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シルクの魔紡記  作者: ハナムグリ
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第1話 リオモンの村

魔紡者試験に合格したシルクが手続きを終えて派遣されたのは、オルティア地方の西部にある小さな村、リオモンであった。魔紡者協会が所持している転送装置ですぐ近くの森に飛ばされたシルクは、手元に周囲の地図を浮かび上がらせ、それを頼りにリオモンへと向かって歩いていく。肩にかからないくらいに切られた黒髪と、足元まで全身を覆っているマントがそよ風に靡いていた。

少し歩くと、開けたところにリオモンの村が見つかった。森を切り拓いて作られたこの村は、度々モンスターの被害にあっていた。モンスターは積極的に人里を襲う生き物であり、無害な動物と比べてずっと獰猛な性格で、村の自警団だけでは対処が困難だった。度重なる救援要請を受けた魔紡者協会が、丁度試験を終えたばかりのシルクを派遣したというわけだ。

「あのっ、魔紡者のシルクです。魔紡者協会から派遣されてきました」

「おお、魔紡者様だ」

「ようやく来てくださったか」

あちこちからシルクを歓迎する声が上がった。村長や自警団達が惨状を訴える。

「襲ってくるのはでっかいグラブズだ。俺たちの背よりもずっと大きいんだ」

「あれを見てくれ、あの家にグラブズが突っ込んで壊しちまったんだよ」

シルクが彼等と一緒に近づいて見てみると石で組まれた家の壁が崩れ、地面には大きな蹄の跡が見受けられた。グラブズとは、大きな馬のモンスターである。通常の馬と比べると一回りから二回り大きく、足が6本もある。壊された家は村の端にあり、そこから村全体を見渡すことができた。踏み荒らされた畑やカーテンの閉め切られた家々に、大きな雲が暗い影を落としている。

「住んでる人には被害が無かったが、次はもっと暴れるだろうな」

「そうだそうだ。誰かやられちまうよ」

自警団達はグラブズが暴れた時のことを克明に覚えている。言葉にも熱が籠り声が大きくなった。それを制すように村長が口を開いた。

「でも、魔紡者様が来てくれたからにはもう安心じゃ。すぐにでも、奴を倒してくれるじゃろう」

シルクは左の腰辺りにしまってある盾に手を触れた。

「あ、あの、でも、私、魔紡者になってからモンスターと戦うのが初めてで、その、上手くできるかどうか……」

場が静まり返る。数秒の沈黙の後、村人の一人が口を開いた。

「何だよ、新人かよ」

「やめんか」

村長が諫めようとするのも虚しく、期待して集まった村人達は失望の色を隠そうとせず、シルクに怒りの言葉をぶつけ始めた。

「それじゃ困るんだよ」

「頼むよ、あんたしか頼れないんだ」

「何で協会はこんな使えないやつをよこしたんだ」

「これなら強い戦士か魔法使いを送ってくれる方がマシじゃないか」

「あ、あの……ごめんなさい……」

シルクは謝ることしかできなかった。村人達から非難の声を浴び続けている間ずっと、マントの下にしまってある盾に手を当てて体を竦めている。

村長が皆をなだめたことで何とかその場は収まったが、村人達にはシルクへの不信感だけが残ってしまった。

「魔紡者様、酷いことを言ってすまなんだ。でも、どうか分かってくだされ。皆助けを求めているのです。魔紡者様の泊まる家をご用意しておりますので気兼ねなくお使いください。どうか、どうか村を救ってくださいませ……」

村長は、シルクの泊まる空き家を案内するとその場を去った。村長に礼をして、これからどうしようかと考えていると、ふと視線を感じて振り返る。そこには、シルクと同じくらいの年齢で、背中に槍を装備した女性が立っていた。自警団と同じ軽装の鎧を着て、金色の長い髪が夕日に煌めいている。

