちゃうか?盾も何とかなる思うけど、それ以外の防具はまだまだ無理っぽいわ」

 グランスの質問に、鍛冶場で周囲のプレイヤーから聞いた話を思い出しながら、マージンは答えた。

「防具の方が難しいんですか?」

「ああ、人間の身体にフィットする形にせなあかんからな。構造が複雑な分面倒なんや。その点、剣や斧なんかは構造単純やからな。大物やないかぎり、すぐ覚えられるらしいわ」

 既に食べ物の無くなった皿の底をフォークでつっつきながら、ミネアに答えるマージン。

「他の生産スキルはどーなってんだ?」

「剣の柄やら何やら武器防具を完成させるんに必要な細工はちょっとやっとるけどな。ポーション作成は時間がたりんわ」

「ポーション作成はまだ出来ないと言うことか」

「全くでけへんわけちゃうで?ただ、作れる種類と品質に問題があるだけや」

「それ、役に立たないのと同じだと思うけどな」

 クライストの言葉にぐうの音も出ないマージン。

「裁縫はどうなんですか?」

「さっぱりやな」

「じゃ、新しい服は……」

「買うしかあらへんな」

「そこは結局いつも通りのままなんですね……」

 残念そうにミネアは呟いた。


 ジ・アナザーでは、もともと服はいつか破れるものである。なので、『魔王降臨』の前から普通にプレイヤーによる衣料品店もあったし、『魔王降臨』から2ヶ月以上経った今では、残されたプレイヤー達が生活の糧を得るために再び店を開いているので、買うのには困らなかった。


「まあ、破れたところや解れたところを直すくらいなら、裁縫スキルいらんしなー」

「それくらいなら私達にもできるしのう」

「そや。そんで、わいにはデザイン力が些か足らん。今でも縫え言われたら縫うことくらいはできるけどな。まあ、服だけは、買った方がええと思うで」

「あー、それはあるかも」

 ダサい服は着たくないと、リリーが頷く。

「でも、それって鎧も微妙って事じゃありませんか?」

「んー……そやな」

 ミネアの指摘に渋々同意するマージン。

「まぁ、作るときにはデザイン描いてもろうてから作るようにするわ」

「それだったら、服もできるんじゃない?」

「かもしれへんなー。ま、裁縫は後回しにするけどな!」

 結局、マージンは服を作る気はないらしい。

「まあ、服談義はそれくらいにしてだ。明日からの予定だがな」

 放っておくと、そのまま服のデザインがどうのこうので、終わりそうにないと感じたグランスが、話を無理矢理変えた。

「そろそろ、昼までに町に帰ってくるような探索だと、雨の森の奥までいけないからな。来週ぐらいから丸一日使った探索に切り替えていこうかと思うんだが、どうだ?」

「そうだね。もう、森の縁に近いところはほとんど探索終わってるし」

 レックの言ったとおり、森の入り口付近は既に探索され尽くしつつあった。グランスの提案もそのためだった。

「要するに、もっと奥まで行こうという訳じゃな」

「ああ、その通りだ。俺たちが一番乗りする必要はないが、誰かが何とかしてくれるのを待つのは、止めておきたい」

「誰かが何とかしてくれるのを待つくらいなら、魔王討伐に一歩でも近づこうとかしねーからな」

 クライストの言葉に、仲間達は一斉に頷いた。

「じゃ、警備の方はどーすんだ?」

「基本、止めることにした方がいいと思うが、分からんな。森に行かない日くらいは、警備に回ってもいいが」

「一日おきとかは格好つかねえか」

「丸一日籠もった時、どのくらい疲れるか、だろうな。体力が回復しきらないまま、毎日森に行っても危ないだけだろう」

「ああ、それもそうか。じゃ、とりあえず、一度丸一日籠もってみっか?」

「そうだな。ただ、明日が一週間分の警備のローテーションを決める日だ。決めるならまとめて一週間分の予定を立てておきたいんだが」

「あれ、一週間単位なんだ?」

 初めて知ったのか、レックがちょっと驚いたようだ。そう言えば教えてなかったなと、グランスが仲間を見回すと、驚いたというほどではないものの、「ほほー」といった感じの顔をしている仲間は他にもいた。

「その手のことは任せっきりじゃったからのう……」

 『魔王降臨』以降、対外折衝の類は全部グランスの仕事になっていた。そのことを思い出し、意外と知らないことも多いものだとディアナは思い当たったらしい。

「まあ、大変だったらゆうてくれ。多少は手伝えるはずじゃからの」

「ああ、その時は頼む」

 まあ、サーカスからエラクリットの時の忙しさを考えれば、もう大丈夫だろうとグランスは思っていたのだが。

「で、明日からどうするんだ?」

「俺たちの体力が持つかどうか様子見ということで、一週間は一日おきにした方がいいだろうな。その間に警備の仕事を入れていこうと思う」

 クライストの確認に、グランスがそう答え、それがそのまま明日からの蒼い月の行動スケジュールとなった。

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