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【第3章開始!】公爵夫人は命がけ!  作者: 保谷なのめ
【第2章】迷宮と少女編
75/156

18話(75話) 邂逅

 魔物たちのうろつく棲み処の入口は、考えていたよりずっと〝普通〟だった。禍々しいオーラを放っているわけでもなく、そこにはただ開けた草原と、洞窟の入口があるだけだ。


 そして、その前に佇む少女。


——ふわふわと風になびくやわらかそうな金色の髪。小さく可憐なその姿は、咲いているどんな花にも負けないほどの美しさだった。


 リディアはふと、前世で書いたアリシアの描写の一節を思い出した。

 薄暗い森がすぐそこにあるというのに、彼女の周りはまるで暖かい光に包まれているようだ。白いワンピースと真っ白な肌。


——完璧すぎる。


 リディアはごくりと固唾をのんだ。胸のざわめきが広がる。後ろでは怪我をした冒険者たちとアンドレアが何か話しているようだったが、リディアの耳には何も入ってこなかった。きょとんと首を傾げるその仕草まで様になっている。


——もし今、ここにキースがいたら……。


 と、そんなことを考えかけてハッと我に返る。今何を考えようとしたんだろうか。


「——じゃあ例の噂の女の子はあの子ってことか」

「ああ、街で治療をしていたのは確かにあの子だったと」


 冒険者たちとの会話を終えたアンドレアが手を振ると、アリシアはぺこりと頭を下げた。迷いなく彼女の元へ向かっていくアンドレアの後を追って、リディアも着いていく。


「……彼女が」

「……ええ、そうみたいね」


 聖女候補として思うところがあるのだろう。ミラも若干いつもより表情を固くしている。

サクサクと草を踏んで進む。徐々に近付く人影、ハッキリしてくる姿。リディアの心臓もテンポを上げる。アリシアは何かと戯れていた。近付いてようやくわかったのだが、それは——


「……魔物?」


 彼女の周りにいたのは、確かに魔物のようだった。犬や猫のようにスリスリと彼女に近付いて、顔を舐めたり撫でられたりしている。リディアが思わず防御のための姿勢をとると、アリシアは慌てた様子で魔物たちを抱いた。


「あ……! ご、ごめんなさい! 怖がらせてしまって……!」


 彼女は華奢な体で必死に弁明を続ける。


「あの、信じてもらえないかもしれないんですけど……この子たちは大丈夫なんです……! もう誰も襲いませんから……!」

「もう?」


 その単語に引っかかったアンドレアが尋ねると、彼女はその魔物二匹がさっきまで気が立っていて冒険者たちに噛みついたこと、その後しばらくしたら落ち着いて、今は人を襲うようなことはしないということを教えてくれた。


「なんでだかはわからないんですけど……この子たちも苦しそうだったので、私はとにかく撫でていただけで……」


 これが〝本物のヒロインの力〟なのだろうか。改めて彼女を見る。キースの明るい青と対をなすような、煌めく深い青色の瞳。白い肌と桃色の頬で、まるでフランス人形のようなビジュアルは、さすがは主人公と言わんばかりのオーラを放っている。


「そうか……」

「あの……みなさんも、冒険者さんですか?」

「ああ、そうだ。俺はアンドレア」

「わ、私はアリシアです!」


 アンドレアが手を差し出すと、アリシアは自分も名前を名乗って慌てて立ち上がる。身長はリディアより十センチほどは低いだろうか。ひとつひとつの動きが可愛らしく、目が離せない。自分の描いたヒロインが目の前にいるなんて。どうすればいいか複雑な気持ちを抱えながら、リディアも自分の名前を名乗る。


「リディアよ」

「ミラと申します」


 アリシアは少しぎこちなく礼をして、ふたたび顔を上げた。聞いてきた噂の数々から、彼女がこの近くにいるだろうということはなんとなく予感していたが、まさかこんなにダンジョンのすぐそばにいるなんて。本来の物語では、キースと共に初めて迷い込むという流れのはず。では、彼女はなぜここに? そんなリディアの疑問を代弁するように、アンドレアが問いかけた。


「アリシアだな。嬢ちゃんはどうしてここに?」

「あ、えっと……私の住んでいる街は、ここから一番近い街の、もう少し先にあるんですけど……」


 アリシアが一生懸命説明するところによると、どうやら彼女は自分の住んでいる街で、病人を助けるような活動をしていたらしい。彼女は少しだけ回復魔法が使えるのだが、そこまで高度な技術を持っているわけではない。ただし、彼女の実家には医学書のようなものがあり、それを読むと、病気に効く薬草が生えている場所があると書いてあった。


「その場所が、ここなんですけど……」

「ここっていうのは、この草原か?」

「そう書いてあったんですけど、見つからなくて……」


 その薬草をこの草原で探す最中、リディアたちが今朝までいた街にアリシアも滞在し、そこで教会の惨状を見て放っておけず、しばらく探索と並行して手伝っていたのだと言う。


「あと探していないのは、あそこだけなんです」


 そう言った彼女が指さしたのは、魔物の棲み処である洞窟だった。すっかり大人しくなった魔物たちは、彼女の足元で眠っている。


「でも、あそこに一人で入るわけにはいかなくて……」


 しゅんと落ち込んで頭を下げるアリシアは、見ているだけで気の毒になってくる。彼女にはそういう、人の心を掴む力のようなものが確かにあった。本来彼女は、キースと共にここへやってきて世界を救う手がかりを得るのだ。やはり物語が加速しているのだろうか。


「あの、みなさんは? ここまで来られる方はなかなか珍しいように思うんですが……」

「ああ、俺たちはソイツら——魔物の凶暴化の原因の調査に来たんだ」


 ソイツら、とアンドレアはアリシアの足元に丸くなっている魔物たちを指さした。この凶暴化の原因を突き止め、抑えることができれば。そうでなくとも、何か確かな証拠を掴むことができれば、国の軍を派遣できる。それこそが今回の目的だ。と、急にアンドレアの言葉を聞いたアリシアが切実な表情で一歩踏み出す。


「も、もしかして! 調査ってことは……あの中に入るってことですか?」


 その一言で、これから何が起こるかはすぐにわかった。アンドレアが「そうだな」と頷くと、アリシアは彼の手をギュッと握る。


「私も一緒に、連れて行ってもらえないでしょうか!」


 運命の歯車が、動き出す音がした。


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