「ねぇ、アンタが魔紡者?」

「あ、はい……シルクと言います……」

「シルクね、分かった。アタシはネイ。よろしくね」

「よろしく、お願いします……」

ネイの気さくな態度に少しだけ緊張が解ける。ネイもまた、シルクが自分を敵視する様子がないのを確認すると、近づいて話し始めた。

「アタシも自警団に入ってるんだ。シルクがグラブズと戦うのを手伝いたいんだけど、いい?」

「も、もちろんです! あの、でも……私が足を引っ張ったらごめんなさい……」

シルクは一度は喜んだものの、少し俯いて、盾に手を当てた。

「なんでそんな弱気なんだよ。アタシは、シルクならできると思うよ」

ネイはシルクの手を取って、一緒に家に入っていった。

「ここに泊まるんだろ? まずは戦う準備をしないとな」

「は、はいっ。お願いしますっ」

ふたりはまずお互いの装備を確認することにした。

「アタシは槍で戦うんだけど、アイツの突進は槍じゃ受け止められないんだよね。シルクはどんな武器を持ってるの?」

「わ、私盾持ってます! それから剣も」

「剣見せて――。おー、短剣じゃん。前線用の装備なんだね。アタシと相性いいかも」

「う、うん。よかったです」

「魔法は? 何が得意?」

「か、風魔法です」

「風? 珍しいな。アタシは雷魔法が使えるのよ。槍に纏ってぶっ刺すんだ!」

ネイは槍を持ってモンスターの喉元に刺すようにして見せた。ニコっと笑って得意げにシルクの方を見る。

「す、すごい……。ネイさんは戦闘経験が豊富なんですね」

「ネイでいいよ。まあ、大抵のモンスターはこれで倒せるからね、魔獣だって倒したことあるんだぞ。でも、あのグラブズは倒せなかったんだけどな……」

シルクは自分の盾に手をかざし、ぎこちない笑みを浮かべながら言葉を返す。

「ネ、ネイが倒せなかったモンスターを、私が倒せるかな……」

「倒すために作戦練ってんのよ。ヤツの行動パターンもある程度分かってるから、それで対策取ろう」

「うん……そうしよう」

ネイがどうして自分をそんなに買ってくれているのかシルクには分からなかったが、自分がどんなに弱気でも前向きに声をかけて、共に戦おうとしてくれるのが嬉しかった。盾から手を離し、少しだけ明るく話してみようと思った。

「ネイは襲ってくるグラブズの行動パターンが分かるの?」

「ああ、ヤツは夜に現れる。今までも夜に姿を現して村を荒らしたんだ。今から襲うぞって言いたげに雄叫びを上げて、それから真っ直ぐ突っ込んでくることが多いな」

「そうなんだ……。そこまで分かってればどうにかできるかも――」

「ほんと? よし、そうと決まればメシ食って準備するよ」

「うんっ」

ふたりは宿で食事を取ると、決まってグラブズが村に入ってくる場所で焚火を炊いて待つことにした。ネイが用意した薪の束に、シルクが炎魔法で火をつける。

「炎魔法も使えるんだな、さすが魔紡者。アタシは雷だけで精一杯だよ」

「あ、ありがとうございます……」

焚火を挟むようにして、ふたりは武器を手に持ったまま切り株に腰掛ける。

「シルクって、なんでそんなに自信なさげなの?」

「えっ……、それは……どうしてなんですかね……」

シルクはその質問にどう答えていいのか分からなかった。焚火の中で爆ぜる木の音が自分を急かすように感じる。

「だってさ、魔紡者試験に合格したんでしょ。それってすごいことじゃん。どんな試験なの? モンスターとか魔獣とかをたくさん倒したら合格とか?」

「それが……わからないんです。どうして私が試験に合格できたのか」

「そんなことある? でも結局は合格できたんだからすごいじゃん。それに超過酷な試験だって聞いたよ。死ぬこともあるって、あれ本当なの?」

「うん……それは、本当だよ」

「マジかよ――。よくそんな試験受けようと思ったね。確かにさ、魔紡者になれば生きてるだけでお給料もらえるし、どこに行っても歓迎されるしいいことばっかりだけど、リスクが大きすぎて受ける気にならないな、アタシは。なのにシルクはどうして魔紡者試験を受けたの?」

「わ、私は……その……それは……」

シルクは目を閉じ、手に持った盾を握る手に力を込めた。まぶたの裏に、目の前の焚火よりももっと大きな火が故郷を焼く様子を思い出しながら、シルクは言葉を紡いでいく。

「私の生まれた村にね、モンスターが出たんだ、しかも魔法種の」

「魔法が使えるモンスターってことか?」

「そう。それでね、私の村はその1匹の魔獣に壊されちゃったの。あちこちから火の手が上がって、家も全部壊されて――。この村みたいに自警団もいたんだけど、多分みんな……」

