ネメシス
「こ、ここは?」
アインはいつの間にか花畑にいた。
「お目覚めだねっ!」
見たことが無い女性がいた。
「貴女はどなたですか?」
「僕はね{ネメシス}。 君の持っている変形武器だよっ! あと敬語はやめてねっ!」
「分かった。 それよりもここは?」
「ここは精神の世界だよっ!」
「精神世界?」
「さすがの君も知らないか~。 ここは僕と君の世界だよ」
「……まさか、ここはエネルギーバイパスを作った時に出来た――」
「ご名答っ! ここは持ち主と武器との間に作られた対話の間だよっ!」
「やっぱり。 エネルギーバイパス形成時に余計なバイパスが形成されたと思ったらそれだったのか」
「そだよ~。 で、僕はお母さんから君宛のメッセージを貰ったんだ」
「お母さん……アリエルさんから?」
「ポンピーンっ! 物分かりのいい男の子をお姉さんは好きだぞっ!」
「……メッセージとは?」
「お母さんは君を護りたい~っていうメッセージだよ。 ……何その疑ってる目は本当よ本当」
「何故今更?」
「君が死にかけているからだよっ!」
「死にかけている?」
「アズキっちに襲われたアンネっぺを救ったでしょ?」
「……そういえば身代わりになって……」
「だ か ら僕は君に会えたんだぞっ!」
「どういう事?」
「……本当の事を話そう。 君は死んだんだよ」
「死んだ?」
「そう。 アズキに攻撃されたアンネローゼを咄嗟に庇ったでしょ? その時に〔ゼウス〕が街に偶然現れたんだ」
「それでスキルが呪いで発動しなくなり……」
「あったり~っ! つまりタイミングが悪くて君は死んだんだ」
「でも、何故この空間に?」
「お母さんが組み入れた救命装置のおかげさ」
「救命装置?」
「お母さんは自分の命を救ってくれて、更に仲間……いや友になってくれたイレギュラーにとっても感謝してるんだ。 だ か ら自分の作った武器に一度[神]に殺されても大丈夫なように呪いをかけたんだ」
「呪い?」
「武器の最大性能が引き出せない代わりに[神]が原因の死を一度回避する呪いをね」
「もし、[神]ではなく[天使]や[悪魔]に殺された場合にはどうなってたの?」
「あんな雑魚どもに君が負ける訳は無いとお母さんは判断した。
もし現れたのが[ゼウス]じゃなくて[ミカエル]や[ルシファー]だったら死んでたよ。 ラッキーだったね」
「僕は何をすればいいの?」
「簡単な事さっ! リミッターが解除された僕を使ってお母さんの願いを叶えればいいんだよ」
「その願いとは?」
「愛する仲間を守る!!」
「ありがとう{ネメシス}」
「僕はいつでも君の味方だから存分に使いこなして欲しいな」
「分かった」
「さよならアイン」
「…………」
「別れの挨拶ぐらいしてよ!」
「今、別れの挨拶をしたら貴女に会えなくなる気がするんだ。 だから代わりに」
「また会おう」
「……うん、またいつか――――」
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「アズキ、お前はアインを連れてにげろ!!」
「で、でも」
「私が奴を引き付ける」
「あ、あたしがやる」
「呪いに対する耐性が低いお前には無理だ」
「で、でも」
「愛する人達を守るのが私の役目だ」
「[ゼウス]に殺されるよ!」
「それでも私はやらなくてはならないんだ」
「――その役目、僕がやる」
「あ……ああ……」
「「アイン!!」」
「よかった生きてたんだ」
「アイン!!」
アンネローゼがアインに抱きつく。
「……アンネローゼ頼みがある」
「な、何――ん!?」
アインがアンネローゼにキスをした。
「僕は必ず帰って来るからアンネローゼは僕を信じて待っていてほしい」
「うん」
「それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい。 気をつけてね」
アインは二人に市民の避難誘導をまかせると、[ゼウス]と対峙した。
――[神]と[人]との命運を賭けた戦いが始まろうとしていた――