外伝 水族館デート計画 前編
ここはオノゴロ島にある〈ワダツミ水族館〉。
多種多様な水生生物を飼育している世界最大級の水族館である。
――今回はワダツミ水族館でのダブルデートをこっそり見ていこうと思う。
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「杏遅いぞ」
「ごめんアルフ君」
「これで揃ったな」
「じゃあ行きましょうか」
杏達は今、ワダツミ水族館へと続く巨大エスカレーター前に集合している。
四人は久しぶりに訪れる水族館を楽しみにしている為あることに気付いていなかった。
――追跡者の存在に……
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「……手を繋いでるよね……」
「……はいです……」
「……お二人の仲がそこまで進んでいたなんて……」
「……恋愛も一度研究してみたかったのよね……」
「……私との違いをしっかりと見させてもらうぞ杏……」
アズキ、ハニエル、アリエル、マヤ、アンジェリカの連合軍は『ステルス』等の隠密用スキルを使って柱の陰からこっそりと四人を見ていた。
連合軍の目的は――
「アンズーにこの前のプリンの恨みを思い知らせてやる!!」
「杏お姉さまは私の物です。 男にはやらねぇので~す!!」
「アイン様とアンネローゼ様の恋、最後までしっかりと見届けさせていただきます」
「杏ちゃんには悪いけど研究材料になってもらうわ!」
「私とは違うと発言したのだから違いをしっかりと見させてもらうぞ杏……」
――つまり尾行である。
……誰も本心を語っていないが、本心では
「デートをぶち壊したい」
「あいつらだけズルイ」
「私達もデートしたい」
という欲望が渦巻いていた。
「私はアイン様とアンネローゼ様の所へ参ります。 皆様はどうなさいますか?」
「……ハニエルはあたしと一緒に杏とアルフを潰そう……」
「……はいです……」
「私は杏達を研究させてもらおうかしら」
「アインとアンネローゼはアリエルに任せる」
「了解いたしました」
「残りは杏達を追うぞ」
「「「了解」」」
――アライアンス精鋭部隊によるデートぶち壊し作戦が始まろうとしていた。
……ターゲットは〈杏とアルフ〉……
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「な、何あの魚!?」
「あれは雷神鰻です」
「ライジンウナギ?」
「簡単に言うとデンキウナギの強化版です」
「ということは電気を出すの?」
「はい。 10万ボルトは軽く叩き出しますよ」
「ピカチ〇ウみたい!」
「そういえば、デンキウナギって〈電気〉鰻という名前なのに感電するんですよね……」
「デンキウナギって感電するの!?」
「デンキウナギは厚い脂肪のおかげで電気が通りにくいんですけど、それでも少しは感電するらしいです」
「へぇ~、へぇ~」――動物大好き杏ちゃんが物知りアイン君に色々と質問する為、残されたアルフとアンネローゼは仕方なくペアで水族館をさまよっていた。
「アンネローゼさん」
「何だ?」
「さっきから誰かに見られている気がするんですが、どう思いますか?」
「……確かに尾行されているようだな」
「敵でしょうか?」
「多分アライアンスの一部メンバーによる暴走だ」
「どうしますか?」
「危害を加えてこない限り無視しろ」
「分かりまし――」
「アルフ君、置いて行かないでよ」
「お前が遅いからだろ」
やっと2人が合流した。
「アンネローゼ、ごめん遅くなって」
「アインの説明はいつも長い。 どうにかしろ」
「そこがいいって前は言っていたじゃないか。 ――ところでスターゲイザー達はどうする?」
「無視しろ」
「分かりましたアンネローゼ殿」
「……次に殿をつけたらアインと言えど許さん……」
「……ごめん」
次に四人は巨大生物コーナーへ向かった。――ちなみに杏だけが尾行されている事に気付いていない。
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「アンジェリカ~あたしアイスが食べたい」
「私もなのです」
「お前達は何の為にここに来たか忘れたのか!?」
「「はい!!」」
――アズキとハニエルは海へと飛んで行きました。
「……帰るぞ」
「えっ? わ、分かりました」
「せっかく研究出来ると思ったのにざ~んねん」
アンジェリカは目的達成は不可能だと感じて撤退を命令した。
――ちなみにアンジェリカは甘い物が食べたくなって帰ったと推測される(物を買うときはステルス系スキルを切らないと店員に気付いてもらえない。 もちろん切るとアイン達にはバレる)。
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「……帰ったみたいだね」
とアイン。
「そうみたいだな」
とアンネ。
「やっと自由の身か~」
とアルフ。
「……みんな何の話?」
と杏。
「世の中には知らない方がいい事もあるんですよ」
「そうだな」
「同感です」
「?」
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「――見えてきましたよ」
「うわぁ~」
杏達の目の前には巨大な水槽が広がっていた。 そしてその中ではシーサーペントやリヴァイアサン、海竜などが優雅に泳いでいた。
――ここはワダツミ水族館の大人気スポット〈水竜の館〉で、休日には多くの人で混雑するエリアである。
「アイン君あれは何?」
「あれはケルピーです」
「あれは?」
「あれはオニイトマキエイです」
「あれは?」
「あれはラブカです」
「あれは?」
「カタクチイワシです」
「えっ!? イワシもいるの?」
「はい。 一応は貴女の時代から約700年後の時代なのでイワシやタイ、イルカやカメ等の動物もちゃんといますよ」
「そういえば何で幻想動物が生まれたの?」
「死神事件の後にナノマシンは世界中にばらまかれました。 そしてナノマシンによって魔法、魔法金属、幻想動物が生まれました」
「へぇ~」
「それによって――」
「……アイン、そろそろ昼食の時間だ」
「……アイン先輩、早く昼食にしましょう」
「――そ、そういえばお昼の時間過ぎてたね。 あはは……」
「えぇ~私はもっと魚見た~い」
――杏のこの一言がアンネをプッチンさせた。
「……杏、私は昼食を食べたいのだ……」
「まだいいじゃん」
「……表に出ろ」
「……ほへっ? 」
――アンネと杏の戦いが始まる……?
{後編へ続く……?}
次回に続きます。