「そうだったのか……。思い出させて悪かったよ」

ネイは自分の浅はかさを詫びた。だが同時に、シルクに対して別の気持ちを抱くようにもなる。

「それで、村が跡形もなくなって、行く宛てもなくて、近くの大人たちに連れられて気づいたら魔紡者協会にいたんだ。試験を受けろって」

「合格できれば給料で自分で生きていけるし、合格できないようなやつは……」

「うん、だから、同じような境遇の人達はそれなりにいたと思う。だから私も、気づいたら試験に参加してたっていうか、その……」

「うん、うん、分かった。なんでシルクが魔紡者試験を受けることになったのかよく分かったよ。でもさ――」

ネイが槍を握る手が震える。ネイは自分が生まれ育った故郷を、自分が過ごしてきた日々に思いを馳せた。

「でも、シルクは魔紡者試験に合格したんだろ? 魔法を使いこなして誰よりも強く戦えるはずだろ? どうして今もそんなに後ろ向きなの。魔法を駆使して戦えるって貴重な戦力じゃん。実際、この村で魔法を使って戦えるのはアタシだけだし。でもシルクはきっとアタシなんかよりずっと魔法が上手ですごいはず。だから弱気にならないで戦おうよ。」

「う、うん……ごめんなさい……。でも、私にできるかどうか……」

シルクは盾を両腕で抱き、不安そうに呟いた。

「敵を見てもねーのに言ってんじゃねーよ。大丈夫。シルクにならできる」

シルクはネイの目を見る。ネイもじっとシルクの目を見つめていた。

「どうして……ネイはどうしてそんなに私のことを信じてくれるの?」

「さあ、なんでだろうな。わかんねーけど、アタシはシルクってすごい魔紡者なんじゃないかなって思うよ。きっとこの村を救ってくれるって信じてる」

「ネイ……」

シルクは自分の盾に目を落とし、試験の日々を思い出す。実際に人を襲うようなモンスターたちは、試験で相手にするモンスターよりもずっと強いと聞かされてきた。

「魔紡者は"魔法を紡ぐ"から魔紡者なんだろ? それがどういう意味なのかはよくわかんないけど、シルクならきっと上手くできるさ」

「あっ、えと……それは――」

"ギャヒィィィィィィィィィィィィィン!!"

闇夜を劈く嘶きにふたりは即座に武器を構えて立ち上がった。六つ脚の青白い巨体が闇の中から姿を現し、ふたりを睨みつける目が赤く光る。

「ヤツだ、突撃してくるよ」

ネイの忠告通り、グラブズは右の前足を1歩、2歩と足踏みすると勢いよく走り出した。

「来た! シルク、攻撃を止められる?」

「やってみるね」

シルクは短剣を握った手を胸元に置き、剣先を相手に突きつけた

「"ファルファイトルナス"」

シルクが魔法を唱えると、強い風がグラブズに向かって集中的に吹き付けた。強烈な向かい風を受けて、グラブズの突進は勢いを失う。

「すげぇ、ヤツの突進が止まった。これが風の魔法か……」

シルクは風にマントをはためかせて飛び、瞬く間にグラブズとの距離を詰めると、頭や足を振り回して攻撃してくるのを盾で受け流して足を1本、2本と切断した。グラブズは前足を失って跪き、後ろ足をバタつかせている。

「ネイ、今だよ、トドメを刺して。 "ファイルソルデプス"」

「おう!」

シルクの魔法によって、ネイの後ろから追い風が吹いた。ネイはその意味を汲み取り、風を背に受けて走り出す。闇夜に髪を靡かせる彼女の姿は稲妻のようだった。

「速い、これなら一瞬で――」

シルクはネイの接近と同時に、抵抗するグラブズの頭を盾で押し上げて急所を露出させる、とそのままネイの気配に合わせて道を開けた。

「"レントルナファレード"っ! くらえっ」

ネイは、先端に雷の魔法を纏わせた槍でグラブズの喉元を貫いた。その一撃は猛獣の息の根を止めるのに十分だった。力尽きた巨体がゆっくりと地面に倒れると、ふたりは駆け寄って手を叩く。

