処女
一番暑い夜だった。
黒澤修二が仲間二人と肩を組んで通り過ぎようとした時、すれ違った女、それが花だった。
産寧坂は人っ子一人いない夜、石畳を年のころ12歳の女の子が現れる。
「ふっと現れて、ふっと消えるとか・・・」
仲間が言っていたが、今日すれ違ったのは、八坂通である。
(あれ?)
黒澤が振り返ると、女の子は消えることなくいたが、その坂の下の方に男の姿が見えた。
「いや~、年上じゃろう」
「着物じゃなかった?」
仲間が後々そう言っていたが、それは河原町の芸子屋の花であると、すぐに調べがついた。
(京都は祇園と決まっていたが・・・)
黒澤はすぐにでも河原町に行きたかったが、父親が反対した。
あれから三年、少しは箔も付いたろうと、河原町に通うようになった。
「草履を履けばいいのに」
黒澤が言うと、「親指が痛いじゃけん」と花は言った。
「これ、穴が合ってない」
黒澤は、花のサンダルを脱がした。
「靴下は自分で脱ぐじゃけぇ・・・」
花が手を伸ばそうとすると、黒澤がそれを制した。
「男の醍醐味じゃけぇ」
すぐ目の前を、芸妓が三人で通って行く。
花がそれを目で追っていると、「こっちも」と、黒澤が花の足に手をかけた。
ようやく夕暮れ時、ただこの辺の店の開店には早い。
パチンとサンダルのボタンをとめた。
靴下は、黒澤の手の中にある。
黒澤は立ち上がりざまに、花にキスをした。
軽いキスのつもりが、全身がけいれんする。
夢中になって花にキスをしていると、今度は花がけいれんした。
「もういいじゃけぇ・・・」
花がしゃがみこむのを見て黒澤は確信した。
「処女じゃけぇ」
つまり、花は芸子ではないのだ。
夕闇が闇に変わる。
「あら?」と、店の暖簾をかけに来た芸妓が、黒澤を見た。
「兄さん、その辺にしとき」
ぽつぽつと明かりがつく。
それと同時に、祇園の街は店を閉め、男女のゆううつにも似たエクスタシーを待つもので溢れるのである。
花は、まだしゃがんでいる。
黒澤の体は、本気でうずいたが、それとは裏腹に、「ハイヤーで帰ろう」と花に言っていた。




