『蓮華』
エミリアの噂
最近エミリアはハーモニカを練習しているらしい。
「武器出来たんですか!?」
「はい。 武器開発室まで来て下さい」
「分かりました」
私は武器開発室に向かって廊下を歩き始めた。
「やっぱりスキル『以心伝心』は便利だな~」
「――この前の恨み!!」
「ひでぶっ!!」
――私は何者かに棒で叩かれた。 これで100回目である。
「ウーッシッシッシッシ」
――姿の見えぬ犯人は奇怪な笑いをあげながら去っていった。
「アズキめ~!」
「どうしたの?」
「あ、アンネローゼさん。 またアズキに叩かれまして」
「私が仕返しして『殺ろうか?』」
「結構です!!」
「そうか、残念だ」
アンネローゼはそう言うと自分の部屋に帰っていった。
(……あの人は本気で殺ろうとするから怖い)
「アズキを殺りたい時は何時でも呼べ」
「うわっ!?」
いきなり『以心伝心』で話しかけられた。
――やっぱり『以心伝心』が無くてもいいや……。
そうこうしているうちに武器開発室に着いた。
「アリエルさんいますか?」
「あ、杏さん。 こっちです」
アリエルさんは奥の作業室にいるみたいだ。
「武器楽しみ――」
「101匹わんちゃん!!」
「ひでぶっ!!」
――また叩かれた。
「うーっ痛い」
「大丈夫ですか杏さん?」
「な、何とか」
「私やアイン様も狙われているみたいです」
「やっぱり……」
「これ差し上げます」
「なんですかこれ?」
「封魔石です」
「貰っちゃっていいんですか?」
「はい」
封魔石をスキル『サーチ』で調べてみる。 ――中に何かいるようだ。
「アリエルさん、何が入っているんですか?」
「アラクネです」
「アラクネ?」
「アズキさんが嫌っているジャイアントステルススパイダーの名前です」
「何でステルスなんですか?」
「景色に合わせて姿を消すことができます」
「私を襲ってきたラプトルと同じ能力ですか?」
「はい。 それに加えて気配を完全に消すことも出来ます」
――いいこと思いついた。
「――杏さんこれがあなたの武器です」
渡された武器は白いレイピアみたいな形の武器だった――だが刀身が無い。
「これどうやって使うんですか?」
「まずはリンクして初期設定をして下さい」
「分かりました」
武器に意識をリンクさせる――すると頭に『以心伝心』で声が響く。
「初めまして杏様。 初期設定を開始します。 まずは名前を決めて下さい」
「それじゃあ『蓮華』!!」
「かしこまりました。 次に杏様のみが使用出来るようにエネルギーバイパスを構築いたします――……エネルギーが足りません」
「へっ!?」
「蓮華の必要可動エネルギーは最低で300ですが、杏様は魔力が100しかありません」
「足りないとどうなるの?」
「各武器に足りないエネルギーを分配してそれぞれを低出力で使用するか、一つにエネルギーを集中させて一つの武器を通常出力で使うかのニ択しか出来ません」
「何とかならないの?」
「魔力を上げるにはレベルを上げるか、幻想動物を封印するしかありません」
「ニャンを封魔石に入れてもだめ?」
「杏様の現在の魔力は50、アラクネも50、合わせて100です。 ――ニャンとは何の事ですか?」
「カーバンクルの子ども」
「カーバンクルは最低でも300魔力あります」
「それじゃあ」
「――ですが魔力が上の幻想動物を封印することは出来ません」
「ダメなのか……」
「ですが、封魔石に入れずに、カーバンクルから魔力を分け与えて貰えれば魔力を上げる事が出来ます」
「そうなの?」
「ニャンの同意が得られればの話です」
「大丈夫。 ニャンは友達だから」
「ですが、基本的に幻想動物は魔力を糧として生きる動物です。 魔力を分けて貰える可能性は限りなく低いと考えられます」
「……ニャンと話し合わないと駄目なのか…… ――蓮華、ちょっと待っててくれる?」
「かしこまりました杏様」
『以心伝心』を終了する。
「杏さん、初期設定は終わりましたか?」
「それが……」 私はアリエルさんに事情を説明した。
「――それでしたら、これを試してみましょう」
「何ですかそれ?」
「魔力増幅装置です」
「そんなのがあったんですか?」
「はい。 ――ですが試作品で出力が安定しないので誰も扱えませんでした」
「それじゃあ私も駄目なんじゃ……」
「やってみるだけやってみましょう」
アリエルさんは魔力増幅装置を蓮華に取り付けてくれた。
「もう一度リンクしてみて下さい」
「分かりました」
意識を蓮華に集中させもう一度リンクさせる。
「杏様!!」
「どうしたの!?」
「杏様本人の魔力が150になっています」
「えっ!?」
「アラクネを合わせると200になります」
「魔力増幅装置がちゃんと機能したんだ」
「杏様、エネルギーをどの様に分けられますか?」
「それって後からも変えられるの?」
「戦闘中でなければ」
「それじゃあ剣と盾に100ずつお願い」
「かしこまりました」
――こうして蓮華は二つの武器を使い分ける剣と盾になった。
初期設定を終え、私はアリエルさんからある物を借りて部屋を出た。
「対ステルスレーダー起動!!」
アリエルさんから借りた対ステルスレーダーを起動させる。
「行ってアラクネ」
アラクネを召喚し天井にステルスモードで待機させる。
レーダーにはアラクネの位置がちゃんと表示された。
――高速で何かが接近してくる。
「102匹わ――」
「アラクネ!!」
ボトッという音と共に3メートルはあるクモが天井から落ちてきた。
「ギャーーアラクネ!!」
アズキは一目散に逃げていった。
「ありがとうアラクネ」
――私はアラクネとハイタッチを交わした。
――ちなみにこれ以降エデンの園でアズキにステルスモードで襲われた者はいない。
よかった、よかった。
アインの幻想動物講座
「こんにちはアインです」
「初めまして杏です」
「二人でこのコーナーを進行していく予定です。 よろしくお願いします」
「アイン君、今日は何を教えてくれるの?」
「今日はアムフィシーンです」
「き……聞いたことすらないです」
「アムフィシーンは雄鶏の身体に蛇の尾を持つ幻想動物コカトリスの上位種です」
「コカトリスと何処が違うんですか?」
「アムフィシーンは尾がドラゴンの首になっている為、後ろに竜の顔があります」
「つ、強そう……」
「尾のドラゴンの目にも相手を石にする効果があり、牙にも猛毒を持っています」
「考えた人は凄いな~」
「アムフィシーンは紋章を作る時にコカトリスを超える物として作られたようです」
「凄いな~」
「それではこれで幻想動物講座を終わります」
「あ、ありがとうございました~」