「やった、やったよシルク」

「うんっ、うんっ、すごい。一撃で倒せるなんて」

「いや、シルクが動きを止めて、足まで切ってくれたからさ。攻撃が通るなら、このくらい朝飯前だよ。それに急所が丸見えだったしな」

ネイは話しながらその一瞬の出来事を振り返った。グラブズが現れてからのシルクの動きと判断には一切の無駄がなく、初めて戦う自分とのタイミングも合わせてくれた。それに是が非でも狙いたかった首の急所まで晒して――。

「やっぱりシルクはすごいよ。ありがとう、村を救ってくれて」

「ううん、モンスターを倒したのはネイだから。ネイの攻撃かっこよかったなあ」

するとどこからともなく暖かい声が聞こえてきた。

"グラブズ1体の討伐を確認しました。討伐報酬及び懸賞金をお受け取りください"

「魔紡者の収入って、固定報酬だけじゃないんだな」

「うん、それにこのグラブズには懸賞金もかかってたみたい。もしかして、他のところでも暴れてたのかな……」

「でも、アタシたちのおかげでもう誰も傷つかないってわけだ」

灯りが消えて寝静まった村に戻って、ふたりはモンスター討伐を村長に知らせた。村長は大いに喜びつつも、村民には朝になってから伝えるとしてふたりをすぐに帰した。

「シルク……?」

シルクの頬が、夜でも分かるほど赤い。足元も覚束無い様子だ。ネイはシルクの体を支えながら連れて帰り一緒に泊まることにした。

その晩、シルクは夢を見た。目の前に、自分の産まれた村を巨大な狼のモンスターが襲い、家々が焼け落ちる光景が広がる。シルクは折に触れてこの夢を見てしまう。いつもその惨劇を前に逃げるしかなく、ただの無機物に成り果てた村を呆然と眺める夢を。彼女は無意識に、傍らに置いてある盾に手をかざしていた。

しかし今夜は違った。夢の中のシルクの手には短剣が握られている。背中を押す風が吹いていた。気づけば彼女は走り出していて、狼のスローモーションな動きをくぐり抜けて喉元を切り裂く――。

しばらくすると狼の姿はどこにもなくなっていて、火の音も悲鳴ももう聞こえなかった。振り返るとそこはリオモンの村になっていた。村人たちの表情は見えなかったけれど、たったひとり、ネイが笑顔で近づいてきてくれる。シルクは盾から手を離した。

しばらくすると、ネイがシルクの肩を揺すった。ネイは目線を合わせるように屈んで心配そうな顔をしている。彼女が自分の名前を呼ぶ声がする。それが夢であると気づいたシルクはゆっくりと目を開けた。夢の中と同じ表情でネイはシルクを揺すっていた。

「よかった、うなされてたし盾触ってたから心配で……」

「うん……おはよう、ネイ。私、怖かった……」

窓から朝日が差し込んでいた。鳥のさえずりが聞こえる。シルクが落ち着くまでネイは隣で背中を摩ってあげた。

「嫌な夢を見たんだな、もう大丈夫だよ」

「よく見るんだ……。でもネイの顔を見たら安心した。ありがとう」

シルクはいつもの悪夢がいつもとは違っていたことが気になっていた。そして、リオモンの村人の表情が見えなかったことも。

村長に呼び出されたふたりが準備を整えて宿の外に出ると、村人たちから歓声が上がった。

「魔紡者様だ!」

「村を救ってくださった英雄だ!」

「ありがとう、魔紡者シルク様!」

そのまま、モンスター討伐の宴が執り行われた。倒したグラブズは村の料理自慢によって捌かれ、豪華な食事へと姿を変えた。はじめにシルクを非難した村人達は皆その非礼を詫びた。

そこに、何人かの小さな子供たちがやってきて、後ろからその親らしき女性が小走りで追ってくる。

「こらこら、みんなダメよ、魔紡者様はお忙しいんだから。まったくもう。ごめんなさいね騒がしくて」

子供たちは大人の静止も聞かずにシルクの周りを囲んだ。

「ねぇねぇ、魔法使えるの? 私にも見せて」

「僕もお姉ちゃんみたいな魔法使いになる!」

「ちげーよぉ、このお姉ちゃんは"まぼーしゃ"だよ! 俺だってまぼーしゃになってこの村を守るんだい」

シルクはその子たちを、かつて希望に満ちた将来を思い描いていた自分たちの姿に重ね合わせていた。少し顔を上げてみれば、村は訪れた時とは打って変わって笑顔に満ち溢れ、木漏れ日が差し込んでいる。

「もう、お願いだからお家の手伝いだけはやっておくれよ。自警団でもなんでも好きにやればいいから」

「まかせとけ!」

「俺たちがいればどんなモンスターが来たって怖くないぞ!」

母親が呆れた様子で呟いても、子供たちはむしろ誇らしげだ。その様子を近くで見ていた村長は笑いながら呟いた。

「はっはっは、この村の未来は明るいのう」

その言葉を聞いたシルクには、自分の子供時代から、魔紡者試験に合格するまでの日々が思い出された。記憶の片隅に押し込んでいた記憶に触れ、気づくと涙が溢れていた。声を出さずに、目をつぶって、噛み締めるように泣いた。

「お、おい、シルク、どうしたんだよ? 大丈夫か?」

「うん、うん……。私、この村の未来を紡げたんだなって……」

「未来を?」

「ネイが昨日、魔紡者は"魔法を紡ぐ"って言ってたでしょ。それは間違ってないと思う。でもね、魔紡者は"未来を紡ぐ"とも言うって教えてもらったの……。私は自分の村が壊されて無くなっていくのを見てることしかできなかったけど……、この村の未来を紡いでいくことができたのかなって……」

「シルク……」

ネイはシルクをそっと抱きしめた。そして宴が終わるまでずっとそばを離れなかった。

村人に惜しまれつつも、シルクはその夜を最後に村を離れることにした。宿には今夜もネイが来ている。

「シルクはこれからどうするんだ?」

「とりあえずギルドに行ってみようかなって……。そこなら各地で困ってる人の依頼が集まってるから」

「なんか、自信に満ち溢れた顔してないか?」

ネイは嬉しそうに問いかけた。シルクも照れくさそうに、でも以前よりずっと目を輝かせて答えた。

「そうかなあ……? でも、ネイが言った通りなのかもしれないって思ったの。私にもモンスターが倒せるのかもって。試験中はずっと、外のモンスター達はもっと強いんだぞって言われてて、でも実際に戦ってみたら思ってたよりも難しくなかった。もちろん、ネイが一緒に戦ってくれたからだけど、自分にできることもちゃんとあって――。だから、それに気づいた時、自分に怒りが湧いてきたの」

「怒り?」

「うん。私がもっと強ければ自分の故郷を救えたのかもしれないって思って。この村のことだって、みんなを不安にせずに戦えたのかもしれないって。だから、私の力で助けられる人がいるなら絶対に助けたいって、そう思ったの」

「じゃあさ、アタシも一緒に行くよ」

「えっ? ほんと? 一緒に来てくれるの? あっ、でも、それだと村が……」

シルクの顔は喜びを隠しきれていない。しかし、村一番の戦力であろうネイが村を離れることに懸念があった。

「村のことは残った連中がどうにかしてくれるよ。それに、元々旅に出てみたかったんだ。村長にはもう話してあるから明日シルクと一緒に出発できるよ」

「ほんと? ほんと? ネイと一緒に行けるの?」

「ああ、これからもよろしくな、シルク」

「うんっ、よろしく、ネイ」

翌朝、ふたりは支度を終えると早速出発することにした。別れを惜しみつつ、駆けつけてくれた村人たちの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。ふたりきりになると、地図を見つつ行き先を決める。

「一番近くのギルドってオルミンだよね?」

「地図を見る限りそうだと思う。違ったらごめん……」

「いいのいいの、とりあえず行ってみよ」

「あっ、そうだ……。ネイのこと、パーティに登録しておくね」

シルクは手元にウインドウを表示して、パーティ登録の操作をする。メンバーリストの1行目にネイが追加された。

「これでネイも通行証無しで色んな街に出入りできるはずだよ」

「サンキュー。あっ、そうだ、シルクの魔法で空を飛んでいこうよ」

「そ、そんなの無理だよぉ」

「えー、じゃあ、街まで競走ね。よぉし、行くぞー」

「あっ、待ってよぉ、ネイ~」

シルクの長い旅路は始まったばかりである。

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